- 英
- reversible cerebral vasoconstriction syndrome RCVS
- 雷鳴頭痛と共に神経学的脱落症候や痙攣を呈する血管攣縮を基盤とする疾患
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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2020/08/23 06:22:03」(JST)
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可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible cerebral vasoconstriction syndrome、RCVS)は激しい頭痛を主徴とし、びまん性、分節性に可逆性の脳血管攣縮を呈する症候群でありCall Fleming症候群やpostpartum cerebral angiopathyなどとも呼ばれる。
疫学
正確な有病率はあきらかではないが決して稀な疾患ではなく頻度は増加している。
病態
RCVSの病態については不明な点が多い。剖検例においては脳血管の組織学的な狭窄や血管炎の所見が認められないことから[1]RCVSの発症に最も重要な要素は血管緊張の調節障害と推定されている。血管内皮細胞の障害から血管原性浮腫をきたす可逆性後頭葉白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome)と共通点が多い。
原因
産褥、高カルシウム血症、ポルフィリン症、褐色細胞腫といった疾患、頸動脈内膜剥離術などの外科的治療や免疫グロブリン製剤、エルゴタミン、各種トリプタン製剤、SSRI、コカイン、アンフェタミン、カンナビノイド系薬物、ブロモクリプチンなどの薬物投与といった誘因に関連して起こる。産褥はRCVSの約10%を占める主要な要因である。
症状
- 雷鳴頭痛
雷鳴頭痛(thunderclap headache)といわれる突発する激しい頭痛で発症する。70%程度の患者では頭痛が唯一の症状となる。頭痛の多くは両側性で後頭部または全体の拍動性頭痛が多く、嘔気や嘔吐、光過敏を伴うこともある。しかし片頭痛の痛みとは異なるとされている。咳、鼻をかむ、排泄行為、運動、性交、驚愕といったいきみを伴う動作や入浴が誘因となる。頭痛に関しては脳動脈瘤によるクモ膜下出血が鑑別となる。
- その他の症状
初期に痙攣を生じることがある。痙攣や意識障害で発症する場合は初回は頭痛を訴えないこともある。頭痛と同時あるいは数日後に片麻痺など神経症状を示すことがある。この場合は脳出血や脳梗塞が生じている可能性が高い。
検査
- 脳血管検査(血管造影、頭部MRA、CTA)
脳血管所見は多発性のvasoconstrictionを認める。特にvasoconstriction部位と拡張部位が連続する数珠状所見(strings of beads)が特徴で、多くは両側性でびまん性である。血管は経時的に収縮と弛緩を起こしつつダイナミックに変化し、約40%にvasoconstriction部位が末梢から中枢側経時的に移動する所見(centripetal progression)が観察される。ただし30%ほどの症例では発症1か月以内ではvasoconstrictionが認められないため、たとえ特徴的なMRI所見が認められなくともRCVS疑いとしてフォローすることが望ましい。
- 頭部MRI
70〜90%では脳血管障害は合併しないがくも膜下出血、脳内出血、脳梗塞を合併することがある。最も多いのが円蓋部クモ膜下出血である。PRESも合併することがある。クモ膜下出血、脳内出血、PRESは頭痛発症後1週間以内が多いが脳梗塞は頭痛後2週間前後とやや遅れて出現する。
診断
下記のような診断基準が知られている[2]。
- 急性の強度の頭痛(しばしば雷鳴頭痛)がある。局所神経症状あるいは痙攣はあることもないこともある。
- 一過性の経過をたどり、発症1か月を過ぎると新たな症状を認めない。
- 脳動脈瘤の部分的痙縮を血管造影(カテーテル法、MRA、CTA)で認める。
- 動脈瘤性くも膜下出血を認めない。
- 正常あるいはほぼ正常の髄液所見(蛋白<100mg/dl、細胞数<15白血球/μl)。
- 12週以内に完全あるいは実質的な動脈攣縮の正常化を認める。
鑑別診断
血管狭窄所見を認めた場合、原発性中枢神経系血管炎(primary central nervous system vasculitis、PCNSV)との鑑別が重要とされている。PCNSVは脳や脊髄といった中枢神経系の血管のみに炎症性変化が起こる稀な単一臓器血管炎である。雷鳴頭痛を起こすことは少なく、髄液検査で異常を認めることもある。確定診断は脳生検となる。他に雷鳴頭痛を起こす疾患の鑑別としては脳動脈瘤によるクモ膜下出血、脳動脈解離、脳静脈血栓症との鑑別が重要となる。
治療
カルシウム拮抗薬が経験的に使用されるが十分なエビデンスはない。
参考文献
- 神経内科 VOL.84 NO.4
- Lancet Neurol. 2012 Oct;11(10):906-17. PMID 22995694
脚注
- ^ Arch Gynecol Obstet. 2007 Jan;275(1):67-77 PMID 16832640
- ^ Lancet Neurol. 2012 Oct;11(10):906-17. PMID 22995694
UpToDate Contents
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- 1. 脳卒中評価の概要overview of the evaluation of stroke [show details]
… subtypes of brain ischemia: Thrombosis; Embolism; Systemic hypoperfusion; Thrombotic strokes are those in which the pathologic process giving rise to thrombus formation in an artery produces a stroke either …
- 2. 虚血性脳卒中および一過性脳虚血発作の特定の原因に対する二次予防secondary prevention for specific causes of ischemic stroke and transient ischemic attack [show details]
… secondary prevention of recurrent cerebral ischemia and other vascular events. Risk factor management, which is appropriate for all patients with ischemic stroke or TIA, is reviewed in detail elsewhere …
- 3. 脳血管障害を合併した妊娠cerebrovascular disorders complicating pregnancy [show details]
… both ischemic and hemorrhagic stroke in pregnancy . However, the most frequent cerebrovascular disturbance associated with preeclampsia and eclampsia is posterior reversible encephalopathy syndrome (PRES) …
- 4. 一過性脳虚血発作および軽度の虚血性脳卒中の初期評価およびマネージメントinitial evaluation and management of transient ischemic attack and minor ischemic stroke [show details]
… Patients with transient ischemic attack (TIA) or minor (ie, nondisabling) stroke are at increased risk of recurrent stroke, and therefore require urgent evaluation and treatment since immediate intervention …
- 5. 後方循環系の脳血管症候群posterior circulation cerebrovascular syndromes [show details]
… management of acute ischemic stroke (including stroke involving the posterior circulation) are discussed separately. The most common causes of posterior circulation large artery ischemia are atherosclerosis …
Japanese Journal
- 脳梗塞・脳出血を合併した産褥期可逆性脳血管攣縮症候群の1例
- 渡辺 光太郎,藤堂 謙一,奥野 龍禎,佐々木 勉,望月 秀樹,岡崎 周平,谷口 茉利子,柿ヶ野 藍子,北野 貴也,秀嶋 信,石倉 照之,中野 智仁,神野 隼輝
- 脳卒中 42(4), 253-257, 2020
- … <p>要旨:可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)は稀ながら周産期脳卒中の原因として重要な疾患である.症例は37 歳の初産婦,妊娠40週に緊急帝王切開で第一子を出産した.産褥3日目に,頭痛,めまい,左手の使いにくさが出現し,当院に搬送された.頭部MRIで左小脳半球と橋に急性期脳梗塞,右前頭葉に皮質下出血を認めた.来院時のMRAでは主幹動脈に異常を認めなかったが,第8病日に脳底動脈・両側椎骨動脈に高度 …
- NAID 130007879982
- 特集 危険な頭痛を見逃さない : 脳血管障害を中心とした鑑別
- 症例報告 当帰四逆加呉茱萸生姜湯が誘因として疑われた可逆性脳血管攣縮症候群の1例
- 畠山 遥,大内 東香,井上 佳奈,柴野 健,原 賢寿
- Brain and nerve 71(7), 815-819, 2019-07
- NAID 40021969018
Related Links
- 可逆性脳血管攣縮症候群 Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome :RCVS は、いろんな病態を集めた症候群であり、別名Call syndrome(1988年に初めて報告された), Call-Fleming syndrome, 産褥血管症(postpartum angiopathy), 良性の中枢神経系の血管症(benign angiopathy of the central nervous system), 可逆性攣縮(れんしゅく ...
- 可逆性脳血管攣縮症候群の確定診断は、画像検査にて間接的または直接的に痙攣を起こしている脳血管を認めることです。2012年、「Ducrosの診断基準」があります。 ・急性で重度の頭痛(しばしば雷鳴性の頭痛)で、巣症状や痙攣を ...
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★リンクテーブル★
[★]
- 英
- thunderclap headache
- 関
- 咳嗽性頭痛、睡眠時頭痛、原発性頭痛障害
定義
- 国際頭痛学会「頭痛強度の最高点が一分以内に認められ、5分以上持続する重度の頭痛」
鑑別
[★]
可逆性脳血管攣縮症候群
[★]
可逆性脳血管攣縮症候群
[★]
- 英
- syndrome, symptom-complex
- 同
- 症状群
- 関
- [[]]
- 成因や病理学的所見からではなく、複数の症候の組み合わせによって診断される診断名あるいは疾患。
内分泌
先天的代謝異常
高プロラクチン血症
- 分娩後の視床下部障害によるプロラクチン分泌抑制因子の分泌抑制のため、高プロラクチン血症を呈する。
- 分娩に関係なくプロラクチン分泌抑制因子の分泌抑制をきたし、高プロラクチン血症を呈する。
性腺機能低下
- 嗅覚の低下・脱出、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症
- 肥満、網膜色素変性症、知能低下、低ゴナドトロピン性性器発育不全、多指症、低身長
性早熟
- 思春期早発症、多発性線維性骨異形成症、皮膚色素沈着
- 女性型の肥満、性器の発育障害の2主徴を示し、視床下部に器質的障害をもつ疾患群。
脳神経外科・神経内科
[★]
- 英
- blood vessel, blood vessels
構造
- 内皮細胞(単層扁平上皮細胞)
- 基底板
- 内皮下結合組織(内皮下層 subendothelial layer):疎性結合組織、縦走平滑筋
- 内弾性板
分類
[★]
- 英
- cerebral vasospasm、cerebrovascular spasm, angiospasm of brain
- 同
- 脳血管れん縮、脳血管痙攣、脳血管けいれん、頭蓋内血管攣縮
- 関
- 症候性血管攣縮
[★]
- 英
- inverse、reverse
- 関
- インバース、逆、逆転、逆行、反転、逆戻り、リバース
[★]
- 英
- vasospasm、vascular spasm、angiospasm
- 関
- 血管痙攣、血管れん縮、血管けいれん