出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2019/12/17 00:27:12」(JST)
高齢者(こうれいしゃ)は、社会の中で他の成員に比して年齢が高い一群の成員のことである。ただ高齢者という年齢の定義は一定のものはない。
日本語においては、同義語として老人(ろうじん)、年寄(としより)、お年寄り(おとしより)などの言葉がある。また、この世代を老年(ろうねん)と称する場合がある。
高齢の線引きは曖昧且つ主観的な部分があり、判断は容易ではない。国連では60歳以上[1]、国連の世界保健機関 (WHO) の定義では、65歳以上の人のことを高齢者としている。定年退職者もしくは老齢年金給付対象以上の人を言うことも考えられる。
日本では一般的に、0~19歳を未成年者、20~64歳を現役世代、65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者とされる。
高齢者の医療の確保に関する法律、およびそれに付随する各種法令[1]では、65~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と規定している。
各種公的機関が行う人口調査では、64歳以下を「現役世代」(5歳以下を乳幼児、6~14歳を児童、15~34歳を青年、35~64歳を壮年)、65~74歳を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と区分している[4]。
過度の社会保障受益や認知機能や身体機能が低下し、認知症・寝たきりなど疾病に掛かり易い高齢者に対する介護の疲れや社会的負担から、高齢者に対する嫌悪や高齢者虐待 (Ageism) が増えてきた。これを受けて、「年をとった、年寄り、高齢の」といった年齢を強調した表現を避け、「より経験豊かな、先任の」といった価値中立な表現を工夫して用いるような傾向が出てきている。たとえばoldではなく、senior (シニア)、elderly、aged、後期高齢者医療制度の名称や高齢ドライバー標識の意匠変更など。
なお、従来、老人という言葉が広く使われてきたが、最近、差別用語ではないかという意見がある[5]。
日本の公共交通機関には高齢者・障害者・病人・怪我人・妊婦などのための優先席が設けられているが、日本国有鉄道や東京都交通局など一部の事業者は、これを「シルバーシート」と表現していた。ここから、日本においては高齢者のことをシルバーとも呼ぶようになった。また、高齢者が自身を「シルバー」と表現することも多く見受けられる。高齢者の職業技能を生かすための、「シルバー人材センター」という名称の施設が各地に存在している
認知症有病率は、65歳未満の労働年齢層では2-10%とまれであるが[6]、80歳を超えると急に高まり、95歳以上になると欧州では約半数が罹患している[6]。OECDはもし年齢別有症率が現在のペースのままであれば、20年後の欧州は認知症患者数が現在の1.5倍になると予想している[6]。
ある国・地域において、高齢者が人口の7%以上を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、21%を超えると超高齢社会と呼ばれる。
日本では、1935年では4.7%で最低であったが、2007年では21.5%となり、超高齢社会となった。日本では2050年代までは世界1位だが、2060年以降は世界2位以下になる。
一般的に、一部の高齢者は経験を積み、様々な事に熟達しているとされる。加齢に伴う認知機能及び運動機能の衰えや、老衰に伴う記憶力の減退等といった理由により、第一線を退いた者は多いが、その豊富な経験と、その経験によって導き出される勘は、学習によって得られる知識や、練習によって習得する技能を超えた効率を発揮する高齢者もなかには存在する。これらを若者は学ぶべき点は学び、また後代に伝えるべき物とされる。
高齢者は古くより、社会的には年功序列や選挙での高い投票率によって一定の地位を獲得しているが、現代と違い古代から近代初期に掛けては、医療技術が発展していなかったので、高齢になるほど希少な存在となり、長らくは「古老」や「長老」と呼ばれる、高齢者に対する特別な尊称が存在する。儒教に基づく敬老の考えは、高齢者が尊敬されることに一役買っている。
2018年の内閣府の発表では65歳以上の推計人口(10月1日現在)は3,558万人であった。これは総人口のうち28.1%である[10]。第二の人生と言うように高齢者は定年になると働くことをやめていた為高齢労働者割合は低かったが(1980年時点では4.9%)2017年現在は高齢になっても働くケースが増え高齢労働者は労働者のおよそ1割を占めている[11]。
社会の高齢化、核家族化が急速に進んだことにより、高齢者の一人暮らしが増加した。1955年に42万5,000世帯[12]だった高齢単身世帯は、1965年に79万9,000世帯[12]、2005年には386万世帯[13]、2015年には380万世帯[14]となっている。
2005年度の上半期(4 – 9月)の全国の交通事故による死者のうち、高齢の運転者による死亡事故が増加。この状況を受け警察庁は「安全教育に加え、高齢者の個々の運転能力に応じた対策も検討を重ねる必要がある」として、75歳以上の高齢者の運転免許更新時に認知機能検査を盛り込んだ道路交通法の改正を2007年の通常国会に提出し、2009年6月から施行されることとなった。
2019年には相次ぐ高齢者の運転事故が大きな話題になり、自主的な返納、免許の制限といった議論が活発になった[15][16]。免許の制限を望む声の一方で「地方では車がないと生活できない」といった現実的な声もある[17][18]。
仕事や家族等の社会的な繋がりがなくなった高齢者の孤独死、犯罪を犯し刑務所に社会的な繋がりを求める事が問題となっている[19][20]。医師の加藤俊徳によると、30-40年間会社勤めを続けた場合、脳も会社で働くことで機能することとなり、退職後は社会的に孤独で孤立した高齢者ほど「本質的な脳の何割かが使えなくな」る状態が生じ、理解力が低下したり、周囲に注意を向けられず自分勝手に映ることになる[21]。
NHKが65歳以上の高齢者487人を対象に行った調査によると、約半数が「日常生活の中で感情が抑えきれずに"キレて"しまう」ことがあり[22]、さらに3割が「年齢とともに感情のコントロールが難しくなっている」と答えた[22]。精神科医の西多昌規は、核家族化の確立した社会において、高齢者が一人ないし配偶者と二人での生活を送る中、運動機能の衰えから行動範囲が狭まることやIT・情報技術の進歩についていけなくなることで社会から見捨てられたという思いを強くし、社会に対して攻撃的になる可能性を指摘し、「変化しつつある現代の社会環境に対する脳の反応」として「高齢者がキレる」という現象につながると述べている[23]。さらに西多は、加齢によって「性格の先鋭化」が生じ、若い頃気が短かった人がますます短気になるケース[23]や、前頭葉機能の低下によって攻撃的になるケース[23]を挙げている。医師の加藤俊徳によると、脳機能の低下が聴力や記憶力の低下をもたらし、その結果他人の話がうまく理解できなくなり感情を爆発させるケースもある[22]。精神科医の和田秀樹は、自己愛が満たされず「自分はまわりから大事にされていないという飢餓感から感情が暴走してしまう」高齢者が多くいると指摘している[24]。
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