出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/09/06 01:44:29」(JST)
この項目では、デジタルオーディオテープについて記述しています。その他の用法については「DAT (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
DAT(ディー・エー・ティー、ダット、Digital Audio Tape)とは、音声をA/D変換してデジタルで記録、D/A変換して再生するテープレコーダーまたはそのテープ、また特にその標準化された規格のことである。
DATは元来、デジタル音声テープ (digital audio tape) を指す一般名詞であり、コンパクトカセットなどのAAT (analog audio tape)、オーディオCDなどのDAD (digital audio disc)、DVカセットなどのDVT (digital video tape) などに対比される用語だった。現在では、デジタル音声テープの規格の1つを指すことが普通である。英語などの表記では、一般名詞は小文字始まり、規格は大文字始まりと区別することもある。
一般向けに商品化された、デジタル音声テープには、以下のようなものがある。
プロユースのものは、マルチトラックレコーダー#デジタルMTR(テープ)参照。また、PCMプロセッサーや、8ミリビデオのマルチトラックPCMモードも、デジタル音声テープと考えることができる。
1989年には、小型コンピュータ用のバックアップ用として、DDS が規格化されるが、これも以下で説明するDAT規格をベースに開発されており、テープカートリッジの外形はまったく同じである。
詳細は「デジタル・データ・ストレージ」を参照
高密度な記録のため、VHSなどと同様、ヘリカルスキャンヘッド(回転式ヘッド)を採用している。カートリッジ寸法は、縦54 mm×横73 mm×厚さ10.5 mm。 DATテープ規格は、幅が3.8 mm、長さは 15分から180分の時間として表示(15、46、54、60、74、90、120、180分)され、120分テープの場合、その実長は 60メートルである。
DATで使用されるモード一覧は下表の通り。複数のモードが存在するが、一般的な機器は、2つの標準モード、LPモード(オプション2)、ワイドトラックに対応している。ただし、ワイドトラックは再生専用規格で、この規格のソフトは発売されていない。ワイドトラックモードに使用予定のテープの磁性材料はバリウムフェライトを使用したテープになる予定であった。
また、DAT 規格でのミュージックテープ製造も模索されており、感熱転写での量産化方式を設計したが、後述する著作権問題との関係で、計画は頓挫した。結果的に市販のDATミュージックテープは48kHzでコピーガードのない少量生産品[1]がわずかに存在した程度だった。
モード | 標本化周波数 | 符号化 | チャネル数 | DT-120での録音時間 |
---|---|---|---|---|
標準 (SP) | 48 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
標準 | 44.1 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
オプション1 | 32 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
オプション2 (LP) | 32 kHz | 12 bit ノンリニア | 2 ch | 240 min |
オプション3 | 32 kHz | 12 bit ノンリニア | 4 ch | 120 min |
ワイドトラック | 44.1 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 120 min |
WIDE / HS (パイオニア製の一部機種のみ) | 96 kHz | 16 bit リニア | 2 ch | 60 min |
HR (ティアック(TASCAM)製の一部機種) | 48 kHz | 24 bit リニア | 2 ch | 60 min |
加えて、パイオニアの一部機種[2]は独自モードとしてサンプリング周波数96kHzによるハイサンプリング記録および再生を扱う事が可能な(ただしD-07のみ本体にWIDEと表記。同社のD-05以降の96kHzハイサンプリング対応機種は本体にHSと表記)モード を備える。これは民生用の録音規格としては現在も最高水準である。しかし再生専用ではDVD-Audio、SACDの音質には及ばない。一般にはあまり普及しなかったが、高音質を求める業務用、プロ用として利用されている。
またアイワでは、ポータブルデッキに専用アダプターを接続することで静止画像の記録にも対応する機種を発売した(HD-X1 + HDV-1)。
日本国内でDATテープを発売したのはソニー、松下電器産業(現・パナソニック)、日本ビクター(現・JVCケンウッド)、TDK、富士フイルム(AXIAブランド)、日立マクセル、日本コロムビア(現・ディーアンドエムホールディングス)、花王などである[3]。
各社が相次いで開発した、磁気テープにデジタル音声を記録する規格を統一するため、1983年にDAT懇談会が設けられ、1985年に回転式ヘッドを用いるR-DAT(Rotaty Head DAT、回転ヘッド方式DAT)と固定式ヘッドを用いるS-DAT(Stationary Head DAT、固定ヘッド方式DAT)という2種類の規格が策定された。S-DATは、メカニズムは簡便ではあったが、高密度記録に対応した固定式記録ヘッドの開発が困難であったこと、R-DATの回転式ヘッドにはVTRでの実績があったこともあり、前者のR-DATが「DAT」として商品化されることになった。なお、のちのDCC(デジタル・コンパクトカセット)はS-DATで定められたヘッドが固定式という部分は共通しているが、ヘッドや記録構造を大幅に簡略化し、圧縮記録を取り入れており、このときのS-DAT規格と直接のつながりはない。
サンプリング周波数は当初より48kHz、44.1kHz、32kHzに対応する予定だったが、44.1kHzはCDと同じであり、CDの完全同一の複製が可能とあって日本レコード協会などの猛反発に遭って紆余曲折の末、1987年に発売にこぎつけた民生用の製品は苦肉の策として44.1KHzのデジタル入力録音が出来ない仕様となった。しかしこれが足かせとなって普及しなかったため、1990年にはSCMS(シリアルコピーマネジメントシステム)を搭載し、CDからの直接デジタル録音が1世代だけ可能(2世代目はデジタルコピー不可、アナログコピーは可能)になった機種が登場した。ほぼ同時に普及が始まった衛星放送の音楽番組やミュージックバードのエアチェックにも利用された(Aモード:32kHz、Bモード:48kHzに対応)。なお、業務用機にはSCMS機能制限がなかったために、音楽録音スタジオなどでは爆発的に普及した。また、持ち運びが出来るバッテリー駆動の製品を使って野外での生録音(野鳥の鳴き声や汽車、電車の走行音の録音)を楽しむマニアも少なくなかった。
当初は民生用としてスタートした規格であったが、民生用にしてはオーバースペックなほど高性能であったため、早くから業務用としてプロの現場で活用され始めた。放送用素材やマスターレコーダーとして、盛んに利用された。そのため放送用・業務用の一部の機種では、SMPTEタイムコードが記録できるようになっている(ソニー「PCM-7040」など)。
後期には高音質化の技術が幾つか導入された。16ビット録音でありながら20ビットや24ビット相当の解像度を実現するSBM(スーパー・ビット・マッピング)機能がソニー製DATに導入される[4]一方で、パイオニアはHS-DATと呼ばれる方式でを標準モードに対し2倍のサンプリング周波数をテープ速度と動作クロックを倍速[5]にして88.2~96kHz録音を民生機器で実現した[6]。
パイオニアはさらにAIRSと銘打った録音システムを送り出す。DATデッキD-9601[7]とデジタルプロセッサーのSP-AR1を組み合わせ、96kHzサンプリングに加え24ビットまでワードレングスを伸ばしたもので、当時としては珍しい96kHz/24ビットフォーマットに対応していた。さらにD-9601はダウンコンバーターを内蔵し、96kHzから44.1kHzへダウンサンプリングした信号を同社のCDレコーダーRPD-500に接続し、アナログを介さずに音楽CDを作る事も出来た。 このAIRSは業務用で一般に普及しなかった。
その他TASCAM(ティアック)も、DATテープを倍速で駆動しHR(ハイ・レゾリューション)モードで24ビット録音に対応した業務用デッキDA-45HRを2000年に発売した。
1992年に登場したミニディスク(MD)が価格面や使い勝手などの面から民生用オーディオ機器の主流となってDATのシェアは後発のDCCほどではないが縮小の一途を辿り、さらに1990年代末期に入るとMDの圧縮コーデック「ATRAC」のデータ圧縮時のアルゴリズムの大幅な見直しによる高音質化[8]や民生用CDレコーダーの普及[9]、そして21世紀に入ってからは高圧縮のデジタルメディアである「MP3」、「WMA」、「AAC」などに代表される携帯型のデジタルオーディオプレーヤーの着実な普及などにより、2001年にはパイオニアの民生用据置型DATデッキ(D-05およびD-HS5)が販売終了し、2004年にはソニーの民生用据置型DATデッキ(DTC-ZA5ES[10])が販売終了した[11]。1997年7月発売のソニーDATウォークマンTCD-D100が民生用DAT製品最終機種として販売を継続していたが、月間出荷台数が100台程度であったことや、製品に使用する部品の入手困難化、DAT代替製品の多様化、DATユーザーが代替製品への移行が進んでいること、などの要因から、2005年11月25日にソニーから生産終了する旨が発表され、2005年12月初旬にTCD-D100の生産出荷終了と共に日本向け民生用DAT製品は姿を消した[11]。その後も業務用向け製品は引き続き少量ながら生産が続いていたが、2000年代後半までに生産終了しており、DAT代替製品として業務用の分野では2000年代中盤以降にDAWによるHDDレコーディングシステムに順次置き換えられていった。また屋外使用も可能なポータブルかつ非圧縮に対応したレコーダーもSDやメモリースティック、CFといったフラッシュメモリを使用した機種が多数発売されており、一部機種では96kHz録音も可能でハードディスク内蔵機種では192kHzやDSD録音も可能になっている。USB接続でパソコンによる編集・保存にも対応している(詳細はICレコーダー#PCMレコーダーの項を参照)。ただし高音質再生ではなく生録音用途が前提になっており、殆どの機種がマイクロフォン一体型[12]である。
録音再生機の製造は中止されたものの、テープメディアの販売は現在も続けられており、一定の需要は存在している。
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