出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/03/13 00:47:40」(JST)
数詞(すうし)とは、数を表す語である。言語及び数詞の種類により、名詞、形容詞、限定詞などの下位の品詞に分類されるが、その性質は独特である。文法上の数とは異なる。
数詞にはいくつか種類がある。最も基本的なのは基数詞であり、他の種類の数詞は一般に基数詞の変化形あるいは派生語である。
基数詞(きすうし)とは、基数、すなわち分けて数えられるものの個数を表す数詞である。日本語の「いち」、「に」、「さん」は基数詞である。
インド・ヨーロッパ語族、オーストロネシア語族など、多くの言語では基数詞が安定しており、比較言語学において言語の系統の重要な手掛かりとなるが、中国周辺では漢数詞の借用がよく見られる[1]。タイ語の基数詞は中国語に由来する。日本語、朝鮮語、ベトナム語などでは固有の数詞と漢数詞を併用する。
単独の基数詞は一般に名詞である。日本語、中国語など、多くの言語では、基数詞単独では名詞と結び付かず、助数詞と結び付けて数を数える(例:個数を表す「~個」、人数を表す「~人」)。英語、フランス語などの限定詞を持つ言語では、名詞句と結びついた基数詞は不定の限定詞と見なされる。特に、1 を表す基数詞は不定冠詞の起源である。
大きな数や、小数や負の数の表現も基数詞に含まれる(「命数法」も参照)。
序数詞(じょすうし)あるいは順序数詞(じゅんじょすうし)とは、順序数、すなわち分けて数えられるものの順番を表す数詞である。なお同音の助数詞と混同しないこと。
インド・ヨーロッパ語族、アフロ・アジア語族などでは、序数詞は形容詞であり、固有の形態を持つ。通常は基数詞から規則的に求められるが、小さい整数では不規則変化や補充形が見られる。例えば英語の助数詞は、first , second は補充形、third は不規則、fourth からは規則的(但し、21以降は一の位の数に従う)であり、フランス語では premier は補充形、deuxième からは規則的である。
日本語では単独で序数詞を表すものはないが、「第-」を漢数詞(助数詞が付く場合は、算用数字で表すこともある)の前に付けるか、「-目」「-位」を助数詞の後に付けて表現される。
反復数詞(はんぷくすうし)とは、回数を表す数詞である[1]。英語の once, twice, thrice は反復数詞である。
日本語では基数詞と、「回」あるいは「度」を使うので、基数詞と区別される反復数詞はない。
集合数詞(しゅうごうすうし)とは、複数のものからなる組を表す数詞である[1]。ロシア語の двое, трое は集合数詞である。また、複数形のみで単数形を持たない名詞に対しても用いる。リトアニア語などにも存在する。日本語では基数詞と「組」とを用いて「三人組」などとするので、独自の集合数詞はない。
「タプル」の項目も参照
デュオ (duo)、トリオ (trio) などは、主に音楽に使われる人の集合数詞であるが、日本語では名詞と変わりがなく、基数詞とのつながりはない。
倍数詞(ばいすうし)とは、何倍であるかを表す数詞である。英語には二系統あり、twofold, threefold などは基数詞から規則的に導かれるが、double, triple などの表現(詳細は「倍」の項目を参照)は語源上はともかくとして、現在の基数詞との語形の繋がりはなく独立の語である。
分数詞(ぶんすうし)とは、分数の分母を表すのに用いる数詞である。ヨーロッパの諸言語では序数詞を用いるが、補充形を用いることもある。英語では 1/3 は a third であり、分母は序数詞と同じであるが、1/2 は a half、1/4 は a quarter であり、序数詞と異なる。
日本語、中国語などでは、基数 + 「分之(ぶんの)」 + 基数という複合語を用いるので、分数詞は「半」のみ(「漢数字#分数」も参照)。
ほとんどの言語では、大きい数を表す数詞には一定の構造があり、数詞特有の規則に従って構成する。例えば日本語では、47 を表す基数詞は「よんじゅうなな」であり、4×10+7 を意味する。日本語の数詞は底が 10、すなわち十進法である。世界的には十進法が圧倒的に多いが、二十進法も世界各地で見られる。
ニューギニア島は最も言語密度の高い地域として知られ、エスノローグには 1071 個の言語が記されている[2][3]。このため底も多様であり、二進法、四進法、六進法、十進法、十五進法、二十進法、二十四進法、六十進法が存在する[4][5]。
日本語の数詞には、原日本語に由来すると考えられている固有の和語の数詞(ひとつ、ふたつ、みっつ、…)と、漢字とともに中国から持ち込まれ日本語化した漢語の数詞(いち、に、さん、…)の二つの系列の数詞が併用されている。
ただし、現代日本語で和語の数詞が普通に用いられるのは「ひとつ」 (1) から「とお」 (10) までに限られ、数としては「はたち」 (20) が年齢について専ら用いられるに過ぎない。本来は数(あるいは個数)を表した「みそじ」 (30)、「よそじ」 (40) などには「三十路」、「四十路」という漢字が当てられ、「じ (ぢ)」が年齢を表す助数詞(単位)である「歳」または「歳代」を意味する接尾辞のように誤解されている。あるいは、「はつか」 (20 日)、「みそか」 (30 日) のような形(カは、複数のヒ(日)を表す)、さらには、「いすず」 (五十鈴、「い」が 50 という意味の数詞)、「ちとせ」 (千年、千歳、「ち」は 1000 の意味) などの形で、多くは固有名詞の中で痕跡的に用いられるのみである。
「ひとつ」から「とお」までの和語の数詞のなかには、母音交替により 2 倍を示すものがある。すなわち、ヒ (1) - フ (2) の対、ミ (3) - ム (6) の対、ヨ (4) - ヤ (8) の対である。イツ (5) - ト (10) を加えることもある。
本来、和語の数詞で数そのものの概念を表しているのは「ひと、ふた、み、よ、…」の部分であると考えられる。しかし、実際にはこの部分が単独で用いられることはなく、数または個数を表す場合には「-つ」などの接尾辞を伴って、「ひとつ、ふたつ、みつ (みっつ)、よつ (よっつ)、…」という形で用いられるか、具体的な接尾辞または助数詞を伴って、「ひとり、ふたり、みたり (みったり)、よたり (よったり)、…」、「ひともと (1 本)」、「ふたまた (2 又)」、「みとせ (3 年)」、「よっか (4 日)」、「やくさ (8 種)」などという形をとる。
さらに 10 を超える数については、「とおか・あまり・みっか」 (13 日)、「みそとせ・あまり・ななとせ」 (37 年)、「よそじ・あまり・みっつ」 (43 個) などのように、桁ごとに接尾辞または助数詞を繰り返して言う方法しかなく、非常に冗長だった。なお「みそひともじ(三十一文字)」などの語は、このような和語系数詞本来の体系が崩れた後に、漢語系数詞の体系に合わせて生じたものとされる。
これに対して漢語の数詞は、「十・三」 (13)、「三十・七」 (37)、「二千・七百・六十・八」 (2768) などと言うように単純かつ体系的であり、「日」、「年」、「個」などの助数詞は末尾に1度付ければよいという合理性を持ち、また極小から極大まで、あるいは分数表現や割合表現、倍数表現などについても整然とした体系を持っている。このことが、現代日本語での和語系の数詞の使用が 1~10 に限られ、11 以上はもっぱら漢語系の数詞が使用されるようになった原因と考えられている。
現代日本語においては 10 以下であっても、「みたり」 (3 人) などのような表現はほぼ消滅し、「ひとよ」 (1 夜) という表現も非常に古風な物言いと感じられる。時間あるいは期間としての 1 日を和語系数詞で「ひとひ」と呼ぶことは現代日本語ではほとんどなく、漢語系の「いちにち」という言い方しか行われない(月の第1日を「ついたち」と呼ぶのは「月立ち」の音便形である)。
なお、4, 7 については漢語の「し」、「しち」より、和語の「よん」、「なな」を使うことが多い(「漢数字#日本語」も参照)。
年月日の読み上げでは、「四月」(しがつ)を除いて「四」を「よん」と発音する以外全ての数詞を漢数詞の読み方で発音するのが慣習であるが、無線などの雑音の多い環境での会話では「いち」「に」「し」「しち」などの発音の似ている数の混同を防ぐために、例えば「四月二十七日」を「よんがつふたじゅうななにち」と読み上げることもある(「一月」は「正月」(しょうがつ)と読む)。
金田一春彦によれば、西南戦争の際、官軍は二中隊で脇から待ち伏せする中、残り一中隊を前進させて賊軍を引き寄せる作戦をとり「三中隊、前へ」と号令したところ、意に反して全三中隊とも前進してしまい甚大な損害を被ったため、以後日本陸軍では、序数の場合は「第三中隊」、基数の場合は「三個中隊」という表現とし、明確化するようにした。
固有語と漢語の数詞の併用という現象は朝鮮語やベトナム語にも見られる。朝鮮語では日本語よりも広く、99 まで固有語の数詞が普通に用いられ、特に時刻の表現では「何時何分」の「時」の前には固有語系の、「分」の前には漢語系の数詞が用いられる。
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