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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/05/13 22:33:36」(JST)
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等価線量(とうかせんりょう、英: equivalent dose)とは、放射線防護のための人体の各臓器の被曝線量を表す線量概念を言う。放射線を被曝した人体組織の臓器吸収線量に放射線荷重係数を乗じたものとして定義され、単位はシーベルト(記号:Sv)が用いられる[1]。
ただし、等価線量は放射線防護量であるので、あくまで確率的影響のリスク制限に用いるためのものである[2]。そのため、同じく臓器の被曝でも、確定的影響を問題とするような場合は臓器吸収線量(Gy)が用いられる[3][4]。
目次
- 1 概要
- 2 定義
- 2.1 放射線荷重係数(radiation weighting factor)
- 3 等価線量限度(equivalent dose limits)
- 3.1 職業被曝(occupational exposure)
- 4 脚注
- 5 関連項目
- 6 参考文献
- 7 外部リンク
概要
放射線被曝による生物影響を考える上で人体組織が放射線から得たエネルギー量である臓器の吸収線量(臓器吸収線量)は重要な指標である。しかしながら、生物影響は同一の臓器吸収線量であっても
- 放射線の種類(アルファ線、ベータ線、ガンマ線、中性子線など)
- 放射線を粒子として扱う場合[5]におけるその粒子のエネルギー(中性子、陽子のみ)
が異なればその影響も異なってくるため、放射線の生物影響の尺度としてそのまま用いることはできない。そこで主に放射線の種類などに関係なく影響の大きさを表すことができる線量概念としてある一点における吸収線量に線質係数と呼ばれる補正係数を掛け合わせた線量当量が1977年のICRP勧告にて定義された。
「線量当量」も参照
ところが、放射線防護上関心のあるのは、ある一点における吸収線量ではなく、組織・臓器全体の吸収線量である[6]。そこで、ICRP1990年勧告においては防護量としての線量当量概念の大幅な見直しがなされ、ある一点ではなく臓器の全体が受けた線量の平均臓器吸収線量の係数として放射線荷重係数(radiation weighting factor)とそれで平均臓器吸収線量を荷重した等価線量(equivalent dose)が改めて定義された[7][8]。
- 等価線量の用途
等価線量は実務としては、人体組織・臓器の一つである皮膚、眼などの線量限度を定めるなどの線量管理に用いられる[9]。これは、限局した領域の皮膚、眼に対しては組織荷重係数が与えられていないことから、個人の実効線量に加算することができないためである[10]。
- 等価線量の測定
等価線量は人体の臓器に対して定義されたものであるため、例えば、甲状腺などの体の内部の臓器について直接測ることは原理的にできない。そのため、実務として等価線量は、環境モニタリングまたは個人モニタリングの結果から観念的に実際受けたであろう量以上の線量当量を計算によって算出し、それを等価線量とみなすことで求められる。
「線量当量#モニタリングの実用量としての線量当量」も参照
定義
放射線 R の人体の臓器 T[11] に対する等価線量は以下のように定義される。
-
(臓器 T の等価線量 [Sv]) HT = (臓器 T の平均吸収線量 [Gy]) DT × (放射線 R の放射線荷重係数) wR
|
放射線荷重係数(radiation weighting factor)
算出に用いられる放射線荷重係数は、放射線の種類によって値が異なり、X線、ガンマ線、ベータ線は 1、 陽子線は 5、 アルファ線は 20、 中性子線はエネルギーにより 5 から 20 までの値をとる。
放射線荷重係数は、国際放射線防護委員会1990年勧告[12]による下表のものが広く使用されている。なお、2007年に新しく発表された勧告では、中性子の放射線荷重係数として、線量計算の実用的観点から連続関数が導入されている[13]。
放射線荷重係数(参考として線質係数も記載)
放射線の種類(R) |
エネルギー(E)範囲 |
放射線荷重係数 |
線質係数 |
光子 (電磁波、X線、ガンマ線など) |
全エネルギー |
1 |
1 |
軽粒子(電子、ミュー粒子など) |
全エネルギー |
1 |
1 |
中性子 |
E<10keV |
5 |
10 |
10keV<E<100keV |
10 |
10 |
100keV<E<2MeV |
20 |
10 |
2MeV<E<20Mev |
10 |
10 |
20Mev<E |
5 |
10 |
陽子 |
反跳陽子を除く,2Mev<E |
5 |
10 |
α粒子、核分裂片、重原子核 |
|
20 |
20 |
- 1 Sv = 1,000 mSv(ミリシーベルト) = 1,000,000 μSv(マイクロシーベルト)
等価線量限度(equivalent dose limits)
臓器 T の等価線量をある特定の期間中で積み上げたものの限度の量を等価線量限度(equivalent dose limits)と呼ぶ。なお、臓器に対して定義される等価線量限度は、個人の身体全体に対して定義される実効線量限度とは別の概念である。
職業被曝(occupational exposure)
日本の法律においては、放射線業務従事者の2つの臓器(眼の水晶体、皮膚)及び妊娠中女性従業員の腹部表面などの一年間に受ける等価線量の限度について定められている。電離則第四条-第七条
脚注
- ^ 防護線量概念としては、1990年のICRP勧告にてそれまで使用されていた線量当量(dose equivalent)に代わって用いられるようになった。草間(1995) p.44
- ^ 等価線量はあくまで線量限度内で用いられるべき線量概念である。草間(2005) p.11,p.22
- ^ そのため、閾線量はGyで表示される。
- ^ なお、放射線医学における医療被曝では、統一的に扱うため、診断に用いられる数mGyから治療に用いられる数10Gyまですべて臓器吸収線量で表される。
- ^ 電磁波(ガンマ線、X線)などは量子力学的効果(光電効果、コンプトン散乱など)を考えなければ、電磁気学的な波動であり粒子(光子)として扱う必要は無い。
- ^ 辻本(2001) pp.48-49
- ^ 等価線量は臓器に対して定義されたものであるからか、計測においては放射線荷重係数と等価線量は用いられず、線質係数と線量当量が用いられる。実際 ICRU においては未だ線量当量で定義されている。
- ^ なお、放射線のリスクに関連した線量概念である実効線量(effective dose)は各臓器の組織荷重係数にそれぞれの等価線量を掛け合わせたものの総和であり、単位は同じシーベルト(記号:Sv)であるが等価線量とは別の概念である。
詳細は「実効線量」を参照
- ^ 例えば、電離則第四条-第七条など
- ^ 草間(2005) pp.22-23
- ^ T は変数であり、数学のように T = 甲状腺 と書き表すことにすれば、これは HT —T=甲状腺→ H甲状腺(甲状腺に受けた放射線の等価線量)ということである。つまり、H甲状腺 は甲状腺の等価線量ということになる。
- ^ 放射線審議会 基本部会 (2010年1月). “国際放射線防護委員会 (ICRP) 2007年勧告 (Pub. 103) の国内制度等への取入れに係る審議状況について 中間報告 (PDF)”. 文部科学省. p. 8. 2011年5月4日閲覧。
- ^ 吉澤道夫. “ICRP 新勧告による外部被ばく線量評価 (PDF)”. 2011年7月12日閲覧。
関連項目
参考文献
- 草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦 『放射線健康科学』 杏林書院、1995年。
- 『空間線量測定マニュアル』 日本保健物理学会(編)、日本アイソトープ協会、2002年。
- 被ばく線量の測定・評価マニュアル(外部被ばくについて), (2001), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/36/1/36_1_18/_pdf
- 辻本 忠, 草間 朋子 『放射線防護の基礎』、2001年、第3版。
- 草間 朋子 『あなたと患者のための放射線防護 Q&A』 医療科学社、2005年、改訂新版。
- 『放射線・アイソトープ 講義と実習』 日本アイソトープ協会(編)、丸善、1992年。
- 線量(第2回), (2012), http://www.jrias.or.jp/member/pdf/2012011_TRACER_TADA.pdf
- 線量(第4回), (2013), http://www.jrias.or.jp/books/pdf/201301_TRACER_TADA.pdf
外部リンク
- 放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(障害防止法) - 施行令 - 施行規則
- 電離放射線障害防止規則(電離則)
- 日本アイソトープ協会
- 放射線等に関する副読本掲載データ(文部科学省)
放射線(物理学と健康) |
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単位 |
放射線量の単位 - 放射能の単位
|
|
測定 |
放射線・放射能計測機器
|
|
放射線の種類 |
電磁放射線(X線 - ガンマ線)- 粒子放射線(アルファ線 - ベータ線 - 中性子線 - 陽子線)
|
|
物質との相互作用 |
各放射線と物質との相互作用
|
|
放射線と健康 |
基本概念
|
放射線生物学 - 放射線医学 - 放射線被曝 - 保健物理学
|
|
放射線の利用
|
放射線源 - 放射線療法(レントゲン(X線撮影)- ポジトロン断層法 (PET) - コンピュータ断層撮影(CTスキャン))- 後方散乱X線検査装置 - 食品照射 - 原子力電池
|
|
法律・資格
|
放射線管理区域 - 放射線管理手帳 - 放射線取扱主任者 - 技術士原子力・放射線部門 - 原子炉主任技術者 - 核燃料取扱主任者 - エックス線作業主任者 - ガンマ線透過写真撮影作業主任者 - 日本の原子力関連法規
|
|
放射線と健康影響
|
放射線の健康影響
|
|
関連人物
|
放射線研究者
|
|
放射能被害など
|
放射能汚染 - 核実験の一覧 - 原子力事故の一覧
|
|
関連団体
|
日本の原子力関連組織 - 原子力関連の国際組織
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Category:放射線
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UpToDate Contents
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Japanese Journal
- 連載講座「放射線防護に用いる線量概念について」第2回 線量係数Q(L)および放射線荷重係数w_Rの概念の成立と変遷
- 岩井 敏
- 保健物理 : hoken buturi 43(3), 211-225, 2008-09
- In the field of radiation protection, quality factor Q(L) and radiation weighting factor w_R are important coefficients for estimating both radiation protection and operational quantities to the mixed …
- NAID 110006977583
Related Links
- <大項目> 放射線影響と放射線防護 <中項目> 原子力施設に係わる放射線防護 <小項目> 放射線防護の諸量 <タイトル> 放射線荷重係数と組織荷重係数 (09-04-02-02)
- 被ばくした集団 がん 遺伝的影響 合計 1990 2007 1990 2007 1990 2007 全体 成人 1990 年勧告から17 年経過して刊行された最も新しい勧告である。その主要な特徴と1990 年勧告からの変更点を以下に示す。①放射線荷重係数 ...
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★リンクテーブル★
[★]
- 英
- equivalent dose
- 関
- シーベルト sievert Sv、吸収線量
- 単位:シーベルト Sv
- 放射線の被曝量の単位で防護のために用いる。
- 等価線量および実効線量の単位。
- 被曝した放射線の種類に関係なく影響の程度を表す。
|
単位
|
意味
|
吸収線量
|
グレイ
|
Gy
|
物質が吸収するエネルギーの量
|
等価線量
|
シーベルト
|
Sv
|
吸収されたエネルギーが生体に与える影響を、線種により補正
|
実効線量
|
吸収されたエネルギーが生体に与える影響を体部位、臓器により補正。総和で実質吸収した線量が計算される。
|
[★]
- 英
- radiation, radioactive ray
- 同
- 輻射線
- 関
- 電磁波
場所による分類
性質による分類
胎児への放射線の影響
- 1999年のICRP勧告「胎児が100mGy被爆した場合、子供が奇形を持たない確率はほぼ97%、癌にならない確率は99.1%」
[★]
- 英
- radiation、beam、radiate、emit、beam、radiative、radiant
- 関
- 照射、照射性、排出、ビーム、放散、放射状、放射線、放射線照射
[★]
- 英
- number、count、numeral
- 関
- ナンバー、数値、数える、カウント、番号をつける、数字、数詞
[★]
- 英
- load
- 関
- 荷電、負荷、ロード、体重負荷
[★]
- 英
- coefficient、modulus、moduli