出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/07/16 09:30:03」(JST)
出産(しゅっさん、独: Geburt、英: Birth, Childbirth)とは、哺乳類などの胎生の動物で、胎児が雌の胎内(子宮内)から出ること、および出る経過を指す。この過程は分娩(ぶんべん)とも呼ばれるが、出産はより一般的な語であり、社会的、文化的側面も含まれる。
胎児がその種の標準に照らし合わせて十分成熟して体外に出る場合を正期産と呼ぶ。正期産に至るまでの期間や出産時の成熟度は種によってまちまちである。標準より早い場合は「早産」、さらに事故に近い場合を「流産」、遅い場合は「過期産」と呼ぶ。
出産前、あるいは最中に羊膜が破れ、羊水が出ることを破水(はすい)という。出産後、胎盤等が排出されることを後産(あとざん・のちざん)という。
分娩が比較的楽にできる場合は「お産が軽い」、何らかの困難を伴う場合は「お産が重い」という言い方をする。カンガルーのようにごく小さく産む種では出産は軽いが、大型草食動物のように胎児を十分に成長させてから出産する場合や、ヒトのように骨盤底骨が発達している場合、骨盤下口が胎児とくらべて狭いので、胎児が大きい場合出産は重くなる。ヒトの中でも初産年齢や恥骨結合の状態などで個体差が著しい。
江戸時代における出産に関する記録のなかで、産婆については「産婆にふさわしい人」として
と記されている[1]。また、産科の医者は存在していたが、全て男性だったため、恥ずかしさの余り医者に身を委ねる妊婦は少なかった。その為、産婆だけでも安全な分娩が出来る様に指導書が出版されていた[2]。また出産に関連する物として
がある。そして、出産時は座らせて行っていた。そして出産後は「頭に血が上ってはいけない」という俗説から、座ったまま7日間不眠で過ごさなければならい(意識を失って死んでしまうのを恐れたため)[7]
出産は子供にとっては母親からの生理学的に独立した存在になることを意味する。これまでは胎盤を通じて母親から栄養を補給され、母親に排出物処理を依存し、また酸素や二酸化炭素などのガス交換も胎盤を通じておこなっていたものが、出産によってすべて自分で処理しなければならなくなる。産まれた子がまず最初にしなければならないことが、肺への外気の吸入である。いわゆる産声には、この活動を促進する意味があるとされる。
また、母胎の酸素分圧の低い血液から酸素を受け取るための胎児性赤血球は、数日のうちに通常の赤血球と置き換えられる。その際、赤血球の分解にともなって黄疸の症状が出る。
母親の側から見れば、出産は妊娠の終了と共に育児の開始である。生理的には胎盤から放出されていた女性ホルモンの分泌の停止と共に、妊娠状態は解除され、母乳の分泌が促進される。
伝統的な社会では、出産には超自然的な力が作用するものと考えられており、めでたいことであると同時に非日常的なできごとであると認識されている。そこで、産屋(うぶや)を設けてそこで出産前後を過ごさせるなどによって、外部の人間、とりわけ男性の接近をタブーとするなどの習慣がみられる。そして、出産は月経と同様に不浄なものであるとされ、産後に浄化儀礼が行われる社会も多くみられる。将来の出産に備えて婦人科検診を受けるなど、出産のための活動は「産活」[8][9]と呼ばれる。
母親(母体)の腟を通って生まれる場合を経腟分娩と言う。近代以前のお産は全て経腟分娩(経腟自然分娩)であった(経過については分娩参照)。
陣痛とは、出産を前に子宮がくり返す規則正しい収縮のこと。またそのときに母体が感じる痛み。初期には間隔も長く、「腹が張る」「硬くなる」といった程度だが、お産が進むに連れて間隔が短くなっていき、収縮の度合もきつくなり「痛み」を認識するようになる。
最も強い段階では、俗に「障子の桟が見えなくなるほど」と形容され、妊婦がパニックを起すこともある。しかし感じ方には個人差が大きい。またラマーズ法(Lamaze Technique)その他による精神・肉体両面の準備があればある程度、感じ方を軽くすることも可能である。
全く痛みを感じずに分娩を希望する場合は、「硬膜外腔麻酔」による「無痛分娩」を選択することになるが、すべての症例において完全な除痛を達成できるわけではない。
古来、分娩は妊婦にとって命がけの行為である。周産期医学の発達でかなりのリスクは軽減され、周産期死亡率は日本国内においては著しく低下した。2007年度の日本の周産期死亡率は、1,000名の出産に対して4.7名であり世界で最も小さいが、それでも妊娠高血圧症候群、前置胎盤、癒着胎盤、へその緒の巻絡、大量出血、HELLP症候群など、リスクは決してなくなっていない。
公的医療保険制度の被保険者または被扶養者は、出産を申請すると「出産育児一時金」が支給される。支給金額は、平成27年1月1日以降の出産の場合、一児につき404,000円で、所定の要件を満たせばさらに16,000円が加算される。申請は医療保険の保険者(全国健康保険協会、健康保険組合、市区町村等)に「出産育児一時金請求書」または「配偶者出産育児一時金請求書」を提出する。
労働者における出産については、労働基準法第65条に産前産後休業(産休とも称される)が規定されている。
妊婦、胎児ともに順調であれば自宅出産も不可能ではないが、現在では自宅出産を仕切る「助産師」はなかなか見つけられない。また母児どちらか片方でも、妊娠高血圧症候群、骨盤位、双胎など、何らかのリスクが高い場合は病院出産が勧められる。自宅出産は高リスクであり、「自宅出産は病院など医療が介入する出産に比べ、新生児死亡率が3倍にも上る」との論文が医学雑誌ランセットで発表されている[10]。
助産所において助産師が、もしくは家庭等の出産場所に出向いてくる助産師が出産を取り仕切る。リスクの低い妊婦のみ。状態が少しでも悪くなりかけたら、産科医と連絡を取る必要がある。しかしながら病院と異なり高度の医療技術を施すことの出来ない助産所の場合、分単位の緊急性を要する処置が行えず、生涯に渡り後遺症を残すような障害の発生の危険性は高くなる。
日本では第二次世界大戦前や戦後の混乱期までは国民の90%以上は自宅で出産していたが、戦災からの復興期や高度成長期以後は病院での出産が増加し、高度成長期が終わったころには国民の90%以上が病院で出産するようになった[11]。
日本では第二次世界大戦前や戦後の混乱期までは国民の90%以上は自宅で出産していたが、医学や医療技術の向上、経済の発展と政府の収入と社会保障支出と医療費と医療費の公費負担額の増加により、戦災からの復興期や高度成長期以後は病院での出産が増加し、高度成長期が終わったころには国民の90%以上が病院で出産するようになり、現在では国民の99%が病院で出産している[12]。その結果、妊産婦死亡率[13][14]、周産期死亡率[15][16][17]、新生児死亡率[18]は時代の進行とともに減少し史上最少値を更新している。
世界の諸国でも、地域別でも、所得水準別でも。世界全体でも、国ごとに経済や医療の発展段階に差があり、妊産婦死亡率、周産期死亡率、新生児死亡率に差があるが、医学や医療技術の向上、経済の発展と政府の収入と社会保障支出と医療費と医療費の公費負担額の増加により、妊産婦死亡率、周産期死亡率、新生児死亡率は時代の進行とともに減少し史上最少値を更新している[19][20]。
英国の研究チームの発表によると、朝食を抜いたり低カロリーの食事を摂ったりする女性は、女児を出産する可能性が高いという研究結果を発表した。高カロリーの食事を摂ると男児が産まれる確率が高いという[1]。現在殆どの国でも出生前診断や人工妊娠技術を男女の生み分けを目的として行うことは禁止されている。しかしながら中華人民共和国・インド等のアジア地域においては新生児の男女比が極端に男性に傾いていることから男女の生み分けが行われていると考えられている。
胎生(および卵胎生)の動物にはすべて出産があるが、その様子は動物によって様々である。犬は安産ということになっているが、品種によっても異なる。比較的難産が多いとされているのが大型草食動物である。生まれた子供は肉食獣の攻撃目標になりやすいし、親も巣に籠もって育てるのが難しいので、どうしてもある程度以上大きく生んで、生まれてすぐに逃げ回れるようになっていなくてはならず、そのためには大きく手足の発達した状態で出産を迎える必要がある。長い手足は出産では邪魔になりがちであることもまた難産の一因とされている。またヒトは直立二足歩行を行うため、内臓を保持する必要から骨盤底骨が発達しており、出産に困難がともない、胎児を小さく未熟な状態で出産しなければならない。
出産時、胎児は普通は頭からでる。これは体のつくりからしてもそれが一番抜け出しやすいため、合理的である。まれに逆に出る場合があり、これを逆子という。逆子は難産になりやすい。逆に後ろからでるのを常とするものもある。イルカやクジラがそれで、これは彼らが水中で出産することに依るものである。その場合、まず頭がでてしまうと、その時点で胎児は空気呼吸を求められることになる。しかし後半身が母胎に残っていては空気中に出られないため、そのまま溺れる可能性が高くなる。出産した子は母親に助けられて水面に出て、最初の呼吸を行う。なお、中生代の海棲爬虫類である魚竜にも、卵胎生のものがあったことが知られており、その出産がやはり尾からであったことが化石から確認されている。
「江戸時代における出産」
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