凍結治療(とうけつちりょう)は、生体の組織を凍結させると壊死する機序を利用した治療方法である。凍結手術(とうけつしゅじゅつ、英: Cryosurgery)、凍結凝固(とうけつぎょうこ、英: Cryoablation)、凍結療法(とうけつりょうほう、英: Cryotherapy)とも呼ばれる。
疣に対する凍結手術は標準的治療であり、健康保険を適用できる。
小径腎癌に対しては、腎癌診療ガイドライン2011年版では、「全身状態や合併症のため根治的な治療が困難な場合に推奨される(推奨グレードC1:エビデンスは十分とはいえないが、日常診療で行ってもよい)」となっている[1]。2011年7月から健康保険を適用できるようになった。
その他、網膜剥離に対する凝固術、心房細動の手術治療にも使用されている。
目次
- 1 沿革
- 2 適応
- 2.1 皮膚疾患
- 2.2 心房細動
- 2.3 小径腎癌
- 2.3.1 特徴[12]
- 2.3.2 欠点
- 2.3.3 治療方法
- 2.4 その他
- 3 機序
- 3.1 細胞
- 3.2 組織
- 3.3 in vivo試験
- 3.4 凍結後の中長期変化
- 4 外部リンク
- 4.1 北海道エリア
- 4.2 東北エリア
- 4.3 関東エリア
- 4.4 中部エリア
- 4.5 関西エリア
- 4.6 中国エリア
- 4.7 四国エリア
- 4.8 九州エリア
- 4.9 その他
- 4.9.1 関連学会
- 4.9.2 国内薬事承認機器
- 5 脚注
沿革
組織の凍結を治療に利用したのは、文献報告によると、19世紀中頃の英国のJames Arnottが世界初とされている[2]。その後、液体窒素を寒材として利用することで冷却能力が向上され、寒材を灌流させるプローブ形状の凍結子も登場した。その結果、皮膚、前立腺、口腔、肛門部周囲等へ、適応対象が広がった[3]。しかし、国内においては、他の治療方法が優れるようになり、皮膚疾患、心房細動、網膜剥離等の限られた疾患への使用が続けられていた。一方、欧米では、皮膚疾患だけでなく、超音波診断装置を併用し、肝癌に対して開腹下で穿刺して凍結する手術[4]、前立腺癌に対して会陰部から経皮的に凍結子を穿刺して凍結する手術[5]がなされるようになり、腎癌に対して腹腔鏡下または経皮的に穿刺して凍結する手術[6]がなされるようになった。
日本では、1995年、京都府立医科大学泌尿器科内田らにより、腎癌に対して超音波ガイド下で経皮的に凍結子を穿刺して凍結した治療が報告されている[7]。文献報告された世界初の腎癌に対する経皮的凍結手術であろう。
凍結された領域は、X線CTやMR画像診断装置によっても立体的に把握できる。大型画像診断機器が一般化し、それらを併用した経皮的な凍結治療が、海外で、腎[8]・骨[9]・肺[10]の腫瘍を対象に実施されるようになった。ちなみに、MR画像診断装置により凍結域を明瞭に確認できることを発見したのは、文献によれば、浜松医科大学(当時)礒田が最初であろう[11]。
2010年1月、小径腎癌を対象とした冷凍手術器が日本で薬事承認され、2011年7月から小径腎癌凍結治療に保険も適用されるようになった。
適応
皮膚疾患
国内・欧米において疣等を対象に一般的に使用されている。
心房細動
心房細動の手術であるMaze手術において使用されている。
小径腎癌
国内・海外において使用されている。 健康保険(国内)を適用することができる(手術料 K773-4 腎腫瘍凝固・焼灼術(冷凍凝固によるもの))。
特徴[12]
- 凍結された組織を画像診断装置で確認しながら治療ができる。
- 凍結中、痛みが少ない。
- 局所浸潤麻酔下で実施可能な低侵襲治療であり、入院期間が短い。
- 高齢や別の疾患を持つなど、手術困難な場合でも、凍結治療の可能性を検討できる。
- 腎機能を温存できる。
- 再発・残存した場合でも繰り返し治療できる。
欠点
治療方法
国内の腎癌凍結療法では、画像診断装置(X線CT装置、MRI装置)を併用し、体内の様子を確認しながら凍結用ニードルを穿刺して腫瘍を凍結する、経皮的アプローチが採用されている。その方法は、以下の通り[13]。
- X線CT装置またはMRI装置にて撮影し、凍結用ニードルを刺入する体表部を決定し、局所麻酔を施す。
- 画像を確認しながら凍結用ニードルを穿刺して腫瘍に配置する。
- 腫瘍寸法に応じた本数の凍結用ニードルを穿刺する。通常、2cm径以下では2本、3cm径以下では3本を腫瘍に配置する。
- 凍結(15分)‐自然解凍(5分)‐凍結(15分)を行う。凍結を行っている間は、腫瘍が凍結される一方で周囲の腸などは凍結されていないことを画像で確認する。腫瘍が凍結されると、凍結を止める(括弧内の時間は典型例)。
- 凍結用ニードルを抜き去り、出血の無いことを確認し、退室する。
- 術後はベッド上安静とし、翌日、出血等の無いことを確認し、問題が無ければ、退院となる。
その他
国内では、施設によっては、以下の疾患に対して、試験的な診療、あるいは、保険外診療(自由診療)で治療が行われている。
骨腫瘍、肝癌、乳癌、肺癌、血管奇形、癌性疼痛、子宮筋腫。
機序
細胞
凍結による細胞傷害の機序は、以下のようにされている[14]。温度を徐々に下げていくと、まず、細胞外にて氷が発生して成長する。すると、細胞外のイオンの濃度が上がり、浸透圧により細胞内の水が細胞膜を通して移動する。その結果、細胞内のイオン濃度が高くなり、また、細胞外の氷から機械的な力を受け、細胞は壊死する。しかし、すべての細胞が壊死には至らない。さらに温度を下げていくと、細胞内にて氷が形成される。細胞内の氷は、機械的に原形質構造を破壊し、すべての細胞を壊死させる。
組織
組織の凍結壊死については、以下のようにされている[14]。極低温を発生する凍結子近傍においては、致死的な低温により細胞内に氷が形成され、機械的に破壊されて壊死に至る。 一方、凍結域の辺縁においては、すべての細胞が直接的傷害を受けて壊死はしないであろうが、凍結域より数mm内側の細胞すべてが壊死する。それは、内皮細胞が傷害された毛細血管内に梗塞が生じ、間接的な虚血性壊死が生じることによると考えられている。
in vivo試験
凍結後の短期的な組織変化については、以下のように報告されている。凍結直後、凍結域は出血性の領域として認められ、その辺縁部に生存可能な細胞を認めることができる。1~数日後には、凍結域周縁に数mm幅の炎症反応を伴う帯状の境界を認めるようになり、その外側は正常な細胞を、その内側は均一な壊死領域を示すようになる。帯状の境界域には、生きた細胞と壊死した細胞の混在を認める。診断画像上の凍結範囲と壊死範囲とは、ほぼ一致する。凍結/非凍結の境界に細径チューブ等を留置して凍結域と壊死範囲の差を測定した実験では、羊の肝臓については1~2mm[15]、豚の肝臓においては平均0.8mm±0.8SD[16]だけ完全壊死領域が凍結範囲の内側にあることを確認している。
凍結後の中長期変化
腎癌凍結治療後の長期的画像診断フォローアップの報告[17]によれば、凍結壊死した組織は、約3~6か月かけて縮小し、瘢痕化または脂肪組織への置換とみなされる変化を認めるとある。
外部リンク
腎癌等の腫瘍を経皮的に凍結治療できる施設(Web公開中、又は、雑誌掲載された施設)
北海道エリア
- KKR札幌医療センター斗南病院;腎癌、肝癌、乳癌、子宮筋腫、難治性癌性疼痛(骨転移、骨盤内再発) (札幌)
- 札幌整形循環器病院;転移性骨軟部腫瘍 (札幌)
- 札幌東徳洲会病院; 凍結免疫 (札幌)
東北エリア
関東エリア
- 茨城県立中央病院;腎癌 (茨城県)
- 群馬大学附属病院;腎癌、肝癌、骨・軟部腫瘍 (群馬県)
- 慶應義塾大学病院 整形外科呼吸器外科;骨・軟部腫瘍、肺癌 (東京都)
- 国立がん研究センター中央病院;腎癌 (東京都)
- 京慈恵会医科大学附属病院;放射線治療後PSA再燃の前立腺癌 (東京都)
- 東京慈恵会医科大学附属柏病院 泌尿器科 乳腺・内分泌外科;腎癌、乳癌 (千葉県)
- 亀田メディカルセンター 乳腺外科呼吸器外科;乳癌、肺癌 (千葉県)
中部エリア
- 三重大学病院 泌尿器科整形外科IVR科;腎癌、類骨骨腫 (三重県)
関西エリア
- 済生会滋賀県病院;腎癌 (滋賀県)
- 京都府立医科大学附属病院 泌尿器科放射線科;腎癌 (京都府)
- 大阪大学医学部附属病院 泌尿器科IVRグループ;腎癌 (大阪府)
中国エリア
- 岡山大学病院;腎癌、骨転移、再発した骨軟部腫瘍 (岡山県)
四国エリア
- 高知大学医学部附属病院;腎癌、転移・再発した腫瘍、一部の良性腫瘍 (高知県)
九州エリア
その他
関連学会
国内薬事承認機器
- 冷凍手術器(深部病変対応穿刺タイプ)
- 冷凍手術器(表在・浅部病変対応接触タイプ)
- 冷凍手術器(表在病変対応寒材噴霧タイプ)
脚注
- ^ a b 日本泌尿器科学会編; 腎癌診療ガイドライン 2011年版; 金原出版; 2011
- ^ Arnott J; The remedial efficacy of a low or anaesthetic temperature; Lancet; 2; 257; 1850
- ^ Gage A; History of cryosurgery; Seminars in Surgical Oncology; 14(2)99-109; 1998
- ^ Morris DL; Hepatic cryotherapy for cancer: a review and critique; HPB Surgery; 9(2)118-120; 1996
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- ^ 企画協力 原田潤太、隅田幸男; 低侵襲性治療として期待される凍結治療の展望; インナービジョン; 5月号; 2003
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