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レット症候群(レットしょうこうぐん、英Rett Syndrome)とは、ほとんど女児に起こる進行性の神経疾患であり、知能や言語・運動能力が遅れ、小さな手足や、常に手をもむような動作や、手をたたいたり、手を口に入れたりなどの動作を繰り返すことが特徴である。
1966年にウィーンの小児神経科の医師であるアンドレアス・レット (en:Andreas Rett) によって最初の症例が発表された神経疾患で、彼の名を取って名付けられた。英語ではRTTとも略される。日本では小児慢性特定疾患に指定されている。
レット症候群の発症率は、女児10,000人から20,000人に1人といわれている。
生後六ヶ月から一年六ヶ月の頃に発症するが、それまでの周産期や出産前後は一見正常である。兆候症状には認識の悪化や社会性に伴う問題を含み、後者は退化時期の間に見られる。児童期には体幹失調・脊椎変形・舞踏病様運動・てんかん発作が現れ、進行性。運動機能が崩壊する。精神遅滞は重度。英語版の記述によれば、80%以上がてんかん等の突発的発作を持ち、50%あまりが歩行困難。この障害はアンジェルマン症候群、脳性麻痺、自閉症と誤診されることもある。
レット症候群はX染色体上に存在するMECP2遺伝子の突然変異によって引き起こされ、レット症候群と診断された患者の95%がこのMECP2遺伝子に変異を持つ。稀に、レット症候群の症状はCDKL5遺伝子の異常によっても引き起こされる。
MECP2遺伝子は、MECP2というタンパク質に翻訳され、X染色体の長腕の終わり近く (Xq28) に見られる。MECP2はメチル化CpG結合タンパク質2 (Methyl CpG binding protein 2) とも呼ばれ、メチル化したDNAのシトシン残基に結合し、他の遺伝子の発現を制御する転写因子である(エピジェネティクスによる遺伝子発現制御とも呼ばれている)。 MECP2は神経細胞以外の細胞でも広く見られ、多くの遺伝子発現制御に関わっていると考えられるが、なぜMECP2の異常が脳神経特異的な疾患を引き起こすのか、詳しい機構はまだ分かっていない。
レット症候群は通常、子供の新規遺伝子変異によって引き起こされ、その確率は95%を超える。ただし、片親からの遺伝ではない。両親の遺伝子型の通常であり、MECP2遺伝子異常は見られない。レット症候群の突発的なケースでは、遺伝子異常を引き起こしたMECP2遺伝子は通常、男性からのX染色体のコピーに起源を持つ。突然変異した精子が生み出される原因はいまだ不明であり、そのような遺伝子異常は稀である。
一般的に女性の性染色体は、父親由来と母親由来のX染色体を各一本持つ(性染色体型がXX)ため、MECP2遺伝子も二つ保持している。レット症候群患者は、片方のMECP2遺伝子に変異がある状態である。もし両方のX染色体MECP2遺伝子に異常がある場合は、発生初期に致死である可能性が高い。二本あるX染色体に合計2セット存在する遺伝子群のうち、どちらの染色体の遺伝子群を使用するかは、胚発生初期にランダムに決定され、使用されないX染色体は生涯に渡って不活性化される(詳しくはX染色体の不活性化参照)。その結果、約半数の細胞では正常型のMECP2タンパク質を持ち、残りの細胞では変異型のMECP2タンパク質を持つ状態となる。この変異型MECP2を持つ細胞の割合や分布位置に応じて、重篤度や症状も変化すると考えられている。
一方男性の性染色体は、父親由来のY染色体と母親由来のX染色体を持つ(性染色体型がXY)ため、MECP2遺伝子は一つしか保持していない。もし一つしかないMECP2遺伝子に重要な変異が生じた場合は、発生初期段階や出産後早い段階で致死となると考えられており、そのため男児のレット症候群患者が稀であると説明されている。男児でレット症候群と診断される患者は、ほぼ例外なくクラインフェルター症候群も併せ持ち、Y染色体の他にX染色体を二本持っている(性染色体型がXXY)と報告されている。
遺伝子変異によって引き起こされる症候群であるため、根本的な治療法どころか、症状の進行を食い止める方法すら存在しない。各患者の症状に合わせて、対症療法を行う。マウスを用いた実験では、MECP2遺伝子を破壊するとレット症候群様の症状がみられるが、その後に正常なMECP2遺伝子を再導入することで症状の改善が見られた事から、遺伝子治療などが有効であると期待されるが、未だ基礎研究段階である。
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