出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/11/17 15:58:10」(JST)
出典は列挙するだけでなく、脚注などを用いてどの記述の情報源であるかを明示してください。記事の信頼性向上にご協力をお願いいたします。(2011年5月) |
神経病理学(しんけいびょうりがく、英: Neuropathology)とは神経学の分野における病理学である。具体的には中枢神経(脳、脊髄)、末梢神経、筋肉などの材料を顕微鏡で観察し、病理診断や病気の原因や発生機序を研究する学問である。
中枢神経の細胞は神経細胞、グリア細胞、支持組織からなる。グリア細胞はアストロサイト、オリゴデンドログリア、上衣細胞、ミクログリア、マクロファージなどが知らる。アストロサイト、オリゴデンドログリア、上衣細胞をマクログリアという。支持組織には血管、軟膜、くも膜、脈絡叢、くも膜顆粒などが含まれる。神経病理学においては神経細胞の変化は超急性期を除けばグリア細胞の反応を伴うものであり、逆にグリア細胞の反応がなければ人工的な変化の可能性が疑われるため各種細胞の同定は非常に重要と考えられている。
神経細胞は細胞体、軸索、樹状突起から構成される。細胞体には核、ゴルジ装置、リソソーム、ミトコンドリア、リボソーム、小胞体、リポフスチン、神経細糸、微小管、神経メラニンなどが認められる。軸索や樹状突起ではこのうちミトコンドリアや神経細糸、微小管が主に認められる。光学顕微鏡で確認できるのは核、粗面小胞体の集合物、リポフスチン、束状の神経細糸、神経メラニンなどである。
神経細胞の脱落では周囲組織の組織変化を伴うことが多い。神経細胞内物質の外部への流出(メラニン色素の遊出など)、細胞外のレヴィ小体やアルツハイマー神経原繊維変化などが知られている。細胞死に続発する変性神経細胞の処置像として、マクロファージによる神経貪食像や髄鞘破壊産物を貪食する脂肪顆粒細胞が観察される。またアストロサイトが反応しグリオーシスが形成される。
虎斑状に見えるニッスル小体(粗面小胞体)が崩壊する状態をクロマトライシスまたは虎斑融解という核周囲の細胞質の中心部が腫大し崩壊したニッスル小体が周辺に押しやられる状態を中心性虎斑融解という。これは軸索障害による逆行性変性の結果である。
風船状腫脹(ballooning)はペラグラ、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺などで記載される。風船状腫脹をした細胞がニッスル小体を失っている場合があり、その状態をアクロマジアという。
代謝性疾患では異常代謝産物が細胞体に蓄積されることにより腫大性変化をきたす。
変性疾患では、異常蛋白などの蓄積により細胞体が腫大することがある。アルツハイマー病の神経原線維変化やレヴィ小体などが細胞体内に形成されれば全体像が腫大することがある。ballooned neuronと表現されることもある。
限局性皮質異形成や結節性硬化症の皮質結節部など細胞成分に異型が認められる疾患では神経細胞が腫大することがある。
加齢に伴う単純萎縮が知られる。またあ急激な虚血では細胞質全体が好酸性(HE染色で赤色)となり萎縮し、虚血性変化あるいは低酸素性変化という。変性萎縮した神経細胞に石灰や鉄が沈着しミネラリゼーションという変化を起こすことがある。
リポフスチンは神経細胞内に蓄積される消耗性色素で加齢、変性などで増加する。
加齢現象に随伴する構造物で海馬の錘体細胞層に好発する。別名は好酸性棍棒状構造物。神経細胞内、神経突起内、その周辺などで認められる。生理的加齢のみならずアルツハイマー病でも多数認められる。
高齢者やアルツハイマー病などの海馬錐体細胞層の神経細胞体に好塩基性顆粒状構造物を含んだ小空胞が認められることがある。
神経細胞内にリン酸化タウ蛋白の不溶性の蓄積が起こり、異常線維形成として蓄積したものである。古いものは好酸性を帯びてくる。強い嗜銀性があり、GB染色で黒色に明瞭に染色される。加齢や痴呆性疾患だけではなく、亜急性硬化性全脳炎、ニーマンピック病C型、頭部外傷、二次性タウオパチーでも出現する。
ピック病の海馬などの神経細胞内に形成される嗜銀性の円形構造物である。HE染色では好酸性で膨化した球状物として認識される。尖性樹状突起側に存在することがおおい。ピク病の診断的な意義をもつ神経細胞内の球状構造物である。ピック球ほど明瞭ではないものの、膨化したような球状物で細胞質が大きく腫大した神経細胞をピック細胞という。海馬歯状回、海馬支脚などが好発部位でありリン酸化タウを含んでいる。
グルコースポリマーで形成される小体をポリグルコサン小体という。その中にはラフォラ小体、ミオクローヌス小体、ビルショウスキー小体などが含まれ、神経細胞体、神経突起、グリア細胞内に蓄積する。ラフォラ小体はラフォラ病の指標となる構造物である。ラフォラ小体は細胞体内に蓄積することが多いが神経突起で認められることもある。
特発性パーキンソン病や加齢老人の黒質、青班核、迷走神経背側核などの脳幹の諸神経核の神経細胞室内に見られる好酸性(HE染色で赤)の小体である。典型的なものは脳幹型レヴィ小体と言われるもので中心部に強い芯があり、その周辺部に染色性の薄い帯状の空間を伴う。メラニン顆粒に埋もれていることもある。皮質型レヴィ小体は膨化した淡い球状物である。レヴィ小体はユビキチン化されており、抗ユビキチン抗体で明瞭に検出することができる。また構成蛋白であるαシヌクレインでに対する抗体でも検出ができる。αシヌクレイノパチー以外でも認められため、神経変性に随伴する構造物である可能性もある。
若年性筋萎縮性側索硬化症の前角細胞、黒質、大脳基底核に好塩基性の大きな封入体が報告されている。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の脊髄、脳幹運動神経細胞内に出現する異常構造物であり、ALSに特異的である。好酸性の小円形構造が神経細胞内の数個数珠状に連なっている。抗シスタチンC抗体で明瞭に染色される。
孤発性および家族性のALSの下位運動ニューロン内に好酸性の糸状、管状構造の集合体で糸を巻きとった綛のようにみえることから、この名前がついた。HE染色で同定するのは困難であるが抗ユビキチン抗体で陽性を示す。スケイン様封入体は運動ニューロン疾患以外に、進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症、ピック病、老人脳などでも線条体で高頻度に認められる。
ALSの脊髄前角細胞にスケイン様封入体よりも線維成分が密に集合したような好酸性の球状物が観察できることがある。
ALSの脊髄前角、脳幹の運動神経細胞に時に認められるレヴィ小体に類似する円形で淡い硝子様封入体をレヴィ小体様硝子様封入体という。高度にユビキチン化しており抗ユビキチン抗体で陽性を示す。
痴呆症状を伴うALSでは海馬歯状回顆粒細胞、側頭葉皮質の神経細胞にユビキチン陽性の神経細胞内の封入体が出現する。HE染色、嗜銀染色などルーチンの染色では検出困難であり抗ユビキチン抗体で陽性を示す。
グリア細胞内封入体(GCI)で有名な多系統萎縮症でも神経細胞内封入体が知られている。約30%ほどに痴呆症状を伴うALSで認められる歯状回神経細胞内ユビキチン化封入体に類似する構造物が認められる。
橋核が残る神経細胞内に比較的大きな不整形の封入体が認められることがある。抗ニューロフィラメント抗体で染色される。
狂犬病ウイルスによる好酸性の細胞質内小封入体をネグリ小体という。ウイルス性感染症では神経細胞内や各内に封入体が認められることが多い。
核小体とほぼ同じ大きさの好酸性顆粒構造物であるが臨床的意義はない。
ウイルス性感染症では核内封入体がしばしば認められる。
多系統萎縮症では大脳皮質神経細胞の核内にGB染色で短い糸屑状に染色される管状構造物が確認されることがある。GB染色のみで可視化され、変性のプロセスの存在を示していると考えられている。
トリプレットリピート病では神経細胞体内、核内にユビキチン陽性の封入体が観察される。ボリグルタミンに対する抗体でも染色される。
軸索障害に関しては以下の病理学的変化が知られている。
軸索のどこかが障害され、その後の二次性変性が軸索の方向へ進展する順行性の変性進展様式を順行性変性といい、ワーラー変性ともいう。
軸索の障害に惹起されて起こる細胞体へ向かう変性を逆行性変性という。ダイイングバック現象(dying back phenomen)ともいう。
神経細胞の変性がそれと線維連絡のある別の神経細胞の変性を惹起することを経神経細胞変性という。
軸索の障害により様々な反応性の変化が起こることを軸索反応という。軸索障害後、神経細胞体へ向かう逆行性変性が起こる。その結果、神経細胞体が腫大を起こす状態を示し中心性虎斑融解を起こすことなどが典型例である。
神経索が変性することである。順行性、逆行性の区別はしないことが多い。
病理学的なびまん性軸索損傷と臨床のびまん性軸索損傷は異なる。軸索は断裂し髄鞘も破壊され、様々な二次反応を示す。軸索腫大(スフェロイド)も形成され特に軸索退縮球とよぶ。
軸索腫大(スフェロイド)の1つの特殊なタイプである。軸索の遠位末端部の腫大を特徴とする。延髄ゴル核では加齢性変化や抗てんかん薬の長期服用の副作用でも出現する。
軸索障害の終末像は軸索の萎縮と消失である。軸索の脱落に伴い髄鞘が崩壊することも多く、その場合は破壊性分を貪食するマクロファージ、脂肪顆粒細胞が出現する。
神経突起、軸索腫大病変の総称である。軸索の近位部から最遠位部まで形成される可能性がある。HE染色では好酸性に染色されるが、ボジアン染色など嗜銀染色では一層明瞭に可視化される。ニューロフィラメントが蓄積すると考えられる。KB染色、LFB染色も用いて有髄線維のスフェロイドか無髄線維のスフェロイドかを判定する。軸索遠位部終末に形成された場合は終末ボタンといい、頭部外傷で障害部位に軸索腫大が認められた場合は軸索退縮球、軸索ジストロフィーでおこれば異栄養性軸索と呼ばれる。
プルキンエ細胞の最も近位部の軸索に生じたスフェロイドである。
プルキンエ細胞の細胞体あるいは樹状突起の表面から外側に向かって突起がでているように見えるものをカクタスという。
プルキンエ細胞の樹状突起が分子層内で腫大する変化である。ヒトデ小体または樹状突起腫脹という。
小脳歯状核細胞周囲で軸索末端部で無髄線維が増加(発芽)することがある。これをグルモース変性という。HE染色では好酸性を呈する雲状の構造物が集積する。小脳遠心系変性を示しており、進行性核上性麻痺や歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などで特徴的に認められる。
プルキンエ細胞の脱落を示す所見である。プルキンエ細胞が消失すると篭細胞の軸索だけが空っぽのバスケットのように見える。
海馬、海馬傍回、側頭葉において嗜銀染色で棍棒状に染色される構造物が観察される。神経突起内に異常リン酸化タウが数珠状に蓄積することが明らかになっている。
アルツハイマー神経原線維性変化が形成される病的な場合、その周囲に糸状の嗜銀性構造物を観察することがある。HE染色では識別ができないがGB染色で明瞭に検出できる。神経突起に異常リン酸化タウが蓄積したものである。
老人斑はすべて神経突起の変化であるわけではないが基質に沈着しているアミロイド成分とともに、神経突起にはリン酸化タウの蓄積が生じ軸索ジストロフィーを示す。
類でんぷん小体はアストロサイトの突起内に形成されるが、軸索内に形成されることもある。
軸索腫大のことだが蓄積物という点ではニューロフィラメント蓄積と捉えることができる。
レヴィ小体を形成する神経細胞周囲にユビキチン陽性のやや太く腫大した神経突起を観察することができることがある。
アストロサイトはHE染色では比較的明るく、やや大きな核をもち細胞質に乏しい細胞である。細胞体には核、リソソーム、グリコーゲン顆粒、ゴルジ装置、中間径フィラメントなどに富む。中間径フィラメントの構成蛋白であるグリア線維性酸性蛋白(GFAP)やビメンチンに対する抗体で染色される。正常な場合はHE染色などルーチンの染色では突起成分は可視化されず、抗GFAP抗体を用いた免疫染色や古典的なカハール染色を行わないと突起は観察されない。組織障害に反応したアストロサイトは細胞体のみならず突起も太くなり、HE染色でも容易に観察ができるようになる。
アストロサイトは存在する場所などによって形態が異なる。
ベルクマングリアとは小脳皮質プルキンエ細胞層に存在するアストロサイトの呼称である。
ミューラー細胞とは網膜の全層を貫く突起を有するアストロサイトの亜型である。
発生期の神経管の内側から放射状に辺縁帯に突起を伸ばしているアストロサイトであり、神経細胞の放射状移動のガイド役になる細胞である。
何らかの原因による組織障害でアストロサイトが増生している状態である。
組織障害に反応し、アストロサイトの中間系フィラメントが増生し、細胞質が腫れた状態のアストロサイトを指している。比較的急性期のアストロサイトの反応性変化である。 核縁が厚く、明るい核と好酸性の豊富な細胞質をもつアストロサイトである。クロイツフェルト・ヤコブ病や進行性多巣性白質脳症では非常に大きな肥胖性アストロサイトが認められるが、どのような組織障害でも観察できる。
細胞質には乏しいが突起内の線維成分が豊富なアストロサイトである。グリオーシスに至る前段階と考えられている。
脳浮腫などに随伴してアストロサイトの細胞質が腫脹しアメーバ状の形態を呈する段階を有するアストロサイトをアメポイドグリア、アメーバ様グリアという。
1つの細胞が他の細胞に嵌入する現象であり、脳ではアストロサイトがオリゴデンドログリアを細胞質に含む所見が観察される。
組織反応として線維性アストロサイトの突起が進展し、障害された組織を埋め尽くす修復、瘢痕化の状態をグリオーシスという。組織障害が慢性的に進行した場合はアストロサイトの線維性分が既存の神経線維の走行を模倣しながらグリオーシスを形成しイソモルフィックグリオーシスという。比較的急激な組織破壊の場合は既存の神経線維の走行を模倣せずにアニソモルフィックグリオーシスという。
ウィルソン病や肝性脳症を伴う肝障害の大脳基底核で核膜、核小体が目立った大きな核をもつアストロサイトが認められアルツハイマー型グリアという。
神経細胞だけではなくアストロサイトの特記ないにもアミロイド小体、類でんぷん小体は蓄積する。加齢性の変化で疾患特異性はない。
アストロサイトの突起内に形成されるHE染色で好酸性の棍棒状の硝子様構造物である。陳旧化したグリオーシスやグリオーマなどで非特異的に認められるが。アレキサンダー病では脳全体で認められ診断的価値がある。
タウオパチーでは神経細胞だけではなくグリア細胞でもタウの蓄積が認められ、診断学的な価値がある。
アストロサイトの細胞体から伸びる突起にリン酸化タウが蓄積したもの。タウオパチーで非特異的に認められる。
アストロサイトの突起のうち、細胞体に近い突起にリン酸化タウが異常蓄積したもので全体が房のようにみえるものである。進行性核上性麻痺の病理診断の根拠となるものである。
アストロサイトの突起内の遠位部にリン酸化タウが異常蓄積したものであり全体として斑状、あるいは花冠状にみえるものである。大脳皮質基底核変性症の病理診断学的な指標となる構造物である。
アストロサイトより小さくクロマチンに富む濃染した核を有し、細胞質はわずかである。アストロサイトと比較すると突起は少ない。神経線維束に併走するように数珠状に配列するものを束間オリゴデンドログリアという。神経細胞の周囲を取り巻く衛星細胞の多くはオリゴデンドログリアである。突起の先端部が帯状になり髄鞘を形成する。オリゴデンドログリアは1つの細胞から多数の髄鞘節が形成される(1細胞多髄鞘節)。末梢神経のシュワン細胞では1つの細胞から1つの髄鞘節が形成されるのと対照的である。細胞質には粗面小胞体、リボソーム、ミトコンドリアに富んでいる。
オリゴデンドログリアはアストロサイトよりも脳浮腫では浮腫性変化を起こしやすい。
大脳白質の異所性神経細胞や血管周囲にオリゴデンドログリアのサテライト-シスが顕著な場合は微小形成不全の所見と考えられている。
進行性多巣性白質脳症や亜急性硬化性全脳炎では神経細胞以外にオリゴデンドログリアの核内にウイルス封入体が認められる。
多系統萎縮症のオリゴデンドログリア細胞質に形成されるオタマジャクシ様の嗜銀性封入体であり、ユビキチン陽性、αシヌクレイン陽性を呈する。
タウ蛋白の異常を伴う神経変性疾患ではオリゴデンドログリア内にも蓄積が認められ、免疫染色やガリアス染色で可視化される。
タウオパチーで非特異的に認められる所見である。進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、アルツハイマー病などでオリゴデンドログリアの核の周囲にコイル状取り巻いている像が認められる。これをグリアコイル状小体という。
タウオパチーにおいてオリゴデンドログリアの細胞質ではなく、突起部分に異常リン酸化タウが沈着し、免疫染色、ガリアス染色などで縮れた糸屑上にみえる。これを嗜銀性スレッドという。進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症で比較的多く観察されるが、両疾患における嗜銀性スレッドは形態学的に異なるものである。
髄鞘とは軸索のまわりを囲っている被覆部である。オリゴデンドログリアは1つの細胞から多数の髄鞘節が形成される。一方、末梢神経のシュワン細胞では1つの細胞から1つの髄鞘節が形成される。また脳神経は末梢神経であるが、視神経の髄鞘はオリゴデンドログリアによって形成される。そのため多発性硬化症など中枢神経の脱髄性疾患では視神経異常を伴う。
髄鞘の脱落を総称して髄鞘脱落という。変性疾患の軸索障害によって二次的な髄鞘の脱落も脱髄疾患による一次的な髄鞘の脱落も髄鞘脱落と表現される。髄鞘は脂質成分が多く、脱落すると脂肪顆粒細胞(貪食するマクロファージ)が浸潤する。髄鞘の破壊産物が塊状に凝集したものをミエリンオボイドという。
髄鞘が一次的に崩壊する現象が狭義の脱髄である。軸索は比較的保たれる。斑状に脱髄が認められる時は脱髄斑という。
急激な電解質の変動、例えば低ナトリウム血症を急激に補正した場合は髄鞘染色の染色性の低下が認められ髄鞘融解という。
髄鞘が脱落するのではなく、髄鞘が十分形成されない場合、髄鞘形成不全という。白質ジストロフィーなどで認められる。
先天的な髄鞘形成不全であり限局性皮質異形成や結節性硬化症では大脳皮質と白質の境界が不明瞭である。
大脳深部白質や半卵円中心では髄鞘染色で染色性の低下が認められることがあり髄鞘淡明化やミエリンパーラーという。グリオーシスやマクロファージ浸潤などの反応性変化を欠いている場合が多い。病理的な意義は不明である。
上衣細胞は脳室壁を裏打ちする正方形、円柱状の細胞である。脳室側には線毛や微線毛がある。
ミクログリアは小型で多極性の突起をもつ小グリア細胞である。胎生期の単球由来または神経外胚葉由来と考えられている。脳に何らかの障害が起こると突起が太くなり活性型になる。マクロファージに移行する。
病理学の基本的染色法であり、細胞質はエオジン好性に赤く染まり、核や核小体はヘマトキシリン好性に紫色に染まる。
神経細胞に対する染色法であり粗面小胞体であるニッスル小体を色素のクレシル紫が紫色に染める。
髄鞘染色である。脱髄疾患の分布の評価などを行うことができる。
ニッスル染色とLFB染色を併用した染色で神経病理学で最も一般的な染色法の一つである。
嗜銀染色であり神経突起の評価や線維成分の評価に優れている。
クリスタル紫によってアストロサイトの線維成分を紫色に染色する。
異常タウ蛋白の一部を染色する方法である。
ユビキチン、リン酸化タウ、αシヌクレイン、ボリグルタミン、GFAP(アストロサイトのマーカー)などの免疫染色を併用することが多い。
脳腫瘍は原発性脳腫瘍と続発性脳腫瘍(転移)に分けられる。脳腫瘍は発症年齢によって大きく発生率が異なり、成人では約70%がテント上に発生し転移、神経膠腫、髄膜腫、神経鞘腫が多い。小児では70%以上がテント下で起こり、外胚葉起源、毛様細胞性星細胞腫、髄芽腫、上衣腫が多い。
Ste.Anne/Mayoの基準やWHO分類が組織学的分類によくつかわれる。Ste.Anne/Mayoの基準では、核の多形性、核分裂像、微小血管増生、壊死の4つの所見の有無によってgradeを決定している。またKi-67/MIB-1陽性率などは細胞増殖の指標として用いられる。
変性疾患の発生機序の一つの仮説に異常な立体構造をとった、あるいは異常に凝集した蛋白が細胞に毒性に作用し、ライソゾームやユビキチン・プレテアソーム系によって排除されないというものがある。この仮説に基づき、特異的封入体によって病気を分類することがある。
アルツハイマー病など。
進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症などがタウオパチーとして知られている。
1975年タウは神経系に特異的に発現する微小管結合蛋白質として発見された。微小管はα、βチューブリンのヘテロ二量体からなる主要な細胞骨格のひとつと考えられている。タウは細胞内において微小管の重合促進および安定化、細胞骨格構造の形成、維持に重要な役割を果たし、その機能はリン酸化(大きな電荷によるコンホメーション変化)によって調節されている。タウ遺伝子はヒトでは17番染色体上17q21.2に存在し、16個のエクソンからなる。タウは単一遺伝子から転写されたpre-mRNAが選択的スプライシングされることで6つのアイソフォームが発現する。エクソン2,3,10の選択的スプライシングの結果アミノ酸352~441個の6つアイソフォーム、即ち352(0N3R)、381(1N3R)、383(0N3R)、410(2N3R)、412(1N4R)、441(2N4R)ができる。Rはタウのカルボキシル基末端側の微小管結合部のリピート数を示す。微小管結合部はエクソン9~12にコードされておりエクソン10を含む4Rタウとエクソン10を含まない3Rタウに分けられる。タウの微小管結合能は4Rの方が大きくN末端の配列は影響しない。NはタウのN末端部位に存在するプロジェクション領域と言われる部分のプロフィールであり微小管の間の間隔を決定している。エクソン2.3の有無によって決定されエクソン2,3ともに認められないと0Nであり、エクソン2がある場合は1N、エクソン2.3ともにあれば2Nと分類される。ヒト胎生期~新生児期は352(0N3R)のみ発現するが成人では6つのアイソフォームすべてが発現する。これは微小管ネットワークのダイナミクスを保つ上で3Rタウによる微小管形成が必要であり、安定な微小管ネットワークを保持するには4Rタウによる微小管形成が必要である可能性が示唆されている。神経細胞内線維状封入体を形成するタウのアイソフォームは各疾患によって異なり主に3R型、主に4R型、あるいは3R、4R両者が同じ比率で含まれるタイプに分類される。3R型にはピック病、4R型には進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症など、両者にはアルツハイマー病などがある。
進行性核上性麻痺(progressive supranuclea palsy PSP)は1964年にsteele JC、Richardson JC、Olszewski Jの3人によって報告された疾患である。原著では7人の剖検例を含む9例のPSP患者の報告がされている。その臨床的特徴としては垂直性注視麻痺、偽性球麻痺、項部ジストニア、認知症、姿勢保持反射障害があげられている。10万人あたり6人程度である。臨床診断基準を満たすものでもいくつかの亜型があることが知られている。
早期からの易転倒性、垂直性核上性眼球運動障害を示す典型的PSP。
発症時に左右差、振戦がみられL-DOPAに当初反応しパーキンソン病と紛らわしい群。
歩行や書字、発語のときのすくみを主症状として、筋強剛や振戦がみとめられずL-DOPAに対する反応性がないもの。すくみが他の神経症候より長時間先行し罹患期間は平均13年と長い。
PSPの中には大脳皮質基底核変性症(CBD)様の症状、即ち左右差のある錐体外路症状(パーキンソニズムやジストニア)、皮質症状(失行、失語、皮質性感覚障害)を示す報告例も認められている。
中脳と橋被蓋の萎縮、中脳水道及び第三脳室の拡大。黒質の褪色と萎縮が高度であるが青班核の褪色は軽度。
globose型アルツハイマー神経線維変化(NFT)の出現を伴う神経細胞の脱落とグリオーシスを基底核、視床、脳幹部に認め、淡蒼球、視床下核、黒質に最も強い。GB染色(ガリアスプラーク染色)や免疫染色ではNFTは神経細胞脱落の強い領域を超えて大脳から脊髄まで広い範囲で観察される。タウの蓄積したグリア細胞の封入体(glial fibrillary tangles:GFT)が出現するのはCBDとの共通点である。GFTにはオリゴデンドログリア胞体内のcoiled body、アストロサイトに形成されるtuft-shaped astrocyte、有髄線維内のargyrophilic thredから成りtuft-shaped astrocyteはPSPの病理診断指標の一つである。tuft-shaped astrocyteは側枝を有さない細い突起が中心部から放射状に配列する形態を示すものであり、PSPでは中心前回を主体に前頭葉、頭頂葉に分布する他、基底核や脳幹に認められる。原則としてはPSPはtuft-shaped astrocyteを、CBDはastrocytic plaqueを示し病理学的には通常は両者の合併は見られない。しかし両者の共存例の少数報告例は存在する。
皮質基底核変性症(CBD)は神経細胞とグリア細胞の双方におよぶタウオパチーであり、astrocytic plaqueは診断的価値を有する構造物である。CBDでは大脳皮質と皮質下神経核(特に黒質)に神経脱落が認められる。大脳皮質にballoned neuronが出現していることに意味があり、その数は問わない。大脳上面に出現していることが重要であり、balloned neuronが辺縁系に限局している場合はAGD(嗜銀顆粒性認知症)の合併が疑われるとされている。PSPの鑑別法としては先にあげたPSPはtuft-shaped astrocyteを、CBDはastrocytic plaqueの他、PSPでは淡蒼球、視床下核、黒質の病変が必発でありこれに小脳歯状核、脳幹被蓋の加わるが、CBDでは淡蒼球と黒質の病変が高度であるが線条体は中等度、視床下核と小脳歯状核の変化は軽度とされている。
大脳皮質の限局性萎縮、淡蒼球の萎縮と黒質の色素脱失。
Nissl顆粒の融解と胞体の腫大を示す神経細胞(balloned neuron)が認められる。萎縮を呈する大脳皮質の3層および5,6層に認められる。GB染色や免疫染色では神経細胞、グリア細胞ともにタウの蓄積が認められる。診断上有用なものとしてはastrocytic plaqueがあげられる。これはアストロサイトの遠位部にタウが蓄積したものであり短い突起状の構造物が集合して1つの班を形成する。老人斑と異なりアミロイドの沈着は認められない。その他、オリゴデンドログリア胞体内のcoiled body、有髄線維内のargyrophilic thredが認められる。
1980年代後半に異常リン酸化されたタウがアルツハイマー病の脳において神経細胞内に蓄積する神経原性変化の構成単位であるpaired helical filaments(PHF)およびstraight filamentsの主要構成成分として同定された。現在はpaired helical filaments、straight filamentsをまとめてタウ線維という。その後多くの神経変性疾患において主要な病理蓄積物の構成成分であることがわかりタウオパチーという概念が出来上がった。
1998年に前頭側頭型認知症(FTDP-17)においてタウ遺伝子内に変異が見つかった。タウの機能異常が神経細胞死および認知症を直接誘導する可能性が示唆された。
タウ遺伝子において連鎖不均衡部位があり、この部位のSNPおよび転座によってH1、H2の2つのハプロタイプに分けられている。H1ハプロタイプはPSP、CBDの危険因子と考えられている。
パーキンソン病をはじめとするレビー小体病など。多系統萎縮症(MSA)など。
脊髄小脳変性症、ハンチントン病など。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭葉変性症(FTLD)など。
末梢神経の生検では腓腹神経が選択されることが多い。生検後運動麻痺をきたさないこと、遠位部にあるためポリニューロパチーの病変が検出しやすいこと、位置が同定しやすく圧迫などの外傷から守られていること、神経伝導速度検査と対比が可能なことからである。血管炎性ニューロパチーやサルコイドーシスを疑う場合は筋生検を同時に行うため浅腓骨神経と短腓骨筋の同時生検や高位腓腹神経と短腓骨筋の同時生検がされることがある。検体はHE染色のためのホルマリン固定、エポン包埋を行うトルイジンブルー染色や解きほぐし像のためのグルタールアルデヒド固定、免疫染色のための凍結標本などの作成のために分割することが多い。標準的には凍結標本、エポン包埋標本(トルイジンブルー染色で光顕標本、また電顕標本にもなる)、ときぼぐし標本の4種類を作成する。
有髄線維の評価を行うのに最も適した染色法と考えられ、末梢神経病理では最も一般的な染色法の一つである。エポン包埋で行う。この標本で軸索変性、脱髄に関して多くの情報が得られる。急性の軸索変性であるミエリン球(myelin ovoid)、慢性の軸索変性であるクラスター化、急性の脱髄をしめすNaked Axinや反復する脱髄であるオニオンバルブ(onion bulb)が評価できる。
パラフィン包理切片である。個々の神経の観察には適さないが神経生検が特異的診断に直結する疾患では極めて有効である。アミロイドや血管炎、炎症細胞浸潤、サルコイド結節、ハンセン病におけるらい菌などの評価を行うことができる。
血管炎や悪性リンパ腫、抗MAG抗体ニューロパチーなどで用いられる。
軸索変性や脱髄など個々の有髄線維の病的プロセスが検討できる。急性、亜急性の軸索変性ではミエリン球の連鎖が観察でき、脱髄と再髄鞘化過程として知られるランビィエ絞輪の染色性の低下(節性脱髄や再髄鞘化を示す所見)やランビィエ絞輪間距離のばらつきがみられる。
体位はうつ伏せ、あるいは手術肢側を上にした斜め45°仰臥位または側臥位で手術肢を膝で90°屈曲した形のいずれかで行う。腓腹神経生検でも高位の生検法を用いれば短腓骨筋の採取も可能である。腓腹神経神経生検、高位腓腹神経生検、浅腓骨神経生検などの方法が知られている。
静脈確保後外踝後方の外踝上縁より約2横指上方、アキレス腱との間の部位を中心に剃毛し、消毒する。アキレス腱と平行に3~4cm程度切開をいれる。結合組織を鈍的に剥離していくと、切開創と平行に走行する直径2~3mmの2本の管状構造物が認められる。これが小伏在静脈と腓腹神経である。両者の鑑別は比較的困難である。小伏在静脈は腓腹神経よりも表面に近いところを走行すること、神経には絹のような光沢があり、数本の縦に走行する数本の神経束の束として認められること、血管は直角に分枝するが神経は直角に枝を出すことはないといったことで区別を行う。腓腹神経を確認したら小伏在静脈を十分に剥離し、神経が直視下に入るようにする。神経をつまんだり、圧迫しないように注意し、糸をゆるくかける。その後近位端を切断する。この時に電撃痛が認められる。その後遠位端の切断を行う。神経は3cm以上採取する。止血を確認したら皮膚縫合を確認する。 短腓骨筋の生検を行いたい場合は神経生検後の止血を確認した後にさらに結合組織を鈍的に剥離し深部に進む。腓腹神経が腓骨とアキレス腱の中間部よりもアキレス腱よりに位置するのに対して、短腓骨筋はやや腓骨寄りにあることに留意する。筋膜を見つけたらメスで切開し、通常の筋生検と同じ方法で筋肉標本を切除する。創部は密閉されていれば消毒、ガーゼ交換は3日おき位で十分である。生検施行後は2~3日は術肢免荷であり移動は車椅子である。その後より荷重可能、シャワー可能となり、10日程度で抜糸可能となる。その後入浴可能とする。術後の関節を動かした時に電撃痛が認められることがある。感覚鈍麻、異常感覚が腓腹神経領域の後遺症として残る。後遺症の分布は縮小傾向となり1年後に強い症状を訴えるものは10%以下とされている。
腓腹神経の検体では正常では有髄線維、無髄線維、シュワン細胞、結合組織が認められる。有髄線維の大部分は感覚線維であり、長径分布は大径(直径7~12μm)、小径(長径1~4μm)の2峰性であり、密度は6000~10000/mm2の間にある。腓腹神経では大径線維が35~45%を占め、小径線維が55~65%を占める。無髄線維は感覚線維と交感神経節後線維で割合は7対3である。1峰性の分布(長径0.1~2.0μm)をとり密度はほぼ20000~40000/mm2である。軸索変性後はsproutsが多数無髄線維として認められるため線維密度が増加する。無髄線維は有髄線維の約4倍存在する。髄鞘はG-ratioで評価される。G-ratioは神経全体の直径に対する軸索の直径であり0.6~0.7くらいで良好な神経伝導がえられるとされている。しばしば神経周膜下に線維芽細胞や基底膜の残骸やコラーゲン繊維などを含むルノーボディが認められるが病的異議は乏しいとされている。
また腓腹神経では加齢性変化も知られている。加齢にともない結合組織が増えて神経内鞘の面積が増加し、実数は減っていないのに密度が低下する。大径有髄線維が高齢になると減少する。70歳代は30歳代の70%に低下するといった報告や80歳代は20歳代の54%程度といった報告もある。また加齢に伴い神経周膜基底膜が肥厚し、内鞘血管のヒアリン化が目立つ傾向がある。
末梢神経病理学の重要な点のひとつに有髄線維の変化の1次的な原因が軸索変性か髄鞘なのかを鑑別することである。軸索と髄鞘の依存関係のためこの鑑別はしばしば困難である。軸索が障害を受けると、軸索から様々な栄養因子を供給されていた髄鞘が維持できなくなって崩壊し髄球となった処理される。また脱髄では髄鞘に保護されていた軸索が露出することになり、再びシュワン細胞による髄鞘化を受けないでいると萎縮したり消失したりする。また神経生検特有の問題として生検部位の軸索変性が近位部で生じた脱髄の二次的変化による場合のこともある。
軸索内では蛋白の合成ができないため、細胞体からの軸索輸送がその維持に重要である。軸索の形態的変化は輸送の流れが途絶えたためにその遠位部では細胞骨格や小器官の消失が起こる。それにひき続いて軸索の破壊、髄鞘構造の破壊が起こり、髄鞘の塊(髄球)となりマクロファージによる処理がされる。軸索とともに髄鞘成分も取り除かれた後、シュワン細胞が残存し、軸索の再生に備える。軸索の伸長はgrowth coneと呼ばれる先端の膨らんだ部分が誘導する。多数の軸索の芽が分枝し、かつて1本の有髄線維を取り巻いていた基底膜内に入る。ある分枝は長軸方向からそれたり反転したりして接合先を失う。したがって初期の再生繊維は通常は3本以上の無髄線維や薄い髄鞘をもった線維が共通の基底膜に覆われている。
軸索障害の初期では髄鞘軸索変性が光学顕微鏡でオボイドとして認められる。これは壊れた髄鞘に囲まれた軸索の破片である。圧迫によるアーチファクトとしばしば鑑別は困難である。オボイドは電子顕微鏡やときほぐし像で最も評価ができる。慢性期または進行期の軸索変性では有髄軸索の減少と神経内膜の結合組織の増加である。再生クラスターの存在は、その背景にある病理変化が軸索変性による仮定の良い証拠となる。ときほぐし標本によって神経変性と再生の異なる病期を示し、病変が進行中であることを示すこともできる。軸索径の変化がしばしば診断の手がかりになる。軸索径は軸索にふくまれるニューロフィラメントと微小管の数と相関がある。軸索萎縮はほとんどニューロフィラメント生成の減少よっておこる。大径線維がニューロフィラメントに最も富むため最も病変を認めやすい(神経径依存性の脆弱性)。神経障害が長期に及ぶと二次性脱髄が起こり、重度になると原発性の慢性脱髄に過程が似ることもある。高齢者の軸索萎縮はシャルコーマリートゥース病、尿毒症性ニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、骨髄腫に関連したニューロパチー、種々の中毒性ニューロパチーで認められる。局所性あるいは多巣性のニューロフィラメントやその他の細胞小器官の蓄積によっておこる軸索腫大(スフィロイド)は遺伝性巨細胞性ニューロパチーやn-ヘキサンによる中毒性ニューロパチーで認められる。
軸索変性は次に示す3つのタイプが知られている。どのタイプでも変性の過程が運動軸索に影響すると最終的には筋肉の脱神経をきたす。
ワーラー変性は神経離断に対する軸索遠位部の反応である。ヒトでは局所の虚血や圧迫などが対応する。早期には、形態学的には軸索とその髄鞘の破壊が特徴である。続いて修復期では、シュワン細胞の基底膜カラ形成されるくだの中にシュワン細胞が増殖する。管を形成するシュワン細胞の集まりはビュングナー帯を構成している。軸索の再生は切断された神経の近位断端から軸索の萌芽(sprouting)を通じて軸索の切断とほぼ同時にはじまる。進行は1日に1~3mmと遅い。これらの萌芽は通常1つの切断された軸索に対して2~5本でありビュングナー帯に入ってくることができる。この過程の結果、形態学的には再生するクラスターや再生繊維の薄い有髄線維の集まりとして観察される。近年ワーラー変性は軸索切断に至らない程度の軸索輸送のブロックでも生じることがわかり、dying-back型ニューロパチーとかなり共通したメカニズムと考えられている。
この軸索障害は、ある一群のニューロパチーに特徴的で、初めは軸索の最も遠位が障害され、ついで徐々により近位が変性する。ほぼ左右対称で亜急性もしくは慢性の変性を伴う。最も長く、大きい線維が初めに侵される。これを長さ依存性の脆弱性といい、多くの軸索性ニューロパチーで手袋靴下型で症状が出現する根拠となっている。脱髄型ニューロパチーでは長さ依存性の脆弱性は認められず、大腿部から症状が発現することもある。遠位部ほど神経細胞から栄養が届きにくいこと、あるいは神経毒素は軸索全般に作用するがそれに対する防御因子は遠位部ほど供給が少ないなどが機序として考えられている。病理学的所見は軸索の萌芽を含めた再生の証拠を伴う有髄線維の減少が特徴的である。後索の変性はこの機序では脊髄の上端から始まり末梢神経伝導速度検査では末期まで正常となることもある。
ニューロノパチーは細胞突起に属する軸索ではなく、神経細胞体の障害が最初であると考えられている軸索障害型ニューロパチーである。多少は細胞体障害を伴い、細胞体が障害されるため再生が不可能となっている。ニューロノパチーは、大脳皮質やその他の灰白質での神経細胞変性として、緩徐に進行し、引き続き選択的な神経細胞脱落を伴うことが特徴的である。ビタミンB6欠乏など中毒性ニューロノパチーや傍腫瘍性神経症候群では感覚神経の方が運動神経より障害されやすい。これは後根神経節では血液神経関門が欠いていることが関係すると考えられている。またファブリー病では小さな神経細胞が障害されやすく、傍腫瘍性神経症候群や感覚性ニューロパチーやフリードライヒ運動失調症、無βリポ蛋白血症では大きな神経細胞が障害されやすいといった神経細胞選択性も認められる。
原発性節性脱髄は一次性の髄鞘あるいはシュワン細胞の障害でおこる。運動軸索に起こった場合、軸索は正常であるため筋肉の脱神経による萎縮は起こりにくい。節性脱髄では線維の全長にわたって、髄鞘の節間が不連続になり、ある髄鞘が傷害される一方、その他は保たれる。病変は絞輪付近、paranodeからはじまる。シュワン細胞とマクロファージは変性した髄鞘を貪食する役割がある。ランビエ絞輪が広がったり、脱髄を起こした節間がむき出しになって伸びたりすることが、神経内の大部分の線維で起こると伝導ブロックをきたし、末梢神経伝導速度が低下する。脱髄が非常に狭い範囲で生じると(長さ15μm未満では)傷害をうけた節間に関与するシュワン細胞が髄鞘再形成を開始する。節間の消失が15μm以上では選択され、新しく増殖したシュワン細胞が髄鞘再形成を行い、小さく挿入された節間を形成する。この機序によってときほぐし像によるランビエ絞輪間距離のばらつきが生じる。節性脱髄と髄鞘再形成を繰り返すとオニオンバルブ(onion bulb)が形成される。脱髄後に軸索がむき出しになり、病態が収束すると軸索を失ったシュワン細胞や近傍のシュワン細胞などが増殖し始める。複数のシュワン細胞が1本の軸索をめぐって髄鞘化しようとし、基底膜内へと進入するが、成功するのは1つのシュワン細胞であり、他の細胞は周囲に追いやられる。ある細胞は死滅し、基底膜が残存する。この脱髄と再髄鞘化が繰り返し生じるとオニオンバルブを形成する。
病理診断としては再生繊維と節性脱髄の区別が難しい。有髄線維並の大きさの軸索がむき出しになり髄鞘がないときは脱髄が完成した線維と考える。一方薄いながら数層の髄鞘があるときは再生した有髄線維である。ときほぐし像でえられる脱随所見は脱髄が完成したものを見ているのであって、あれば確実な所見だが軽微な変化は捉えられない。
脱髄に至る過程は次の6種類に分類される。
ギラン・バレー症候群と慢性炎症性脱髄性ニューロパチーで特徴的に認められる。マクロファージがシュワン細胞の基底膜内に侵入し、髄鞘のintraperiod line(シュワン細胞の細胞膜外側どうしが癒合して生じた膜)を分離し分解していく。前段階として特異な抗体や補体の髄鞘への接着が想定される。
髄鞘が多数の小胞に分解される。剖検例で多く固定時のアーチファクトの可能性もあるが、糖尿病性ニューロパチーや薬物中毒などで多く認められる。
シュワン細胞膜の細胞外側どうしが癒着不全で離開するためintraperiod lineがみられない。間隙は細胞外の部分に広がる。小径線維に多く見られる傾向がある。IgMの単クローン性蛋白血症(κ鎖が多い)でMAG抗体を有する患者に特異的である。
髄鞘のmajor dense lineで離開がありシュワン細胞の細胞質が髄鞘の中にみられる。POEMS症候群、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、CMT1Bなどでよくみられる。
髄鞘の部分的折りたたみ異常でおこる。ときほぐし像でトマキュラが認められる。遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、CMT4B、CMT4F、CMT1A、抗MAG抗体陽性のニューロパチーで認められる。
髄鞘内の浮腫や空胞化である。慢性炎症性脱髄性ニューロパチーや抗MAG抗体陽性のニューロパチーに比較的特異的とされている。
腓腹神経生検による診断において重要な所見をまとめる。
血管炎では壊死性血管炎、微小血管炎、好酸球性肉芽腫が特異的な所見である。壊死性血管炎は顕微鏡的多発血管炎やアレルギー性肉芽腫性血管炎で見られることが多い。小血管で血管構築が破壊されており血管壁内の細胞浸潤が内膜、中膜、外膜の全層にわたってみられ、内幕と中膜を隔てる内弾性板が断裂しているとわかりやすい。微小血管炎はクリオグロブリン血症、非全身性血管炎性ニューロパチーで認められる。細動脈が炎症の場となるが毛管壁が薄いため血管構築の破壊を病理で証明するのは困難である。しばしばCD68抗体(マクロファージ)やCD3抗体(Tリンパ球)といった免疫染色を併用する。好酸球性肉芽腫はアレルギー性肉芽腫性血管炎で認められる。ステロイドが投与されると認められないことが多い。
非乾酪性の肉芽腫で類上皮細胞、ラングハンス巨細胞、リンパ球からなる。神経よりも筋での陽性率の方が高い。肉芽腫のみならばサルコイドーシスのほかハンセン病、アレルギー性肉芽腫性血管炎、ウェゲナー肉芽腫症などでも認められる。
家族性アミロイドニューロパチーでは神経内鞘の血管周囲にアミロイド沈着が認められる。骨髄腫やALアミロイドーシスでも認められる。
マクロファージがとりついて髄鞘をはがし貪食している像やシュワン細胞が自壊して髄鞘が壊れる、すなわち軸索周囲に髄鞘崩壊産物が認められる場合は現在進行形の活動性脱髄である。
1神経束に内鞘に2~3個程度のリンパ球は病的ではないと考えられる。血管周囲を取り巻く多数のリンパ球浸潤はCIDPを示唆する。これをperivascular cuffingという。
電子顕微鏡所見であるがwidely spaced myelinは抗MAG抗体陽性のニューロパチー、Uncompacted myelin lamellaはPOEMS症候群で認められる。
有髄線維が脱髄と再髄鞘化を繰り返す過程でシュワン細胞が有髄線維を幾層にも玉ねぎ状にとりまいたものである。玉ねぎ状の取り巻きは通常4~5層である。無髄線維や線維芽細胞を含むこともある。中心には髄鞘の薄い有髄線維があることも多いが軸索が残っていないこともある。CMT1A、CMT3、CIDPで認められる。
軸索を取り巻く構造が1~2層程度のものである。CMT1BやCIDP、MMN、IgMパラプロテインを伴うニューロパチー、糖尿病性ニューロパチー、Krabbe病などで認められる。
軸索変性後の再生線維はしばしばOnion bulbのようにみえる。中心の線維が2本以上あるいは不明瞭でとりまく成分に無髄線維を多数認める場合は再生繊維を疑う。
ノルマルヘキサンなどの中毒性ニューロパチーで認められる。軸索輸送障害で認められる。
局所的に髄鞘が過剰に取り巻き、厚さをましているものを指す。中心に軸索が残っているが軸索腫大はなくむしろ萎縮しているようにみえる。遺伝性圧脆弱性ニューロパチーで最も典型的に高頻度に認められる。その他はCMT4やIgMパラプロテインを伴うニューロパチーで認められる。
準特異的な所見である。後天性ニューロパチーを示唆する所見である。同じ神経束内でのばらつきの他に神経束どうしでばらつきが認められることもある。血管炎性ニューロパチー、サルコイドーシス、悪性リンパ腫などで認められる。近位部の病変で生検部位では軸索変性や軸索消失が認められるときもばらつきは出現する。
神経周膜の細胞浸潤はハンセン病、特発性神経周膜炎、クリオグロブリン血症、サルコイドーシス、ライム病で認められる。
小径線維優位の脱落、変性はアミロイドニューロパチー(特に家族性の初期)、糖尿病性ニューロパチー(多発性感覚神経優位型)、急性自律性感覚性ニューロパチー、遺伝性感覚性ニューロパチー、ファブリー病、アルコール性ニューロパチーの一部、シェーグレン症候群の一部で認められる。
神経内鞘の浮腫は細胞成分がなく、トルイジンブルーで薄く染色される。神経周膜下に限局するものは病的意義はとぼしいが、内鞘の内部に広範囲に見られる場合は意義がある。POEMS症候群や多層性のonion bulbが認められる疾患CMT3、CIDP、Krabbe病などでよく認められる。
まずは標本にアーチファクトの混入がないか確認する。次に神経束が何本あるのか確認する。2~3本の場合は腓腹神経の分枝であり動脈も含まれていないことが多く、評価が不十分になる。有髄線維密度が保たれているか確認する。減っていたら何らかの軸索障害を意味する。大径線維、小径線維のそれぞれに選択性があるか確認する。異常所見の分布が均一か、局所的か評価する。局所的な場合は後天性疾患、特に虚血性、免疫性、感染性を示唆する。脱髄所見があるのか確認する。CIDPの診断支持基準ではときほぐし像で12%以上である。次に活動性の評価をする。ovoidや髄鞘の分解過程がないか確認する。これらは疾患の緊急度を示す。最後に特異的所見がないか確認する。
|
生検部位としては術後の歩行制限が不要であることから上腕二頭筋が好まれる傾向がある。しかし近年はMRIによって炎症反応がある部位を選択することが多い。STIRによる高信号域やGd増強効果がある部位である。針筋電図を施行した部位は局所性の壊死性炎症反応が起こるため、生検しないことが一般的である。
皮膚切開の前にその部位の筋が収縮するか肉眼で確認する。切開部位は予めマーキングし、局所麻酔後皮膚切開する。鉗子を用いて皮下組織を鈍的に開き、筋膜に到達する。血管は切断する時は結紮し、皮神経はできるだけ温存する。筋膜はメスかはさみで切開し、鉗子で筋膜の裏を剥離する。筋線維の走行と直角に糸をかける。ペアンを用いて筋束を確保し、はさみで採取する。筋膜を吸収糸で縫合する。真皮縫合を吸収糸で行うこともある。これは創の離開を防ぐために行う。ナイロン糸を用いて皮膚縫合を行い、消毒して終了する。3日ほどは免荷する。
骨格筋には持続的な運動に適した遅筋である赤筋(タイプ1)と素早い運動に適した速筋である白筋(タイプ2)の2種類に分かれる。赤筋と白筋を決定するのは筋を支配する神経によると考えられている。赤筋を支配する神経を切断し、白筋を支配する神経による再支配がおこるとその筋は白筋となる。
項目 | 赤筋(タイプ1) | 白筋(タイプ2) |
---|---|---|
収縮時間 | 遅い | 速い |
神経伝導速度 | 遅い | 速い |
酸化酵素活性 | 高い | 低い |
ミオグロビン | 多い | 少ない |
解糖系酵素活性 | 低い | 高い |
グリコーゲン | 少ない | 多い |
脂質 | 多い | 少ない |
ミトコンドリア数 | 多い | 少ない |
Z帯幅 | 広い | 狭い |
筋線維の組織学的な性質はATPaseによる染め分けが有名である。この場合は白筋にぼぼ相当するタイプ2はさらに細かく2A、2B、2Cに分けられる。
筋線維タイプ | 1 | 2A | 2B | 2C |
---|---|---|---|---|
ATPase(ルーチン) | 淡染 | 濃染 | 濃染 | 濃染~中間 |
ATPase(pH4.6) | 濃染 | 淡染 | 濃染~中間 | 濃染 |
ATPase(pH4.2) | 濃染 | 淡染 | 淡染 | 濃染~中間 |
NADH-TR(SDH) | 淡染 | 濃染 | 濃染 | 中間 |
PAS | 淡染 | 濃染 | 濃染 | 中間 |
ホスファターゼ | 淡染 | 濃染 | 濃染 | 中間 |
成人の骨格筋、特に生検をよくされる上腕二頭筋や大腿直筋では1、2A、2Bがモザイク状に分布し各々1/3ずつとなる。2Cはタイプ1とタイプ2の中間的な性質をもつ。乳幼児では正常筋でも認められるが4~5歳になると殆ど皆無に近い。2C線維が認められるのは以下の3つの条件下であることが殆どである。一つ目は筋線維の分化異常である。筋線維が未熟なまま残存する病態、先天性ミオパチー、先天性筋強直性ジストロフィーなどが該当する。また再生筋も2C線維となるため、筋ジストロフィーや多発性筋炎などでは長期にわたって2C線維が認められる。また神経原性疾患で脱神経が起きた時、神経再支配で筋線維のタイプが変化するときに2C線維を経由して変化する。
筋芽細胞が融合し筋管細胞を形成する。一部の筋芽細胞は衛星細胞となる。筋管細胞内でタイプ2C線維が作られる、神経支配を受けて核の周辺移動、基底膜の形成がおこる。その後タイプ1、2A、2B線維の分化が起こる。生下時は5〜10%が2C線維である。
筋線維がどのように壊死に陥るかは2010年現在も詳細は不明である。何らかの原因で細胞膜が壊れ、細胞外液が細胞内に流入することで筋線維は崩壊すると考えられている。細胞外液が細胞内に流入すると蛋白分解酵素が活性化され、筋線維内の筋原線維は消化され壊死に至る。筋線維は長い細胞のため筋線維全部が壊死することはなく、通常は線維の一部であるsegmentalな壊死となる。筋原線維が消化された壊死の初期は筋線維の染色性の低下(HE染色やゴモリ・トリクローム変法で淡く染まる)が認められる。12時間ほど経過すると単核球や多核球といった炎症細胞が壊死線維に周囲に認められるようになる。24時間で壊死線維内に貪食細胞が認められ、48時間で壊死線維は単核細胞で埋もれてしまう。貪食細胞はライソゾーム酵素を多く持つため酸ホスファターゼ染色で赤染する。筋線維内の壊死した部分が清掃された後、障害から3〜4日で筋線維は好塩基性(HE染色で紫)の胞体をもつ多核の細胞として認められる。この細胞が筋芽細胞のように働き筋再生を行う。筋線維が再生する状態は筋組織の発生と非常によく似ている。異なる点は基底膜が残っているため基底膜内で起ること、また神経支配下であることが多いことである。筋芽細胞の役割をするのは衛星細胞である。衛星細胞は筋障害が起こったら速やかに活性化され、筋線維の変性と同時に分裂する。壊死を起こした5〜7日で大型の核と、抗塩基性の胞体、明瞭な核小体をもつ再生線維が認められる。筋線維の再生は神経と比べると非常に早く、実験的に壊死させると2週間後には壊死筋の約半数、1カ月にはほぼすべてが再生筋に置き換わる。再生筋は2C筋でありおよそ3週間で白筋、4週間で赤筋に分化する。但し、これは実験での話であり実際には2C反応が2~3カ月続くとされており、人体内での再生はもう少し遅いと考えられている。筋再生の時も筋発生と同様に筋分化誘導遺伝子(myogenin)が発現する。
炎症細胞の浸潤など間質の評価や基本構築の乱れなどの評価に適している。HE染色で確認すべき項目は前記の基本構築の乱れの他、筋線維の大小不同、核の変化、壊死、再生、筋線維内空胞形成、筋線維内構築異常などが確認できる。筋線維の大小不同に規則性がなく、広範であれば筋原性疾患であることが多く、小角化線維があって、群委縮の所見があれば神経性疾患であることが多い。特に小径の線維が筋束の周辺を取り囲むように存在する筋束周辺委縮は多発性筋炎に特徴的な所見である。核の数は正常では筋線維内に0〜3個である。5個以上の場合は異常であり筋強直性ジストロフィーなどの可能性がある。また中心部に核が認められる(中心核)場合は筋ジストロフィーや筋強直性ジストロフィーなどで認められる。筋線維内空胞としてはアーチファクトが多いがタイプ1線維に数多く認められる場合は脂質代謝異常の可能性もある。アーチファクトの場合は冷却が不十分になる中心部に集中し、筋選択性がない場合が多い。
筋線維は青緑色に、結合組織は緑色に、有髄線維は赤色に染まる。筋内神経の評価の他、ミトコンドリアやライソソームが赤くそまるためミトコンドリア病の診断、ネマリン小体の検出に用いられる。周期性四肢麻痺のtubular aggregatesや遠位型ミオパチーの縁取り空胞(rimmed vacuole)やミトコンドリア病の赤色ぼろ線維(ragged-red fiber)、ネマリンミオパチーのネマリン小体が確認できる。赤色ぼろ線維は異常ミトコンドリアの集積像と考えられている。
神経線維のタイプ分別の他、神経線維間網の異常の検出に優れて方法。セントラルコア病の診断に有効である。セントラルコア病では中心部がミトコンドリアや小胞体が少ないため本染色法で抜けてみえ、coreといわれる。coreは筋線維全長にみとめられる。広がりが狭く、中央部が淡く染まり、周辺部が濃く染まるものにtarget/targetoid線維がある。中心部にspheroid小体を認め、神経原性筋萎縮症でよく認められる。筋原性疾患では虫食い像が認められることがある。
筋線維のタイプ分別に最も適した方法である。成人の骨格筋、特に生検をよくされる上腕二頭筋や大腿直筋では1、2A、2Bがモザイク状に分布し各々1/3ずつとなる。ある筋線維タイプが55%を超えるとき、ある筋線維タイプが欠損しているとき、ある筋線維タイプが細い時、2C線維が多く存在する場合は異常である。筋線維のタイプが群化している時は脱神経後の再支配が起こっていると考えられ神経原性疾患の証拠となる。群化の傾向が強い時は生検筋内すべてが特定の線維パターンになる時もある。明らかな神経原性疾患が指摘できないにもかかわらず、タイプ1線維が55%以上認められるときはタイプ1線維優位といい、先天性ミオパチーでよくみられる所見である。セントラルコア病、ネマリンミオパチー、ミオチュブラーミオパチー、先天性筋線維タイプ不均等症などがあげられる。タイプ1と2線維の径が12%以上の差がある場合も異常である。タイプ1線維が細いのは筋強直性ジストロフィー(先天型、成人型)、不動性委縮、強直性脊椎症候群、微小重力状態などでも認められる。タイプ2線維が細い場合は中枢神経障害(脳性麻痺、脳卒中後、変性疾患)、ステロイドミオパチー、廃用症候群、低栄養、老人、膠原病など多くの状態で認められ非特異的な所見である。
ジストロフィン染色や表面マーカー染色を行うことがある。
小さい線維や大きい線維が多数存在する場合を筋線維の大小不同という。筋線維の大小不同に規則性がなく、広範であれば筋原性疾患であることが多い。
多角形を失い正常よりも小さく三角形になった筋線維を小角化線維という。これは通常では存在しない。線維があって、群委縮の所見があれば神経性疾患であることが多い。
小さな多角性の線維を背景にして、はっきりとした円形をし、クロマチンにとむ特徴をもつ。筋ジストロフィーで高頻度に認められる。
筋線維が大きくなりそれによりしばしば多角形を失う。肥大線維は代償性の変化であり、しばしば中心核やスプリッティングを伴う。
萎縮線維は筋疾患では丸みを帯びて、神経原性変化では角ばっている。萎縮の最終段階では核袋となり筋原線維基質を大きく退けた筋細胞内の核凝集が認められる。この段階では神経原性、筋原性の区別はない。萎縮線維を確認する場合はその分布が重要である。不規則か、どのような集団をなしているかである。繊維束萎縮や群集萎縮は脱神経の特徴であり萎縮線維が筋束の一部をなして集簇する。筋束周辺萎縮は萎縮線維が筋束の端にならび、萎縮の程度は縁に近いほど強い。筋束周辺萎縮は皮膚筋炎で認められる。不規則に散在した萎縮線維は特異な疾患の特徴ではなく、両方の筋線維のタイプを含むときは脱神経の初期段階をしめす。筋線維のタイプごとの萎縮もある。タイプ1線維萎縮は通常は筋強直性ジストロフィーや先天性ミオパチーで認められる。発育障害の結果と考えられる。タイプ2線維萎縮は高頻度に認められ廃用、慢性疾患、ステロイド治療など様々な状態と起こる。
筋線維の比率は筋毎に異なる。しかし三角筋、上腕二頭筋、大腿四頭筋、腓腹筋ではタイプ1線維、タイプ2線維どちらでも55%を超えたら優位性の異常である。タイプ1優位性は先天性ミオパチーで、タイプ2優位性は筋萎縮性側索硬化症で認められる
サルコイドーシス、アミロイドーシス、血管炎などの診断につながることもある。筋内膜の線維化は筋ジストロフィーを示唆する。筋ジストロフィーや炎症性筋疾患では炎症細胞浸潤が認められる。どんな疾患でも最終段階は筋組織が線維結合組織や脂肪組織に置き換わる。
中心核(内在核)が筋線維の5%以上に認められれば異常である。再生段階にある筋はしばしば中心核をもつ。核内封入体は封入体筋炎や眼咽頭筋型ジストロフィーといった疾患で認められる。
肥大線維で認められる。筋腱移行部では病的意義はない。
壊死線維はHE染色で細胞質が均一化し、ガラス様になり淡くそまる。縦断像では横紋が消失する。筋線維に徐々に空砲ができ、炎症細胞が基底膜を超えて浸潤する。筋細管内にマクロファージやTリンパ球が浸潤し、筋線維の知覚から再生筋芽細胞が出現する。最終的には血管周囲の炎症細胞が移る。線維の変性は筋ジストロフィーや炎症性筋疾患、中毒性筋疾患が特徴である。壊死線維、変性線維は神経原性筋萎縮の最終段階としては認められることもあるが、原則は筋疾患を示唆する。
再生筋線維のことでRNAが豊富である。
ターゲット線維は正常標本でも、とくにNADH-TRではよく認められる。ターゲット線維はタイプ1線維であることがほとんどであり、中心に酵素活性を欠き、色がぬける。その外側は酸化酵素が豊富で環状にくらくなる。さらにその周囲は正常という構造であり、脱神経で認められる。外側が暗くならない場合は類ターゲット線維という。この場合は脱神経の特異度は低い。
McArdle病の糖原やカルニチン欠損症の脂肪がこれにあたる。
酸ホスファターゼ染色や蓄積物により見分ける。
酸ホスファターゼ染色により明らかになる。
封入体筋炎で認められる。周囲は顆粒状でHE染色では好塩基性、Gomoriトリクロームでは赤くなり、電子顕微鏡では、膜の残屑や中間フィラメントより構成されているのを認める。
筋内膜下や筋原線維間に集塊で存在し、ミトコンドリア筋症に目立つ。Gomoriトリクロームでは赤く、HE染色では青い。主に異常なミトコンドリアからなり酸化酵素を多く含み、そのためNADH-TRやSDH染色で濃染する。超微構造では糖原や特に脂肪の蓄積を認める。60歳未満で認められればミトコンドリア筋症を強く示唆するが高齢者ではミトコンドリア以外の障害でも赤色ぼろ線維を散見する。また赤色ぼろ線維がなくともミトコンドリア病を否定出来ない。
低カリウム性周期性四肢麻痺に認められる。
筋病理における神経原性、筋原性の鑑別点をまとめる。
筋原性 | 神経原性 |
---|---|
相当な大小不同 | 巣状の萎縮線維 |
円形線維 | 角化線維 |
核の増加 | 筋細胞質の萎縮による核のみかけの増加 |
筋鞘内核 | 筋鞘内核を認めない |
壊死再生筋線維あり | 壊死再生筋線維なし |
収縮蛋白の筋細胞質内における変化 | ターゲット線維 |
間質の線維化が目立つ | 間質の線維化が乏しい |
炎症細胞浸潤あり | 炎症細胞浸潤なし |
筋ジストロフィー、遠位型ミオパチー、筋強直症候群、先天性ミオパチー、ミトコンドリア病、炎症性ミオパチー、ミオパチーなども参照とする。
遺伝性ミオパチーは筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、代謝性ミオパチーの3つに分類される。分子解析が進むにつれ、この古典的分類は意味をもたなくなりつつある。
筋線維の変性と再生により典型的に特徴づけられる進行性ミオパチー。
典型的には超早期に発症し、非進行性または非常に緩徐に進行する傾向があり、特有の筋病理変化により特異的な形態学的診断ができる。
主としてグリコーゲン、脂質蓄積、ミトコンドリア病を含む。
上位ニューロン障害では廃用性萎縮を示し、非特異的な2B線維萎縮が認められる。下位ニューロン障害では脱神経による小径化、神経再支配による筋線維タイプ群化(fiber type grouping)がおこる。脱神経によって筋線維は小径化する。小径化した線維は正常大の筋に圧迫され角張ってみえるため小角化線維(small angular fiber)という。萎縮線維は群をなす傾向があり、小群萎縮(small groups of atrophic fibers)を示し、進行すると筋束全てが萎縮筋となり大群萎縮(large groups of atrophic fibers)となる。大群萎縮はウェルドニッヒ・ホフマン病で必ず認められる。また神経再支配がおこると再支配神経にあわせて筋線維のタイプが変化する。このため通常はタイプ1とタイプ2の線維がモザイク状に分布するがその分布がくずれ、筋線維タイプ群化(fiber type grouping)がおこる。筋線維タイプ群化は神経再支配を示す重要な所見である。
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
リンク元 | 「neuropathology」 |
拡張検索 | 「神経病理学的」 |
関連記事 | 「病理学」「神経」「病理」「神経病理」「神経病」 |
.