出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/03/15 11:32:34」(JST)
牛肉(ぎゅうにく)は、ウシの肉。 ビーフ(英: Beef アメリカではBeefはVeal,仔牛肉とは別の概念である[1])ともいう。
食用に処理されたウシの肉をいう。肉牛品種(黒毛和牛など)の肉が多いが、廃乳牛や去勢し肥育した乳牛の肉も売られている。
ウシは、ほぼすべての部位の肉を食べることが可能とされている(ただし近年では、健康なウシの場合は問題がないものの、一部にBSE問題に鑑みて食用とし難い危険部位が存在する)。加熱して食すほか、ステーキでは熱で蛋白質が変質しきらない状態で食べるレアやミディアムなどの焼き加減があり、刺身として生食する場合もある。ただし、牛は人間を終宿主とする寄生虫の一種である無鉤条虫の中間宿主であり、幼虫(無鉤嚢虫)は主に牛の筋肉に寄生している。そのため牛肉を生や、それに近い状態で食べることは、寄生虫感染のリスクを伴う。一般的に、60°C以上に加熱または-10°C以下で10日以上冷凍した肉は安全とされる。また、日本では生レバーも食用にされるが、健康な牛に於いても約10%程度がカンピロバクターを保菌している事が厚生労働省の研究班から報告されており、食中毒のリスクを伴う。
西洋料理のタルタルステーキやカルパッチョなど、一部の食文化では牛肉の生食に薬味を添える習慣もある。この薬味によって寄生虫や食中毒のリスクを軽減させているといわれるが科学的な根拠はない。強いていえば薄く切る、また叩くことで寄生虫のリスクを減らすことができる可能性がある。
牛肉は他の食用肉と比べ冷凍保存に向き、冷凍庫で凍結させることで家庭用冷蔵庫(2ドア)なら半年、業務用冷凍庫なら1年は持つとされている。これは一般に鶏肉や豚肉を得る上での肥育期間が牛肉を得る上での肥育期間に比べて短いため、それらの肉は筋繊維の構造が急激な肥育で牛肉に比べてほぐれやすくなっている点に関連付けられている。
なおヒンドゥー教では牛が神聖な動物であるとされ、牛肉の食用を禁じている。そのため大抵のヒンドゥー教徒は、牛を農耕と牛乳生産へ利用こそすれ、食用として肥育されていない。
日本では645年(大化元年)に牛馬を生贄(いけにえ)にした例(『日本書紀』皇極天皇元年)などもある。また675年(天武天皇5年)4月17日 (旧暦)のいわゆる肉食禁止令(『日本書紀』)で、4月1日 (旧暦)から9月30日までの間、稚魚の保護と五畜(牛・馬・犬・ニホンザル・ニワトリ)の肉食を禁止されていた。戦国時代にはキリスト教イエズス会の宣教師、キリシタン大名をはじめ松永貞徳著『慰草』(1652年)によると京都などでもひろくワカ(葡: Vaca)として牛が食べられていた。豊臣秀吉は小田原征伐の時、高山右近、蒲生氏郷、細川忠興とともに牛をたべている。江戸時代の1690年(元禄3年)近江彦根藩は「牛肉味噌漬」を「薬喰い」として作り売っていた。健康増進や病人の養生のために食用されていたが、食用家畜として飼育されている牛は皆無だったことから、極めて高価な「薬」であったらしい。ただし廃用農耕牛は肉質は硬いが毒があるわけではなく、実際にはこれが食用に回されていた。彦根藩主井伊家は毎年徳川将軍家(江戸)と徳川御三家(名古屋、和歌山、水戸)に「牛肉味噌漬」などを献上していた。また、同時代には牛肉の栄養に着目、寒い時期に乾肉を生産していた。江戸ではももんじ屋などで食べるようになった。 [1]本格的に牛肉が食べられ始めたのは、明治の文明開化以降であり、牛なべ屋(すき焼き)が流行した。また、1872年(明治5年)1月24日、明治天皇が牛肉を食べたといわれているが、皇族用の御料牧場では肉牛は飼養管理されていない(2011年現在)。この日本での牛肉事情であるが、国産牛肉が一頭ずつ大切に肥育する飼育方法が長らく取られていたため、従来は豚肉よりも高価な肉とされていた。しかし1991年(平成3年)4月からの牛肉の輸入自由化によって日本国外から安価な牛肉が入ってくるようになったため、家庭の食卓に頻繁に上るようにもなっている。日本各地の豚肉消費量は一定であるが、関西地方は牛肉の一世帯当りの購入額が多く、その分「豚肉」が少ない。なお、関西では、「肉」といえば牛肉の事を指す。ちなみに、日本の市町村で牛肉の消費量が最も多いのは和歌山市である。
一方、サーロインのサーは文字通り、サー(英語:sir)、つまり、爵位を意味し、時の国王がそれを食した時にあまりにもおいしいことから騎士(英語:knight)の称号をその部位に与えたことを由来される。その後、この名称が定着した。
フランスをはじめ欧米では成牛肉(フランス語: ブッフ bœuf:生きた牛と死んだ牛の肉両方を指す)と、子牛肉(フランス語: ヴォー veau )は異なる流通ルートであり、料理への利用も区別されるのが一般的である。子牛肉は総じてどの部位も赤みが少なく柔らかいのが特徴である。
仏語のブッフから来る英語のビーフが「生きた牛」でなく「死んだ牛の肉」を指すのは、ノルマン・コンクエスト後にイングランドを支配したフランス人上流階級(上流階級なのでイングランドで生きた牛に触れることはまず無い)が牛肉を「ビュフ」と称し、それを見たイングランド人が牛の死肉を「ビーフ」と呼び始めたことに由来する。ちなみに豚肉をポークと称するのも同様の理由からである。逆に鶏肉はチキンとよばれ、生体と食肉で同語であるが、これは被支配者階級でも鶏肉を食する事ができたからである。
和牛とは品種を指す言葉であり、国産牛とは、国内における飼養期間が外国における飼養期間(2ヶ国以上の外国において飼養された場合には、それぞれの国における飼養期間)よりも長い牛を国内でと畜して生産されたものを指す。以前は日本国内で3か月以上飼育された牛を指した。そのため外国産和牛が存在する。但し、食肉流通業界の自主規制と農林水産省の指導により、現在において日本国内で外国産牛が和牛として流通する事は事実上不可能になっている。
2004年(平成16年)12月から、「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法」(牛肉トレーサビリティ法)の施行により、日本産牛肉については、牛の出生から屠畜場で処理されて、牛肉に加工され、小売店頭に並ぶ一連の履歴を10桁の個体識別番号で管理し、取引のデータを記録することになった。このため、スーパーマーケットや精肉店などの小売店で販売されたり、焼肉、レストラン、しゃぶしゃぶ店などで使われたりする日本産牛肉には、小間切肉や挽肉など一部の例外を除き、10桁の個体識別番号の表示が義務付けられた。
なお、販売店や商品によっては、仕入れなどの取引の関係から、複数の牛(最大50頭)を一つにまとめたロット番号で表示している場合もあり、この場合には、一度、販売店などに問い合わせるか、販売店などが開設するウェブサイトへアクセスするなどして、ロット番号から個体識別番号を聞いたり、探し出したりする手順が加わる。
実際に販売されている牛肉の履歴データを確認するためには、パソコンからインターネットを通じて、独立行政法人家畜改良センターのウェブサイト https://www.id.nlbc.go.jp/top.html へアクセスするか、または、携帯電話用のウェブサイト http://www.id.nlbc.go.jp/mobile/ へアクセスし、この10桁の個体識別番号を入力して、自宅だけでなく、携帯電話の電波が店内に届いていれば、売り場などでも携帯電話で確認することが可能である。また、店舗によっては、パソコンを備え付けたり、上記家畜改良センターのウェブサイトへアクセスして得た内容を印刷して掲示するなどの工夫をしている。
なお、10桁の個体識別番号を入力して表示される情報は
である。
このほか、個人情報の公表に関して同意が得られた管理者については、管理者の氏名または名称及び住所が表示される。
100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 800 kJ (190 kcal) |
炭水化物
|
0 g
|
糖分 | 0 g |
食物繊維 | 0 g |
脂肪
|
12.4 g
|
飽和脂肪酸 | 4.619 g |
一価不飽和脂肪酸 | 6.5 g |
多価不飽和脂肪酸 | 0.406 g |
タンパク質
|
19.9 g
|
トリプトファン | 0.223 g |
トレオニン | 0.938 g |
イソロイシン | 0.927 g |
ロイシン | 1.715 g |
リシン | 1.906 g |
メチオニン | 0.538 g |
シスチン | 0.203 g |
フェニルアラニン | 0.798 g |
チロシン | 0.741 g |
バリン | 0.995 g |
アルギニン | 1.355 g |
ヒスチジン | 0.746 g |
アラニン | 1.234 g |
アスパラギン酸 | 1.939 g |
グルタミン酸 | 3.254 g |
グリシン | 0.979 g |
プロリン | 0.893 g |
セリン | 0.819 g |
ビタミン | |
ビタミンA相当量
β-カロテン
ルテインと
ゼアキサンチン |
(1%)
4 μg (0%)
0 μg0 μg
|
チアミン (B1) |
(7%)
0.084 mg |
リボフラビン (B2) |
(19%)
0.224 mg |
ナイアシン (B3) |
(24%)
3.588 mg |
ビタミンB6 |
(31%)
0.399 mg |
葉酸 (B9) |
(1%)
3 μg |
ビタミンB12 |
(110%)
2.64 μg |
ビタミンC |
(0%)
0 mg |
ビタミンD |
(1%)
5 IU |
ビタミンK |
(1%)
1.5 μg |
ミネラル | |
カルシウム |
(1%)
6 mg |
鉄分 |
(19%)
2.41 mg |
マグネシウム |
(6%)
22 mg |
セレン |
(40%)
28.1 μg |
リン |
(27%)
192 mg |
カリウム |
(7%)
326 mg |
ナトリウム (塩分の可能性あり) |
(5%)
80 mg |
亜鉛 |
(75%)
7.12 mg |
他の成分 | |
水分 | 67.4 g |
コレステロール | 68 mg |
成分名「塩分」を「ナトリウム」に修正したことに伴い、各記事のナトリウム量を確認中ですが、当記事のナトリウム量は未確認です。(詳細) |
|
|
|
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
牛肉は動物性蛋白質、鉄、ビタミンB群などに富む。その代表的なものを列挙する。
牛肉のブランドは、産地(地理的表示)、血統(品種)、枝肉の格付け、飼育法などにより、ある一定の基準を満たしたものに付けられているのが一般的である。ブランドの地理的表示には、同じ地域で肥育されたとしても、ある生産者組合に加入している者が肥育した場合のみ表示が許されるのが一般的である。日本では各都道府県ごとに名称が整理・統一されている場合もあるが、都道府県内の地域ごとにブランド名が異なることが多い。また、地域ごとではなく農協系[4]と非農協系[5]との間でブランド名が異なっている長野県の例や、栃木県に見られるように小売や飲食店段階の民間流通業者が、生産地域とは関係なく命名している例もある[6]。
日本食肉格付協会による格付けでは、歩留等級がA - C(Aが最も良い)、肉質等級が5 - 1(数字が大きいほど良い)となっており、「A-5」が最も良い[7]。ブランド牛肉は、同協会の格付けを定義に加え、ある一定の規格以上の枝肉に呼称を認めるのが一般的であるが、神戸ビーフのように同協会の格付け項目の一部を用いているもの、近江牛や松阪牛などのように全く格付けを利用していないもの、あるいは、熊野牛のように同協会の格付けを用いても用いなくてもいいものもある。
一般に、格付けの低いものまで含めた方が流通量を確保でき、ブランドの知名度を上げることが容易ではあるが、ブランドの信頼は落ちる。その場合、品評会での数頭の高評価を以って消費者にPRし、全体のブランド価値を上げようと試みることが多々見られる。逆に、ブランドの信頼を重視して肉質等級を5のみに限定すると、ブランドの知名度を得られるほどの流通量を確保し辛い。大阪食肉市場での傾向を見ると、主に銘柄牛肉に用いられる和牛去勢牛の肉質等級は、5等級が大きく比率を低下させる一方、4等級や3等級がその比率を上げており、品質が最高の5等級の牛肉を努力して生産するより、低い等級でも名の通った牛肉を生産する方が市場の主流となってきている[8]。
かつて松阪牛・飛騨牛・佐賀牛などは肉質等級を5等級に限定し、神戸ビーフは脂肪交雑 (BMS) をNo.7以上としていたが、2001年(平成13年)にBSE問題や産地偽装事件が発生すると、2003年(平成15年)の牛肉トレーサビリティ法の施行と前後して現在の基準まで下げた。2010年時点で肉質等級を5等級に限定しているブランド牛肉は、全国で唯一仙台牛だけとなっている[9]。
以下に、肉質等級で主なブランドを分けて記載する。
肉 質 |
5 | 仙 台 |
佐 賀 |
神 戸 |
前 沢 |
若 柳 |
常 陸 |
阿 波 |
宮 崎 |
米 沢 |
大 和 |
飛 騨 |
熊 野 |
The ・ |
石 垣 |
松 阪 |
伊 賀 |
近 江 |
三 田 |
し ま |
千 屋 |
No.12 | B M |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
No.11 | |||||||||||||||||||||||
No.10 | |||||||||||||||||||||||
No.9 | |||||||||||||||||||||||
No.8 | |||||||||||||||||||||||
4 | 仙 台 |
No.7 | |||||||||||||||||||||
佐 賀 |
No.6 | ||||||||||||||||||||||
但 馬 |
No.5 | ||||||||||||||||||||||
3 | 宮 崎 |
No.4 | |||||||||||||||||||||
No.3 | |||||||||||||||||||||||
2 | 飛 騨 |
豊 後 |
No.2 | ||||||||||||||||||||
1 | No.1 |
ウィキメディア・コモンズには、牛肉に関連するカテゴリがあります。 |
ウィクショナリーに牛肉の項目があります。 |
国立国会図書館 資料請求記号:DM456-J16 「ビーフ産業の研究」 ‐オーストラリアンビーフのすべて‐
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規定 | 特定原材料等の名称 | 理由 | 表示の義務 |
省令 | 卵、乳、小麦、えび、かに | 発症件数が多い | 表示義務 |
そば、落花生 | 症状が重篤であり生命に関わるため特に留意が必要なもの(症状が重篤な割合が多いもの等) | ||
通知 | あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン | 過去に一定の頻度で発症件数が報告されたもの | 表示を奨励(任意表示) |
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