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人工内耳(じんこうないじ、英:Cochlear implant)は、聴覚障害者の内耳の蝸牛に電極を接触させ、聴覚を補助する器具である。子供が成長にともない言葉を覚えるように、成人の時に手術を受け(人工)聴覚を初めて得る場合より、子供の時のほうが脳の人工内耳からの信号に対する対応がはやい。子供の言語の習得が早い時期に行われることもあって2歳(最近では1歳半)が目安とされる[要出典]。
元々聴覚者であり聴覚を失った場合は埋め込み手術をした後、音に慣れるために1~2ヶ月ぐらいのリハビリテーションが必要になる。リハビリテーション後は電話での会話も出来るほどに回復する例も多い。大体5歳以降に難聴になったのであれば言語習得期間後になるため、言語習得機能上は成人とほぼ変わらない[1]。
体内に機械を埋め込む事に対して抵抗を感じる人が多いが[2]、聴覚を取り戻したい人にとっては有効な手段である。日本においては健康保険も適用される。
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人工内耳はマイクロホン、音声分析装置、刺激電極、電波の送・受信機からなる。マイクロホンが外の音声をとらえ、体外にある音声分析装置で音を電気信号に変換する。電気信号は、非接触で内耳にある電極へ送られ、電極が聴覚神経を刺激する。蝸牛は部位による周波数特異性をもつので、電極は複数個埋め込む。どの電極をどの程度刺激するかは音声分析装置の中のプロセッサが決定する。
人工内耳は通常、どちらか片方の耳につける。
人工内耳をつけた場合、一般的に90~100dB以上の音が、35~40dBぐらいの聞こえ方になる。
電極の数には限界があり、プロセッサのプログラミングにも限界があるので、蝸牛本来の信号は得られないが、現状でも一般的に言えば、かなりの程度で言葉を聞き取ることができるようになる。しかしこれには個人差があり、劇的に聞こえるようになる人もいれば、中にはあまり効果がなく外してしまう人(成人の聾者に多い)もいる。すなわち人工内耳は万能の聴力回復技術ではなく、一定の限界がある医療技術であると言える。
人工内耳の効果の大小は失聴時期と人工内耳手術を行った時期によって大きく左右される。失調時期が2歳未満の場合は言語習得期前、2歳から4歳の間は周言語習得期、5歳以降は言語習得期後に大まかに分類される。一般的に難聴になった時期は遅いほど、かつ音の聞こえない期間は短いほど、言語を判別できる可能性は高くなる[1]。
2歳未満で、あるいは生まれつき難聴の場合、人工内耳手術の年齢が音・言葉判別の能力を大きく左右する。乳幼児の頃に人工内耳を埋め込めば聴者に近いレベルで音を判別する能力を得る可能性は少なくない。一方、ろう者として成長した後の施術の場合には、前頭葉内にある聴覚を司る聴覚皮質が音に対する刺激を受けないまま育っているため、人工内耳を埋め込んでもそもそも音を信号として受け取ることが難しく、言語を理解できるようになる見込みはごく小さい[1]。新生児聴覚スクリーニング検査の必要性は、このような観点から主張されることが多い。
2歳から4歳程度の言語習得期間に難聴になった場合も、内耳を通して入ってくる音と言語を結びつける脳内のネットワークが未発達な状態で難聴になってしまうため、仮に手術をしたとしても音と言葉を結びつけることが難しく、言語の判別や発話には相当な訓練期間を要する。その後も言語の判別率が低く、読話や手話を好む傾向が強い[1]。
聴覚による音声言語の獲得後、事故や病気で難聴になった中途失聴者の場合、人工内耳によって言葉の判別は可能となる場合が多い。
黒田は、人工内耳が単に音声言語の使用可能性の問題に留まらず、装用者の生活の質 (QOL:Quality of Life) に大きな影響を及ぼすことを報告している。黒田が調査対象とした中途失聴者の二つの事例においては、人工内耳装用が障害認識・障害受容[3]の面でも大きな効果をもたらした[4]とされている他、職場でのストレスの低減や、鳥や虫の鳴き声に季節を感じるようになったことなどが紹介されている。
また乳幼児の事例においても、音声言語による会話すなわちバーバル・コミュニケーションだけでなく、非言語コミュニケーションすなわちノンバーバル・コミュニケーションの量も飛躍的に増大し、親子ともにQOLが改善したとの報告がなされている[5]。
日本における事例では、人工内耳を先天性の重度聴覚障害児が装用した結果、それまで当該児とのコミュニケーションを断念していた親族が積極的に手話や指文字を学んでコミュニケーションを試みるようになったという現象が報告されている[6]。
英国聴覚障害児協会ほかが2007年に公表した調査によると、13-17歳の生徒たち(その多くは人工内耳手術を受けて7年間程度経過している)は、圧倒的に人工内耳にポジティブな評価を行っている[7]。 この調査は、イギリスの2つの人工内耳センターで教育されている生徒から128名を無作為抽出し、回答のあった約30名の意見をとりまとめたものであり、概略は次のとおりである。
人工内耳の手術においては顔面神経の麻痺や痙攣など若干のリスクが存在している。例えば黒田が報告した、日本の成人女性の二つの事例では、いずれも手術後数ヶ月に渡って顔面神経の麻痺が見られた[8]。
人工内耳を装用したままで一定の水深までであれば、スキューバダイビングを楽しむこともできる。コクレア社のインプラントの場合、25mまでのダイビングが可能である。空港の保安検査場では金属探知機に体内機器が反応するため、人工内耳装用者カードを提示してゲートの横を通ることになる(間違ってゲートを通っても機器が壊れることはない)。愛・地球博で人工内耳装用者は入場ゲートの金属探知機を通さない配慮も行われ、人工内耳の認知が上がったと一部で話題になった。 医療の面では、人工内耳インプラントをしたままの状態でMRI検査を受診することも条件により可能である。コクレア社、メドエル社のインプラントで1.5テスラまでのMRI検査をインプラント内の磁石を手術ではずすことなく受診することが可能である。ただし個人差があり、人によっては強い痛みを伴う、また、MRIの磁気によるインプラントの磁石の移動や脱磁(磁石が磁力を失うこと)の可能性もあり、MRI検査に関しては薬事承認を受けているとはいえメーカーの言葉を鵜呑みにせず、慎重に判断すべきである。
人工内耳は器具と手術の費用だけでなくその後の訓練に関する人件費など非常に高額となるため、その使用は健康保険制度等が整った先進国に集中している。欧米では、大人はもちろん、乳幼児につける例が多い。例えば鳥越隆士「バイリンガルろう教育の展開-スウェーデンからの報告」によると、スウェーデンでは新たに生まれるろう児の90%は人工内耳手術を受けているとされる。
日本における乳幼児への人工内耳手術は欧米に比べて少ないと言われている[要出典]。
欧米の先進国が人工内耳の手術を無料に提供することになった一因として、手話通訳の普及が挙げられる。これは、聾者に一生、手話通訳を提供するよりも人工内耳の手術を無料で提供するほうが長期的には割安であるとの判断によるものである[要出典]。
アメリカではろう者(Deaf People)の権利獲得運動が公民権運動の影響を受けて展開された為、ろう者集団を一種の少数民族として表象するという戦略が採られた[9]。その為、アメリカのろう運動や、アメリカのろう運動の影響を受けた人々は、ろう者を障害者ではなく「手話という独自の言語とろう文化をもった民族」と位置づけることとなった。
この結果、人工内耳、特に自己決定できない乳幼児への人工内耳手術に対する強力な反発が、「黒人の子供を医学によって白人に変えるようなものである」「文化的民族浄化である」というような論理を伴って生起した。
しかしながら、多くの先進国では聴覚障害児の親の大多数が人工内耳の手術を選択するという現実(医療費の大半が民間の保険で賄われるアメリカでは所得水準の高い親たちが人工内耳の選択を行う割合が大きいと言われる[要出典])が存在すること、あるいはここ数年間における人工内耳性能の向上から、幼児に対する人工内耳の手術の反対運動は下火になり、最近ではこれらの人工内耳をつけた子供たちが聾学校で手話と聴覚活用の両方の教育を受けられるようにすることで聾文化の維持を要望する意見が聾者の中でも多い[要出典]。
とはいえ、黒田が報告した日本における事例においては、近年でもなお聴覚障害児の保護者が人工内耳装用について検討する際、乳幼児への人工内耳装用に反対する団体の問題が考慮されているという[10]。
欧米においては、乳幼児に対する人工内耳手術の定着等に伴い、ここ数年の間で、上記のような議論自体が鎮静化しつつあるとされる[要出典]。
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