出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/09/01 01:43:03」(JST)
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
労働災害(ろうどうさいがい)、略して労災とは、労働者が業務中、負傷(怪我)、疾病(病気)、障害、死亡する災害のことを言う。広義には、業務中のみならず、通勤中の災害も含む。狭義には、負傷(や負傷に起因する障害・死亡)のみを指す用語として使われ、疾病(や疾病に起因する障害・死亡)は指さないことも多い。
以下、特段指定しない限り、「労働災害」は広義の労働災害(労働者災害補償保険法(労災保険法)が対象とする業務災害と通勤災害)、「補償」は労災保険法上の補償について述べる。
業務災害の防止措置は、労働安全衛生法、じん肺法、作業環境測定法などのほか、一部の危険有害業務の就業禁止や就業時間制限は労働基準法に基づく年少者労働基準規則や女性労働基準規則に規定されている。なお、過労死に関連して、労働安全衛生法では直接的な労働時間規制はなく、労働基準法の一般的な労働時間規制が過労死防止の法制としての役割を果たしている。これら法令に違反がある場合、業務災害発生の有無にかかわらず、労働基準監督署等から指導を受けるのは勿論、時には送検され刑事責任を問われる。
業務災害が発生すると、当該事業主は労働者に対して、療養費用や休業中の賃金等に関する補償責任を負うことになる(労働基準法第75条~80条)。しかしながら、労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業では、労災保険による給付が行われ、事業主は労働基準法上の補償責任を免れる(労働基準法第84条)。なお、労働基準法で義務づける補償のうち、休業1~3日目の休業補償は労災保険から給付されないため(労働者災害補償保険法第14条)、事業主は、労働基準法で定める休業補償(平均賃金の60%以上)の3日分を労働者に直接支払う必要がある。
また、労働基準法上の補償責任とは別に、業務災害について不法行為・債務不履行(安全配慮義務違反)などを理由として被災労働者や遺族から事業主に対し民法上の損害賠償請求がなされることもある。事業主の安全配慮義務は、従前、民法の規定を根拠に判例として確立されていたところ、2008年施行の労働契約法で明文化された。さらに、事業主に限らず労働災害を発生させたとみなされる者は、警察による捜査を経て送検され、刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることがある。
詳細は「労働者災害補償保険」を参照
労災補償に関しては、労働者災害補償保険法に基づき、強制加入である労災保険制度を政府が管掌しており、労働者の資格如何に関わらず、全ての労働者(アルバイト、パートを含む)に対して、労働基準法で事業主責任とする業務災害のみならず、通勤災害についても補償が給付される。ただし、上述の通り、業務災害による休業1~3日目の休業補償は対象外である。なお、保険給付に関する決定に不服のある者は、所定の手続きによる不服申立てが可能である。
また、例外として公務員の労働災害(公務災害)については、国家公務員は国家公務員災害補償法により、地方公務員は地方公務員災害補償法第3条の規定により設けられた各都道府県の地方公務員災害補償基金により各種給付が行われる。船員の労働災害については、かつては船員保険において処理していたが、2010年に船員保険から分離され、労災保険法の適用(「船舶所有者の事業」とされる)となった。
労災として認定されると、健康保険での給付はなされない。従来、請負業務、インターンシップまたはシルバー人材センターの会員等で、健康保険と労災保険のどちらの給付も受けられないケースがあったことから、2013年に健康保険法が改正され、労災保険の給付が受けられない場合は原則として健康保険で給付を行うことが徹底されることとなった[1]。
労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡を業務災害という。「業務災害」として認定されるためには、業務に内在する危険有害性が現実化したと認められること(業務起因性)が必要で、その前提として、労働者が使用者の支配下にある状態(業務遂行性)にあると認められなければならない。業務遂行性が認められる場合は、おもに以下のとおりである。
業務上の疾病については、厚生労働省令(労働基準法施行規則別表第1の2)に11項目列挙され、これに該当した場合のみ業務上の疾病として認定される。もっとも、その第11号で「その他業務に起因することの明らかな疾病」と規定され、業務との間に相当因果関係があると認められる疾病について、包括的に業務上の疾病として扱うこととされていて、これにより、業務災害による療養中の業務外傷病や、過労死・自殺もその要因が、使用者の支配下によるものと認められた場合、業務災害として認定されうる。
いっぽう、労働者の積極的な私的・恣意的行為によって発生した事故の場合や、業務による危険性と認められないほどの特殊的・例外的要因により発生した事故の場合は、業務起因性が認められず、業務災害として認定されない。例えば、業務として強制されない(使用者の支配下にない)社外での懇親会(忘年会、花見など)等は業務災害に含まれず、また懇親会場への行き帰りの際の事故等について、いかなる場合も通勤災害とはならない。また、一般には第三者の犯罪行為は除かれるが、第三者の犯罪行為であっても、業務または通勤に内在する危険が現実化したと評価される場合は対象となる。例えば、警備中の警備員が暴漢に殴られた場合などは対象となる。個人的私怨により、偶然職場や通勤途中で知人から殺されたような場合は業務に起因するものとはいえず対象外とされている。また戦争、内乱なども同様である。
特別加入者(海外派遣者を除く)の場合は、業務等の範囲を確定させることが通常困難であることから、厚生労働省労働基準局長が定める基準によって認定を行う。具体的には、以下のような場合には業務遂行性は認められない。
労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡を通勤災害という。通勤災害は、直接には使用者に補償責任はないが、勤務との関連が強いという判断の元、昭和48年の法改正により労災保険の適用が認められた。
「通勤」とは、労働者が就業に関し以下に掲げる移動を合理的な経路及び方法により、往復することをいい、業務の性質を有するものを除く。
「通勤による」とは、通勤と相当因果関係があること、すなわち、通勤に通常伴う危険が具体化したことをいう。「就業に関し」とは、移動行為が業務に就くため又は業務が終わったために行われるものであることをいう。したがって、早出、遅刻、早退、一時帰宅の場合でも対象となるが、私生活上の必要等で往復した場合は対象とならない。また労働組合活動等で、就業と通勤との関連性を失わせると認められるほど長時間(おおむね2時間超)の早出勤・遅退社も対象とならない。自殺や、怨恨をもって喧嘩を仕掛けるといった行為は通勤に通常伴う危険とは認められない。
「合理的な経路及び方法」とは、社会通念上一般に通行するであろう経路、是認されるであろう手段をいう。会社に申請している通勤方法と異なる通勤方法であっても、それが通常の労働者が用いる方法であれば問題はない。一方、無用な遠回り、交通禁止区域の通行、無免許運転や酒気帯び運転等は合理的な経路及び方法とはいえない。なお、通勤経路の途中で合理的な経路を「逸脱」した場合や、通勤とは関係のない行為を行った(「中断」)場合は、ささいな行為を行うにすぎない場合(トイレ、休憩、ごく短時間の飲食等)を除き、その時点で通勤とは認められなくなる(「逸脱・中断」から合理的経路・手段に戻ったとしても認められない)。ただし、逸脱・中断が日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているものである場合又はやむをえない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱・中断の「後」について通勤災害として認められうる。なお、逸脱・中断の「間」における事故は、いかなる場合でも通勤災害にならない。「日常生活上必要な行為で厚生労働省令に定められているもの」とは、以下のとおりである。
通勤による疾病については、労働者災害補償保険法施行規則により、「通勤による負傷に起因する疾病その他通勤に起因することの明らかな疾病」と規定されている(業務災害とは異なり、具体的な項目の列挙はない)。
労災保険第2種特別加入者(いわゆる「一人親方」等)で以下のいずれかに該当する者は、通勤災害が適用されない。
労災保険の任意適用事業所に使用される被保険者に係る通勤災害については、それが労災保険の保険関係成立の日前に発生したものであるときは、労災保険ではなく健康保険等で給付する。
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2012年3月) |
現在の制度においては、労災遺族年金受給において妻には年齢制限が存在しない一方、60歳未満の夫(厚生労働省令で定める障害の状態にある者を除く)はたとえ無収入であっても労災遺族年金を受給出来ないという性差別が存在するとされる。この問題につき、大阪地方裁判所は2013年11月25日の判決で、地方公務員災害補償法による男性差別の規定は憲法違反であると判断した[4]。
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。問題箇所を検証し出典を追加して、記事の改善にご協力ください。議論はノートを参照してください。(2014年7月) |
労働災害が発生し労働者が死亡・休業した場合、事業主は所轄労働基準監督署長に、遅滞なく労働者死傷病報告書を提出しなければならない。(労働安全衛生規則第97条)。これを怠ると労働安全衛生法違反となり事業主が処罰される。なお、業務災害であっても休業がなかった場合、および通勤災害の場合はこの限りではない。
業務災害が起きた際、主に以下の事情により、業務災害が起きたこと自体を使用者(元請、場合によっては下請)が隠匿する、いわゆる「労災隠し」が行われる場合がある。
労働者災害補償保険法上、業務災害の場合でも労災保険を使わずに、労働者が自費で支払ったり、事業者が補償したり、また代表者のポケットマネーで治療を行うことは違法ではない。労働災害の場合であっても労災の治療費、休業補償を請求しないことも違法ではない。つまり、労災隠しとは、業務災害により休業があった場合に、労働安全衛生法上の届出義務を怠ったということである。これには被災した労働者の「これ以上迷惑を掛けたくない」という、本来労働者の正当な補償を受ける権利を持つ事実とは反対の意識を自ら(あるいは事業者からの圧力により半強制的に)生じることもあろうと推察される。しかしこれは事業者の優越的な立場を悪用した強制のみならず、同業や他業への展開を妨げ、対策の確立や再発防止・予防を妨げる行為であり、発覚時には事業者がより厳しく罰されるのだが、なかなか絶えない。
命令により労働に従事したことにより発生した労災に関して、管理者に業務上過失致死傷罪など刑事罰を適用すべきか議論がある。この適用がこれまでほとんどなされていないことが、労災が一向に減少しない重要な根拠となっている。[要出典]
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