出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/11/22 04:37:54」(JST)
IUPAC命名法による物質名 | |
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(RS)-2-(2-chlorophenyl)-2-methylamino-cyclohexan-1-one
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臨床データ | |
胎児危険度分類 |
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法的規制 |
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投与方法 | 静注, 筋注, 吸入, 経口, 局部 |
薬物動態データ | |
生物学的利用能 | 93% 筋注, 17% 経口 |
代謝 | 肝臓 |
半減期 | 2.5~3時間 |
排泄 | 腎臓(>90%), 尿 |
識別 | |
CAS番号 | 6740-88-1 |
ATCコード | N01AX03 N01AX14 |
PubChem | CID: 3821 |
DrugBank | APRD00493 |
KEGG | D08098 |
化学的データ | |
化学式 | C13H16ClNO |
分子量 | 237.725 g/mol |
ケタミン(Ketamine)は、アリルシクロヘキシルアミン系の解離性麻酔薬である。第一三共株式会社から麻酔薬のケタラールとして販売され、静脈注射および筋肉注射剤がある。解離性麻酔薬であるため、他の麻酔薬と比較し呼吸を抑制しない大きな利点がある。ケタミンは、世界保健機関による必須医薬品の一覧に加えられている。麻酔薬として、特に獣医師や、大型動物を実験に用いる研究機関では、常備薬である。
乱用薬物でもあるため、日本では2007年1月1日より、麻薬及び向精神薬取締法の麻薬に指定されている。2012年の世界保健機関薬物専門委員会は、深刻な乱用がある国でも、他の麻酔薬より使用しやすく安全なため、ヒトや動物の麻酔のために容易に利用できることを確保すべきであるとしている[1]。
既存の治療に反応しない治療抵抗性うつ病に対する、投与から2時間での迅速な効果や[2]、自殺念慮の軽減作用もみられており[3]、アメリカでの臨床現場でうつ病に対して適応外使用され[4]、イギリスでは2014年に、難治性のうつ病に対する使用が承認された[5]。伴って製薬会社は、ケタミン様薬物の臨床試験を進めている[4]。しかしながら、長期的な安全性はまだ未知である[6]。
1962年、アメリカ合衆国の製薬会社パーク・デービス社によって、同社が開発した麻酔薬のフェンサイクリジン (PCP) の代用物として合成された[7]。
常温常圧においては固体で、白い粉末状の物質。融点は314.74度で、融解性である。ギ酸に非常に解けやすく、水、エタノールに解けやすく、また、無水酢酸やジエチルエーテルには殆ど溶けない。pHは3.5~5.5で、水溶液は酸性。
半減期はおよそ3時間。持続投与された場合、蓄積はされにくいが、代謝産物にも作用がある。
他の解離性麻酔薬と同じように大脳皮質などを抑制し、大脳辺縁系に選択的作用を示すため、その他の麻酔薬のように呼吸を抑制しない。
NMDA受容体拮抗薬であり、中枢神経系のシナプス後膜にあるNMDA受容体に選択的に働き、興奮性神経伝達をブロックする。
ケタミンはNMDA受容体に対する拮抗薬として働くだけでなく、モノアミン輸送体を阻害する[8]。そのことによるカテコールアミン遊離作用がある。そのため、交感神経を刺激し、気管支拡張作用、頻脈、昇圧作用を示す。
内臓に対する効果よりも体の浅層における麻酔効果が高く、麻酔から覚醒した後も鎮痛作用は持続している。
副作用として悪夢を引き起こすことが多いことが知られている。嘔吐中枢の化学受容器引き金帯を刺激し、嘔吐を誘発する。
耐性は形成される[1]。離脱症状を起こすという証拠はない[1]。
モルヒネの耐性形成を抑制し退薬発現を抑制することが報告されている。
気管支拡張作用のため、気管支喘息を持つ患者にも比較的安全に使用できるが、脳血管障害、虚血性心疾患、高血圧の患者にはあまり使用されない。呼吸抑制作用が弱く、患者は麻酔中でも自発呼吸を行うことが可能。呼吸抑制作用は少ないが分泌物が多くなるため注意が必要。ただし、大量では呼吸抑制が現れる。
多くの麻酔薬では血圧を下げる併用があるが、ケタミンでは血圧を上げることが多い。そのため、プロポフォールやフェンタニルなどの血圧を下げる麻酔薬と併用することも多い。プロポフォール、ケタミン、フェンタニルを使用する麻酔は、PKF麻酔と呼ばれる。
皮膚表面の手術に使用されることが多い。
脳圧、眼圧を上昇させるため、脳外科の手術や緑内障患者には使用されにくい。精神的な副作用や脳圧の上昇はベンゾジアゼピンの併用で少なくなるともいわれる。
海外ではそうではないが、日本では麻薬及び向精神薬取締法の麻薬に指定されたことにより、使用は大きく制限されている。
ケタミンは血圧や呼吸を抑制せず、筋肉注射が可能であることから、静脈注射がやりにくい動物用としても重宝されてきた。また、この特性から麻酔銃の麻酔としても用いられてきた。
ワインドアップ現象を抑制するため、神経因性疼痛などの慢性疼痛の治療でその効果は見直されている。
抗うつ作用の発見は偶然であり、正常な被験者に対し精神病をモデル化する目的で用いられたケタミンの研究は、急速な気分の改善が誘導されたことを見出し、後のうつ病に対する研究につながった[9]。2012年に利用できる30種類もの抗うつ薬はどれも6週間後に控えめな効果を示すだけであるが、ケタミンの急速な抗うつ作用という結果は、抗うつ反応の目標を移動させる[10]。ケタミンは、NMDA受容体を遮断する機序によって抗うつ作用を発揮しているとみなされてるが、そうした作用を持つ他の薬剤は抗うつ薬ではない[6]。
2006年のアメリカ国立精神衛生研究所(英語版)のランダム化比較試験では、治療抵抗性うつ病に対して効果が見られており、迅速かつ堅牢な効果であり、投与から2時間で効果が現われ、29%が翌日には寛解を満たすことが臨床試験で示された[2]。その作用は7~10日間持続する。
治療抵抗性の双極性うつ病でも、堅牢かつ迅速な抗うつ作用が見られている[11]。慢性的な心的外傷後ストレス障害(PTSD)の抑うつ症状に対して、ケタミンは症状の重症度を大幅かつ急速に減少させた[12]。強迫性障害においても、少なくとも1週間持続する迅速な抗強迫効果により、強迫観念が大幅に改善された[13]
またケタミンは自殺念慮も軽減する[3]。この点でも従来の抗うつ薬では、自殺行動を誘発する賦活症候群の懸念がある。
アメリカではケタミンをうつ病に対して適応外使用で用いることも増えている[4]。
イギリスでは、2014年4月に、治療抵抗性の双極性障害のうつ病を含むうつ病に対する試験を公表し[14]、2014年5月に、専門診療所において難治性のうつ病に対してケタミンを使用することを専門委員会が承認している[5]。
ジョンソン・エンド・ジョンソン社の構造的異型のエスケタミンを含有する点鼻薬は、2013年に、アメリカ食品医薬品局(FDA)による「画期的な治療薬」の指定を受け、2015年の早期に研究結果を発表する予定である[4]。アメリカのノーレクス社は、2014年12月に、ケタミン様薬剤GLYX-13の臨床試験の結果を発表した。それによると、同社のは、うつ病患者の約半数で症状を改善し、幻覚の副作用もなかった[4]。スイスのロシュ社も、グルタミン酸経路を標的とするdecoglurantの臨床試験の結果を、2015年春に公表する予定とされる[4]。一方で精神活性作用が弱いとはいえ(既に特許の切れた)ケタミンより、特許された高額なケタミン様物質を用いることには倫理的な問題があるとも指摘されている[4]。
ロシアで薬物乱用の専門治療を行う精神科医のエフゲニー・クルピツキーは、20年間にわたり麻酔薬のケタミンを幻覚剤として利用するアルコール依存症の治療を行ってきたが、111人の被験者のうち66%が少なくとも1年間禁酒を継続し、対象群では24%であった[15]などのいくつかの報告[16][17]がある。また、ケタミンはヘロインの依存症患者に対しても薬物の利用を中断する効果が見られた[18][19]。アヘンの禁断症状を減衰させるという報告もある[20]。
日本では麻酔銃に必須だったが、ケタミンが麻薬及び向精神薬取締法の麻薬に指定されたことにより、動物の捕獲に支障を来たしている。代替薬の研究が行われ、代替品が使用されるようになってきているが、ケタミン以上に便利な薬品は見つかっていない。
野犬捕獲等、野外で使用される塩酸ケタミンの代替薬品の検討のための室内実験において、塩酸ケタミンと塩酸メデトミジンの混合注射と同等の効果が、塩酸キシラジン、塩酸メデトミジン、ミダゾラムの任意の2種類の組み合わせで得られたという報告がある[21]。
アメリカではスケジュールⅢであるため、獣医師や保護官などは麻薬免許無しでも取り扱えるので、問題化していない。
LSDと同様、幻覚剤として知られる。不正な密輸入および若者の間での乱用が問題となった。
ヒトがこの粉末を鼻孔吸入、もしくは経口摂取、静脈注射した場合、臨死体験などの幻覚作用があり、悪夢を見るという副作用もある。一時期は、KとかスペシャルKなどという隠語で呼ばれ、トランス系の音楽を流すクラブで多く流通したこともある。だが、ケタミンは本来の用途が麻酔薬であるため、LSDとは反対に精神状態は沈静化するので、テンションを上げたい乱用者の間では不人気であった。
2007年1月1日、ケタミンは日本の麻薬及び向精神薬取締法の麻薬に指定が施行された。指定は、医療用等の用途に対する代換品移行措置期間も考慮された。
2012年の世界保健機関の薬物依存専門委員会の報告書では、他の麻酔薬と比較して使用しやすく安全域も広いため、国際管理下に置いた場合には、逆に使用できない場合の公衆衛生上の懸念があるとし、深刻な乱用がある国でも、ヒトや動物の麻酔のために容易に利用できることを確保すべきであるとしている[1]。ゆえに薬物規制条約による規制はない。
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ケタラール静注用50mg
手術の少なくとも6時間前から絶飲絶食とし、アトロピン硫酸塩水和物等の前投薬を行い、次いで本剤の1回量を緩徐に静注する。麻酔の維持には、本剤の追加投与を行うが、手術の時間が長くなる場合には点滴静注法が用いられる。投与速度は最初30分間が0.1mg/kg/分、それ以後は0.05mg/kg/分を一応の基準として、必要に応じ若干これを増減し、手術終了の30分前に投与を中止する1, 2)。なお、手術の種類によっては、吸入麻酔剤に切り替える。また必要によりスキサメトニウム塩化物水和物等の筋弛緩剤を併用する。
0.1%未満
なお、観察を十分に行い、呼吸抑制の症状があらわれた場合には、補助呼吸を行うなど適切な処置を行うこと。
0.59%
頻度不明
イ)覚醒時反応を防ぐには、回復期の早期に患者に話しかけたりするような不必要な刺激は避けること。また、完全に覚醒するまで患者のバイタルサインを監視するなど、全身状態の観察を十分に行うこと。
ウ)覚醒時反応を予防するために、ジアゼパム、ドロペリドール等の前投薬を行うことが望ましい(「相互作用」の項参照)。
エ)興奮、錯乱状態等の激しい覚醒時反応に対する処置としては、短時間作用型又は超短時間作用型バルビツール酸系薬剤の少量投与、あるいはジアゼパム投与を行うことが望ましい(「相互作用」の項参照)。
喘息患者にケタミン1?2mg/kgを静注した場合、発作を誘発又は増悪することはないが、気管支痙縮を軽減する作用はない19, 20)。
なお、急速静脈内投与により筋緊張が亢進することがある。
ギ酸に極めて溶けやすく、水又はメタノールに溶けやすく、エタノール(95)又は酢酸(100)にやや溶けにくく、無水酢酸又はジエチルエーテルにほとんど溶けない。
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