出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/09/30 20:13:30」(JST)
症例対照研究(しょうれいたいしょうけんきゅう、case-control study)とは分析疫学における手法の1つである。疾病に罹患した集団を対象に,曝露要因を観察調査する.次に,その対照として罹患していない集団についても同様に、特定の要因への曝露状況を調査する.以上の2集団を比較することで、要因と疾病の関連を評価する研究手法。ケースコントロール研究、患者対照研究、結果対照研究とも訳される。
以下の例はサリドマイドによる奇形(フォコメリア phocomelia)を報告したレンツ博士の例である.[1]
症例 奇形児を生んだ母親 |
対照 奇形児を生んでいない母親 |
計 | |
サリドマイド服用 (要因暴露あり) |
90人 | 2人 | 92人 |
サリドマイド非服用 (要因暴露なし) |
22人 | 186人 | 208人 |
112人 | 188人 | 300人 |
この例は奇形を生んだ母親112人に質問し,過去にサリドマイドを服用した過去があるかを を調査し,そののち奇形でない出産をした母親188人に同様な質問をして作成した表である. [2]
コホート研究と異なり、一般的に罹患率を直接求めることはできない.これは対照群の大きさは事後に任意に決めることができるからであり,上の表の188人は合計を300人にするために選んできただけである.具体的には縦方向の比には意味があるが,横方向の比には意味がないからである.
曝露要因と疾病の関係は症例群の曝露オッズと対照群の曝露オッズを比較することで評価される.評価にはオッズの比をとるので(曝露)オッズ比(Odds Ratio)と呼ばれる指標で評価する。この例では 以下のような高い値となる.
なお,曝露群の症例オッズと非曝露群の症例オッズの比をとっても同じ値になる(オッズ比の対称性).
対象となる疾病の発生頻度が稀であれば、オッズ比は相対リスク(罹患率比)の良い近似となり、「曝露を受けることによって、疾病発生のリスクが何倍になるか」と解釈することができる。
ケースコントロール研究は、すでに疾病を発生しているケースが利用できるため、疾病の発生を待つ必要はなく、コホート研究に比べて時間もコストもかからない。また、コホート研究が適さない稀な疾病(稀な疾病の場合、コホート研究では膨大な時間と費用をかけて、コホートの大部分の人が健康なままでいることを観察するだけとなる)に適している.[3] 対象としている疾病の原因と考えられる要因を複数調べることができるという利点がある。その反面、リスク要因に関する情報を過去にさかのぼって調べなくてはいけないので情報が不正確になりがちである。代表的なものには、思い出しバイアス(recall bias)が挙げられ、ケースは「過去に原因として考えられている要因の曝露を受けたかどうか」をよく記憶しているが、疾病を発生していないコントロールは同じ曝露を受けていても記憶していないという偏りがしばしば見られる。また、研究対象者の選択においても、コントロールの適切な選択は難しく、選択バイアス(selection bias)についての検討が十分になされる必要がある。
青山英康 監修「今日の疫学」第2版、真興社、2005年、ISBN 4-260-10637-6
ロバート H. フレッチャーら著、福井次矢 監訳「臨床疫学 EBM実践のための必須知識」第2版、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2006年、ISBN 4-89592-454-8
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名称 | 患者対照研究 | コホート研究 | |
時間軸 | 後向き研究 | 前向き研究 | |
調査の方法 | 既往調査、病歴調査 | 追跡調査 | |
対象 | 曝露情報の 信頼性 |
患者の過去の記録やカルテに頼るため 信頼性は低い | 現時点での曝露状況が判明しているので信頼性は高い |
対象 | 偏り バイアス |
抽出の段階で、既に患者、対照群とも に偏りが発生している場合が多い | 母集団から、要因の有無別に対照群が 抽出されるため、偏りは小さい |
対象 | まれな要因 | 評価不能 | 評価可能 |
調査 | 観察期間 | なし | 長期 |
調査 | 費用 労力 |
患者と対照のみを観察するので、費用・労力が少ない | 大きな集団を長期に追跡しなければな らないので、費用・労力が多い |
疾患 | 対照疾患 | 単一 | 複数 |
疾患 | 診断の正確性 | 正確性が高い | 正確性が低い →診断基準が必要 |
疾患 | まれな疾患 | 可能 | 困難 |
解析 | 罹患率 | 計算不可 | 算出可能 |
解析 | 相対危険度 | 近似値の算出 | 算出可能 |
解析 | 寄与危険度 | 計算不可 | 算出可能 |
名称 | 患者対照研究 | コホート研究 | |
時間軸 | 後向き研究 | 前向き研究 | |
調査の方法 | 既往調査、病歴調査 | 追跡調査 | |
対象 | 曝露情報の 信頼性 |
患者の過去の記録やカルテに頼るため 信頼性は低い | 現時点での曝露状況が判明しているので信頼性は高い |
対象 | 偏り バイアス |
抽出の段階で、既に患者、対照群とも に偏りが発生している場合が多い | 母集団から、要因の有無別に対照群が 抽出されるため、偏りは小さい |
対象 | まれな要因 | 評価不能 | 評価可能 |
調査 | 観察期間 | なし | 長期 |
調査 | 費用 労力 |
患者と対照のみを観察するので、費用・労力が少ない | 大きな集団を長期に追跡しなければな らないので、費用・労力が多い |
疾患 | 対照疾患 | 単一 | 複数 |
疾患 | 診断の正確性 | 正確性が高い | 正確性が低い →診断基準が必要 |
疾患 | まれな疾患 | 可能 | 困難 |
解析 | 罹患率 | 計算不可 | 算出可能 |
解析 | 相対危険度 | 近似値の算出 | 算出可能 |
解析 | 寄与危険度 | 計算不可 | 算出可能 |
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