出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/04/18 22:23:40」(JST)
多細胞生物においては、個々の細胞は独立して存在しているのではなく、細胞同士が付着、あるいは細胞が細胞外マトリックスに付着している。細胞同士の結合、および細胞の細胞外マトリックスへの結合を細胞接着cell adhesionという。前者を細胞接着(さいぼうせっちゃく、細胞間接着 cell-to-cell adhesion)、後者を細胞-マトリックス接着 cell-matrix adhesionと呼んで、前者のみを狭義の細胞接着ということもある。
細胞接着の基本は、細胞同士あるいは細胞とマトリックスが直接接触して付着しているということであるが、細胞は接着のために細胞骨格を動員した細胞接着のための装置を持つこともある。細胞接着は、細胞接着分子の分子間相互作用によって担われ、接着装置も接着分子を中心に形成される。細胞接着の様相は、細胞や組織の種類によって多様である。上皮では、一般に上皮細胞同士が強い接着を行い、アドヘレンス・ジャンクション、タイトジャンクション、デスモソームといった特殊化した接着構造を形成する一方、細胞外マトリックスである基底膜に接着しヘミデスモソームを形成している。結合組織などの間質細胞は、細胞周辺の細胞外マトリックス(コラーゲン繊維など)に接着している。血液細胞のように、浮遊性でふだんは細胞接着しているようには見えない細胞でも、細胞分化や機能発現時には、ある種の組織への接着をする。免疫細胞では細胞の組織分配や機能発現に接着を介した細胞認識が重要である。神経細胞においては、神経細胞の移動、更に神経細胞から伸長した軸索誘導やシナプス形成の段階でも細胞接着を中心にした制御が不可欠である。
なお、培養皿の上で線維芽細胞などを培養すると、細胞はフィブロネクチンやヴィトロネクチンなどを介して皿上に伸展する。この現象は、細胞基質接着(cell-substratum adhesion)と呼ばれる細胞-マトリックス接着の一種である。この際、細胞の下部には、接着斑と呼ばれる構造ができる。
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細胞接着を担う膜タンパク質(cell adhesion molecule:CAM)。アドヘレンス・ジャンクションの形成と維持に関与するカドヘリン、細胞基質接着に関わるインテグリンが、代表的な細胞接着分子である。ギャップジャンクション、タイトジャンクションやデスモソームにもそれぞれ、コネキシン、クローディン、デスモグレインが接着分子として存在している。さらに上皮、血管内皮、免疫系、神経などの様々な細胞間認識に関わる免疫グロブリンスーパーファミリー分子、白血球の組織分配に関わるセレクチン、神経シナプスの誘導に関わるニューロリギンなどがある。これらの分子は全て、細胞膜を貫通しているか、もしくはGPI(グリコシルホスファティジルイノシトール)といった共有結合で細胞膜に結ばれた膜たんぱく質である。
広義には、細胞外マトリックスにあって細胞-マトリックス接着を誘導する分子であるフィブロネクチン、ラミニンといった分子も細胞接着分子と呼ばれる。
個々の細胞接着分子は、自らが接着する(ホモフィリックhomophilic)もの、他の接着分子と接着する(ヘテロフィリックheterophilic)なもの、細胞間接着を担うもの、細胞基質間接着を担うものがあり、その多彩かつ特異的な接着結合性が細胞の機能にとって重要である。カドヘリンやインテグリンのような典型的な細胞接着分子は、その細胞内ドメインで細胞骨格と結合しており、アクチンフィラメントなどを動員した接着装置を構築している。細胞接着分子は単独で、または複合体を形成し、様々な情報伝達分子(タンパク質キナーゼなど)と相互作用し、細胞形質の制御を行う。細胞外ドメインは力学的な役割だけでなく、細胞外のシグナルを細胞内に伝達する役割を担っており、また、カドヘリンをはじめ多くの接着分子において細胞外に切り出される(シェディング)現象が報告されているが、その詳細は不明な点が多い。
膜タンパク質
細胞外マトリックス
多様な接着分子は、それぞれが結合特異性を示す。このことは、それぞれの接着分子の違った細胞での動的発現と相まって、胚発生時における形態形成や組織構築に重要な意味を持つ。例えば、細胞集合の形成、細胞の移動に接着分子は大切である。
接着分子の多くは、細胞内において細胞骨格と連結しており、接着構造を安定化させ細胞全体の形態の維持、組織構造の維持を担う。接着構造は、上皮細胞に見られるように、細胞と細胞の間隙を充填することで、外界からの分子、細菌、ウイルスなどの侵入を防ぐという機能も有している。
更に、接着分子の一部は、接着を通じて、細胞内部にシグナルを伝え細胞分化、増殖といった細胞形質の制御を行う。
接着分子には、ウイルスや細菌のレセプターとして機能するものもあり、感染症の初期段階に関与する。
脳神経系においては、神経細胞の移動、神経細胞から伸長する軸索の誘導やシナプス形成に接着分子が働くことで、複雑な神経回路網ができあがる(神経回路形成)。シナプスにおける接着構造の変化は、神経伝達の効率や回路を変化させることで、学習や記憶といった可塑性にも関わることが推定されている。特に、シナプスに局在したり、シナプス形成に関与する接着分子をシナプス接着分子と呼ぶことがある。
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