出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/07/09 08:13:10」(JST)
自己免疫疾患(じこめんえきしっかん、英:Autoimmune disease)とは、異物を認識し排除するための役割を持つ免疫系が、自分自身の正常な細胞や組織に対してまで過剰に反応し攻撃を加えてしまうことで症状を来す疾患の総称。“自律免疫疾患”と表記されることもある。
自己免疫疾患は、全身にわたり影響が及ぶ全身性自己免疫疾患と、特定の臓器だけが影響を受ける臓器特異的疾患の2種類に分けることができる。関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)に代表される膠原病は、全身性自己免疫疾患である。
20世紀初めには、パウル・エールリヒ(Paul Ehrlich)により提唱された、免疫系は自分自身を攻撃しないとする「自己中毒忌避説(Horror autotoxicus)」を代表とする考え方が主流であった。しかし、その後の研究により自分の体の構成成分を抗原とする自己抗体が発見されるにつれ、自己免疫疾患の存在が明らかになっていった。
炎症性腸疾患を除き、多くの自己免疫疾患は女性に多い(炎症性腸疾患については男女差はほとんどない)。理由は明らかになっていないが、ホルモンが関与しているという説がある。また、マイクロキメリズムと呼ばれる「妊娠中に胎児と母体との間に胎盤を通して起こる微量の細胞のやり取り」があり、出産後(誕生後)、数十年を経過しても他者由来の細胞が存在していることが明らかになっている。「自己免疫疾患」と呼ばれている疾患の中にはマイクロキメリズムにより他者由来の細胞の影響で発生しているものも存在するとの研究結果がある[1]。
罹患臓器 | 疾患 | 標的臓器・組織 | 自己抗体 | 備考 |
---|---|---|---|---|
神経・筋 | ギラン・バレー症候群 | ガングリオシド | 抗ガングリオシド抗体 | カンピロバクターなど細菌やウイルスの先行感染が関与 |
重症筋無力症 | アセチルコリンレセプター | 抗アセチルコリンレセプター抗体 | ||
消化器 | 慢性胃炎 慢性萎縮性胃炎 |
胃壁細胞 | 抗壁細胞抗体 | 巨赤芽球性貧血に合併 |
自己免疫性肝炎 | 肝実質細胞 | 抗核抗体 抗平滑筋抗体 |
||
原発性胆汁性肝硬変 | 肝小葉間胆管 | 抗ミトコンドリア抗体 | ||
潰瘍性大腸炎 | 大腸 | p-ANCA(抗HMG1/HMG2抗体) リンパ球親和性抗体など |
炎症性腸疾患 | |
クローン病 | 食道~大腸 | |||
原発性硬化性胆管炎 | 胆管 | IgG4関連疾患 | ||
自己免疫性膵炎 | 膵実質 | |||
循環器 | 大動脈炎症候群 | 大動脈 | 抗大動脈抗体 | |
肺 | グッドパスチャー症候群 | 肺胞・腎 | 抗基底膜抗体 | 急速進行性糸球体腎炎を合併 |
腎臓 | 急速進行性糸球体腎炎 | 腎糸球体 | 抗基底膜抗体 抗MPO-ANCA抗体 |
|
血液 | 巨赤芽球性貧血 | 赤芽球系 | 抗内因子抗体 | 慢性萎縮性胃炎を合併 |
自己免疫性溶血性貧血 | 赤血球 | 抗赤血球抗体 | ||
自己免疫性好中球減少症 | 好中球 | 抗好中球抗体 | ||
特発性血小板減少性紫斑病 | 血小板 | 抗血小板抗体 | ||
内分泌・代謝 | バセドウ病 | 甲状腺ホルモンレセプター | 抗甲状腺ホルモンレセプター抗体 | |
橋本病 | 甲状腺ミクロソーム サイログロブリン |
抗甲状腺ミクロソーム抗体 抗サイログロブリン抗体 |
||
原発性甲状腺機能低下症 | 甲状腺 | 抗ペルオキシダーゼ抗体 抗甲状腺刺激抗体 等 |
||
特発性アジソン病 | 副腎 | 抗副腎抗体 | ||
1型糖尿病 | ランゲルハンス島 | 抗ランゲルハンス島抗体 | ||
皮膚 | 慢性円板状エリテマトーデス | 抗核抗体 | 播種型で高い力価 | |
限局性強皮症 | 抗1本鎖DNA抗体 | 斑状強皮症で高い力価 | ||
天疱瘡 | 表皮 | IgG抗表皮細胞抗体 | ||
類天疱瘡 | 表皮基底膜 | IgG抗表皮基底膜部抗体 | ||
妊娠性疱疹 | ||||
線状IgA水疱性皮膚症 | IgA抗表皮基底膜部抗体 | |||
後天性表皮水疱症 | IgG抗表皮基底膜部抗体 | |||
円形脱毛症 | 毛母細胞 | 毛包周囲へのCD4陽性リンパ球浸潤 | 全頭型・悪性型で顕著 | |
尋常性白斑 サットン後天性遠心性白斑 |
メラノサイト | 抗メラノサイト抗体 | 汎発型(A型)に顕著 | |
眼 | 原田病 | ブドウ膜・皮膚・神経 | 病変部のリンパ球浸潤 | |
自己免疫性視神経症 | 視神経 | 抗核抗体 抗カルジオリピン抗体 等 |
各種疾患に合併 | |
耳 | 自己免疫性内耳障害 | 内耳 | 68kDa内耳自己抗体 | 他の自己免疫疾患の一部としても発症 |
男性生殖器 | 特発性無精子症 | 精巣 | 抗精子抗体 | |
産婦人科 | 習慣性流産 | 抗β2-GPI抗体 抗カルジオリピン抗体 等 |
疾患 | 標的臓器・組織 | 自己抗体 | 備考 |
---|---|---|---|
関節リウマチ | 関節滑膜 | リウマトイド因子 抗CCP抗体 |
|
全身性エリテマトーデス | 多臓器 | 抗二本鎖DNA抗体 抗核抗体 等 |
|
抗リン脂質抗体症候群 | 動脈・静脈・子宮 等 | 抗リン脂質抗体 | |
多発性筋炎 皮膚筋炎 |
皮膚・筋・肺 等 | 抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体 抗Jo-1抗体 |
|
強皮症 | 皮膚・肺・腎臓 等 | 抗トポイソメラーゼI抗体 抗RNAポリメラーゼIII抗体 |
|
シェーグレン症候群 | 涙腺・唾液腺・多臓器 | 抗Ro/SS-A抗体 等 | |
IgG4関連疾患 | 多臓器 | ||
血管炎症候群 | 血管 | 抗好中球細胞質抗体(ANCA関連血管炎) | 一部公費対象 |
混合性結合組織病 | 多臓器 | 抗U1-RNP抗体 |
(注)桃色の欄は厚生労働省特定疾患研究対象疾患、いわゆる難病であり公費負担の対象となる。
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主に関与するリンパ球 | 働き | リンパ節での局在 | |
細胞免疫 | T細胞 | (1)免疫の活性化 | 傍皮質 |
(2)抗原を有する細胞への攻撃 | |||
液性免疫 | B細胞 | 抗体産生 | 皮質 |
細胞の種類 | 補レセプター | 抗原を提示する細胞 | MHC抗原 |
キラーT細胞(Tc) | CD8 | 抗原提示細胞 | MHCクラスI |
ヘルパーT細胞(Th) | CD4 | 全ての細胞 | MHCクラスII |
T細胞 | 関連する因子 | 産生する物質 | 機能 |
Th1 | IL-12
増殖 |
IL-2,IFN-γなど | 細胞性免疫を促進' |
Th2 | IL-4
Th→Th2 |
IL-4,IL-5,IL-6,IL-10など | 液性免疫を促進' |
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