出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/12/04 10:55:26」(JST)
この項目では、菌類の自家不和合性について説明しています。植物の同名の現象については「自家不和合性 (植物)」をご覧ください。 |
自家不和合性(じかふわごうせい、英語:Heterothallism)とは、菌類に見られるもので、特定の他個体、他系統の株とでなければ有性生殖が成立しない性質のことである。
自家不和合性(Heterothallism)というのは、一つは菌類において使われた言葉である。菌の種によって、有性生殖を単一の株の中で行える、つまり、一つの株だけを培養していても、その中で有性生殖を行うものと、適当な株同士を合わせた時にのみ有性生殖が行われるものがある。この場合の、自分だけでは有性生殖が行えないものを自家不和合(Heterothallic)であると言い、単独でも有性生殖が可能なものを自家和合(Homothallic)であると言う。最初にこの言葉を使ったのは菌類学者のブラケスレー(1904)で、ケカビ目の接合子形成に関してこの言葉を用いた。範囲を広げれば、多くの有性生殖をする生物にも適用し得る言葉でもある。しかしながら、類似の現象で、別に考えた方がよいものもあり、適用が妥当かどうかの判断は難しい。
ケカビ類は配偶子のう接合によって接合胞子のうを形成することで有性生殖を行う。一部の種では単一株を培養している間にも、培地上でどんどん接合胞子のうを形成するが、単独株ではそれを形成しないものの方が多い。そのような種では、好適な株をその株と触れ合わせることで、接合胞子のうの形成を誘発することができる。このようなものが自家不和合であると言われる。
寒天培地の入ったシャーレの、中央から離れた二点にそれぞれの株を接種すれば、その点を中心に菌糸を伸ばす。そして、両者の菌糸が接触した地点で、両側の菌糸から配偶子のうが形成され、それらの間で接合胞子のうの形成が行われる。この場合、ある株を中心に見れば、その種の他の株は、その株と和合であるかそうでないかの二つに分けられる。そして、その二つのグループに含まれる株においては、同一グループ内では不和合、異なるグループ間では和合である。つまり互いに交配可能な二つの型に分かれ、同一型のもの同士では交配できない。
このことは性別があるかのように見られがちであるが、性別とはまた異なった概念である。性別は、交配にかかわる生殖細胞の性的二形に関する型の違いに基づく区別である。ケカビの場合、配偶子のうには大きさや形の差は無く、性別は存在しない。また、一部のケカビ類では配偶子に大小の差があるので、その場合は大きい方を雌性と見ることもできるが、それと株の型とは対応関係があるとは限らない。つまり、片方からは雌性配偶子のうだけが形成されるとは限らないようである。そのため、この区別を表す用語としては、+-を使っている。
種が異なるものであっても、配偶型が好適であれば、配偶子のう形成が誘発できることが知られている。そのため、複数の種にわたって+-を共通に使える。一般にはヒゲカビで定められた+-を他種にも適用している。この+-の型は単一の対立遺伝子によって支配されていることが知られている。
自家不和合性の種でも、単独株が接合胞子のうを作る場合がある。これには二つの場合がある。一つは接合胞子のうを接合なしで作る場合で、これを疑似接合胞子のう(Azygosporium)という。もう一つは、接合が行われている場合で、これは一つの菌糸体に複数系統の核を含む、いわゆる異核共存体である場合に生じることが知られている。
子のう菌や担子菌でも同様の現象が知られる。ただし、支配する遺伝子は一対ではなく、二対のことが多いようである。
卵菌類のミズカビ類においても、これらと似た現象が知られる。ミズカビ類においては、むしろ自家和合性のものが多い。単独株でも、ある程度の期間の培養を行えば、有性生殖が見られるのが普通である。しかし、ワタカビなどの一部に自家不和合性の種がある。
ミズカビ類の有性生殖は、やはり配偶子のう接合によるが、ケカビ類とは異なり、雌雄の性差が明確である。雌性配偶子のうは大きく膨らんで内部に卵胞子を形成し、雄性配偶子のうは細長くて、受精管を雌性配偶子のうに差し入れて受精を行う。
この類の自家不和合なものでは、好適な株を互いに接近させれば、両者がそれぞれに雄性配偶子のうや雌性配偶子のうを形成し始める。この際、片方の株からは雄性配偶子のうが、もう片方の株からは雌性配偶子のうが形成される。つまり雄株と雌株に分かれる訳である。この際の両株から数種のホルモンが分泌され、これらの構造の形成に係わっていることが知られている。
ところで、それではこの類には雄株と雌株があるのかと言えば、必ずしもそうではない。というのは、ワタカビ属のあるもので知られているが、相対的雌雄性(relative sexuality)という現象が見られるのである。先にも述べたように、和合する二つの株を合わせた時、片方は雄性、他方は雌性にふるまうのであるが、さまざまな株を集め、多くの組み合わせで交配を試みると、必ず雄性にふるまうもの、必ず雌性にふるまうもののほか、相手次第で雄性になったり雌性にふるまったりする株が見られる。そして、絶対に雄性でしかふるまわないものと、必ず雌性になるものを両端に並べると、それぞれの株をその中間のさまざまな段階に配置することができるという。
このほか、変形菌においては単相アメーバの接合の際に、細胞性粘菌のタマホコリカビではマクロシストの形成に関して自家不和合性をしめすものが知られている。
より広くこの言葉を適用することもできる。ただ、その適用の対象は十分検討しなければならない。
一般の動物のように雌雄異体のものでは、当然ながら同一個体での接合はできない。しかし、これは雌雄差以外の交配の障壁がある上記のような例とは大きく異なるものである。そこで、自家不和合性という語を適用できるのは、以下のような場合に限るのが普通である。
自家不和合性であると言われるには、互いに交配可能な形態と構造が完成されている、あるいはそれを形成可能な個体があって、しかもそれらの間での交配が必ずしも可能でなく、特定の他個体との間でしか交配が可能でない、という現象が見られなければならない。
こういった視点で見た場合、動物にはそのような例は少ないようだ。多くは雌雄異体であるから、同一個体での接合はあり得ないが、性別が異なっていても。ある系統との間では接合できない、という例はないようだ。雌雄同体の動物、例えばミミズやフジツボでも同一個体内での交配は普通は行われないが、どうしても相手がいない時には自家受精が行われる例も知られる。
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テンプレート:生物分類表 クモノスカビは、菌界・接合菌門・接合菌綱・ケカビ目・ケカビ科(あるいはユミケカビ科)に属するカビ(Rhizopus)の和名である。基質表面をはう菌糸の様子がクモの巣を思わせることから、その名がある。
クモノスカビは、湿った有機物表面に出現する、ごく普通のカビである。空中雑菌として出現することも多い。
体制はケカビに似ている。菌糸体は多核体の菌糸からなり、基質中に菌糸をのばすが、基質表面から気中へと匍匐菌糸をのばすのが特徴である。匍匐菌糸は基質の上をはい、基質につくとそこから菌糸をのばす。そのため、ケカビに比べると、コロニーの成長が早く、あっというまに広がる。基質の表面に広がる気中菌糸は、その表面に水滴がつき、きらきらと輝き、クモの網のように見える。
無性生殖は、胞子のう胞子による。胞子嚢柄は匍匐菌糸が基質に付着したところから出て、その下には仮根状菌糸が伸びる。胞子のう柄はほとんど分枝せず、先端に大きな胞子のうを1つつける。胞子のうは、ケカビのものによく似ているが、胞子のう柄の先端がすこし広がって胞子のうに続き、胞子のう内部の柱軸になめらかに続いている(ケカビでは、胞子のう柄は胞子のうのところでくびれる)。このような胞子のう直下のふくらみをアポフィシスと呼び、ケカビ目の属の分類では重要な特徴とされる。ただし、ユミケカビ(Absidia)ほど明瞭ではないので、見分けにくい場合もある。
胞子は、胞子嚢の壁が溶けることで放出される。はじめは壁がとろけてできた液粒の中に胞子が入った状態だが、すぐに乾燥し、柱軸も乾いて傘状に反り返り、その表面に胞子が乗った状態になる。クモノスカビの胞子はケカビなどにくらべて乾燥に強そうな、丈夫な表面を持ち、条模様が見られるのが普通である。
有性生殖は、ケカビと同じように、配偶子のう接合によって接合胞子のうを形成する。一部の種をのぞいては自家不和合性なので、接合胞子のうを見掛けることは少ない。接合胞子のう柄はH字型で、丸くふくらむ。接合胞子のうは黒褐色に着色し、その表面は凹凸がある。
クモノスカビは、基本的には腐生であるが、弱い寄生菌として、植物の病原体になる場合がある。食物の上に出現することも多い。モモなどの柔らかい果実について、その腐敗を早めることもある。
極めて成長が早いので、微生物の培養時にコンタミとしてこれが侵入すると、一夜にして全てを覆いつくす。胞子もよく飛ぶのでいやがられる。
他方、コウジカビを使う日本以外のアジア全域において、紹興酒などの酒の醸造で麹に用いられたり、インドネシアでは茹でた大豆に生やしてテンペ(Tempeh)という食品にする例がある。
100を越える種が記載されている。形態が単純で分類が難しい類でもある。実際の種数は十数種といわれる。
-クモノスカビ属
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