出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/02/04 21:59:16」(JST)
呼吸鎖複合体(こきゅうさふくごうたい)とは、細胞呼吸(好気呼吸、嫌気呼吸関わらず)を行うほとんどの生物に見られる膜(ミトコンドリア内膜、チラコイド膜、原核生物の細胞膜)に存在する分子量10万から100万程度の巨大タンパク質である。呼吸鎖複合体 I, II, III, IV からなり、主に電子伝達系に関与している。またATP合成酵素を呼吸鎖複合体 V とする事もある。呼吸鎖電子伝達系、呼吸鎖、複合体などとも呼ばれる。
呼吸鎖複合体は以下の種類に分けられる。
複合体Iは NADH からユビキノンへ電子伝達を行う反応を担い、正しくは「NADHデヒドロゲナーゼ (ユビキノン)」と言う。詳しい反応については電子伝達系の記事を参照。NADH を電子伝達体に用いる生物群は全て複合体I を所持している。複合体I は以下の構成を示している。
最小機能単位は原核生物の複合体 I である。膜貫通型サブユニットおよび細胞質に突出する表在性サブユニットからなり L 字構造を取っている。表在性サブユニットの構造が2006年に、膜貫通型サブユニットも含めた全体構造が2010年に明らかにされた。
電子伝達は以下の手順で行われる。
ユビキノールは膜内を拡散し、ユビキノールを還元する複合体III あるいはIV(原核生物の複合体IV はユビキノールを還元する)に電子伝達をおこなう。
複合体I はもともと水素酸化型 [NiFe]-ヒドロゲナーゼを起源に持つと言われている[誰によって?]。その後、NADH 酸化能、フラビン (FMN) の獲得および NiFe 活性中心を失い、現在の形に至ったと考えられている。シアノバクテリアにも複合体 I は存在し、「NADPH:プラストキノン酸化還元酵素」として稼動していると言われているが詳細は明らかになっておらず、今後の研究が待たれる。
複合体II はコハク酸の酸化およびフマル酸の還元の両方向の反応を担い、以下の役割をになう。
呼吸鎖複合体では唯一、プロトンの電気化学的ポテンシャル形成には関与しないが、嫌気条件の反応と共役して複合体 I のプロトンポンプ機構を稼動させるシステムをになう。
複合体II は以下の構成からなる。
好気的な電子伝達は以下の手順で行われる。
収支式は
嫌気的な電子伝達は以下の手順で行われる。
収支式は
複合体IIはフマル酸還元酵素を起源とすると言われている[誰によって?]。その後ユビキノン酸化能などを獲得していき、現在の形になったと考えられる。
複合体IIIはユビキノールからシトクロム cに電子伝達を行い、正しくは「ユビキノール:シトクロムc 酸化還元酵素」と呼ばれる。好気呼吸を行う真核生物はすべてミトコンドリア内膜に複合体 III を所持している。また、葉緑体のシトクロム b6/f 複合体は複合体 III に対応する。現在、ウシシトクロム bc1 複合体の立体構造が明らかになっている。複合体 III の構成は以下のようになっている。
葉緑体ではシトクロム b のヘムが b6 であり、シトクロム c1 の代わりにシトクロム f およびサブユニット IV が結合している。
電子伝達は以下の手順で行われる。
ただし、シトクロム b でのスカラー反応により、以下の電子伝達も行われる。
収支式は電子伝達系の記事を参照。
複合体IIIはシトクロム b を起源に Fe-S タンパク質およびシトクロム c が付加されてできたとされている。
複合体IVは還元型シトクロムcあるいはユビキノール(真核生物はシトクロムc、一部の原核生物はユビキノールあるいはメナキノール)から最終電子受容体へ電子伝達を行う。シトクロムcを酸化するものは「シトクロムcオキシダーゼ」と呼ばれる。電子伝達の最終の反応をになう重要な酵素であり、この酵素の存在がゆえに好気呼吸が成立すると言っても過言ではない。好気呼吸を行う全生物がこの複合体を所持している。現在、脱窒細菌である Paracoccus denitrificans の複合体 IV の立体構造が明らかになっている。複合体 IV の構成は以下の通りである。
サブユニットI, IIでシトクロムcオキシダーゼ活性を発揮することが明らかになっている。また、上記のサブユニット構成は真核生物のものだが、原核生物はサブユニットI に配位されているヘムの種類が異なっている(ヘムb,oなど)。
電子伝達は以下の手順で行われる。
収支式は電子伝達系の記事を参照。
複合体IVは嫌気呼吸の硝酸塩呼吸をになう NOR(一酸化窒素還元酵素)および N2OR(亜酸化窒素還元酵素)を起源に持つとされている。その後、これらの酵素が酸素への耐性を獲得したものが複合体IVとされている。
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