出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/03/19 16:15:57」(JST)
消化(しょうか、英: digestion)とは、生物が摂取した物質を分解処理して利用可能な栄養素にする過程のことである[1]。消化は、生体の体内や体外、細胞内または細胞外、機械的に破砕する物理的手段やコロイド・分子レベルまで分解する化学的手段などがあり、消化器ごとにも分類される[1]。
一般的な意味での消化は、生物が自分の栄養源となる体外の有機物を吸収するためにより低分子の状態に分解することである。動物や菌類は自分以外の生物やその遺体などの有機物を取り込んで生活している。しかし、それらを構成する有機物には細胞膜を透過するには大きすぎるものが多い。そこで、それらの物質をより低分子に分解しなければならない。この働きが消化である。
消化を行うために、これらの生物はその分解を行う酵素を分泌する。これを消化酵素という。また、酵素の働きを助けるため、あるいはその働きやすい環境を作るために酸などを分泌するものもある。また、有機物の分解をするためには、元の材質が大きい塊であればそれを細片に分けることや、油脂系の物質を懸濁状態にする(乳化)ことなども必要な場合があるので、それらの操作も消化の働きの一部である。
また、一部には自らは消化できないものを分解するために、微生物などを共生させているものがある。この場合、その動物が吸収するのは微生物に分解させた物質であるが、同時に微生物そのものも食料とされている。
消化の過程を得て、糖質はグルコース、タンパク質はアミノ酸、脂肪は脂肪酸・グリセロール・モノアシルグリセロールへとそれぞれ分解される。これはどの動物にほいてもほぼ同じである[1]。
一般に植物は光合成によって栄養を作れるので、食物を必要としない。また、窒素やリンは体外から取り入れる必要があるが、これは最初から無機化合物の状態のものを吸収するので、消化の働きは持たない。しかし、藻類の中には、有機物を取り入れる能力を持つものもある。従属栄養生物である細菌類、菌類、動物などは消化か、それに似た働きを持っている。
消化酵素が体外に分泌され、そこで分解された有機物を吸収する場合を体外消化という。これに対して餌となる物体をまず体内のしかるべき所に取り入れ、そこで消化をおこなうものを体内消化という。個々の細胞に関しても、細胞の外で分解する場合には細胞外消化、細胞内に取り入れてから消化するのを細胞内消化という。
体外消化の場合には、消化は特に決まった部分で行われるわけではないが、体内消化の場合、餌を取り込み、それを蓄え、分解吸収するための構造がある。これを消化器官という。動物一般では、体内に袋があり、体表に続く管によってつながっている。これを消化管といい、一般には腸と呼ばれる。この腸(小腸)上皮の膜部分で行う消化は膜消化・表面消化(接触消化)と言う[1]。
いわゆる腔腸動物と扁形動物などを除けば、消化管の口は2つあって、取り入れる口と消化吸収した残りを排泄する口が分かれる。この、入り口の方を口、出口の方を肛門という。消化管には消化酵素やそれを助ける物質を分泌する器官が付随することが多い。それらは一般には消化腺といわれる。口の周囲には餌の取り込みを助けるために触手や顎、歯などの摂食器官が付属することも多く、それらが機械的消化の一部をになっている場合もある。
単細胞生物や原生生物が体内消化する場合、細胞内消化であることも多い。細胞内消化の場合、細胞が粒子を取り込み、細胞内の袋状の構造に入れ、その膜を通して消化酵素が分泌され、分解された物質は膜を通して吸収される。この袋状の構造を食胞という。同様の働きは、多細胞生物にも見られる場合があり、その場合にはその働きはリソソームが行う。
人間(多細胞レベル)の消化は、食物中の物質(タンパク質、炭水化物、脂肪など)を吸収可能な大きさの分子に分解する工程のことを指す。消化は消化管で数段階に分けて行われ、咀嚼など機械的な分解と、消化酵素などによる化学的な分解がある。
ウシ目(偶蹄目)の動物(ウシ・シカ・ヤギなど)は、多くが一度飲み込んだ食べ物を胃から口中に戻して再び噛む反芻と呼ばれる動作を行う。また4つの胃を持ち、第1胃には繊毛虫と細菌類の微生物が大量に住み、摂取した食物の分解発酵をしている。これらの消化機構により、他の哺乳類が消化吸収できないセルロースなどを栄養として取り込むことが出来る。
ウサギ類は、食糞と呼ばれる行動をする。これは、「軟糞」と呼ばれる特殊な糞を排泄し、これを食べる行動のことである。軟糞は食べ物が盲腸の中で発酵してできたもので、蛋白質やビタミンなどを豊富に含んでいる。
テンジクネズミも同様の食糞をおこなう。カバ、コアラなどでは子供が親の軟糞状の糞を摂食し、離乳食的な役割を果たすほか、盲腸内の微生物を受け渡す役割もあるとされている。
ほとんどの鳥類は歯を持たないが、植物を食べる鳥類の多くは食道が発達した砂嚢と呼ばれる袋を持っており、そこで砂と食べ物をこすり合わせることによって機械的な分解を行う。鳥が砂などを食べるのは、砂嚢に入れるためである。
草食恐竜の大半は、歯を持ってはいたものの、体の大きさに比べれば貧弱な歯と咀嚼筋しかなかった。鳥類同様、砂嚢があり、そこで胃石(体に応じて大きく、砂というより石である)を使って消化した。
体外消化とは、捕えた獲物に消化液を注入し、消化された液体状物を吸い取る方法であり、細胞外消化の一種に入る[1]。一部の昆虫(タガメやゲンゴロウ、アリジゴクなど)やクモ類などが行う。
渦虫類などは、口腔から胃までを反転させて体外に出し、食物を包んで消化する。これはあくまで消化管による消化である[1]。クサリヘビ科に主に見られる出血毒は、消化液が変化したものだと考えられ、筋肉や血液を破壊し消化するのに役立つ。
尚、ヒトが食物を摂取する前に道具や火を用いてより食べ易い形に加工する「調理」も、食物を生のまま、あるいは丸のまま食べるよりも体内での消化をし易くする行為であり、広義の体外消化だとする見方もできる。
植物の繊維分であるセルロースやリグニンは多糖類であるが分解が難しく、このような繊維からエネルギーを得ることは困難である。ワラジムシ類やカタツムリなどの一部の動物は自力で完全にセルロースを分解する能力を持つが、多くの草食性の多細胞生物はそのような能力を持たない。そのため、セルロースを消化するために消化管の中にセルロースを分解する微生物を共生させて化学的分解を行わせる必要がある。また、ウシ目では繊毛虫が、シロアリでは多鞭毛虫・超鞭毛虫がその役割を補っている。
生きた葉を食べる動物のなかには、生きた細胞質のみを利用し、繊維質を利用する事を放棄して、それをそのままに糞として放出するものもある。また、植物遺体を餌とするものには、実際にはそれに含まれる菌類や細菌を消化吸収しているものがある。これらについては分解者を参照。
菌類の消化能力は幅広く、菌類全体に付いて言えば、他の生物が分解できない非常に多くの有機物を分解することができる。細菌類には、さらに特殊な物質を分解する能力を持つものがある。
食虫植物は、動物とはやや異なるものの同じような消化機構を持つ。
細胞内における消化は、細胞内消化と呼ばれる。
白血球の単球や血管外のマクロファージは細菌などの大きな異物を細胞内に取り込んで消化する。ただしこの場合、栄養摂取の役割はほとんどない[1]。リソソームは細胞小器官のひとつで、リパーゼなど多種の酵素をその中に蓄えており、細胞内の他の場所から運ばれてきた物質を分解する、細胞消化のための重要な器官である。
原生動物など単細胞性の動物的生物は、食物を細胞内の小さな空洞に取り込み消化を行う[1]。この空洞を食胞と言う。食胞の膜からは消化酵素が分泌され、分解物は膜を通じて吸収されるものと考えられる。残った物質は体外に放出される。これはリソソームと相同なものであるとも考えられている。
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各酵素の有効pHと作用の表 参照のこと
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テンプレート:Infobox 有機化合物
タウリンはカルボキシル基を持たないので、アミノ酸ではない。また、タンパク質の構成成分になることもない。したがって、ネコにおいてはタウリンは必須アミノ酸ではなく、ビタミンの一種である。しかし、アミノ基を持つ酸であることもあって、古くからアミノ酸として混同されている。合成経路においてはまず、タンパク質の構成成分にもなる含硫アミノ酸であるシステインからシステイン・ジオキゲナーゼによりシステイン酸が合成される。タウリンはシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(スルフィノアラニン・デカルボキシラーゼ)によりこのシステイン酸から合成される。ヒトはこの合成経路の両酵素をもつため、タンパク質を摂取していれば、タウリンの形での積極的摂取は不要である。胆汁酸と縮合したタウロコール酸はコリル・コエンザイムAとタウリンから合成される。タウリンは尿中に一日約200mgが排泄される。
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