麻疹(ましん、英: measles, rubeola、痲疹とも)とは、ウイルス感染症の一種で、麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性疾患[1]。日本では「麻しん」として感染症法に基づく五類感染症に指定して届出の対象としている[1](「疹」の字が常用漢字でないため「麻しん」として定められている)。和語でははしか(漢字表記は同じく「麻疹」の字を当てる)と呼び、一般にはこちらの方が知られている。
伝染力が非常に強く、世界保健機関WHOの推計によれば、2004年の全世界の患者数は約50万人で、東南アジア、中近東、アフリカで多く発生している。
流行株の変異によって、ワクチンで獲得した抗体での抑制効果が低くなることが懸念されている。また、ワクチンによる獲得免疫の有効期間は約10年とされるが、ブースター効果による追加免疫が得られず、抗体価の低下(減衰)により再感染することもある。
目次
- 1 原因
- 2 臨床像
- 2.1 診断
- 2.2 潜伏期間
- 2.3 カタル期
- 2.4 発疹期
- 2.5 回復期
- 3 合併症
- 3.1 脳・神経系の合併症
- 3.2 咽頭~気道系の合併症
- 3.3 その他
- 4 治療
- 5 予防
- 5.1 日本での麻疹ワクチン接種(MRワクチン/MMRワクチンを含む)
- 5.2 2012年の麻疹排除計画
- 6 発生
- 6.1 近年における麻疹の流行
- 6.1.1 2001年
- 6.1.2 2006年
- 6.1.3 2007年
- 6.1.4 2008年
- 6.1.5 2012年
- 6.1.6 2014年
- 6.2 千葉血清製ワクチンの抗体獲得性の問題
- 7 脚注
- 8 関連法規
- 9 関連項目
- 10 出典
- 11 外部リンク
原因
麻疹ウイルスによる。感染経路は空気感染・飛沫感染・接触感染と多彩。ウイルスは世界保健機関(WHO)の分類により現在AからHの8群、22遺伝子型に分類されている。
臨床像
流行には季節性があり、初春から初夏にかけて患者発生が多い。日本での患者数は推計で年間20万人程度とされ、患者報告数を年齢別に比較すると、2歳以下が約半数を占め1歳代が最も多い。次に6~11か月、2歳の順となる 。小児以外の患者数は地域によるバラツキがあり、ワクチンによる抗体価[2]の低下した10歳代から20歳代前半が最も多く、次いで、20歳代後半の順である[3]。
麻疹には、症状の出現する順序や症状の続く期間に個人差が少ないという特徴がある。ただし、免疫のある患者では、非典型的で軽症な経過をとることがある(修飾麻疹)。ワクチン接種歴により軽く済むといわれる。
母体からの免疫移行があり、生後9カ月頃までは移行免疫により発症が抑えられる。なお、抗体価が低下している女性が妊娠し、胎児が十分な抗体を持たず生まれ、生後5カ月以内で免疫が切れてしまうケースが報告されている。
診断
かつての日本ではカタル期や発疹期に現れる特有の臨床症状のみで診断することが多く行われていたが、後述の「2012年の麻疹排除計画」開始以降は、実験室内診断を重要視し「IgM抗体検査」或いは「遺伝子検査」が推奨されている。しかし、IgM抗体検査では伝染性紅斑の罹患に伴う血清中の麻疹ウイルスIgM抗体の陽転化が報告されている[4]ことから、可能な限り遺伝子検査を行うよう厚生労働省は通知を行った[5]。
潜伏期間
- 麻疹ウイルスへの曝露から、発症まで7~14日間程度かかる。
カタル期
- カタル期は3~4日間続き、他者への感染力はカタル期に最も強い。38℃前後の風邪症候群様(発熱、倦怠感、上気道炎症状)の症状や結膜炎症状が2~4日続き、いったん解熱する。カタル期の後半、発疹出現の1~2日前に、口腔粘膜の奥歯付近に、直径1mm程度の少し膨らんだ白色小斑点(コプリック斑)を生じる。眼症状として、多量の眼脂、流涙、眼痛が現れる。麻疹では角膜潰瘍(角膜が白濁する)や、角膜穿孔が起こり、失明することもある[6]。
発疹期
- カタル期の後にいったん解熱するが、半日ほどで再び39~40℃の高熱が出現し(二峰性発熱)、発疹が出現する。発疹は体幹や顔面から目立ち始め、後に四肢の末梢にまで及ぶ。
- 発疹は鮮紅色で、やや隆起している。特に体幹では癒合して体全体を覆うようになるが、一部には健常皮膚を残す。
- 発熱・発疹のほか、咳・鼻汁もいっそう強くなり、下痢を伴うことも多い。口腔粘膜が荒れて痛みを伴う。これらの症状と高熱に伴う全身倦怠感のため、経口摂取は不良となり、特に乳幼児では脱水になりやすい。
- 発疹期は発疹出現後72時間程度持続する。これ以上長い発熱が続く場合には、細菌による二次感染の疑いがある。
回復期
- 解熱後も咳は強く残るが徐々に改善してくる。発疹は退色後、色素沈着を残すものの、5~6日程で皮がむけるように取れるとも報告されている。回復期2日目ごろまでは感染力が残っているため、学校保健安全法施行規則により解熱後3日を経過するまでを出席停止の基準としている(学校保健安全法施行規則19条2号)。
合併症
麻疹にかかったナイジェリアの児童。現在、麻疹の流行はアフリカ大陸で多く発生している。
発症者の約30%が合併症を併発し[7]、約40%が入院を必要としている[8]。発熱時に不適切に解熱剤などを投与した場合、細菌による二次感染の危険性が高まる。また、合併症は以下のように区分される。
脳・神経系の合併症
- 亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis、略称:SSPE)
- この病気は麻疹に感染後7~10年してから知能障害や運動障害が発症し、ゆっくりと進行する予後不良の脳炎である。麻疹に罹患した人の数万人に一人が発症するといわれている。まれに予防接種でも発症することがある。
- ウイルス性脳炎
- 1000人に1人くらいの割合で発症。熱発の程度と脳炎の発症率に相関はない。発症すると1/6が死亡、1/3に神経系の障害が残るとされる。
咽頭~気道系の合併症
- 麻疹ウイルスによるもの(中耳炎、ウイルス性肺炎(間質性肺炎)、細気管支炎、仮性クループ)
- 細菌の二次感染によるもの(中耳炎、細菌性肺炎、気管支炎、結核の悪化)
その他
- ワクチン未接種の女性が妊娠中に麻疹にかかると子宮収縮による流産を起こすことがある。妊娠初期での感染では31%が流産し、妊娠中期以降でも9%が流産または死産、24%は早産との報告がある。
- 細菌性腸炎 - 赤痢菌やサルモネラ菌などの細菌の二次感染によって発症する腸炎。主な症状は激しい下痢と腹痛で、下痢は粘血便となることもある。
- 口内炎
- カンジダ症
- 播種性血管内凝固症候群(DIC) - 非常にまれだが重篤な疾患。本来出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が、全身の血管内で無秩序に起こる。出血傾向(紫斑、止血不良など)と臓器虚血が主症状。脳内出血・消化管出血・多臓器不全がみられると非常に危険である。
治療
特異的治療法はなく、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱剤、鎮咳去痰薬、輸液や酸素投与などの支持療法を行う。細菌性の二次感染は少なからず見られ、中耳炎、肺炎など細菌性感染症を併発した場合には抗菌薬の投与が行われる。
免疫賦活薬イノシンプラノベクスは抗ウイルス作用を示す。麻疹患者に接触後72時間以内の免疫グロブリン製剤の投与が、麻疹発症を予防するか、あるいは症状を軽減させることが認められている。しかしながら血液製剤であるため、適応は原則として、ワクチン未接種の乳幼児や免疫不全患者など、ハイリスク患者に限られる。
ビタミンAの投与が症状の悪化を防ぎうるとの報告があったが、発展途上国のような低栄養(ビタミンA欠乏)状態の患児のみに有効であるとの指摘もある[9]。
民間信仰
- 富山県高岡市では、「はしか」が流行すると、九紋龍の手形の紙をもらい「九紋龍宅」と書いて門口に貼って病除けにした、と言い伝えられている。
- 神奈川県横浜市や大和市、藤沢市に点在する鯖神社(左馬神社、佐婆神社とも言う)を一日で巡る「七さば巡り」をおこなうと、はしかや百日咳の病除けになるという。
- 愛知県や三重県では、アワビの貝殻を入口などにつるして、はしか除けをしたという。
予防
麻疹の障害調整生命年(2002年、人口10万人当たり)
no data
≦ 10
10 ~ 25
25 ~ 50
50 ~ 75
75 ~ 100
100 ~ 250
250 ~ 500
500 ~ 750
750 ~ 1000
1000 ~ 1500
1500 ~ 2000
≧ 2000
予防策として唯一の方法は、幼児期のワクチン予防接種である。罹患したことのある人、ワクチン接種を行った人は終生免疫を獲得するとされていたが、ワクチン接種を行っていても十分な抗体価を得られない場合や、野生株の麻疹ウイルスの曝露がないまま長時間を経過することによって抗体価が低下した場合、麻疹を発症することがある。このような場合は典型的な麻疹の経過をとらず、種々の症状が軽度であったり、経過が短かったりすることが多い(修飾麻疹)。
麻疹ゼラチン粒子凝集法(PA法)により血中の麻疹抗体価を測定することで、麻疹に対する免疫の有無を調査することが可能である。ワクチン接種後の抗体価の低下を防ぐため、全世界113ヶ国(2004年現在)では年長幼児~学童期に2回目のワクチン接種を行い、抗体価の再上昇(ブースター効果)を図っている。 アメリカでは1970年代後期より麻疹ワクチンの徹底した導入により2000年に麻しんが排除され、2002年以降の患者数は100人未満となりその多くは輸入症例となり、メディカルスクールの学生の実地教育にも事欠くほどに患者が減少したといわれている。
日本での麻疹ワクチン接種(MRワクチン/MMRワクチンを含む)
- 年譜
- 1966年 KLワクチン(K(不活化)とL(生)ワクチンの併用)による予防接種開始(任意接種)。
- 1969年 KLワクチンに代えてFLワクチン(高度弱毒生ワクチン)による予防接種開始(任意接種)。
- 1978年 FLワクチンが定期接種となる。(1回接種法)、対象は生後12ヶ月~72ヶ月
- 1988年 MMRワクチン(FLワクチンを含む)の接種開始。(1回接種法)、対象は生後12ヶ月~72ヶ月
- 1993年 MMRワクチンの接種終了
- 2001年 小児科医会が中心となり「1歳の誕生日に麻疹ワクチンを」のキャンペーンを開始
- 2006年 MRワクチン(FLワクチンを含む)の接種開始。(1回接種法)、対象は生後12ヶ月~24ヶ月。
- 2006年 2回接種法の開始。1期:生後12ヶ月~24ヶ月、2期:就学前年の4月1日~3月31日
- 2006年 単味のFLワクチンの定期接種は終了
- 2007年 単味のFLワクチンの定期接種を再開
- 2008年 2006年~2007年のoutbreakを受け、キャッチアップキャンペーンとして2008年4月から5年間に限定し中学1年、高校3年相当での定期接種を開始
- 現行のスケジュール
- 第1期 満1歳~満2歳未満の1年間
- 第2期 小学校就学前年の4月1日~3月31日
- 第3期 中学校1年相当年の4月1日~3月31日 (2013年3月31日迄)
- 第4期 高校3年相当年の4月1日~3月31日 (2013年3月31日迄)
2012年の麻疹排除計画
WHO/UNICEFにおいて、日本を含む西太平洋地域での麻しん排除の目標時期を2012年に設定された事を受け、国内の麻しんを2012年迄に排除する事となった。
麻疹排除とは
- 輸入例を除き麻疹確定例が1年間に人口100万人当り1例未満であること。
- 2回の麻しん含有ワクチン接種率がそれぞれ95%以上であること。
- 全数報告などの優れたサーベイランスが実施されていること。
- 輸入例に続く集団発生が小規模である事。等
であり[10] 、これを達成する為に国内体制を整備した。
基本方針
- 厚生労働省の予防接種に関する検討会が麻しん排除計画案を策定し、厚生労働省に提出。[11]
- 麻しんに関する特定感染症予防指針を告示[12]
- 2008年1月1日から麻疹と風疹は、それぞれ全数把握疾患に変更。
- 2008年4月1日から5年間の期限付きで、麻疹と風疹の定期予防接種対象を拡大。
関係者会議
- 国として麻しん対策会議/麻しん対策ブロック会議を定期的に開催する。
- 各都道府県にて麻しん対策会議を設置すべくガイドライン案を制定。[13]
学校等での対策
- 学校における麻しん対策の徹底の為、学校における麻しん対策ガイドラインを公表。[14]
- 保育所・幼稚園・学校等における麻しん対応ガイドラインを改版。[15]
医療機関での対策
- 医療機関での麻疹対応のガイドラインを改版。[16]
- 全数把握の徹底の為、医師による麻しん届出ガイドラインを改版。[17]
保健所での対策
- 麻しんを積極的に排除するための疫学調査のガイドラインを改版。[18]
- 予防接種の実施状況を把握するための予防接種管理システム(オフライン型)を国費で開発し、地方自治体に無償で提供する事になった。[19]
各自治体の対策
発生
紀元前3000年頃の中近東地域が最初の流行地であったと考えられている[22]。日本では、平安時代以後度々文献に登場する疫病の一つ「あかもがさ(赤斑瘡/赤瘡)」は今日の「麻疹」に該当するというのが通説である。江戸時代には13回の大流行が記録されており、1862年の流行では江戸だけで、約24万人の死者が記録されている[22]。
日本では2007年以前は麻疹発生数の正確な統計が行われていなかったが、2001年の流行を契機に開始された"1歳の誕生日にワクチンを"や、2006年度よりの第2期接種の開始、2008年度よりの第3期/第4期接種の開始により、2008年の報告数は11,005件(2009年1月6日現在)、2009年の報告数は702件(2009年11月18日現在)と大幅に減少した。ウイルスの遺伝子検査によれば、日本古来の土着ウイルスによる発症例は2010年5月が最後となり、以後、海外から持ち込まれた型による発症例のみとなった。厚生労働省は、2013年9月に排除状態と宣言。2015年までに現状が維持できればWHOによる排除認定を得る見込み[23]。
麻疹は子供の病気であると誤解されていることがあるが、2008年現在、報告のうち4歳以下の症例は15%にも満たず、10代から20代の患者が多数を占めている[24]。 2009年は報告のうち4歳以下の症例が40%を占めており多数となった。[25]。ただし、麻疹による死者は日本でも減少しており、2000年以降は年間20人以下である。
ベトナムは麻疹の発生が多く、視覚障害者60万人のうち95%が薬や病気が原因で、麻疹が主な原因である。そのため日本は「麻疹抑制計画」に対する無償資金協力をしている。
アメリカ合衆国では、一時、国内での麻疹の根絶が宣言されたが、海外旅行者が国外からウィルスを持ち帰ったり、麻疹の記憶が薄れたことによって保護者が予防接種を怠ったりなどの理由で、2011年から流行している。2011年は508例が報告されている。2010年以前の過去10年では年平均で約60例であり、2011年に入って数倍に膨れ上がっている[26]。フランスでは、2007年はほぼ根絶状態にあったが、感染者は復活し、2008年から2011年の間に2万人が罹患した。イギリスでは、1998年に新三種混合ワクチンへの抵抗が強かったウェールズ南西部などで、2012年から麻疹が流行し始め、1200人以上の感染者を出した[27]。
近年における麻疹の流行
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この項目はその主題が日本に置かれた記述になっており、世界的観点からの説明がされていない可能性があります。ノートでの議論と記事の発展への協力をお願いします。(2013年7月) |
流行しているウイルスの型は、2008年まではいわゆる土着株の遺伝子型D5型(バンコク型)が流行していたが、2009年からは日本国外由来のD9型やD8型が検出された[28]。2011年以降はD4型、D9型、D8型、G3型が検出されD5型は検出されず、流行株の推移は日本国外の流行地である欧州、東南アジア等を反映している[28]。日本国内で2012年に生じた麻疹の小規模な集団感染を解析した研究者によれば、発症した子どもの多くの保護者は「一人親」「外国籍を有し日本語の案内を読めない」などの社会的なハンディキャップがあり、またワクチン接種歴が無い場合が多かったとしている[29]。また、第1期接種の対象は1歳児とされているため、定期接種の対象から外れている0歳児をどのように守るのかが課題となると問題提起している[29]。
2001年
患者報告数が定点あたり11.20人(推計患者数 約27.8万人)[30]という大流行があり[31]、これを契機に予防接種率の向上や、1歳の誕生日に予防接種を行うキャンペーン等の対策がとられた。
2006年
春に茨城県と千葉県での地域流行が起こり、茨城県は96例[32]、千葉県は定点報告数で90例[33]
2007年
南関東を中心とした地域流行が発生し、各地に飛び火した。10歳から29歳の世代という比較的高年齢に発生が集中したのが特徴である。 [34]。
成人麻疹の流行により2007年7月27日現在で高校73校、高専4校、短大8校、大学83校が休校し、高校・高専・短大・大学のみで1657人の患者が発生した [35]。 この対策の為、流行の中心地である東京都では都立学校の生徒・児童の内のワクチン未接種かつ未罹患者への有償での予防接種の実施、都内市区町村立学校の児童・生徒に対する市区町村が行う措置の支援、私立学校の児童・生徒に対しても同等の支援を行う事とした。[36] 東京都の対策とは別に、東京都の市区においても緊急の予防接種が実施された。[37]
麻疹・成人麻疹の流行により麻疹ワクチン・MRワクチンの需要が急増し、定期接種ワクチンが前年よりMRワクチンに移行された影響も重なり全国的にワクチン在庫が不足する事態が生じた。麻疹ワクチン・MRワクチンは1歳~2歳未満・小学校就学前の1年間を定期接種により優先され、それ以外の世代では緊急接種を除きワクチン接種の前に抗体検査を行うことが推奨されたが、それにより一時的に検査試薬が不足する事態を招いた。
10歳~29歳の麻疹・成人麻疹が多くみられた原因として、定期接種世代の時点で使用されていたMMRワクチンの副反応の影響による接種率の低迷、麻疹発生の減少によりブースター効果が期待できなくなった事で抗体価が低下し修飾麻疹が発生したことなどが考えられる[38]。
2008年
神奈川県(2008年9月30日現在、3515件)、北海道(1453件)、東京都(1148件)、千葉県(1032件)、福岡県(670件) で地域的流行が発生した。[39] 全体の35%を占める神奈川県での流行は横浜市(2008年10月2日現在、1466件)、横須賀市(679件)が中心[40]であり、横浜市ではこの事態を受けて2008年3月21日より2009年3月20日の1年間の時限措置として、「定期予防接種対象者を除く1歳~高校3年生に相当する年齢で、麻しん予防接種を1度も受けておらず、麻しんにり患していない方」を対象とする市費負担による予防接種(任意接種)を実施している。[41] 同様に横須賀市では2008年2月1日より3月31日の2ヶ月間の時限措置として、「2歳から高校3年生(相当年齢)で、麻しん予防接種を未接種、かつ麻しん未罹患の人(小学校入学前1年間の児童を除く)」に定期外予防接種を実施した。[42]
2012年
岡山県美作保健所管内で2012年(平成24年)年1~2月にかけ5例の患者が発生[43]し、患者全員からD9型麻疹ウイルスが検出された。5例目の患者はカタル期に200名を超える接触者があり、感染拡大が懸念されたが接触者調査と感染拡大防止に取り組み、3月22日に終息宣言を行った。
1例目から4例目まではワクチン接種歴無し
- 1例目、1月1日にフィリピンから帰国した6歳女子が1月11日に発熱し医療機関を受診、1月17日にPCR検査で麻疹陽性。
- 2例目、1月19日に1例目の女児の双子の兄6歳が発熱し医療機関を受診、1月20日にPCR検査で麻疹陽性。
- 3例目、2月4日に1,2例目と異なる医療機関より入院中の13歳男児が発熱し2月8日にコプリック斑が確認され、2月9日にPCR検査で麻疹陽性。(3例目は、1例目、2例目との明らかな接触は認められない)
- 4例目、3例目と同じ医療機関に1月23日~2月1日まで入院していた1歳4カ月の女児が、2月4日に発熱、2月7日に発疹、2月8日にコプリック斑が出現。2月10日にPCR検査で麻疹陽性。
- 5例目、4例目の女児の叔母44歳が2月14日発熱し、医療機関を受診。しかし、医師は、麻疹の可能性を年齢を根拠に否定したが、その後2月17日発疹やコプリック斑が認められ2月18日PCR検査で麻疹陽性。
感染拡大を防止する為、5例目感染者の2月13日から17日までの行動調査及び接触者調査が実施され、勤務先、立ち寄り先での接触者は254人であった。接触後3日以内のワクチン接種が必要とされていることから、2月17日に感染者の発生報道が報道機関よりなされ、2月18日からは臨時のワクチン接種外来を設置し、46人に緊急のワクチン接種を実施した。更に、2月20日にはワクチン未接種者26人を対象として、保健所で21人にPA法の体検査を実施した。また、抗体検査の結果、抗体価64以下の人に対し、医療機関への受診を勧奨しワクチン接種または、γグロブリン投与を行い経過観察がされた。その後、感染を疑われる数例が有ったが、新たな感染者は報告されなかった。
2014年
2014年は、2006年以降最大の患者数が報告された2008年を上回るペースで患者の報告がされている[29]。ただし流行の規模は小さく数十人単位の小規模な流行であるが、海外渡航経験の無い患者が増加しており二次・三次感染感染が起きている[29][44]。
千葉血清製ワクチンの抗体獲得性の問題
2001年に沖縄県中部地区で千葉県血清研究所(千葉血清)製ワクチン既接種者を千葉血清が検査した結果、136検体中111検体に麻しん抗体が認められた(抗体保有率82%)。同一の検体を沖縄県中部地区医師会が別の検査機関に依頼した所、141検体中19検体に麻しん抗体保有が認められた(抗体保有率13%)。[45]
- 沖縄本島での3歳児健康診査にて2866名の接種歴と麻しん罹患状況を調査した所、沖縄県中部地区のみワクチンの有効性が低いという結果が得られている。[45]
- 2006年の茨城県内での麻しん発生での調査において、患者の多くが千葉血清製ワクチン既接種者であったが。これについて茨城県竜ヶ崎保健所は、「免疫のつき方が弱かったか、一度ついた免疫が次第に弱まってきた可能性が考えられる」としている。[46]
- 2008年の川崎市内の麻疹発生において、千葉血清製ワクチンを接種した世代に麻疹が特異的に発生した。[47]
脚注
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- ^ 北海道における麻疹 (2008 年)―発生状況と感染症流行予測調査― (PDF)
- ^ 伝染性紅斑の成人患者における血清中の麻疹ウイルスIgM抗体価の変動
- ^ 麻しんの検査診断について 厚生労働省健康局結核感染症課長 健感発1111第2号 平成22年11月11日
- ^ “Rubeola keratitis – 麻疹性角膜炎”. 2014年8月31日閲覧。
- ^ 1999(平成11)~2000(平成12)年大阪麻疹流行時の麻疹罹患者における合併症者 (2001(平成13)年度大阪感染症流行予測調査会報告)
- ^ 2000(平成12)年大阪麻疹流行時調査結果 (有効調査数4260例;2001(平成13)年度大阪感染症流行予測調査会報告)
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- ^ a b 第7回「麻疹(はしか)」 -天然痘と並ぶ2大感染症だった 加藤茂孝 (PDF) モダンメディア 2010年7月号(第56巻7号)
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- ^ IDWR 2014年第8号<注目すべき感染症>2013年第48週~2014年第8週の麻疹発生状況 国立感染症研究所感染症疫学センター
- ^ a b 朝日新聞社 (2003年11月30日). “はしかワクチン、効果8割 千葉のメーカー出荷”. asahi.com. 2008年10月3日閲覧。
- ^ 茨城県保健福祉部保健予防課危機管理室 (2006年6月8日). “牛久市・取手市を中心とした麻しん(はしか)患者の発生について(第6報) (PDF)”. 2008年10月3日閲覧。
- ^ かたおか小児科クリニック Dr.かたおか (2008年6月26日). “麻しん発生状況での疑問”. Dr.かたおかの診療日誌. 2008年10月3日閲覧。
関連法規
- 感染症法の第5類感染症に指定。(2008年1月1日から麻疹と風疹は、それぞれ全数把握疾患に変更)
- 学校保健安全法による第2種学校感染症に指定。
- 予防接種法の第1類疾病に指定。
関連項目
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ウィキメディア・コモンズには、麻疹に関連するカテゴリがあります。 |
- 風疹(3日はしかとも呼ばれる)
- 感染症
- 発熱と発疹を起こす病気の一覧
出典
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- 麻疹
- 感染症の話 2003年第3週号 麻疹
- 麻疹診断マニュアル(第 2 版) 平成 20 年 7 月 (PDF)
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外部リンク
- 世界麻疹排除計画と世界麻疹風疹実験室ネットワーク (Vol. 31 p. 35-36: 2010年2月号) 国立感染症研究所
- 東京都内で検出された麻疹ウイルスのNP遺伝子解析結果 2001年4月~2003年3月東京都感染症情報センター
- 2007年にポーランドで感染循環している麻疹と風疹ウイルス株の遺伝子型分類海外渡航者の為の感染症情報
- 2008.3.25 麻疹は子供の病気にあらず日経メディカル オンライン (麻疹の典型的な臨床経過)
- 麻疹ワクチン接種指針
- ベトナム視覚障害児・者の概況(ベトナムの60万人の視覚障害者の95%が生後の麻疹が原因)
- 2004年度の北海道における麻疹PA抗体保有調査 北海道 (PDF)
日本の感染症法における感染症 |
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一類感染症 |
エボラ出血熱 - クリミア・コンゴ出血熱 - 痘そう - 南米出血熱 - ペスト - マールブルグ病 - ラッサ熱
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二類感染症 |
急性灰白髄炎 - 結核 - ジフテリア - 重症急性呼吸器症候群(病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限る) - 鳥インフルエンザ (H5N1)
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三類感染症 |
コレラ - 細菌性赤痢 - 腸管出血性大腸菌感染症 - 腸チフス - パラチフス
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四類感染症 |
E型肝炎 - ウエストナイル熱 - A型肝炎 - エキノコックス症 - 黄熱 - オウム病 - オムスク出血熱 - 回帰熱 - キャサヌル森林病 - Q熱 - 狂犬病 - コクシジオイデス症 - サル痘 - 腎症候性出血熱 - 西部ウマ脳炎 - ダニ媒介脳炎 - 炭疽 - チクングニア熱 - つつが虫病 - デング熱 - 東部ウマ脳炎 - 鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザ (H5N1) を除く) - ニパウイルス感染症 - 日本紅斑熱 - 日本脳炎 - ハンタウイルス - Bウイルス病 - 鼻疽 - ブルセラ症 - ベネズエラウマ脳炎 - ヘンドラウイルス感染症 - 発しんチフス - ボツリヌス症 - マラリア - 野兎病 - ライム病 - リッサウイルス感染症 - リフトバレー熱 - 類鼻疽 - レジオネラ症 - レプトスピラ症 - ロッキー山紅斑熱 - 重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る)
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五類感染症 |
アメーバ赤痢 - ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く) - 急性脳炎(ウエストナイル脳炎、西部ウマ脳炎、ダニ媒介脳炎、東部ウマ脳炎、日本脳炎、ベネズエラウマ脳炎及びリフトバレー熱を除く) - クリプトスポリジウム症 - クロイツフェルト・ヤコブ病 - 劇症型溶血性レンサ球菌感染症 - 後天性免疫不全症候群 - ジアルジア症 - 先天性風しん症候群 - 梅毒 - 破傷風 - バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症 - バンコマイシン耐性腸球菌感染症 - 風しん - 麻しん - 侵襲性インフルエンザ菌感染症 - 侵襲性髄膜炎菌感染症 - 侵襲性肺炎球菌感染症 - RSウイルス感染症 - 咽頭結膜熱 - A群溶血性レンサ球菌咽頭炎 - 感染性胃腸炎 - 水痘 - 手足口病 - 伝染性紅斑 - 突発性発しん - 百日咳 - ヘルパンギーナ - 流行性耳下腺炎 - インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く) - 急性出血性結膜炎 - 流行性角結膜炎 - 性器クラミジア感染症 - 性器ヘルペスウイルス感染症 - 尖圭コンジローマ - 淋菌感染症 - クラミジア肺炎(オウム病を除く) - 細菌性髄膜炎 - マイコプラズマ肺炎 - 無菌性髄膜炎 - ペニシリン耐性肺炎球菌感染症 - メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症 - 薬剤耐性アシネトバクター感染症 - 薬剤耐性緑膿菌感染症
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