- 英
- pertussis toxin
- 関
- 百日咳、百日咳菌、毒素産生菌、リンパ球増多因子
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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/02/28 11:20:28」(JST)
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百日咳毒素(ひゃくにちぜきどくそ、英: pertussis toxin、略称: PT)とは、百日咳の原因である百日咳菌(Bordetella pertussis)によって産生される毒素であり、百日咳菌の気管上皮への付着等に働いているとされる。作用機構としては3量体Gタンパク質のαiサブユニットに対するADPリボース転位酵素活性を持っている。
目次
- 1 構造
- 2 作用機構
- 3 生理活性
- 4 毒性
- 5 脚注
- 6 参考文献
構造[編集]
百日咳毒素はS1、S2、S3、S4(2分子)、S5の5種類合計6分子のサブユニットから構成されている[1]。S1サブユニットにはこの毒素の本質であるADPリボース転位酵素活性が存在し、残りのサブユニットは標的細胞への結合を担う。これらの作用と関連して百日咳毒素の構造を言うときには、S1サブユニットは"Active"の頭文字をとってAプロトマー、残りのサブユニットの複合体は"Binding"の頭文字をとってBオリゴマーと呼ぶ。S1サブユニットは同じADPリボース転位酵素活性を持つコレラ毒素Aサブユニットや大腸菌易熱性毒素Aサブユニットと共通のアミノ酸配列構造を持ち、結晶構造上でも類似がみられるが[2]、塩基配列レベルでは百日咳毒素と他の毒素との間に相同性は認められない。
作用機構[編集]
百日咳毒素によるシステイン残基のADPリボース化の化学反応式
百日咳毒素はBオリゴマーを介して標的細胞に結合した後、エンドサイトーシスで細胞内に取り込まれ、逆行小胞体輸送によりゴルジ装置から小胞体にまで到達する。その後、小胞体でATPと結合することによりAプロトマーとBオリゴマーが分離するとともに、Aプロトマー内のジスルフィド結合が解離して、最終的に活性化した毒素が細胞質内に侵入する。そして、3量体のGタンパク質のαiサブユニット(Giα)のC末端側から4番目のシステインをADPリボース化する[3]。ADPリボース化されたGiαは本来の役割である膜受容体(GPCR)との共役関係を失い、細胞内情報伝達が遮断される。なお、C末端側から4番目のアミノ酸残基がシステインでないGsα、Gqαなどは百日咳毒素に対する感受性はない。 この他の作用として百日咳毒素はT細胞の増殖を引き起こすことが知られているが、これはBオリゴマーのみの投与でも生じることがわかっている。この作用はTLR4がBオリゴマーを認識して生じるものと考えられている[4]。
生理活性[編集]
百日咳毒素の生理活性としては、リンパ球の増加や、低血糖、ヒスタミン感受性亢進、百日咳菌の気管上皮への付着などがある。百日咳毒素はもともとインスリンの分泌を促進する物質として発見されたが[5]、現在はα2アドレナリン受容体を介する作用であることがわかっている。百日咳菌にとっては重要な毒性分子であり、この毒素のトキソイドがワクチン(DPTワクチン)に利用されている。
毒性[編集]
百日咳毒素のマウスにおけるLD50(半数致死量)は腹腔内注射では15~21 μg/kgであり、100 ℃で30分間加熱すれば毒素を不活性化できる[6]。
脚注[編集]
- ^ M. Tamura et al. (1982). “Subunit of islet-activating protein, pertussis toxin, in confarmity with the A-B model”. Biochemistry 21 (22): 5516-5522. PMID 6293544.
- ^ P.E. Stein (1994). “The crystal structure of pertussis toxin”. Structure 2 (1): 45-57. PMID 8075982.
- ^ Supachoke Mangmool and Hitoshi Kurose (2011). “Gi/o Protein-Dependent and -Independent Actions of Pertussis Toxin (PTX)”. Toxins 3 (7): 884-899. doi:10.3390/toxins3070884. PMID 22069745.
- ^ Wang ZY et al. (2006). “Induction of dendritic cell maturation by pertussis toxin and its B subunit differentially initiate Toll-like receptor 4-dependent signal transduction pathways.”. Experimental hematology 34 (8): 1115-1124. PMID 16863919.
- ^ Katada T and Ui M (1979). “Effect of in vivo pretreatment of rats with a new protein purified from Bordetella pertussis on in vitro secretion of insulin: role of calcium.”. Endocrinology 104 (6): 1822-1827. doi:10.1210/endo-104-6-1822. PMID 376293.
- ^ 百日咳毒素―バイオアカデミア
参考文献[編集]
- 櫻井純、本田武司、小熊惠二『細菌毒素ハンドブック』 ISBN 4-916164-54-7
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Japanese Journal
- 凝集素価よりも抗百日咳毒素抗体が診断に有用であった百日咳の兄弟例 (特集 小児の感染症診断Update : 迅速診断法を中心に) -- (症例報告)
- 臨床研究・症例報告 乳児百日咳の発生動向と血清疫学の日米比較からの考察
- MS17-1 抗百日咳毒素抗体(抗PT抗体)は咳患者全体の7-8%で陽性であり,陽性者の半数は急性咳嗽であった(MS17 その他2,ミニシンポジウム,第24回日本アレルギー学会春季臨床大会)
- 山口 統彦,二木 俊江,原 紘子,中西 香織,河面 聡,田村 慶朗,源 誠二郎,石原 英樹,川瀬 一郎,熊ノ郷 淳
- アレルギー 61(3・4), 503, 2012-04-10
- NAID 110009482862
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★リンクテーブル★
[★]
[★]
- 英
- pertussis
- ラ
- pertussis
- 同
- whooping cough, tussis convulsiva
- 関
- レプリーゼ、細菌、マイコプラズマ肺炎
概念
病原菌
潜伏期
感染期間
- SPE.362
- カタル期~第4週まで → 抗菌薬投与により感染期間を抗菌薬投与後5日間に短縮できる。
症候
- カタル期:1-2週間:伝染力が強い。鼻汁、咳などの普通感冒様症状が次第に増悪。検査上、白血球増多が見られる
- 痙咳期:2-6週間:レプリーゼ(連続した咳(staccato)と吸気時の笛音(whoop))。咳発作は夜間に強い。乳児期には無呼吸発作。百日咳顔貌(顔面紅潮、眼瞼浮腫、結膜充血)。重症化で百日咳脳症
- 回復期:2-3週間:特有の咳が弱まってくる。
合併症
検査
- 血液検査:末梢血白血球増多(リンパ球優位)、CRP正常
- 画像検査
診断
- 確定診断:喀痰・後鼻腔の擦過検体で百日咳菌の分離培養、PCR法による同定、あるいはペア血清による免疫血液学検査による。
鑑別疾患
治療
- マクロライド系抗菌薬(エリスロマイシンが第一選択)を7-14日間。カタル期の投与により咳発作を軽減できる。痙咳期の投与により感染期間を5日に短縮できる。(SPE.393)
- エリスロマイシンの他、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ST合剤も用いられる。
- PED.596
- SPE.363
- マクロライド系抗菌薬を7-14日間投与。カタル期から投与すると咳発作を軽減でき、痙咳期の投与により感染期間を5日間に短縮できる。
感染経路
予防接種
参考
- 1. 日本の定期/任意予防接種スケジュール(20歳未満)
- http://idsc.nih.go.jp/vaccine/dschedule/Imm11-01JP.gif
国試
[★]
- 英
- toxin
- 関
- 内毒素、外毒素
外毒素
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内毒素
|
ポリペプチド
|
リポ多糖体(lipopolysaccharide: LPS)
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細菌細胞からの分泌
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グラム陰性菌の細胞壁の外膜に存在
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宿主組織内-拡散
|
細菌細胞の崩壊により放出
|
多くは熱不安定性
|
熱安定性
|
分泌部位~遠隔部位に作用
|
血行性に拡散しエンドトキシンショック
|
トキソイド化可
|
トキソイド化不可(毒性中心はリピドA)
|