ハンチントン病
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ハンチントン病(はんちんとんびょう、英: Huntington's disease)は、大脳中心部にある線条体尾状核の神経細胞が変性・脱落することにより進行性の不随意運動(舞踏様運動、chorea(ギリシャ語で踊りの意))、認識力低下、情動障害等の症状が現れる常染色体優性遺伝病。日本では特定疾患に認定された指定難病である。
一般にハンチントン舞踏病(Huntington's chorea)として知られている。
目次
- 1 名称
- 2 疫学
- 3 原因
- 4 病態
- 5 アフリカーナーとハンチントン病
- 6 臨床像
- 7 治療
- 8 出典
- 9 参考文献
名称[編集]
かつて「ハンチントン舞踏病」(Huntington's Chorea)と呼ばれていたこともあるが、全身の不随意運動のみが着目されてしまうため、1980年代から欧米では「ハンチントン病」(Huntington's Disease)と呼ばれるようになった。日本でも2001年から「ハンチントン病」の名称を用いている。
疫学[編集]
原因となる変異をもつ場合には、高い確率で40歳前後に発症し、10~20年かけて進行する。世代を経るごとにその発症年齢が早くなること、父親から原因遺伝子を受け継いだときにそれが顕著になる現象も知られている。2006年現在では治療する方法は知られていない。1872年に米国ロングアイランドの医師ジョージ・ハンチントン(George Huntington)によって報告され、人種により異なるが白人での発生率は5-10/100,000、アジア人、アフリカ人ではその数十分の1となる。
原因[編集]
原因遺伝子として、第4染色体短腕上にあるhuntingtin遺伝子が同定されている[1]。huntingtin遺伝子の第1エクソンには、CAG(グルタミンをコード)の繰り返し配列が存在する。これは非病原性の場合では11~34コピーの反復であるが、病原性遺伝子では37~876コピーにもなる。繰り返し配列は系代する際に伸長し、特に父方の患者から受け継ぐときには原因不明の機構により大きく増加する。
病態[編集]
huntingtin遺伝子は3145アミノ酸残基のHuntingtin(ハンチンチン)タンパク質をコードする。このタンパク質は様々な組織で発現し全長タンパク質は主に細胞質に存在する。他のタンパク質とはとくに明確なアミノ酸配列類似性は無いが、ある種の神経栄養因子の発現量上昇に、転写抑制因子の抑制を通して機能しているという報告がなされている[2][3]。このことから神経栄養因子の量を増加させる何らかの手法が治療法になる可能性もあるかもしれないが、単純な機能喪失変異ではなく優性に作用することからそうではない可能性も高い。
CAG の繰り返しが増加した遺伝子からはアミノ末端のグルタミンの連続が長くなったタンパク質が作られ、このような Huntingtinタンパク質はより凝集を起こしやすくなっている。また長いポリグルタミンは他のタンパク質との相互作用に影響すること、Huntingtinタンパク質自身の切断を促進することなどが報告された。切断されたタンパク質は核に多く存在し、このことが細胞に対する毒性を発揮するさいに必要と考えられている。神経変性を引き起こす詳細な機構はいまだはっきりとはしないが、患者の脳でのミトコンドリアの呼吸鎖の異常やミトコンドリアDNAの欠失率の上昇、アポトーシス機構の関連、転写制御との関連などが指摘されている。 平均的に女児に多い。
アフリカーナーとハンチントン病[編集]
南アフリカの「アフリカーナー」と呼ばれる250万人程の集団のうち、100万人は20種類の姓に限られており、これらは20家族の子孫と考えられる。この20家族のうちにハンチントン病の患者が居たために、アフリカーナーの集団にそれが好発することは、遺伝の専門家の間では有名である。本来なら10万人に1人といったレベルの病気であるが、信じられない頻度で見つかる。
臨床像[編集]
治療[編集]
遺伝性疾患の為に、根本的な治療法や進行を防止する治療法は現在のところ確立されていない。
ハンチントン病はHuntingtinと呼ばれる特定タンパク質の変異によって起こる病であるが、近年そのHuntingtinの凝集を遅らせる「コンゴーレッド」と言われる物質が明らかになっている。 しかし、その「コンゴーレッド」のままでは使用することが出来ず、更なる改良が待たれている状況である。 仮にこの物質が利用できるようになると神経障害の程度が低くなったり、また病状の進行を遅らせることが出来ると考えられている。[要出典]
他には胆汁から抽出した物質が持つ神経機能防護作用の利用や胎児の脳細胞を移植する治療法が提案されている。[要出典]
出典[編集]
- ^ The Huntington's Disease Collaborative Research Group. (1993). “A novel gene containing a trinucleotide repeat that is expanded and unstable on Huntington's disease chromosomes.”. Cell 72 (6): 971-983. PMID 8458085.
- ^ Zuccato C, Ciammola A, Rigamonti D, Leavitt BR, Goffredo D, Conti L, MacDonald ME, Friedlander RM, Silani V, Hayden MR, Timmusk T, Sipione S, Cattaneo E. (2001). “Loss of huntingtin-mediated BDNF gene transcription in Huntington's disease.”. Science 293 (5529): 493-8. PMID 11408619.
- ^ Zuccato C, Tartari M, Crotti A, Goffredo D, Valenza M, Conti L, Cataudella T, Leavitt BR, Hayden MR, Timmusk T, Rigamonti D, Cattaneo E. (2003). “Huntingtin interacts with REST/NRSF to modulate the transcription of NRSE-controlled neuronal genes.”. Nat. Genet. 35 (1): 76-83. PMID 12881722.
参考文献[編集]
- 日本ハンチントン病ネットワーク編「ハンチントン病を理解していただくために」,2003.
- 『遺伝Q&A』, 中込弥男/著, 裳華房, 2000.9, ISBN 4-7853-8723-8
精神と行動の疾患(ICD-F - 290-319) |
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器質的 |
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認知症
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Mild cognitive impairment - アルツハイマー型認知症 - Multi-infarct dementia - Pick's disease - クロイツフェルト・ヤコブ病 - ハンチントン病 - パーキンソン病 - AIDS dementia complex - Frontotemporal dementia - Sundowning - Wandering
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その他
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せん妄 - Post-concussion syndrome - Organic brain syndrome
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向精神薬・薬物乱用・薬物に関する障害 |
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薬物中毒/オーバードース - 身体依存 - 薬物依存症 - リバウンド効果 - 二重リバウンド - 離脱
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統合失調症 - 妄想 |
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精神病 |
統合失調感情障害 - 統合失調症様障害 - 短期反応性精神病
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統合失調症 |
破瓜型統合失調症 - Delusional disorder - Folie a deux
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気分障害 (affective) |
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躁病 - 双極性障害(I型 - II型 - 気分循環症) - うつ病(大うつ病 - 気分変調症 - 季節性情動障害 - 非定型うつ病 - メランコリー型うつ)
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神経症 - ストレス関連 - 身体表現性障害 |
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不安障害
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恐怖症
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広場恐怖症 - 社会恐怖/社交不安障害 (Anthropophobia) - 単一恐怖(閉所恐怖症) - 単一社会恐怖
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その他
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パニック障害 - 全般性不安障害 - 強迫性障害 - ストレス(急性ストレス障害 - PTSD)
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適応障害
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うつ症状を伴う適応障害
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身体表現性障害
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身体化障害 - 身体醜形障害 - 心気症 - 疾病恐怖 - Da Costa's syndrome - 精神痛 - 転換性障害(ガンザー症候群 - 咽喉頭異常感症) - 神経衰弱 - Mass Psychogenic Illness
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解離性障害
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解離性同一性障害 - 解離性健忘 - Fugue state - 離人症性障害
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生理的・身体的 |
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摂食障害
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神経性無食欲症 - 神経性大食症 - Rumination syndrome - NOS
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非器質性
睡眠障害
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過眠症 - 不眠症 - 睡眠時随伴症(レム睡眠行動障害 - 夜驚症 - 悪夢)
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性的機能不全
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sexual desire - (Hypoactive sexual desire disorder - Hypersexuality) - sexual arousal - (Female sexual arousal disorder) - Erectile dysfunction - orgasm - (Anorgasmia - Delayed ejaculation - Premature ejaculation - Sexual anhedonia) - pain - (Vaginismus - Dyspareunia)
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産後
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産後うつ病 - Postnatal psychosis
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成人のパーソナリティ及び行動 |
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Sexual and
gender identity
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Sexual maturation disorder - Ego-dystonic sexual orientation - Sexual relationship disorder - 性的倒錯(性依存症 - 窃視症 - フェティシズム)
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Other
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パーソナリティ障害 - 衝動制御障害(窃盗症 - 抜毛症 - 放火癖) - Body-focused repetitive behavior - 虚偽性障害(ミュンヒハウゼン症候群)
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小児の精神障害 |
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精神遅滞
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X-Linked mental retardation - (Lujan-Fryns syndrome)
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Psychological development
(発達障害)
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Specific - 広汎性発達障害
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Emotional and behavioral
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ADHD - 行為障害 (ODD) - 情動障害 (Separation anxiety disorder) - 社会的機能(場面緘黙症 - 愛着障害 - DAD) - チック症(トゥレット障害) - 言語障害(吃音症 - Cluttering) - Movement disorder (Stereotypic)
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未分類 |
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性同一性障害(性転換症 - 性別違和症候群) - 想像妊娠 - Catatonia - Intermittent explosive disorder - Psychomotor agitation - Stereotypy - Psychogenic non-epileptic seizures - Kluver-Bucy syndrome
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UpToDate Contents
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Japanese Journal
- 福永 浩司,塩田 倫史,森岡 基浩,韓 峰
- 日本薬理学雑誌 131(5), 341-346, 2008-05-01
- … 成体脳で見いだされた神経新生はアルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン舞踏病,脳虚血などの神経変性疾患において神経再生という新しい治療法の可能性を示した.神経新生は脳虚血やてんかんなどの神経疾患において一過性に刺激されるが,長期に新生ニューロンが生存し,代替機能を果たすのかは疑問視されている.アルツハイマー病患者においても神経前駆細胞が増えるという報告もあるが,遺伝子 …
- NAID 10024382659
- 茂里 康,島本 啓子
- 日本薬理学雑誌 122(3), 253-264, 2003-09-01
- … し,グルタミン酸に対する基質特異性が高い点等EAATとはかなり性質が異なっている.EAATおよびVGLUTの機能·発現制御は様々な神経疾患(脳卒中,てんかん,アルツハイマー病,エイズ関連の痴呆,ハンチントン舞踏病,筋萎縮性側索硬化症,悪性神経膠腫等)と関わっていることが示唆されている.これらのトランスポーターの生理的役割を調べるためには選択的な阻害薬が不可欠であり,グルタミン酸誘導体を初 …
- NAID 10011598968
- 錐体外路系の解剖・疾患・画像について : 文献的考察
- 伴 貞彦
- 紀要 22, 125-130, 2003-02-28
- … 今回これら神経核の解剖・神経線維路・機能、および錐体外路系の代表的疾患であるパーキンソン病、舞踏病(ハンチントン舞踏病)、ジストニア、無酸素脳症、多系統萎縮症、バリズムについて、そのMRI画像所見など文献的考察を行った。 …
- NAID 110001024850
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★リンクテーブル★
[★]
- 英
- Huntington disease
- 同
- ハンチントン舞踏病 Huntington chorea Huntington's chorea
- 関
- 錐体外路症候群、大脳基底核疾患
概念
- うつ、進行性痴呆(progressive dementia)、舞踏運動(choreiform movements)、尾状核の萎縮(caudate atrophy)
- 脳のGABA↓、ACh↓
- トリプレットリピート病
- 難病であり、特定疾患治療研究事業の対象疾患
疫学
- (有病率?)欧米では4-8/10万人、日本では1/10万人 (HBN.971)
- 発病する家系の20-50歳で発症。(他の文献では30-40歳代)
- 25-45歳で発症。有病率は2-8人/10万人。(HIM.2561)
病因
- 第4染色体短腕(4p15)に座乗するハンチントン遺伝子のエキソンに存在するCAGリピートの異常反復。正常では7~34回。ハンチントン病では36回以上
遺伝
病理
- 線条体(特に尾状核)・大脳皮質(特に前頭葉・側頭葉)の萎縮 → 尾状核の萎縮は不随意運動、大脳皮質の萎縮は認知症に繋がるのであろう
- 小型のニューロンの脱落が大型のニューロンに先行している。GABA作動性ニューロンの脱落が顕著である。線維性のグリオーシスが他の疾患で見られるニューロン脱落後のそれよりも顕著。線条体の変性とmotor symptomsの間には相関が見られる。皮質や線条体ニューロンでは核内にユビキチン化されたハンチントン蛋白の封入体が認められる。(BPT.895)
症状
<youtube>http://www.youtube.com/watch?v=JzAPh2v-SCQ</youtube>
診断
検査
CT
- 側脳室の外側に存在する尾状核の萎縮により側脳室の拡大が認められる。
MRI
- FLAIRでは尾状核と被殻に異常な高信号が認められる。
治療
- HIM.2562
予後
- 発症後10-20年で感染症、窒息(嚥下困難)で死亡する(YN.J-122)
参考
- http://www.mypacs.net/cases/HUNTINGTONS-DISEASE-12726430.html
- http://www.nanbyou.or.jp/entry/318
- http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/092_s.pdf
[★]
- 英
- basal ganglia disease
- 関
- 錐体外路症候群, movement disorder
分類 (SP.381)
疾患の分類 (SP.381)
[★]
ハンチントン舞踏病
[★]
- 英
- chorea
- 関
- Rapid, semipurposeful, graceful, dancelike, nonpatterned involuntary movements involving distal or proximal muscle groups.(HIM.2560)
[★]
- 英
- disease、sickness
- 関
- 疾病、不調、病害、病気、疾患
[★]
- 英
- Huntington
- 関
- Huntington病
[★]
- 英
- dance
- 関
- ダンス