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睡眠(すいみん、羅: somnus、仏: sommeil、英: sleep)とは、ねむること、すなわち、周期的に繰り返す、意識を喪失する生理的な状態のことである[1]。ねむりとも言う[1]。
からだの動きが止まり、外的刺激に対する反応が低下して意識も失われているが、簡単に目覚める状態のことをこう呼んでいる[2]。
動物では夜間に活動し昼間に睡眠をとるものも多い[3]。だが、ヒトは通常は昼間に活動し夜間に睡眠をとる[3]。新生児では断続的に、つまり細かく中断をはさむかたちで1日あたり16時間の睡眠をとり、2歳児で9~12時間になり、成人は(健康な人では)一晩で6~9時間の睡眠を必要とする[3]。パターンの推移としては、乳幼児期に短時間の睡眠を多数回とるというパターンで、成人になるにつれ一度にまとまった睡眠パターンへと推移し、高齢になると昼間に何度も居眠りし夜間は数時間しか眠らないというパターンになる[3]。
睡眠は、心身の休息、身体の細胞レベルでの修復(いわゆる「自然治癒」)、また高次脳機能(記憶の再構成など)にも深く関わっているとされる。下垂体前葉は、睡眠中に2時間から3時間の間隔で成長ホルモンを分泌する。放出間隔は睡眠によって変化しないが、放出量は多くなる。したがって、子供の成長や創傷治癒、肌の新陳代謝は睡眠時に特に促進される。いわゆる「自然治癒力」(や「免疫力」)は睡眠をしっかりとることによって増すのである。また、ストレスの軽減にも睡眠は必要である(というよりも、睡眠不足というのは一般にひどいストレスを引き起こすものである。睡眠を意図的に不足させることは拷問に使われることもあるくらいで、つまり睡眠不足というのは拷問に使われるほどに心身にとって苛酷な状態なのである。)。
睡眠中は刺激に対する反応がほとんどなくなり、移動や外界の注視などの様々な活動も低下する。一般的には、閉眼し意味のある精神活動は停止した状態となるが、適切な刺激によって容易に覚醒する。このため睡眠と意識障害とはまったく異なるものである。またヒトをはじめとする大脳の発達したいくつかの動物では、睡眠中に夢と呼ばれるある種の幻覚を体験することがある。
短期的には睡眠は栄養の摂取よりも重要である。ネズミの実験では、完全に睡眠を遮断した場合、約1、2週間で死亡するが、これは食物を与えなかった場合よりも短い。極端な衰弱と体温調節の不良と脳では視床の損傷が生じている。ヒトの場合でも、断眠を続けると思考能力が落ち、妄想や幻覚が出て、相当期間、強制的に、眠らない状態でいさせると恐らく死んでしまうと言われている[4][5]。
20世紀になり、ヒトの睡眠は、脳波と眼球運動のパターンで分類できることが知られるようになった。成人はステージI~REMの間を睡眠中反復し、周期は90分程度である。入眠やステージI - IVとレム睡眠間の移行を司る特別なニューロン群が存在する。入眠時には前脳基部(腹外側視索前野)に存在する入眠ニューロンが活性化する。レム睡眠移行時には脳幹に位置するコリン作動性のレム入眠ニューロンが活動する。覚醒状態では脳内の各ニューロンは独立して活動しているが、ステージI - IVでは隣接するニューロンが低周波で同期して活動する。
覚醒を維持する神経伝達物質には、ノルアドレナリン、セロトニン、ヒスタミン、アセチルコリン、オレキシンなどがあるが、睡眠中はこれらの神経伝達物質を産生する神経細胞が抑制されている。その抑制には腹背側視索前野に存在するGABA作動精神系が関与しているとされる[要出典]。アセチルコリン作動性神経の一部はレム睡眠の生成にも関与している。
睡眠が不足すると、いわゆる生命にとって大切ないわゆる「免疫力」「自然治癒力」などに悪影響があり、成長ホルモンの分泌にも悪影響があり乳幼児・幼児・青少年では身体の成長にも悪影響があり(身長が伸びにくくなる)。睡眠不足では胃や腸の調子が悪くなる人も多い。顔がむくみ、血色が悪くなり、人によっては土気色(つちけいろ)つまり死人のような顔色になり、皮膚の状態は目に見えて悪くなる。(睡眠不足は女性の美容にとっても大敵だ、と言われている。)また睡眠不足は肥満を招きがちである。精神的には気分に悪影響があり鬱(あるいは躁状態や鬱状態の不安定な変化)になりがちで不機嫌で人間関係が悪くなり、また脳の知的面での基本機能である記憶力、集中力などに悪影響があり、結果として学生では学業(勉強)の効果に、成人では仕事の質に深刻な悪影響を及ぼす。睡眠不足だと仕事のミスが増え、肉体労働などをしている人では深刻な負傷を負ったり死亡事故に遭う確率(労働災害発生率)が増してしまうことが各種労働統計によっても明らかにされている。
児童は成長のために一日より多くの睡眠時間を必要とする。新生児は一日18時間以上必要だが、成長に従って減少していく[15]。2015年初頭に、米国全国睡眠財団(National Sleep Foundation)は2年間の研究成果を以下に公表した[16]。
年齢 | 必要時間 |
---|---|
新生児 (0–3 ヶ月) | 14 to 17 時間[16] |
乳児 (4–11 ヶ月) | 12 to 15 時間[16] |
幼児 (1–2 歳) | 11 to 14 時間[16] |
就学前 (3–5 歳) | 10 to 13 時間[16] |
学童 (6–13 歳) | 9 to 11 時間[16] |
青年 (14–17 歳) | 8 to 10 時間[16][17] |
若年者 (18 - 25 歳)、中年者 (26 - 64 歳) | 7 to 9 時間[16] |
老人 (65 歳以上) | 7 to 8 時間[16][18] |
国 | 分 |
---|---|
韓国 | 469 |
日本 | 470 |
ノルウェー | 483 |
スウェーデン | 486 |
ドイツ | 492 |
イタリア | 498 |
メキシコ | 501 |
英国 | 503 |
OECD18カ国 | 502 |
ベルギー | 505 |
フィンランド | 507 |
ポーランド | 508 |
カナダ | 509 |
豪州 | 512 |
トルコ | 512 |
ニュージーランド | 513 |
スペイン | 514 |
米国 | 518 |
フランス | 530 |
スペインを初めとする地中海地方などに於いては昼食の後に睡眠を含む一休みをする「午睡(シエスタ)」の風習がある。健康増進の効果がある。
2000年代に入って米国などでも、Lifehack(ハッカー文化の一端にある仕事術)の延長で、短時間の昼寝が注目されている。昼寝をすることで、大切な頭脳の働きが良くなるのであり、頭脳労働をする人々のあいだではそれが重視されているのである。 しかしその一方で、皮肉なことに、地中海地方の国々で労働時間の増加してしまい、シエスタをさせない企業が増加しつつある。
現代日本の場合、電車やバスで通勤・通学をする者も多く、またこれらの交通機関においての治安も非常に良いため、その中で眠る者も多い。
肉体労働の多い職種では、昼休み時間の昼食の後、午後の作業再開までの間、15分~30分程度の短い睡眠をとる場合も多い。短時間ではあるが、午前中に溜まった疲労から回復させ、注意力も回復する、という重要な役割がある。昼寝をとるのととらないのでは、午後の事故発生率が変わる。肉体労働の現場では眠気を催すこと(うつらうつらすること)は生命の危険に直結する。現場監督などは、現場で事故が起きないように注意を払う役割・任務があるので、作業員の昼寝も評価していて奨励していることが一般的で、できるだけそっとしておいたり、睡眠できる環境を確保するのに協力することが一般的である。
座ったままで眠ることは「居眠り」と呼ばれる。授業中の居眠りは「やる気がない」とみなされる場合があり、内申点に影響することがある。仕事中居眠りもやはり「やる気がない」と誤解されがちで、上司や同僚からの評価も低くなりがちである。あまりひどいと解雇にもなることがある。
運転中に眠ることは「居眠り運転」といって、悲惨な事故につながる。長距離輸送を行っているトラックの運転手はいかにして眠らないように運転をするか、さまざまな工夫をしなければならない。高速道路などの運転は単調になりがちで居眠り運転が起きやすい。また法律で連続的に運転できる時間に制限が定められている。長距離輸送では2名交代制にしていることも多い。運転席の後部に小さな睡眠用のベッドがしつらえてあって、身体を伸ばして、遮光カーテンで光をさえぎり睡眠がとりやすくなっている構造になっているトラックも多い。大型バスの運転手もトラック同様に様々な規制があり、2名が1チームを組み、片方のドライバーが運転している間、もう片方のドライバーはバスの下にある睡眠用のスペースで睡眠をとれるようになっていることが多い。近年では、ドライバーが過酷な労働体制下で無理なローテーションで長時間の運転を連続的に行い居眠り運転をしてしまったり、また睡眠障害のドライバーが高速道路で深刻な事故を起こし、死者が多数出て社会問題になった。
風呂に入浴中の居眠りは溺死の危険性があるため要注意である。また、運転中の居眠りも交通事故などの危険性があるため要注意。
2001年2月に発表されたNHKの調査によると、日本人の平均睡眠時間は平日で7時間26分、土曜日で7時間41分、日曜日で8時間13分であった[23]。、2014年の調査では平均睡眠5時間44分と、世界最悪の水準まで短くなっている[24]。
無意識や文化的背景に影響される就寝行動を就寝形態という観点で文化人類学、教育社会学的に比較検証する研究もある。
年をとると早寝早起きの習慣が身につくと一般に考えられている。しかし、本当に習慣であるのか、高齢者に多く見られる睡眠相前進症候群の症状であるのかは、容易には判断できない。
仏教思想と結び付けて、頭を北に、足を南に配置する形で寝ることは北枕と呼ばれ、忌避されている。
最近、日本でも昼寝の効用について研究が行われている。昼寝を行うことにより、事故の予防・仕事の効率アップ・自己評価のアップなどが期待されるため、職場・学校などで昼寝が最近、奨励されるようになった。また、昼寝により、脳が活発になるため、独創的なアイデアが浮かびやすい環境になるという。
必要な睡眠時間は種ごとの体の大きさに依存する。例えば小型の齧歯類では15時間 - 18時間、ネコでは12 - 13時間、イヌでは10時間、ゾウでは3 - 4時間、キリンではわずか30分 - 1時間である。これは大型動物ほど代謝率が低く、脳細胞の傷害を修復する必要が少なくなるためとも考えられている[27][28]。また小型の動物は他の動物に捕食者として狙われやすいので、無防備になる睡眠時間は短い傾向がある。体躯が同程度であれば、草食動物は睡眠時間は短く、肉食動物は長い傾向にある。草食動物は摂取する食料に不自由しない反面、食料は低カロリーであり、繊維質も多く、長時間食べる事、消化する事を余儀なくされるので、睡眠時間は短い。一方で肉食動物は、食物を得る機会は乏しく、一方で食物は高カロリーであるため、一度食物を得た後はしばらく食物を摂る必要が無い。そのため何もしない時間が多く、その間は睡眠によって消費カロリーを抑えていると考えられる。
すべての陸生哺乳類にレム睡眠が見られるものの、レム睡眠時間の種差は体の大きさとは無関係である。例えば、カモノハシは9時間の睡眠時間のうち、レム睡眠が8時間を占める。イルカはレム睡眠をほとんど必要としない。
脊椎動物以外の動物、例えば節足動物にも睡眠に類似した状態がある。神経伝達物質の時間変化を観察すると、レム睡眠と似た状態になっているらしい[29]。
ヒトと異なり、生物の中には、長い期間覚醒しない種もある。これは冬眠と呼ばれる。冬眠する生物の例として、クマ、リス、カエルなどが挙げられる。
睡眠の際の姿勢も生物によって異なる。魚は単に水中を漂う形で睡眠状態に入る。フラミンゴは片足で立ったまま眠るとされる。またイルカは数秒程度の半球睡眠(大脳半球ずつ交互に眠ること)を繰り返して取るため、眠りながら泳ぎ続けることが可能である。
ネコは丸くなって寝ているという印象が多いが、これは身を守ろうとしているか寒い時の状態で、飼い猫などはほぼ確実に攻撃を受けないと確信したリラックス状態では仰向けで寝ることもある。
しばしば死は睡眠に例えられる。死を睡眠になぞらえた例には次のようなものがある。
また、「寝る」、「眠る」という語を含むことわざとして次のようなものがある。
[ヘルプ] |
ウィキクォートに眠りに関する引用句集があります。 |
ウィキメディア・コモンズには、睡眠に関連するカテゴリがあります。 |
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