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シラミ亜目 Anoplura | |||||||||||||||
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ケジラミ Pthirus pubis
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分類 | |||||||||||||||
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科 | |||||||||||||||
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シラミ(虱<蝨>)は、昆虫綱咀顎目シラミ亜目 (Anoplura) に属する昆虫の総称。全種が血液や体液を吸う寄生生物である。かつてはシラミ目(裸尾目、学名は同じAnoplura)ともされた。
広義には、咀顎目のうち寄生性のものの総称。シラミ亜目のほかに、主に体毛や羽毛を咀嚼するハジラミ類が含まれる(これらはかつてPhthiraptera(=シラミ目) とされており便宜上現在でも使われるが、多系統であり正式な分類群ではない)。咀顎目にはほかに、寄生性でないチャタテムシがいる。
また咀顎目以外にも、外部寄生する小動物や動物に付着する生物に「〜ジラミ」の名がつくものがいる (トコジラミ(カメムシ目)、ウオジラミ(甲殻綱鰓尾目)、クジラジラミ(甲殻綱端脚目)、ヤブジラミ(植物のセリ科)など)。
以下では、シラミ亜目について述べる。
現在世界中で約1000種が知られ、多くの未知種があると考えられている。ハジラミ類より分化したと考えられるが、化石上の証拠はない (シラミはハジラミ類同様外部寄生虫として哺乳類の被毛の中で生活するが、ハジラミ類と異なり鳥類からはまったく知られていない)。
このうち人間に寄生するシラミは、ヒトジラミ(アタマジラミ Pediculus humanus humanus とコロモジラミ Pediculus humanus corporis の2亜種がある)とケジラミ Phthirus pubisの2種 である。これらは汎世界種(コスモポリタン)で、人類に寄生している種は全世界で同じこれらの種である。[1]
多くは体長が数㎜以下であり外観が半透明で柔弱な印象だが、ゴムの様な弾力性のある丈夫な体壁構造を持っている。 体型はハジラミ類に似るが頭部は小さく、口器は著しく変形し、舌針、唾腺舌、下唇針から構成される管状の鋭い吻針となり、それを宿主の皮膚に突き刺して咽頭にあるポンプで吸血する。使用しないときは口器は頭の中にひきこまれる。 触角は5節からなるが、まれには3節のものもある。 1対の複眼を持つが退化傾向にあり、単純な1対のレンズや受光斑となる種や欠如している種もある。 胸部の3節はつねに癒合し、翅は退化している。脚は毛をつかむのに適するよう変形し、転節は1節となる。その先端には1本の爪がある。 腹部は9節からなり、産卵管は退化し、2つの弁となっている。
不完全変態で卵→幼虫→成虫となる。 卵は産卵管の基底部より出される膠様の物質で一端が宿主の毛に膠着する。遊離末端側には気孔突起と呼ばれる通気孔のある蓋があり、幼虫はこの卵蓋から孵化する。幼虫は成虫と形がよく似ており、孵化直後より雌雄共に吸血する。幼虫は3齢を経て1~2週間程で成虫となる。 成虫は交尾後、ヒトジラミで1日8~10個、一生で約100~200個程度の卵を産む。ケジラミはやや少なく1日1~4個、一生で約40個程度産卵する。寿命はヒトジラミの成虫が約1ヵ月、ケジラミの成虫が約3週間程度である。[2]
シラミは生理的にも形態的にも特定の哺乳類にきわめてよく適応しているので、宿主範囲は限定される。ある1種のシラミは特定の1種、あるいは同属の数種の宿主に限って寄生し、ふつう1つの宿主には1種のシラミだけが寄生する(ヒト、ウシ、および一部の齧歯類は2種のシラミの寄生をうけるが、これは例外的である)。これは系統の離れた宿主にしばしば容易に移行することが知られているノミと非常に対照的である。
またシラミの属はそれぞれ、哺乳類の特定の科またはそれに近縁の科と対応した寄生関係をもつので、宿主とシラミは共進化したと考えられる。
なおシラミは、コウモリ目、アリクイ目、ゾウ目、センザンコウ目、カイギュウ目、クジラ目の真獣類、および単孔類、有袋類には寄生しない[3]。
人間につくシラミ2種のうちヒトジラミは、アタマジラミ Pediculus humanus humanus とコロモジラミ Pediculus humanus corporis の2亜種に分けられる。DNAの違いから、およそ7万年前にコロモジラミがアタマジラミから分かれたと推定されている。このことは人類がその少し前の時代から衣服をまとうようになったとする説の根拠の1つに挙げられている。もう1種はケジラミで、陰部に生息し、これは科のレベルで分類を異にする。
ノミとシラミはともに人間に寄生して吸血し、かゆみを与えるために、よく対にして扱われる。しかし、ノミは蛹を経る完全変態の昆虫のうち、比較的原始的なシリアゲムシ目に近い系統の昆虫から哺乳類寄生性を発達させた系統であると考えられている。それに対して、シラミは蛹を経ない不完全変態の昆虫のうち、カメムシ目に近縁な咀顎目に属し、系統的には大いに異なる。 さらに、しばしば宿主を離脱する種もあるノミには飢餓耐性が強い種が多いが、生涯を宿主体表で過ごすシラミは通常飢餓耐性を欠く。
生活史として、ノミの幼虫が部屋のすみの埃の中などで育つのに対して、シラミは終生を宿主上で暮らす。そのため、入浴や着替えが頻繁に行われれば、シラミは暮らせなくなるが、ノミは必ずしもそうはならず、生息を続ける。それで「シラミは貧乏人に、ノミは金持ちにつく」ともいわれた。
シラミの語源については、白虫の転訛であるという説が有力である。古名はまたキササ、その字体(虱)から半風子(はんぷうし)とも呼ばれる。さらにその形から千手観音という異称もあったことが横井也有の『百虫譜』などにも見え、第二次世界大戦後の大発生期には隠語風にホワイトチイチイと呼ばれた。
シラミにまつわる話は古くから見られ、『古事記』にはスサノオノミコトが大穴牟遅神に八田間の大室で頭のシラミ取りをさせた話があり、昔話の継子譚の中にも、継子が山中で会った老婆のシラミをとってやって福を授けられたと語られるものがある。『古今著聞集』の一話や、曲亭馬琴の『花春虱道行』『花見話虱盛衰記』などにもシラミは登場する。俳句、川柳にもシラミを扱った作品は数多い。
シラミは宿主特異性が高く、ヒトにつくシラミは常にヒトに寄生し定着して生息している。ヒトがシラミに寄生された状態はシラミ症と呼ばれる。シラミ症自体が生命に関わることはないが、シラミの吸血は激しいかゆみを引き起こすため、駆除による治療が必要になる。
シラミの種類によって寄生する部位が異なり、アタマジラミは頭髪、コロモジラミは衣服、ケジラミは陰毛部をそれぞれ主な生息場所としており、それぞれそこで繁殖して数を増やす。卵や幼虫のうちは気付かないことが多いが、成虫が増殖すると吸血する際に激しいかゆみを生じるようになる。このかゆみは、シラミが吸血する際に注入する唾液分泌物と、アレルギーによるものの、二つの作用によって引き起こされると考えられている。また、このかゆみによって皮膚を掻きむしることで、細菌感染症などの原因になることもある。
シラミはそれを保有しているヒトや衣服と接触することによって感染することが多いが、ごくまれに風呂などを介して感染することもある(通常、アタマジラミやケジラミは水中では体毛にしがみつくため水を介した感染は起こりにくい)。なお、アタマジラミに感染しても、プールの水を介して感染する心配はないため遊泳は可能である。ただし、接触感染により感染が拡大するためタオルや水泳帽などの共有は避けるべきである。[4]一般に衛生環境のよくないところで大量発生することが多く、先進諸国ではDDTなどの有機塩素系殺虫剤の使用によってその発生は激減した。しかし発展途上国においては依然多数の患者が存在しており、また先進諸国においても安全性の問題から有機塩素系殺虫剤の使用が規制されて以降、(特に長髪の)学童でのアタマジラミの流行や、路上生活者におけるコロモジラミの流行、また不特定多数との性行為によるケジラミの流行などが問題になっている。
診断にはシラミ個体の寄生を確認することが第一だが、少数個体の寄生では虫体を視認することが困難なことが多い。特にアタマジラミやコロモジラミはすばやく動くので慣れないと見失うことがある。 アタマジラミやケジラミは卵を体毛に膠着させるため、これを確認すればシラミの寄生を確定できるが、ヒトの体毛にはしばしば毛穴内壁の角質が更新剥離したもの(ヘアキャスト)が付着しており、肉眼ではヘアキャストとシラミ卵の区別は困難である。しかしヘアキャストは指でさわると動くのに対し、シラミの卵は髪の毛に産み付けられる際、セメント状の物質で固定されるのでしごいてもほとんど動かない。また顕微鏡および双眼実体顕微鏡、ルーペなどで拡大して観察すれば同定できる。さらにアミノ酸やペプチドと反応して紫色に発色するニンヒドリン試薬を用いると、ヘアキャストは濃く染色されているのに対し、シラミ卵は染色されず白いままとなりシラミ卵の同定は容易となる。
治療には、シラミの成虫から卵にいたるまで完全に駆除することが重要である。コロモジラミについては衣服を熱湯消毒することで効果的な駆除が可能である。アタマジラミやケジラミは体毛に付着して生息するため、洗髪と専用の櫛により物理的に虫体と卵を駆除する方法が有効であるが、一般にこれらの方法で100%の駆除効果は期待できないため、ピレスロイド系の殺虫剤を含む粉末やシャンプーが併用される。また生息場所や産卵場所を無くす為、頭髪や陰毛を剃毛することもある。
ヒトから吸血する3種類のシラミのうち、コロモジラミは吸血してかゆみを起こさせるばかりでなく、病原体のベクターとして重篤な感染症を媒介することがある。コロモジラミによって媒介される感染症としては、発疹チフス、回帰熱(シラミ媒介性回帰熱)、塹壕熱の3種類が知られている。またアタマジラミもごくまれに発疹チフスを媒介することがある。
発疹チフスの病原体は発疹チフスリケッチア Rickettsia prowazekii で、コロモジラミの消化管内で増え、糞に混じって排泄される。また感染したシラミは感染後2週間で死亡する。シラミが吸血した痕を掻いた際、糞やシラミの死骸などに混じった発疹チフスリケッチアが、その刺し口から侵入して感染し、発疹チフスを引き起こす。また人が密集したところでは、糞や死骸に混じったリケッチアを吸い込むことによって経気道感染することもある。
人が大集団で狭いところに住み、不潔な状態になると、シラミは大発生しやすい。そのため、欧米において過去に戦争熱、飢饉熱、船舶熱、刑務所熱などと呼ばれたものの多くはたいてい発疹チフスである。戦争はシラミの好む条件を満たしやすく、発疹チフスが戦局を支配し、歴史の転換の契機になることもあった。例えばナポレオン1世がロシア遠征でヨーロッパ最大級の60万の大軍の大半を失い敗退したのも、フランス軍の中で発疹チフスが大流行したからであったといわれている。
回帰熱はダニやシラミによって媒介されるスピロヘータによる感染症であるが、その1種である回帰熱ボレリア Borrelia recurrentis がコロモジラミによって媒介される。その媒介様式は詳しく判っていないが、このボレリアを保有しているヒトから吸血したシラミが、別のヒトから吸血した場合にのみヒトに感染すると言われている。
第一次世界大戦中に流行した塹壕熱はバルトネラ・クインターナ Bartonella quintana による疾患であり、これもコロモジラミによって媒介される。
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