出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/09/08 01:34:01」(JST)
胆汁酸(たんじゅうさん、bile acid)は、哺乳類の胆汁に広範に認められるステロイド誘導体でコラン酸骨格を持つ化合物の総称である。胆汁酸の主な役割は、消化管内でミセルの形成を促進し、食物脂肪をより吸収しやすくするものである。
肝臓で生合成されたものを一次胆汁酸という。また一部は腸管で微生物による変換を受け、その代謝物は二次胆汁酸と呼ばれる。
胆汁酸は、通常グリシンやタウリンと結び付いており、これらは抱合胆汁酸(胆汁酸塩)と呼ばれる。
ヒトでの代表的な2つの胆汁酸は、コール酸とケノデオキシコール酸である。ヒトの胆汁酸の比率は、一次胆汁酸であるコール酸(80%)、ケノデオキシコール酸(2%)、腸内細菌の胆汁酸-7α-デヒドロキシラーゼにより7-α-デヒドロキシ化された二次胆汁酸である、デオキシコール酸(15%)、リトコール酸(微量)である[1][要高次出典]。胆汁酸、グリシン又はタウリンとの抱合胆汁酸、7-α-デヒドロキシ(脱水酸)誘導体(デオキシコール酸及びリトコール酸)は、人の腸内での胆汁から発見されたものである。
肝臓の疾病によって血液中に放出されるので、肝臓病の検査に用いられることがある。 検出法として、マックス・フォン・ペッテンコーファーが発見したペッテンコーファー反応が知られる。これは試料にグルコース加えて、硫酸を添加すると、試料が赤色になるという反応である。
胆汁酸は、肝臓にてシトクロムP450の作用でコレステロールを酸化することにより産生される。胆汁酸は、タウリン、アミノ酸であるグリシンと結びついて、あるいは硫酸塩、グルクロン酸として、脱水により塩にまで濃縮されて胆嚢に蓄えられる。人においては、コレステロール7-α-水酸化酵素により、ステロイド環の7の位置にヒドロキシ基(水酸基)が付加され7α-ヒドロキシコレステロールが合成される反応が律速反応となっている。食事をすることにより、胆嚢に蓄えられた抱合胆汁酸は腸内に分泌され、食物脂肪の乳化を促進する。胆汁酸のその他の役割としては、体からコレステロールを排出すること、肝臓から異化生成物を胆汁分泌の際に排出すること、乳化した脂質と脂溶性ビタミンを腸内でミセル化して乳糜管系から吸収させること、界面活性剤として細菌の細胞膜を溶解する作用により[2][3]小腸内や胆管での腸内細菌叢の形成を妨げること、などが挙げられる。
胆汁酸とは、カルボン酸型(-COOH)のものを言う。抱合胆汁酸とは、カルボン酸と結合したものやイオン化(-COO-)したものを言う。腸内のpH環境では抱合されていない胆汁酸よりも抱合胆汁酸のほうがよりイオン化しやすく、脂肪のミセル化をより効率的に行える。 人以外のほとんどの種でも、胆汁酸の生合成は、コレステロールの代謝によるものが一般的である。人体では1日あたり800mgのコレステロールを産生し、その半分は胆汁酸の新たな生成に使用されている。毎日、合計で20-30gの胆汁酸が腸内に分泌されている。分泌される胆汁酸の90%は回腸で能動輸送され再吸収され再利用され、腸管から肝臓や胆嚢に抱合胆汁酸が移動することを、腸肝循環と呼んでいる。これは、少ない抱合胆汁酸の産生にもかかわらず消化器官での大量分泌を可能にしているものである。胆汁は、脂肪球を非常に小さな溶解物に分解している。屠殺された動物の胆汁は石鹸の原料にすることもできる。乳化作用により細菌の細胞膜を破壊し殺菌作用のある胆汁酸が回腸でほとんど吸収されるため、腸内細菌は回腸以降の大腸を主な活動場所としている。
胆汁酸は、通常グリシンやタウリンと結び付いており、これを抱合胆汁酸と呼ぶ。胆汁酸はそのままでは組織を傷つける場合があるので通常はアミノ酸と縮合して抱合胆汁酸となって存在している。ヒトの場合、グリココール酸及びタウロコール酸は、いずれもコール酸とグリシン又はタウリンと結びついた抱合胆汁酸であり、これらの2つで抱合胆汁酸の全体の約80%を占めている。
グリココール酸(glycocholic acid) は、化学式が C26H43NO6、分子量465.6のコール酸とグリシンの抱合胆汁酸。ヒトの胆汁酸のうちの三分の二程度はこの物質である。生合成はコリルCoAとグリシンの反応である。
タウロコール酸(taurocholic acid) は、化学式がC26H45NO7S、分子量515.7のコール酸とタウリンの抱合胆汁酸。ヒトの胆汁酸のうちの三分の一程度はこの物質である。生合成はコリルCoAとタウリンの反応である。
抱合胆汁酸は、カルボン酸基部分に5または8つの炭素側鎖を有し、異なる場所に幾つかのヒドロキシ基を有する4つの環を有するステロイド核をもつ多数の分子群で構成されている。一般的な分子構造式で4つの環は左から右に向かって、A環、B環、C環及びD環と名付けられており、D環は他の3環よりも炭素数が1つ少ない。ヒドロキシ基は、2つの場所に存在する可能性があり、βである上側方向(実線で示される)、αである下側方向(破線で示される)のいずれかの位置となる。全ての胆汁酸は、原料の分子であるコレステロールに由来するC-3の位置にヒドロキシ基を有し、4つの環を持つステロイド核は平面的であり、C-3のヒドロキシ基はβとなる。
多くの種で、胆汁酸生合成の最初の段階は、C-7にαヒドロキシ基を付加することである。続いて、コレステロールから胆汁酸に変換する過程において、A環及びB環のステロイド環の結合が変化し、分子が曲げられ、C-3ヒドロキシ基がαの方向に変化する。これゆえ、通常の最も簡単な(24の炭素数の)胆汁酸は、C-3αとC-7αの位置に2つのヒドロキシ基を有している。この構造の化学名は、3-α,7-αヒドロキシ-5-β-コラン-24-オイク酸であり、一般にはケノデオキシコール酸と呼ばれている。この胆汁酸はアヒルから単離されたことから、「ケノ」の部分の名前の由来となっている。
もう一つの胆汁酸は3つのヒドロキシ基を有するコール酸であり、ケノデオキシコール酸は2つのヒドロキシ基を有し、ヒドロキシ基が一つ少ないことから「デオキシコール酸」の名前が付けられた。5-βの部分の名前は、ステロイド核のA環及びB環の連結の曲がりを意味している。「コラン」は、C-24にカルボン酸基があることにより名付けられた。
ケノデオキシコール酸は、数多くの種で産生されており、胆汁酸として優れた性質を有している。その最大の欠点は、腸内細菌の働きにより7-αのヒドロキシ基が脱落させられてしまうことであり、その結果として、3-αにしかヒドロキシ基が残らず、(「リト」は石を意味する)リトコール酸に変化してしまう。この化学物質は水溶性に乏しく、遺伝子レベルで細胞にかなり有害である。肝臓で産生される胆汁酸を一次胆汁酸と呼び、腸内細菌の働きで新たに産生されるものを二次胆汁酸と呼ぶ。これゆえ、ケノデオキシコール酸は一次胆汁酸であり、リトコール酸は二次胆汁酸である。
リトコール酸の産生によって引き起こされる問題を解決するため、多くの種はケノデオキシコール酸に3番目のヒドロキシ基を付与している。このことにより、腸内細菌の働きにより7-αのヒドロキシ基が脱落させられることに対しても、結果として二次産生物の毒性を弱め、かつ、2つのヒドロキシ基を有する胆汁酸として引き続き機能できることとなる。脊椎動物の進化に際して、3番目のヒドロキシ基の付加箇所がいくつか選ばれている。最も多いのが、16-αの位置であり、鳥類に特に多く見られる。後に、この位置は、多くの種によって12-αの位置に取って替わられる。人を含む霊長類は、3番目のヒドロキシ基の位置として12-αの位置を利用している。この結果として、人は、3-α,7-α,12-α-トリヒドロキシ-5-β-コラン-24-オイク酸を胆汁酸として利用しており、一般的にコール酸と呼ばれている。
腸内において、コール酸は脱ヒドロキシ基化を受けて2つのヒドロキシ基を有する胆汁酸であるデヒドロコール酸が産生される。数多くの脊椎動物において種分化が進んでおり、新たな種は12-αの位置を捨てて側鎖のC-23の位置を好んでいる。このことは、脊椎動物の多くの種は、ステロイド核及び側鎖の考えられる限りの位置のヒドロキシ基の位置を進化の過程で試し続けていることを示している。
主要な胆汁酸は以下の通りである。
肝臓で生合成されたものを一次胆汁酸という。
コール酸 - ヒト
グリココール酸
タウロコール酸
ケノデオキシコール酸 - ニワトリ
ヒオコール酸 - ブタ
5α-シプリノール - コイ
一次胆汁酸の一部は腸管で微生物による変換を受け、その代謝物を二次胆汁酸という。
デオキシコール酸
リトコール酸
ヒオデオキシコール酸
ウルソデオキシコール酸 - クマ
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関連記事 | 「胆汁」「胆汁酸」「一次」「酸」 |
部位 胆汁 割合 肝細胞 毛細管胆汁 2/3 胆細管 胆細管胆汁 1/3
1次胆汁:コレステロールより合成 コール酸 キノデオキシコール酸 2次胆汁:1次胆汁の腸内細菌による代謝(7位の部位のOH基が除去される) デオキシコール酸 リトコール酸 3次胆汁:肝臓から分泌される状態(可溶性) タウロコール酸(タウリンと抱合) グリココール酸(グリシンと抱合)
ビリルビン:Hbの代謝産物 間接型(不溶性) ↓←グルクロン酸抱合 直接型(水溶性)(抱合型ビリルビン) ↓ ウロビリノーゲン(腸管) ↓ ステルコピリン(腸管) ↓ 排泄
リン脂質(主にレシチン) 不溶性であるが胆汁酸存在下でミセル形成(可溶性) コレステロール 不溶性であるが胆汁酸存在下でミセル形成(可溶性)
陽イオン:Na+(主)、その他K+,Ca2+ 陰イオン:Cl-,HCO3-(アルカリ性)
1. 毛細管胆汁 1-1. 胆汁酸依存性胆汁 胆汁酸と水分の分泌:胆汁酸の腸肝循環に依存。 腸肝循環:肝臓から分泌された胆汁が小腸で吸収され、門脈を経て肝臓に戻り、再び排泄されること。 タウロコール酸・グルココール酸 陰イオンに解離しやすく吸収されやすい。 リトコール酸 非解離型なので糞便中に排泄される。 分泌された胆汁酸の95%は腸肝循環により再利用される。
1-2. 胆汁酸非依存性胆汁 胆汁酸以外の分泌:Na+,K+,Ca2+,Cl-,HCO3-,ビリルビン(有機陰イオン) 等張性 :Na+,Cl-,HCO3-は血漿濃度に類似
2. 胆細管胆汁 2-1. Na+,HCO3-(高濃度),水の分泌---セクレチンによる 2-2. Na+,Cl-の吸収
3. 胆汁の濃縮(胆嚢) 電解質吸収(Na+,Cl-の能動的吸収)とそれに伴う水の吸収→5-50倍に濃縮
4. 胆汁排出 食後30分で胆嚢収縮開始。液性の調節機構による排出が主である。 4-1. 液性 十二指腸内食物→CCK分泌→オッディ括約筋弛緩・胆嚢収縮 十二指腸内食物→セクレチン分泌→CCKの作用に拮抗 胃内食物→ガストリン分泌→胆嚢収縮 4-2. 神経性 迷走神経性反射→オッディ括約筋弛緩,胆嚢収縮(関与の程度不明)
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