出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/07/15 05:20:34」(JST)
高血糖症(こうけっとうしょう、英: hyperglycemia)とは血中のグルコース濃度が過剰である状態。高血糖症は通常血糖値が10mmol/L(180mg/dl)以上からとされるが、15-20mmol/L(270-360mg/l)あるいは15.2-32.6mmol/Lまで顕著な症状を示さないこともある。しかし125mg/dl以上の状態が慢性的に続くと臓器障害を生じうる。
英語の hyperglycemia の語源は、ギリシア語でhyper- 過度に、-glyc- 甘い、-emia 血液の状態、である。
空腹時においても持続する高血糖症を慢性高血糖症といい、これは最も一般的には糖尿病によって引き起こされる。また逆に慢性高血糖症は糖尿病の診断基準のひとつになっている。間欠性高血糖症は前糖尿病期にみられることがある。はっきりした原因がないのに高血糖症の急性症状が現れた場合は、進行性糖尿病、もしくは糖尿病の素因を示している可能性がある。
糖尿病における高血糖症は、糖尿病のタイプと進行度に応じて、通常、インスリン濃度低下、および細胞レベルでのインスリン耐性によって引き起こされる。インスリン濃度低下、およびインスリン耐性により、体内のグルコースからグリコーゲン(主に肝臓に貯蔵されるデンプン様のエネルギー源)への転換が抑制され、その結果、血液中の過剰なグルコースの除去が困難、または不可能になる。糖毒性を生じない通常のグルコース濃度では、任意の時点での血液中の全グルコース量は、20~30分間体内にエネルギーを補給するのにぎりぎり十分な量であり、体内調節機能によってグルコース濃度が精密に維持されなければならない。この機能が低下しグルコースが正常値を超えると、高血糖症が生じる。
グルコースはそのアルデヒド基の反応性の高さからタンパク質を修飾する作用(メイラード反応参照)があり、グルコースによる修飾は主に細胞外のタンパク質に対して生じる。細胞内に入ったグルコースはすぐに解糖系により代謝されてしまう。インスリンによる血糖の制御ができず生体が高濃度のグルコースにさらされるとタンパク質修飾のために糖毒性が生じ、これが長く続くと糖尿病合併症とされる微小血管障害によって生じる糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などを発症する[1]。
高血糖症のリスクを増大させる薬剤には、βブロッカー、エピネフリン、サイアザイド(利尿剤)、コルチコステロイド、ナイアシン、ペンタミジン、プロテアーゼ阻害薬、L-アスパラギナーゼ[2]、一部の向精神薬[3]などがある。アンフェタミンなど覚醒剤の一時的な投与は高血糖症を引き起こすのに対し、慢性的な使用は低血糖症を引き起こす。
脳卒中や心筋梗塞のような急性疾患を発症する患者は、糖尿病と診断されていなくても、高い比率で高血糖症を進行させていることがある。この場合の高血糖症は良性ではないこと、また、急性疾患に併発する高血糖症は、脳卒中や心筋梗塞後の死のリスクの高さと関連することが、ヒトおよび動物を使った試験で示唆されている[4]。
糖尿病がなく、血漿グルコース値が120 mg/dlを超えているときは、敗血症が疑われる。
高血糖症は感染時や炎症時に自然に発症する。身体にストレスがかかると、内因性のカテコールアミンが放出され、他の要因ともあいまって、血中グルコース濃度を上昇させるように働く。上昇の程度は個人によって、また炎症反応の種類によって異なる。よって初めて高血糖症を示した患者に先在する疾患がある場合は、糖尿病の診断には慎重でなければならない。空腹時血漿グルコース値、任意時血漿グルコース値、食後2時間血漿グルコース値の測定など詳細な検査が必要とされる。
グルコース値は以下のいずれかの単位に従って測定する。
科学雑誌では mmol/L の使用に移行しつつある。当面のところ mmol/L を優先単位とし、かっこ内に mg/dl を併記する雑誌もある[5]。
対応表[6]:
グルコース値は、食前、食後、また一日の各時間によっても変化する。正常値の定義は医師によって異なるが、一般には、大多数の人(空腹時成人)の正常値はおおよそ 80~110 mg/dL もしくは 4~6 mmol/L である。継続して126 mg/dL もしくは 7 mmol/L 以上の患者は一般に高血糖症であるとみなされ、 70 mg/dL もしくは 4 mmol/L 以下の患者は低血糖症であると考えられる。空腹時成人では、血漿グルコース値が 126 mg/dL もしくは 7 mmol/L を超えないようにしなければならない。血糖値が高い状態が続くと、血管および血管を通じて血液を供給する臓器を傷害し、糖尿病の合併症を引き起こすことがある。
慢性高血糖症は HbA1c 検査によって診断する。急性高血糖症の定義は研究によって異なるが、8~15 mmol/L 程度である[7]。
一時的な高血糖症は良性で無症候性のことが多く、血中グルコース濃度が相当の期間正常値を大きく超えていても、恒久的な影響や症状を示さないことがある。しかし慢性高血糖症では、正常値よりやや高い程度でも、多年にわたり、腎障害、神経損傷、心筋損傷、糖尿病性網膜症など、さまざまな重篤な合併症を併発する。
慢性高血糖症の原因として圧倒的に多いのは糖尿病である。糖尿病の治療目標は、長期にわたる重篤な合併症の発症を防ぐために、血糖値をできるだけ正常値に近づけることである。
急性高血糖症でグルコース値が極めて高いときは、緊急治療の対象となる。糖尿病性ケトアシドーシスなど、重篤な合併症を短期間で引き起こすことがある。インスリン依存型糖尿病を放置していた患者にもっとも多くみられる。
急性・慢性高血糖症と関連して以下の各症状がみられることがある。はじめの3つは高血糖症の古典的三徴である。
他の症状がなく頻繁な空腹のみがみられるときも、血糖値が低すぎることを示している場合がある。これは、糖尿病患者への経口血糖降下薬やインスリンの投与が食事量に対して多すぎる場合におきる。投与によって血糖値が正常値以下になると空腹を訴えることが多くなり、このときの空腹感は通常の場合 1型糖尿病、特に若年性のものと比べればさほど顕著ではないが、経口血糖降下薬の処方が困難になることがある。
煩渇多飲や多尿症は、血中グルコース濃度が上昇した結果腎臓から過剰にグルコースが排泄され(尿糖)、浸透圧利尿が生じたときに起こる。
糖尿病性ケトアシドーシスの症状には次のようなものがある。
高血糖症の治療は原因となる基礎疾患を除去することが必要になる。たとえば糖尿病が原因であれば糖尿病の治療ということになる。重症急性高血糖症は多くの場合、医師の指導の下でインスリンの直接投与によって治療が可能である。
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DKA | HONK | ||
糖尿病病型 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 | |
発症年齢 | 若年 | 高齢 | |
前駆症状 | 多飲、多尿、消化器症状 | 特異的なものはない | |
身体異常 | 脱水、アセトン臭、クスマウル大呼吸 | 脱水、アセトン臭-、中枢神経症状(痙攣、振戦) | |
検査所見 | 尿ケトン体 | (+)~(++) | (-)~(±) |
血糖値(mg/dL) | 300~1000 | 600~1500 | |
浸透圧(mOsm/L) | >300 | >350 | |
Na (mEq/L) | 正常~軽度低下 | >150mEq/L | |
pH | <7.3 | 7.3~7.4 | |
BUN | 上昇 | 著明上昇 | |
K | ↑ | ↑ |
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