出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/21 10:43:35」(JST)
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介護保険(かいごほけん、英語: Long-term care insurance)とは、介護を事由として支給される保険。ドイツ、オランダなどでは通常の医療保険から独立した社会保険制度となっている。一方でイギリスやスウェーデンでは一般税収を財源とした制度となっている。
日本では公的介護保険と民間介護保険があり、民間介護保険の保障内容には介護一時金や介護年金などがある。介護保険適用対象となる介護サービスについて厚生労働省が定めた報酬が介護報酬である。
本記事では、社会の高齢化に対応し、平成9年(1997年)の国会で制定された介護保険法に基づき、平成12年(2000年)4月1日から施行された日本の社会保険制度について記述する。
介護保険法は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする(第1条)。
日本の制度は、おおむねドイツの介護保険制度をモデルに導入された[1]。介護保険料については、新たな負担に対する世論の反発を避けるため、導入当初は半年間徴収が凍結され、平成12年(2000年)10月から半額徴収、平成13年(2001年)10月から全額徴収という経緯をたどっている。
介護保険制度では、以下の点にねらいがある。
保険者は原則として市町村及び特別区(以下、特に断らない限り「市町村」と略す)であるが(第3条)、厚生労働省が広域化を勧めてきたことから、広域連合や一部事務組合で運営されているケースも多い。厚生労働大臣の定める基本方針に即して、市町村は保険給付の円滑な実施について「市町村介護保険事業計画」を3年を1期として定める(第117条)。
保険者が小規模であるほど、予防による財政効果が目に見えやすいが、安定した経営が難しい。このため、介護保険事業は保険者たる市町村を国や都道府県、及び医療保険各法による医療保険者(全国健康保険協会、健康保険組合、国民健康保険組合、市町村、共済組合等)が重層的に支える仕組みとなっている。すなわち、
財源 | 負担率 | |
---|---|---|
公費(50%) | 国 | 25% |
都道府県 | 12.5% | |
市町村 | 12.5% | |
高齢者(65歳~)の保険料 | 22% | |
若年者(40歳~64歳)の保険料 | 28% |
介護給付費の財源は、公費(税収や国債などの政府や自治体の直接収入)と介護保険料(高齢者及び若年者)で賄われ、その比率は50%ずつである[3]。
財源の内訳は、公費負担部分については、国の負担は在宅介護給付は25%・施設介護給付は20%、都道府県の負担は在宅介護給付は12.5%・施設介護給付は17.5%、市区町村の負担は在宅介護給付・施設介護給付とも12.5%となる。保険料負担部分は、第1号被保険者保険料(以下「第1号保険料」)は22%、第2号被保険者保険料(以下「第2号保険料」、実際には社会保険診療報酬支払基金が医療保険者から徴収し、「介護給付費交付金」として市町村に交付する)は28%である。当初は国50%、都道府県25%、市区町村25%であった。第1号保険料と第2号保険料の比率は人口構成比により政令によって規定される。
国の25%のうち5%部分については調整交付金として交付される。これは要介護となるリスクが高い後期高齢者加入割合や各保険者内の高齢者の所得格差を調整するものである。自治体関係団体は調整交付金を25%の外枠にするように求めている。
市町村の区域内に住所を有する、40歳以上の者が被保険者となる。このうち、65歳以上の者を第1号被保険者といい、40歳以上65歳未満の医療保険加入者を第2号被保険者という[3]。医療保険に加入していない者(例:生活保護法による医療扶助を受けている場合など)は第2号被保険者ではない。
法律で定める特定の施設に入所している者は介護保険の適用を受けない。これらの施設を適用除外施設といい、その設立又は設置の根拠となる法律等において介護サービスと同等なサービスを提供することが予定されているため、重ねて介護保険制度によるサービス提供をする不都合を回避するために規定されている。
ある被保険者が別の保険者の区域内にある住所地特例施設に入所した際に、その施設に住所を移した場合、引き続き従前の保険者の被保険者となる。施設に他の保険者の被保険者が入所することにより、施設所在地の市町村の給付費が負担増とならないようにするために設けられている措置。
介護給付等は、当該要介護状態等につき、労働者災害補償保険法の規定による療養補償給付等を受けられるときは、その限度において行われない(第20条)。
市町村は第1号被保険者より、介護保険事業に要する費用(財政安定化基金拠出金の納付に要する費用を含む。)に充てるため、保険料を徴収しなければならない(第129条第1項)。
第1号被保険者の保険料は本人の所得により、保険料率が6段階ある[3]。市町村は、条例で定めるところにより、特別の理由がある者に対し、保険料を減免し、又はその徴収を猶予することができる(第142条)。
現在の全国平均月額(第6期、2015年 - 2017年度)は5,514円である[4]。第1号被保険者の介護保険料は3年に1度策定される介護保険事業計画における介護サービスの供給量等に基づき、保険者毎に基準の保険料が設定され、被保険者の所得状況等に応じて、課せられる[3]。保険料率は、保険給付に要する費用の予想額等に照らし、おおむね3年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならない(第129条第3項)[5]。
第1号被保険者の場合、受給する公的年金の総額が18万円以上、かつ保険料額(介護保険と国民健康保険・後期高齢者医療制度との合算額)が当該年金給付額の2分の1を超えない場合、公的年金からの天引き(特別徴収)となる(第131条)。特別徴収されない第1号被保険者については、市町村から送付される納付書や口座振替によって納付する(普通徴収)。普通徴収の場合、第1号被保険者の属する世帯の世帯主や第1号被保険者の配偶者も保険料を連帯して納付する義務を負う。また特別徴収に該当する者であっても、申し出により口座振替で納付することが出来る。保険料に過誤納があって徴収すべき保険料額を超えて徴収した場合、市町村は過誤納額を当該第1号被保険者に還付しなければならないが、当該第1号被保険者の未納に係る保険料その他介護保険法の規定による徴収金があるときは、当該過誤納額をこれに充当することができる(第139条)。
第2号被保険者の保険料は、全国の給付状況に基づき、国が各医療保険者毎の総額を設定し、それに基づき医療保険者毎に保険料率を設定する[3]。
第2号被保険者は、各医療保険の保険者が、加入している医療保険の保険料と併せて徴収する。各医療保険者は介護給付費・地域支援事業支援納付金を社会保険診療報酬支払基金に納付し、これをもとに基金は介護給付費交付金及び地域支援事業支援交付金を市町村に交付する。
被保険者 | 第1号 (65歳~) |
第2号 (40~65歳) |
総計 |
---|---|---|---|
要支援1 | 678 | 12 | 690 (13%) |
要支援2 | 688 | 21 | 709 (13%) |
要介護1 | 940 | 25 | 965 (18%) |
要介護2 | 914 | 35 | 948 (18%) |
要介護3 | 698 | 22 | 721 (14%) |
要介護4 | 646 | 18 | 665 (13%) |
要介護5 | 585 | 22 | 607 (11%) |
総計 | 5150千人 | 156千人 | 5306千人 |
介護サービスの利用にあたっては、あらかじめ被保険者が介護を要する状態であることを公的に認定(要介護認定)する必要がある。いきなり介護施設(介護サービス事業者)に行っても、介護保険を利用した介護は受けられない。まず保険者である市町村(介護認定審査会)による要介護認定が必要で、そのような仕組みにより保険財源の使用に制限を設けている[7]。これは、医療機関を受診した時点で要医療状態であるかどうかを医師が判定でき、診察の結果要医療状態でなかったとしても保険給付の対象となる医療保険と対照的である。
介護保険を利用するためには、要介護者本人またはその家族または法定後見人・代理人が、要介護者の住民登録がある市区町村役所の健康保険を管轄する部署に、要介護認定申請書に、要介護者の氏名・住所・生年月日と、申請人の氏名・生年月日(法人や自治体の場合を除く)・住所、要介護者の主治医名と主治医が所属する病院名を記載して提出し、初回認定には1~2か月の手続き期間が必要である[7]。
初回認定時には、6か月後に認定更新があり、その後は2年ごとの更新認定になる。ただし、認定期間中に要介護度が変動したと判断した場合は臨時の認定更新が可能である。認定調査員が介護の必要な本人に面接し、実際に介護を要することを確認し、調査報告書を認定審査会に提出する。
認定審査の結果、要介護度(たとえば要介護3)や介護保険負担限度額の認定が行われ、その旨が記入された介護保険被保険者証が発行される。それを持って、ケアプランを作成できる事業所へ連絡すれば、介護支援専門員(ケアマネージャー)が面接の上、ケアプランを提示する。被保険者がこれに同意すれば、ケアプランに沿った介護保険サービスが受けられる。実際に介護が開始されるまでに家族等が接触する、市町村の職員・医師・市町村の調査員・介護施設(介護サービス事業者)のケアマネージャーのどれも直接に介護に携わるわけではなく、介護サービス事業者の介護職員や看護師が介護支援の担い手である。
介護サービス事業者については、厚生労働省により開設基準が定められており、都道府県から指定を受ける必要がある。
居宅型 3,661億円 |
訪問通所 2,880億円 |
訪問介護/入浴 | 789億円(10.7%) |
---|---|---|---|
訪問看護/リハ | 1,4億円(2.5%) | ||
通所介護/リハ | 1,688億円(22.7%) | ||
福祉用具貸与 | 218億円(2.9%) | ||
短期入所(ショートステイ) | 373億円(5.0%) | ||
その他 | 373億円(4.9%) | ||
地域密着型 813億円 |
小規模多機能型居宅介護 | 150億円(2.0%) | |
認知症グループホーム | 482億円(6.5%) | ||
その他 | 181億円(2.4%) | ||
施設型 2,593億円 |
介護福祉施設 | 1,322億円(17.8%) | |
介護保健施設 | 1,003億円(13.5%) | ||
介護療養施設 | 266億円(3.6%) | ||
居宅介護支援(ケアマネ) | 368億円(5.0%) | ||
総額 | 7,437億円 |
保険給付の種類として介護給付と予防給付が主な柱である。介護給付は要介護認定を受けた者が受ける給付であり、予防給付は要支援認定を受けた者が受ける給付である。また、市町村が条例により独自の給付(市町村特別給付)をすることも可能である。自己負担は原則として1割(ケアプランの作成は自己負担なし)である[7]。
保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならず、また被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者又は施設から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない。さらにその内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない(第2条第2項~4項)。
指定居宅サービス事業者の指定は、事業所ごとに都道府県知事が行う(第41条)。いっぽう、指定地域密着サービス事業者の指定は、市町村長が行う(第78条の2)。
介護サービス事業者は、利用料の1割自己負担を利用者から徴収し、残り9割を各都道府県に設置されている国民健康保険団体連合会へ請求し、給付される[7]。国民健康保険団体連合会は9割の給付費を保険者から拠出してもらい運営する仕組みとなっている。滞在費、食費については原則自己負担となる[7]。
1割自己負担の上限は、最高でも世帯あたり37,200円である[7]。
低所得者は在宅介護サービスを受ける場合は自己負担金の上限額設定、施設介護サービスを受ける場合は食費と居住費の減免、在宅でも施設でも世帯合算した医療費と介護費の自己負担の上限額設定により(要介護者の収入・貯蓄・財産)+(介護保険と健康保険の自己負担分)+(行政からの助成金)で費用負担できるように制度設計されている[9]。
市町村は、被保険者の要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止及び地域における自立した日常生活の支援のための施策を総合的かつ一体的に行うため、地域支援事業として、以下の事業(介護予防・日常生活支援総合事業)を行う(第115条の45)。
また市町村は、介護予防・日常生活支援総合事業のほか、被保険者が要介護状態等となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援するため、などの地域支援事業として、包括的支援事業(被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業等)を行うものとされる(第115条の45)。
市町村は、第1号介護予防支援事業及び包括的支援事業その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保険医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設として、地域包括支援センターを設置することができる(第115条の46)。
このほか、市町村は、保健福祉事業(要介護被保険者を現に介護する者の支援のために必要な事業等)を行うことができる(第115条の48)。
保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない(第25条)。租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することができない(第26条)。
保険給付に関する処分(被保険者証の交付の請求に関する処分及び要介護認定又は要支援認定に関する処分を含む)又は保険料その他介護保険法の規定による徴収金(財政安定化基金拠出金、納付金及び延滞金を除く)に関する処分に不服がある者は、各都道府県に設置された介護保険審査会に審査請求をすることができる(第183条)。この審査請求は、時効の中断に関しては、裁判上の請求とみなされる。処分の取消しの訴えは、当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ、提起することができない(審査請求前置主義。第196条、行政事件訴訟法第8条第1項但書)。
保険料、納付金その他介護保険法の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、2年を経過したときは、時効によって消滅する。保険料その他介護保険法の規定による徴収金の督促は、民法第153条の規定にかかわらず、時効中断の効力を生ずる(第200条)。
2015年の介護報酬改定では、小規模デイサービスの供給過剰が指摘されており、それに対する基本報酬の引き下げが議論されている[10]。
施設介護サービスのうち、特別養護老人ホームの供給が需要に対して著しく不足していて、入所までに年単位の待機が発生している状況である[11]。厚生労働省は介護療養型医療施設を平成24年(2012年)3月31日までに、医療療養病床、介護療養型老人保健施設、介護老人保健施設、介護老人福祉施設のいずれかの業態に転換する計画を進めていたが[12]、介護療養病床の一部しか業態転換できず、業態転換完了の目標期限は平成30年(2018年)3月31日に延期された。
偽りその他不正の行為によって保険給付を受けた者があるときは、市町村は、その者からその給付の価額の全部又は一部を徴収することができる。市町村は、サービス事業者等が偽りその他不正の行為により介護報酬等の支払いを受けたときは、当該サービス事業者等から、その支払った額につき返還させるべき額を徴収するほか、その返還させるべき額の40%を徴収することができる(第22条)。
介護保険が始まった平成12年(2000年)度から平成21年(2009年)度末までに、介護報酬の架空請求・水増し請求で市区町村が返還を求めた金銭は98億円に上っていて、なおかつそのうち10億円以上が回収できていないことが、平成23年(2011年)2月に分かった[13]。また、平成21年(2009年)度に介護報酬の不正請求などで行政処分を受けた介護事業所は150以上に上っている[13]。
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対象 | 事業所 | ケアプラン作成主体 | |
介護予防ケアプラン | 要支援者 | 地域包括支援センター | 保健師など |
(介護の)ケアプラン | 要介護者 | 居宅介護支援事業所 | ケアマネジャー(家族も可能) |
要支援 | 関節疾患(19.4%) | 高齢による衰弱(15.2%) |
要介護 | 脳血管疾患(24.1%) | 認知症(20.5%) |
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