出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/05/23 03:41:45」(JST)
胃癌 | |
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分類及び外部参照情報 | |
胃癌の疑いがあるとして切除された胃潰瘍の標本
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ICD-10 | C16 |
ICD-9 | 151 |
OMIM | 137215 |
DiseasesDB | 12445 |
MedlinePlus | 000223 |
eMedicine | med/845 |
MeSH | D013274 |
GeneReviews |
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プロジェクト:病気/Portal:医学と医療 | |
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胃癌(いがん、英:Stomach cancer、独:Magenkrebs)は、胃に生じる癌の総称。
広義の「胃癌」には以下の種類がある。
胃癌は中国、日本、韓国などアジアや南米に患者が多く、アメリカ合衆国をはじめ他の諸国ではそれほど顕著ではない。
2003年の日本における死者数は49,535人(男32,142人、女17,393人)で、男性では肺癌に次いで第2位、女性では大腸癌に次いで第2位であった(厚生労働省 人口動態統計より)。かつて日本では男女とも胃癌が第1位であったが、死者数は年々減少している。
胃癌の発生過程でヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)による「慢性萎縮性胃炎」の関与が示唆されている。ヘリコバクター・ピロリ菌の陽性者では、陰性者と比較して胃癌の発生のリスクは5倍となる。さらに、胃の萎縮の程度が進むと胃癌のリスクも上がり、ヘリコバクター・ピロリ菌感染陽性でかつ、萎縮性胃炎ありのグループでは、陰性で萎縮なしのグループと比較して胃癌の発生リスクは10倍となっている[2]。
メタ解析によると、アジアでの無症状の成人を対象としたヘリコバクター・ピロリの除菌は、胃癌発症率および胃癌死亡率を有意に低下させた。[3]
2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)による「食事、栄養と生活習慣病の予防[4] 」(Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases) では、食塩の摂取は1日5 g以下(ナトリウム2 g以下)とされ、塩や塩蔵の食品は胃癌のリスクが上がることが起こりうるとしている。 厚生労働省による研究では、塩分濃度の高い食事を日常的に摂取する人たちは、そうでない人たちに比べて胃癌となるリスクが高いことが統計的に示されている[5]。食塩の多い食事で、男性の胃癌リスクが上がる。いくら、塩辛、練りうに、漬物などをよく食べる人で胃癌が多い[6]。塩分を多く含む食品の食べすぎに用心が必要である。動物実験でも食塩での胃癌発症が確認されている。[7]
たばこを吸う人は吸わない人に比べて2倍 胃癌になりやすい。お酒を飲むと2倍から3倍胃噴門部の胃癌になりやすい[8]。
総コレステロール低値は、男性の胃癌リスクと関係する[9]。
男性では、血中β-カロテン濃度が高いと胃癌リスクが低いが、女性では関連が見られない[10]。
緑茶をよく飲むと女性の胃癌リスクが下がる[11]。喫煙状態によって、緑茶ポリフェノールと胃癌の関係が変わる。緑茶に胃癌予防効果があるとしても、たばこを吸っている場合には効果は得られない可能性が高い[12]。
胃癌検診を受けている人では、胃癌による死亡率が低い[13]。
日本人の伝統的な食生活で、胃癌のリスクが高くなる[14]。野菜・果物は少量の摂取で胃癌の発生率を下げる[15]。
組織型としては、ほとんどが腺癌(胃小窩や胃腺に分化する円柱上皮幹細胞から生ずる)であり、まれにガストリン等の内分泌細胞から生ずる内分泌細胞癌(=高悪性度カルチノイド)が発症する。
病理学的には以下に分類される。
印環細胞癌と低分化型は、4型の進展となることが多く、胃が硬くなる「硬癌」の状態となることが珍しくない。一般に「scirrhous(スキルス)胃癌」として早期発見が困難で予後が悪い胃癌の代名詞として知られる。
筑波大学・東京医科歯科大学の病理学教授を勤めた中村恭一名誉教授は、「胃癌の三角」という概念を提唱している。即ち、発生部位(場)・肉眼型・組織型には互いに相関がある。胃底腺領域から発生する癌の95%以上は未分化癌であることなどは、この「胃癌の三角」の臨床診断の一説としている[16]。また歴史的に、胃癌の他覚的発見にちなんで、転移・浸潤先の病変に名称が付けられており、卵巣への直接浸潤として「クルーケンベルグ(Krukenberg)腫瘍」、ダグラス窩(直腸子宮窩)に転移したものは「シュニッツラー(Schnitzler)転移」、左鎖骨窩リンパ節転移は「ウィルヒョウ(Virchow)転移」と呼ばれている。
高分化型管状腺癌(tub1)。
中分化型管状腺癌(tub2)。
低分化型腺癌(por2)。
印環細胞癌(sig)。
リンパ球浸潤癌。
胎児消化管上皮類似癌。
胎児消化管上皮類似癌。左と同症例の別の部位。
写真説明の組織型分類は胃癌取り扱い規約第14版による分類である。
自覚症状による胃癌の早期発見は難しい。ほとんどの場合、早期癌の段階では無症状であり、癌が進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てこないことが多いからである。胃癌は進行してくると次のような症状が出てくる。
胃癌か否かを決定するのは原則として胃から摂取した細胞の病理検査である。
他に発見・診断を目的として以下の検査が行われている。
腹臥位やや頭低位による撮影。胃体中部前壁に発生した3型胃癌(低分化型腺癌: por2>tub2)
左と同じ症例の内視鏡像。
胃体部にみられた早期胃癌内視鏡像(高分化型腺癌)
左と同じ症例(高分化型腺癌)のインジゴカルミン染色内視鏡像
印環細胞を伴う低分化型腺癌の内視鏡像。通常内視鏡像に加え強調画像と色素内視鏡像。左上:通常内視鏡像、右上:通常+FICE、左下:酢酸染色、右下:AIM染色
0-IIa, tub1 の早期胃癌。左列は通常光。右列はFICE。一列目は通常。二列目は酢酸染色。三列目はAIM染色。
胃癌の進行度は、以下に分類し、生存率がほぼ等しくなるようにグループ分けしたのが病期(Stage)であり、数字が大きくなるほど進行した癌であることを表す。国際的にはUICC(International Union Against Cancer)のTNM分類が用いられるが、日本では胃癌取扱い規約による病期分類が広く使用されている。
画像検査による、臨床診断による病期診断が行われ、手術加療を行う場合には、手術結果によって最終的な病期診断(Final Stage)が確定される。
肉眼的形態は以下のように分類される。
また、0型については以下のような亜分類が用いられる。
0型では単一の分類型を示さないことも多い(隆起と陥凹が混在する、陥凹の浅い部分と深い部分があるなど)。そのときはより広い病変から+でつないで表現する(IIa+IIcなど)。
組織学的深達度によってT分類は決定される。T分類はクリニカルステージを決定するのに非常に重要な因子である。
TNM分類としてはN:リンパ節転移、H:肝転移、P:腹膜転移、CY:腹腔細胞診、M:遠隔転移がある。
基本的にN3やH1、P1、CY1、M1となれば無条件ステージIVとなり予後は厳しいということになる。以下に病期分類とクリニカルステージの対応を示す。
N0 | N1 | N2 | N3 | |
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T1 | IA | IB | II | |
T2 | IB | II | IIIA | |
T3 | II | IIIA | IIIB | |
T4 | IIIA | IIIB | IV | |
H1、P1、CY1、M1 |
他の癌の治療と同様に、治療方針は癌の病期によって変わってくる。主に以下にあげられる治療を集学的に行っていく。以下は狭義の胃癌の治療について記述。なお、がん治療には、手術・放射線治療・化学療法の三つがあるが、感染症を原因とする「アジア型のがん」である胃がんの治療には、それが全摘できる例外的な臓器であり、開腹手術で最初に確認できるという点から手術が向いている[18]。
胃悪性リンパ腫・GISTの治療については各項を参照。
分化型でリンパ節転移の無い早期胃癌と診断される病変に対し、EMR・ESDといった内視鏡治療が広く行われてきている。詳細はEMR・ESDの記述を参照。
以前より、根治術として外科的手術は根幹を成しており、胃切除術+リンパ節郭清が根治術の基本である。詳細は胃切除術の記述を参照。
また、癌の進行が進んでいると術前診断がなされれば、大網膜・脾臓・胆嚢といった周囲他臓器合併切除を行う拡大手術が行われる。
胃癌に対する化学療法は、術後の補助治療や、術後再発、全身転移・周囲浸潤を生じ手術的加療による根治が困難な場合に施行される。化学療法に用いられる薬剤の一部を下記に示す。薬剤の投与量・タイミングの組み合わせによって様々な「レジメ」(レジメン)ともいうが提唱されている。
など。
近年、開発が進んだ薬物群である。特定の受容体・酵素を低分子化合物もしくはモノクローナル抗体がある。上皮細胞増殖因子などの細胞の増殖シグナルの阻害や癌細胞の直接傷害により治療する。
HER2の過剰発現が認められた切除不能胃癌または再発胃癌に対してトラスツズマブを従来型の抗がん剤と併用することの有効性が認められた[19]。一方、大腸癌などで有用性が認められているベバシズマブの効果は胃癌では認められなかった[20]。ゲフィチニブ、エベロリムス、ラパチニブなどの臨床試験も行われたが、いずれも胃癌では効果は認められなかった。したがって、2015年1月現在、日本で胃癌に対して用いることができる分子標的治療薬はトラスツズマブのみである。
米国ではラムシルマブ[21]がパクリタキセルとの併用で、切除不能胃癌または再発胃癌の二次治療(最初の治療が無効または継続不能となったときの次の治療)で有用性が認められ、2014年4月に承認されている。日本でも近く使用可能となる見込みである。
腺癌が多いため、放射線療法は多くは行われない。術後病変に対する治療や、未承認治療法として術中照射(intraoperative radiation therapy)が手術の補助として有効かどうか研究されている。
生物学的療法(免疫療法とも呼ばれる)は身体の免疫が癌細胞を攻撃するのを補助する治療法であり、他の治療法の副作用から回復させる補助としても施されることがある。未承認治療法として他の治療法と併用して、再発癌の防止する生物学的治療法研究が医者によって進められている。別の生物学的治療法として、化学療法中あるいは治療後に(白血球など)血球が減少した患者に、コロニー刺激因子などを投与して、血球数レベルの回復の手助けをすることがある。ある種の生物学的治療法を受ける患者は入院が必要な場合がある。
早期に発見され治療が行われれば予後の良い癌である。国立がんセンター中央病院胃癌グループの統計によると、5年生存率は胃癌全体で71.4%、StageIで91.2%、StageIIで80.9%、StageIIIで54.7%、StageIVでは9.4%であった[22]。
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腺 | 粘膜上皮細胞 | 主細胞 | 壁細胞 | 副細胞 (頚粘液細胞) |
腸クロム親和様細胞 | D細胞 | G細胞 |
噴門腺 | ○ | ||||||
固有胃腺 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
幽門腺 | ○ | ○ |
部位 | 腺 | 胃小窩 | 胃表面上皮細胞 | 主細胞 | 頚粘液細胞 (副細胞) |
壁細胞 | 幹細胞 | 内分泌細胞 |
噴門部 | 噴門腺 | 浅い | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
胃体部 | 固有胃腺 | 中間 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
幽門部 | 幽門腺 | 深い | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
消化管ホルモン | 分泌細胞 | 分泌調節(+) | 分泌調節(-) | 作用 |
ヒスタミン | 腸クロム親和様細胞 | アセチルコリン ガストリン |
胃酸分泌 | |
ソマトスタチン | D細胞 | 胃酸分泌抑制 | ||
ガストリン | G細胞 | 胃pH低下 | 胃酸分泌 |
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