出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/08/19 17:39:24」(JST)
ケカビ属 | ||||||||||||||||||
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ケカビの大型種・Mucor mucedo
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分類 | ||||||||||||||||||
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種 | ||||||||||||||||||
下記参照 |
ケカビは、菌界・接合菌門・接合菌綱・ケカビ目・ケカビ科に属するカビであり、ケカビ属(Mucor)の総称である。湿気の多い有機物上に出現する、ごく普通のカビである。
目次
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ケカビ属は接合菌類の中で、もっとも基本的な体制を持つものと見なされている。基質中に菌糸を伸ばし、空中に胞子嚢柄を伸ばし、その先端に胞子嚢をつける。
菌糸体は、隔壁のない、多核体の菌糸からなり、ところどころから先が細くなった仮根状菌糸を伸ばす。菌糸は基質中か、その表面を這い、空中へ伸びることはない。古くなった菌糸には、所々に隔壁を生じ、時には一部が厚膜胞子となる。
基質表面、あるいは基質中の菌糸から、上向きに胞子嚢柄を伸ばす。当初は先端が丸い単なる菌糸であるが、次第に先端が丸く膨らみ、胞子嚢となる。胞子嚢は種類のよって大きさがずいぶん異なり、大きいものは高さ数cmにも達する。正の屈光性があり、光の方へ向けて曲がる。分枝を出さないものもあるが、多くの場合は胞子嚢が形成された後に、その下から側方に枝を出し、それが上向きに伸びて新たな胞子嚢をつけるという仮軸状の分枝を形成する。胞子嚢柄が古くなると、途中の側面から小さい枝を出すこともある。
種によっては、高く伸び上がった胞子嚢柄と、基質からほとんど立ち上がらない短い胞子嚢柄の2通りを形成する。
無性生殖として、胞子嚢胞子を作る。菌糸体が成長を始めると、すぐに胞子形成を活発に行う。胞子嚢柄は菌糸から枝分かれして上に向かって伸びる。
やがて、先端が膨らみ、球状の胞子嚢を作る。胞子嚢内部の原形質は細かく分裂し、多数の胞子嚢胞子になる。この時、胞子嚢の中心部は分裂せずに、胞子嚢の柄から続く、ドーム状、球形、または楕円形をした、胞子嚢の芯のような形で残る。これを柱軸(ちゅうじく)という。
胞子嚢胞子が成熟すると、胞子嚢の壁は溶けるようにして崩れ、胞子を放出する。胞子は好適な基質の上で発芽し、新たな菌糸体を形成する。なお、発芽の時には、胞子嚢胞子は大きく膨らむ。
胞子嚢柄が、先端の胞子嚢の少し下から伸び出し、新たに胞子嚢を作ることを繰り返し、仮軸状に分枝した形を取るものも多い。
有性生殖は、接合胞子を作る形で行われる。好適な菌糸が接近すると、両者から先の膨らんだ菌糸が伸びる。これを配偶子嚢という。互いに接触する配偶子嚢に形の差がないので、雌雄の分化はない。配偶子嚢が接触すると、両者の先端部が融合した細胞が作られ、それが大きく膨らんで、接合胞子嚢へと発達する。成熟した接合胞子嚢は表面が凸凹で、濃い色をした厚い壁に覆われる。その内部には1個の大きな接合胞子が形成されている。接合胞子の内部では減数分裂が行われ、発芽すると胞子嚢を形成する。
ほとんどのケカビは自家不和合性で、好適な株同志が接触しない限りは接合胞子を作らない。
ケカビは、接合菌の中でもっとも普遍的に見られるものであり、土壌、糞、食品、その他、様々な湿った有機物の上に出現する。種によっては広く様々な場所に出現するものもあり、糞など特定の基質に特によく出現するものもある。
食品に発生する場合もある。また、モモなどの柔らかい果実に発生して腐敗させることもある。
特に強い病原性を示す、というものはないが、免疫力が低下した病人の肺で増殖してムコール肺症を引き起こす例もある。発熱や胸痛、呼吸困難といった症状を発する。ケカビに冒される時点で患者の免疫力が極めて低下した状態にあるので、予後は良くない。
役に立つ例としては、インドネシアでは茹でた大豆にクモノスカビを生やしてテンペ(Tempeh)という食品を作るが、稀にケカビを利用している製造者もいる。
先述のように、ケカビはケカビ目においてもっとも基本的な体制を持つものと考えられてきたので、ケカビ目には常にケカビ科が置かれ、ここにケカビ属とそれに類似した属が共に含まれる。ただし、その内容は時代によって大きく変遷した。広く取った場合には、ケカビ目とほぼ同じにする説もあるが、多くの場合、小胞子嚢や分節胞子嚢などといった特殊なものを形成せず、多数の胞子を含む胞子嚢のみを形成する菌だけを含める。さらに狭義に取って、その中でまとめられそうな群を独立させた残り、という説もある。ケカビ目の項では、このもっとも狭義の場合に近い体系を紹介した。そこでケカビ科に含まれているものはかなり似た形質を持つといって良かろう。
また、ケカビ属はこの類でもっとも古く認められた属の1つであるから、ここに一端所属させたものの、後に移動されたものは非常に多い。
その中でもっともよく似ているのはParasitellaである。無性生殖器官の形態ではケカビ属と区別できない。好適なケカビ類があれば、吸盤状の菌糸を付着して寄生するが、寄生せずとも腐生的に生育する。配偶子嚢に短い突起を生じるので別属とされる。ツガイケカビ(Zygorhyncus)も似ているが、自家和合性で配偶子嚢にはっきりした大小差(性的二形)があるのが特徴である。Actinomucorも胞子嚢単体ではケカビと区別できないが、頂性の大型の胞子嚢と側枝の小型の胞子嚢が分化することと、気中菌糸を出す点が異なる。
クモノスカビやユミケカビなどは、胞子嚢にアポフィシスがあることで区別できる。また、これらのカビの多くは気中菌糸を発達させる。
科が異なっているが、よく似ているのがエダケカビ科のバクセラ Backusellaである。ケカビにそっくりの大きな胞子嚢を長い柄の先につけるが、菌糸のあちこちから小胞子嚢や分生子様の単胞子性小胞子嚢を出すのが特徴である。小胞子嚢を持つためにエダケカビ科に属させているが、小胞子嚢はさほど目立たないので、一見はケカビにしか見えない。実際、この属として最初に記載されたB. circinaは当初はケカビ科として扱われた。また、それより前に記載されていたB. lamprosporusは、その当時はケカビ属に所属させていた。
また、クサレケカビ属は大型の胞子嚢しか作らないものが多く、その点ではケカビに似るが、胞子嚢に中軸がない点で大きく異なる。ただし、これに含まれていた頃はisabellina節として扱われていた1群は、他のクサレケカビ類とはやや異なった性質を持ち、ケカビに近いところがあったため、時にこれをMicromucorと呼んでケカビ科に含めたり、あるいは節としてケカビ属に置いたりしたことがある。2000年代当初から現在では、独立させてUmberopsisと呼んでいる。
他の接合菌では、胞子嚢の柄が特別な形で分枝したり、胞子嚢が特殊な形になっていたり、様々な分化が見られるが、ケカビではそういった特徴がない。それだけに、明確な特徴が捉えにくく、同定が難しい。しかも、種数が多く、それぞれに変異の幅も広いので、分類はかなり混乱している。種として記載されている種数は600を越える。実際の種数はその10分の1か、それ以下と見られる。胞子嚢の形態や大きさ、胞子嚢胞子の形などで分類が行われている。いくつかの節に分ける分類も行われている。普通は以下のように分ける。
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テンプレート:生物分類表 クモノスカビは、菌界・接合菌門・接合菌綱・ケカビ目・ケカビ科(あるいはユミケカビ科)に属するカビ(Rhizopus)の和名である。基質表面をはう菌糸の様子がクモの巣を思わせることから、その名がある。
クモノスカビは、湿った有機物表面に出現する、ごく普通のカビである。空中雑菌として出現することも多い。
体制はケカビに似ている。菌糸体は多核体の菌糸からなり、基質中に菌糸をのばすが、基質表面から気中へと匍匐菌糸をのばすのが特徴である。匍匐菌糸は基質の上をはい、基質につくとそこから菌糸をのばす。そのため、ケカビに比べると、コロニーの成長が早く、あっというまに広がる。基質の表面に広がる気中菌糸は、その表面に水滴がつき、きらきらと輝き、クモの網のように見える。
無性生殖は、胞子のう胞子による。胞子嚢柄は匍匐菌糸が基質に付着したところから出て、その下には仮根状菌糸が伸びる。胞子のう柄はほとんど分枝せず、先端に大きな胞子のうを1つつける。胞子のうは、ケカビのものによく似ているが、胞子のう柄の先端がすこし広がって胞子のうに続き、胞子のう内部の柱軸になめらかに続いている(ケカビでは、胞子のう柄は胞子のうのところでくびれる)。このような胞子のう直下のふくらみをアポフィシスと呼び、ケカビ目の属の分類では重要な特徴とされる。ただし、ユミケカビ(Absidia)ほど明瞭ではないので、見分けにくい場合もある。
胞子は、胞子嚢の壁が溶けることで放出される。はじめは壁がとろけてできた液粒の中に胞子が入った状態だが、すぐに乾燥し、柱軸も乾いて傘状に反り返り、その表面に胞子が乗った状態になる。クモノスカビの胞子はケカビなどにくらべて乾燥に強そうな、丈夫な表面を持ち、条模様が見られるのが普通である。
有性生殖は、ケカビと同じように、配偶子のう接合によって接合胞子のうを形成する。一部の種をのぞいては自家不和合性なので、接合胞子のうを見掛けることは少ない。接合胞子のう柄はH字型で、丸くふくらむ。接合胞子のうは黒褐色に着色し、その表面は凹凸がある。
クモノスカビは、基本的には腐生であるが、弱い寄生菌として、植物の病原体になる場合がある。食物の上に出現することも多い。モモなどの柔らかい果実について、その腐敗を早めることもある。
極めて成長が早いので、微生物の培養時にコンタミとしてこれが侵入すると、一夜にして全てを覆いつくす。胞子もよく飛ぶのでいやがられる。
他方、コウジカビを使う日本以外のアジア全域において、紹興酒などの酒の醸造で麹に用いられたり、インドネシアでは茹でた大豆に生やしてテンペ(Tempeh)という食品にする例がある。
100を越える種が記載されている。形態が単純で分類が難しい類でもある。実際の種数は十数種といわれる。
-クモノスカビ属
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