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ギラン・バレー症候群 | |
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分類及び外部参照情報 | |
ICD-10 | G61.0 |
ICD-9 | 357.0 |
OMIM | 139393 |
DiseasesDB | 5465 |
MedlinePlus | 000684 |
eMedicine | emerg/222 neuro/7 pmr/48 neuro/598 |
MeSH | D020275 |
プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
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ギラン・バレー症候群(ギラン・バレーしょうこうぐん、英: Guillain-Barré syndrome)は、急性・多発性の根神経炎の一つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる病気である。重症の場合、中枢神経障害性の呼吸不全を来し、この場合には一時的に気管切開や人工呼吸器を要するが、予後はそれほど悪くない。日本では特定疾患に認定された指定難病である。
1859年にフランス人医師ジャン・ランドリー(仏: Jean Baptiste Octave Landry)によって、上行性麻痺の一例という報告がなされた。その後この症例はランドリー上行性麻痺の一例と呼ばれている。1916年にフランス人医師ジョルジュ・ギラン(仏: Georges Guillain)とジャン・アレクサンドル・バレー(仏: Jean Alexandre Barré)が急性で単相性の運動麻痺を呈した2症例を、髄液の蛋白細胞解離と脱髄を示唆する電気生理所見とともに報告したことによりギラン・バレー症候群 (GBS) という名称が定着した。その後、欧米では acute inflammatory demyelinating polyneuropathy(AIDP 急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー)と同義語として用いられてきた。現在ランドリー上行性麻痺の原因は急性炎症性脱髄性多発ニューロパチーであったと推定されている。1970年代より中国で初夏に流行する急性麻痺性疾患が認められた。当初 Chinese paralytic syndrome と命名されたこの疾患は末梢神経に脱髄やリンパ球浸潤を伴わず、軸索変性が認められ1993年に acute motor axonal neuropathy(AMAN 急性運動軸索型ニューロパチー)として認識された。AIDP、AMAN共に先行感染を伴い、単相性の経過をとり、発症後1~3週間でピークを迎え、その後自然軽快していく、また血漿交換など免疫学的な治療が有効なことからGBSという概念で包括し、軸索型GBSをAMAN、脱髄型GBSをAIDPととらえるようになった。このような歴史的経過から、GBSの名称には
と様々なものが混在している。
欧米ではGBSの90%がAIDPであるが中国では65%がAMANであり、日本ではAMANが38%、AIDPが36%とされている。その他の病型には感覚障害を伴うAMSAN(英: acute motor-sensory axonal neuropathy、急性運動感覚性軸索型ニューロパチー)、フィッシャー症候群などが知られている。特にイタリアではGBSの35%がフィッシャー症候群と地域差が認められる。フィッシャー症候群は、ギラン・バレー症候群の亜型と考えられている。ギラン・バレー症候群が全身型の疾患であるのに対して、同様の自己免疫が原因で末梢神経の障害が起こる疾患にフィッシャー症候群やビッカースタッフ型脳幹脳炎があり、外眼筋麻痺、失調、深部反射低下などが見られる。PCB(英: pharygeal-cervical-brashial weakness、咽頭頚部上腕型GBS)という亜型も知られており咽頭筋、呼吸筋、近位筋の筋力低が特徴とされている。
稀な疾患であり、年間の発病率は10万人当たり1~2人程度とされる。
分類 | 内容 |
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感染症 | カンピロバクター、EBウイルス、サイトメガロウイルス、マイコプラズマ、HIV、インフルエンザ桿菌、水痘、帯状疱疹、インフルエンザ (A, B)、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、コクサッキーウイルス (A4, B5)、サルモネラ、エルシニア腸炎、野兎病、リステリア症、ブルセラ症、赤痢、大腸菌、結核 |
ワクチン | インフルエンザ、狂犬病、BCG、破傷風、B型肝炎、麻疹、風疹、流行性耳下腺炎、ポリオ |
全身性疾患 | ホジキンリンパ腫、悪性腫瘍、SLE |
薬剤 | ガングリオシド、金製剤、Dペニシラミン、ダナゾール、ジメリディン |
その他 | 外科手術、妊娠 |
上記のような原因が報告されている。特に60%以上の例で何らかの先行感染が認められる。特に因果関係がはっきりしているのはサイトメガロウイルス、EBウイルスなどのウイルスや、マイコプラズマ、カンピロバクターの4つである。カンピロバクターはGBS発症の1週間前頃に下痢、サイトメガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマは2週間前程度に上気道炎を先行感染として起こすことが多い。ワクチンの接種後の発症例も認められている。ワクチンの場合は3週間以上前のことが多い。よってGBSを疑った場合は、1週間前に下痢をしなかったか、2週間前に咽頭痛や咳、鼻水といった風邪の症状はなかったのか、1か月以内にワクチンの接種をしなかったのかと調査していく必要がある。
カンピロバクターは全体の20~30%を占める主要な先行感染であり、カンピロバクター後にGBSを発症する確率は0.1%である。カンピロバクターの菌体のLOS分子がガングリオシドと分子相同性をもっており、感染源に対する抗体が誤って自己の末梢神経も攻撃してしまうということによって発症するという分子相同性疾患という概念が作られたが、その他の先行感染などでは不明な点も多く、また先行感染が証明されない症例も多い。血清中の抗ガングリオシド抗体の上昇が50%~60%で認められる。ガングリオシド抗体はSRLや近畿大学にて測定される。
有髄神経の構造は、電気的な興奮を伝える軸索が中心にあり、軸索の周囲を絶縁体である髄鞘が覆っている。ギラン・バレー症候群は髄鞘が傷害される脱髄型と、軸索そのものが傷害される軸索傷害型、両者が傷害される混合型に分類できる。
従来は脱髄型が多く生命予後、機能予後ともに良好とされていた。しかし大規模調査の結果、日本では軸索傷害型と混合型の割合が高く、長期的にも機能が完全には回復しない例も多いことが明らかとなってきた。軸索型、脱髄型の特徴を以下に纏める。
特徴 | 脱髄型 | 軸索型 |
---|---|---|
先行感染 | 上気道炎 | 胃腸炎(カンピロバクター) |
脳神経障害 | 30~40% | まれ (< 20%) |
感覚障害 | あり | なし |
自律神経障害 | 交感神経亢進 | まれ |
腱反射 | 消失 | ときに亢進 |
進行期間 | 平均18日 | 平均10日 |
回復 | 週単位で回復 | 2つのパターン(急速型と遷延型) |
標的分子 | 不明 | ガングリオシドGM1、GD1a |
1976年に米国東部ニュー・ジャージー州の陸軍基地でH1N1豚インフルエンザ(現在の新型インフルエンザとは異なる)が発見された。スペイン風邪の原因が豚インフルエンザと考えられていたので、大流行を防止するために4300万人に予防接種を行った結果、約400人がギラン・バレー症候群となり、25人が死亡した。(インフルエンザの死亡は1) 1957年にも同様な現象が見られた。しかし米国では予防接種の少ない時期でも毎週80-160例の新規患者が発生しているとCDCは述べている。
前駆症状として、咽頭発赤、扁桃炎、急性結膜炎、急性胃腸炎、感冒症状(咽頭痛や微熱など)が見られる。これらの症状は通常は神経症状出現の1~3週間ほど前に認められる。全例の約3分の2で先行感染が認められる。
症状の程度は様々だが、運動神経の障害が主で初発症状は下肢の筋力低下から起こることが多い。その後、下肢から体幹部に向かい左右対称性に筋力低下や麻痺が上行する。四肢麻痺は、遠位筋に強く現れる。呼吸筋の麻痺が起こると人工呼吸器により呼吸管理が必要となることがある。運動神経の障害が主であるが、軽度の感覚神経障害も起こす。特に異常感覚や神経因性疼痛が多く支持療法が必要となることも多い。
その他、両側性の顔面神経麻痺や外眼筋障害などといった脳神経症状や、構音障害や嚥下障害などの球麻痺症状、自律神経障害を伴うことがある。自律神経障害は突然死の原因となり、麻痺による長期臥床は肺梗塞の原因となりいずれも致死的であり注意が必要である。
脱力、麻痺である。多くは下肢から始まり、上に向かって進行する。急性・急速進行性・左右対称性・全身性・遠位筋優位の筋力低下である。末梢性神経障害のため、弛緩性麻痺となることが特徴である。
深部腱反射の低下や消失が特徴的とされている。神経根の障害からレンショウ抑制や側方抑制の障害が起こることによって腱反射が亢進することがある。この所見は軸索型GBSで認められやすい。腱反射は亢進するが痙性や病的反射は認められないことから上記の障害モデルは提唱されているが詳細は不明である。急性期から反射が亢進する場合、回復期から亢進する場合がある。
感覚鈍麻、異常感覚、神経因性疼痛が高頻度に認められる。痛みは90%近い患者で認められ、神経根痛や筋痛、関節痛などを訴えることもある。ステロイド、カルバマゼピン、オピオイド、ガバペンチン、プレガバリンなどが支持療法として用いられる。
ギラン・バレー症候群で自律神経障害が認められる場合は圧受容器反射弓の求心路が障害される。そのため、中枢への抑制がきがず節後神経交感神経活動は亢進する。そのため、安静時の血圧や心拍数は上昇しており血中のノルアドレナリンも高値となる。しかし起立すると血圧は急激に低下し、失神を起こすこともある。SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)の合併のためADHも高値を示すことが多い。
抗原 | 先行感染 | 臨床像 | 抗原分布 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
GM1 | C.jejuni | AMAN、純運動型GBS | ランビエ絞輪 | |
GM1b | C.jejuni | AMAN、純運動型GBS | ||
GM2 | CMV | 脳神経障害、感覚障害 | IgMに病的意義がある。感覚神経への関与が明らかになっている。 | |
GM3 | ||||
GD1a | C.jejuni | AMAN | 有髄神経軸索、ランビエ絞輪 | |
GD1b | 呼吸器感染症>消化器感染症 | 純感覚型GBS、失調 | 有髄神経傍絞輪部、後根神経節 | |
GD3 | ||||
GT1a | 咽頭頚部上腕型GBS | 嚥下機能に関与すると考えられている。 | ||
GT1b | ||||
GQ1b | 呼吸器感染症>消化器感染症 | 外眼筋麻痺 | Ⅲ、Ⅳ、Ⅵ脳神経傍絞輪部、後根神経節 | フィッシャー症候群、ビッカースタッフ型脳幹脳炎 |
GA1 | ||||
Gal-C | ||||
GalNAc-GD1a | C.jejuni | AMAN、純粋運動型GBS | 脊髄前根 |
便中からカンピロバクターが分離されたり、血清中の抗サイトメガロウイルス・EBウイルス・マイコプラズマ抗体が上昇したりすることがある。先行感染の症状がはっきりしない場合に特に有用な検査である。
診断基準にはいくつか知られている。
Hoらの基準は電気生理学的な診断基準であり、AIDPとAMANの区別に有用である。2N以上とは2つ以上の神経においてであり、ULNは正常上限、LLNは正常下限、DMLは運動神経遠位潜時、MCVは運動神経伝導速度、dCMAPは遠位刺激のCMAP振幅、pCMAPは近位刺激のCMAP振幅、TDは時間的分散の増大である。四肢で施行した方が診断基準を満たす確率は高くなる。
GBSの重症度の指標として、Hughesの運動機能尺度(英: functional grade)が使用されることが多い。
運動機能尺度 | 症状 |
---|---|
0 | 正常 |
1 | 軽微な神経症候を認める |
2 | 歩行器、またはそれに相当する支持なしで5mの歩行が可能 |
3 | 歩行器、または支持があれば5mの歩行が可能 |
4 | ベッド上あるいは車椅子に限定(支持があっても5mの歩行が不可能) |
5 | 補助換気を要する |
6 | 死亡 |
感染症の治療を行う。呼吸筋の障害がある場合には人工呼吸器が必要となることがある。これら支持療法のほかに
いずれの治療法が効果的かについての明らかな根拠はない。血漿交換が後遺症の軽減に有効であること、免疫グロブリン大量療法が血漿交換と同等の効果があるとされている。これらの大規模調査はAIDPが90%を占める欧米で施行されておりAMANが多い日本や中国では異なる可能性がある。AMANに対しては免疫グロブリン大量療法が血漿交換に勝るという意見もある。また血漿交換は特殊な設備が必要であり、2週間以内かつ早期治療という観点では免疫グロブリン大量療法の方に分があると考えられている。血漿交換に関しても単純血漿交換、二重濾過法、吸着法全てが同等とされているが大規模試験は行われていない。 かつて用いられたステロイド単独療法は行われなくなったが、免疫グロブリン大量療法とステロイドパルス療法の併用は長期予後には有意差は認められなかったが、回復期間の短縮がはかれる可能性が示唆されている。頻度としてAMANが多い日本では標準療法として免疫グロブリン大量療法とステロイドの併用を行うこともあり、その場合はソルメドロールなどのメチルプレドニゾロン500mg/5日で免疫グロブリン開始前に2時間かけて点滴静注で行われる場合が多い。併用療法をしない場合は重症感染症、管理不良の糖尿病、活動性胃潰瘍、重篤な骨粗鬆症、緑内障、HBVキャリアなどがある。
予後改善のため、長期にわたるリハビリテーションが必要となる。寝たきりによる褥瘡の予防、運動麻痺による関節拘縮の予防にも注意する。自律神経障害があればその管理も行う。
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