- 英
- inverted papilloma
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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/02/21 17:27:05」(JST)
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尿路原発の内反性乳頭腫(ないはんせいにゅうとうしゅ、英Inverted papilloma)は、腎盂、尿管、膀胱、近位尿道の尿路上皮(=移行上皮)に被覆された部位に好発する良性腫瘍である。腎尿路系の良性新生物に包含されている(ICD10コードはD303, 病名変換用コードはJDMN)。1963年に膀胱の内反性乳頭腫として独立した疾患であることが最初に提唱された。以後、病理組織学的特徴や臨床所見に基づき良性尿路上皮腫瘍として認知されるようになった。外向性発育する低悪性度の乳頭状尿路上皮癌(英urothelial carcinoma)との鑑別が重要である。
目次
- 1 疫学
- 2 症状
- 3 病理組織学的特徴
- 4 鑑別疾患リスト
- 5 尿路内反性乳頭腫の発生論
- 6 治療
- 7 予後
- 8 参考文献
- 9 関連項目
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疫学
尿路上皮癌よりはるかに稀な疾患である。本邦の大学病院での症例研究を参照すると、27年間で48例の尿路系内反性乳頭腫が記載されている(Asano K et al, 2003)。同報告によれば患者年齢は24-82歳(平均56歳)であった。同様な傾向は欧米や他のアジア諸国からの報告でも共通している。ただし10歳代での発症例も少数記載されている。性別では男性に多い。喫煙歴、職業歴との関係は明らかでない。発生部位は圧倒的に膀胱三角部または膀胱出口部が多いが、尿管、腎盂粘膜、近位尿道にも発生する。尿路系以外では子宮頚管での類似腫瘍の発生が報告されている(Zamecnik M et al, 2002)。
症状
無症候性血尿または下部尿路閉塞のいずれかである。尿管原発例では上部尿路閉塞により水腎症の原因になる。
病理組織学的特徴
肉眼的には単発性が多く長径3mmから30mmの亜有茎性ポリープのことが多い(Chang CW et al, 2005)。二ヶ所に同時性または異時性に多発した例も報告されている。ポリープ表面は異型のない尿路上皮が被覆している。病巣は境界明瞭で、粘膜固有層に帯状または重積梁状に尿路上皮細胞の密な増殖が認められる。胞巣周囲の細胞は柵状配列を示す。
個々の細胞は類円形ないし長楕円形で、細胞異型は認められない。胞巣中心の腺様分化がしばしば認められる。繊細な線維性間質が介在している。免疫組織化学的にはp53の過剰発現は認められない。また、浸潤性尿路上皮癌で発現するアクチン結束蛋白であるFascin-1も陰性である(Tong GX et al, 2005)。
鑑別疾患リスト
低悪性度の乳頭状尿路上皮癌との鑑別を要する。粘膜固有層に胞巣状浸潤を示す尿路上皮癌との鑑別は特に注意を要する。内反性乳頭腫の一部に核小体の明瞭化、異型扁平上皮胞巣、異形成、変性による多核細胞の出現がある例も検討されているが、切除後の再発や尿路上皮癌への移行例は認められていない(Broussard JN et al, 2004)。こうした例は異型を伴う内反性乳頭腫として取り扱うことが推奨されている。
尿路内反性乳頭腫の発生論
組織学的な類似から増殖性膀胱炎であるBrunn胞巣(Brunn’s nest)や腺性膀胱炎(cystitis glandularis)との関係が指摘されている。膀胱三角部や近位尿道に好発する点でも類縁性がある。ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染との関係については、HPV type 18がPCRで陽性であったというデータが香港から報告されている(Chan KW et al, 1997)。
治療
膀胱鏡下での腫瘍の完全摘除(transurethral resection)が有効である。化学療法、放射線療法は適応外である。
予後
良性腫瘍と考えられているが、切除時または切除後に尿路上皮癌を合併する例も報告されている。したがって経過観察は必須である。
参考文献
- Asano K, Miki J, Maeda S, Naruoka T, Takahashi H, Oishi Y. Clinical studies on inverted papilloma of the urinary tract: report of 48 cases and review of the literature. J Urol 2003;170:1209-1212. PMID: 14501726
- Chang CW, Chan LW, Chan CK, Ng CF, Cheung HY, Chan SY, Wong WS, To KF. Is surveillance necessary for inverted papilloma in the urinary bladder and urethra? ANZ J Surg 2005;75:213-217. PMID: 15839967
- Zamecnik M, Kubalova J. Inverted transitional cell papilloma of the uterine cervix. Ann Diagn Pathol 2002;6:49-55. PMID: 11842379
- Chan KW, Wong KY, Srivastava G. Prevalence of six types of human papillomavirus in inverted and papilary transitional cell carcinoma of the bladder: an evaluation by polymerase chain reaction. J Clin Pathol 1997;50:1018-1021. PubMed Central
- Broussard JN, Tan PH, Epstein JI. Atypia in inverted urothelial papillomas: pathology and prognostic significance. Hum Pathol 2004;35:1499-1504. PMID: 15619209
- Tong GX, Yee H, Chiriboga L, Hernandez O, Walsman J. Fascin-1 expression in papillary and invasive urothelial carcinomas of the urinary bladder. Hum Pathol 2005;36:741-746. PMID: 16084942
関連項目
- 膀胱癌
- 尿路上皮癌
- 増殖性膀胱炎
- ポリープ状膀胱炎
- マラコプラキア
UpToDate Contents
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Japanese Journal
- 上顎部分切除において鼻用内視鏡ガイドの有用性を認めた3症例
- 牧野 寛之,岡本 牧人,中山 明仁,清野 由輩
- 頭頸部外科 20(3), 195-200, 2011
- 目的:当院では鼻副鼻腔悪性腫瘍に対し放射線治療,化学療法,手術からなる集学的治療を行っている。手術は上顎部分切除を行うことが多い。腫瘍を分割切除するため,出血により視野が妨げられる欠点があった。そこで手術条件を改善するため,内視鏡を導入した。その手術経験について報告する。方法:鼻用内視鏡にて術野をモニターしながら,上顎部分切除術を行った。結果:明視下に手術が可能で,助手との連携も良好になった。また …
- NAID 130000658918
- 前頭陥凹・前頭洞に進展した内反性乳頭腫に対する内視鏡下副鼻腔手術 : 6例の検討と適応について
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★リンクテーブル★
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- 英
- bladder tumor BT, bladder neoplasm, urinary bladder neoplasm
- ラ
- tumor vesicalis
- 関
- 膀胱癌
疫学
- 大部分が悪性腫瘍(死亡率は全悪性腫瘍の1.5%)
- 50-70歳代に多く、男女比は3:1。
- 発生年齢は男女とも40歳代以降で年齢とともに高くなる。50歳代以降に発生しやすい(IMD)。
- 年齢調整死亡率:男性 3.8/10万人、女性 1.0/10万人
- 罹患率:男性 6.8人、女性 1.7人(IMD)。
好発部位
転移
病理
悪性腫瘍
- 膀胱癌の80%以上
- 表在性・乳頭状であることが多い
- 多発性・異所性再発癌の傾向がある
- そのため上皮内癌でも悪性度は高い
良性腫瘍
病因
- ゴム工業、石油化学工業、ペンキ工など芳香族アミンを扱う職業人は発生率が非常に高い(職業性膀胱癌)。またこの場合、潜伏期は平均18年。
- 2-ナフチルアミン、ベンチジン、4-アミノジフェニルなど
- 2. トリプトファン代謝物
- 3. 喫煙
- 4. コーヒー
- 5. 慢性機械的刺激:扁平上皮癌が多い
- 膀胱結石:長年放置され、継続的に刺激を受けた場合
- ビルハイツ住血吸虫:虫卵による刺激。
- 第9番染色体の欠失:膀胱粘膜に発生する乳頭状の癌に関与
- 第17番染色体短腕の癌抑制遺伝子の障害:上皮内癌の発生に関与
症状
- 初発症状は無症候性血尿(症例の約80%)
- 突然の血尿と自然止血を繰り返し、次第に血尿の持続時間が長くなる
- 腫瘍部血管の破裂、潰瘍、壊死による血管損傷で起こる出血と、凝血による止血のため
- (1)排尿痛
- (2)側腹部痛・背痛
- (3)腰部神経痛性疼痛
- (4)腎部痛・発熱
- 4. 全身症状…腫瘍の進展により体重減少、倦怠感、貧血など悪液質の症状を呈する
=腫瘍合併症、腫瘍の進展による症状
診断
- 診断は膀胱鏡検査によるが、生検にて分化度と浸潤などを調べる。
内視鏡検査(膀胱鏡)
- 経尿道的に膀胱鏡を挿入し、膀胱内を観察。膀胱腫瘍の診断に最も重要な検査(膀胱癌の確定診断)
- 腫瘍の発生部位、数、大きさ、正常を確認。
- フォローアップやスクリーニング目的で施行
- 尿中に脱落した腫瘍を染色する。膀胱内を生食にて洗浄し、この洗浄液について細胞診をおこなうこともある。細胞診は膀胱鏡にて診断の困難な上皮内癌に有効。
- 悪性度III, IV, Vで確定診断に繋がる。
その他
- 膀胱造影、排泄性腎盂造影、超音波検査、CTスキャン、麻酔下双手診
画像診断
- 排泄性尿道造影(IVP)、超音波診断(経尿道的、経腹的)、CTにより腫瘍の広がり(浸潤度)と上部尿道の精査を行う。
治療
- 治療方針の決定に大切なのは浸潤度と分化度。
- 浸潤度:表在性癌 → 経尿道的切除術・抗悪性腫瘍薬の膀胱内注入療法。浸潤癌 → 膀胱全摘出術
- 分化度の低いものや、浸潤度T3以上のものは原則、膀胱全摘除術。
- 1. 表在性腫瘍(浸潤が粘膜下層までのもの:TaとT1)
- 膀胱温存かつ根治治療を目指す。
- 病理所見でCISを認める場合や,再発の可能性の高い多発性低分化癌症例ではTUR-Bt後にBCGの膀胱内注入療法を行う
- 2. 表在性腫瘍であるが、上皮内癌(CIS)である場合
- 悪性度が高いため、根治のために膀胱全摘除が選択肢となる。
- BCG膀胱内注入療法(第一選択)
- 膀胱全摘除術(浸潤度に準じる)
- 骨盤リンパ節郭清術→根治的膀胱全摘除術
- 転移のあるもの(T3以上)など切除不能な進行癌では化学療法(M-VAC療法)を行う。
合併症
予後
- 浸潤度と組織型によって決まる。
- 表在性癌:良好
- 浸潤性癌:不良
- 表在癌 + 経尿道的切除術:5年生存率約80%
- 浸潤癌 + 膀胱全摘出術 :5年生存率約20%
種類
- a. 良性上皮性腫瘍
- 1)上皮性乳頭腫 urothelial papilloma
- 2)尿路上皮乳頭腫:内反型 urothelial papilloma ; inverted type
- 3)扁平上皮乳頭腫 squamous cell papilloma
- 4)絨毛腺腫 villous adenoma
- b. 悪性上皮性腰痛
- 1)上皮内癌 carcinoma in situ(CIS)
- 2)尿路上皮癌 urothelial carcinoma (UC)
- 3)扁平上皮癌 squamous cell carcinoma(SCC)
- 4)腺癌 adenocarcinoma(AC)
- (1)通常型
- (2)特殊型
- ①尿膜癌 urachal carcinoma
- ②印環細胞癌 signet-ring cell carcinoma
- ③中腎癌 clear cell carcinoma
- 5)小細胞癌 small cell carcinoma(NEC)
- 6)未分化癌 undifferentiated carcinoma
- 7)その他 others
- 繊毛癌、カルテノイドなど
- c. 良性非上皮性腫瘍
- d. 悪性非上皮性腫瘍
- e. 腫瘍性病変ないし異常上皮
- 1)炎症性偽腫瘍 inflammatory pesudotumor
- 2)尿路上皮過形成 urothelial hyperplasia
- ①平坦状尿路上皮過形成 flat urothelial hyperplasia
- ②乳頭状尿路上皮過形成 papillary urothelial hyperplasia
- 3)異形成 dysplasia
- 4)扁平上皮化生 squamous metaplasia
- 5)腎原性化生 nephrogenic metaplasia
- 6)増殖性膀胱炎 proliferative cystitis
- ①ブルン細胞巣 von Brunn's nest
- ②腺性膀胱炎 cystitis glandularis
- ③嚢胞性膀胱炎 cystitis cystica
- 7)乳頭状またはポリープ状膀胱炎 papillary or polypoid cystitis
- 8)マラコプラキア malacoplakia
- (日本泌尿器科学会,日本病理学会編:泌尿器科・病理 膀胱癌取扱い規約,第3版, pp50-51,金原出版. 2001より引用)
TNM分類
- T-原発腫瘍の壁内深達度
- TX 原発腫瘍の評価なし
- T0 腫瘍なし
- Ta 非浸潤性乳頭状癌
- Tis 上皮内癌(平坦癌)
- T1 粘膜下結合組織までの浸潤
- T2 筋層への浸潤
- T2a 筋層の半ばまでの浸潤
- T2b 筋層の半ばを越える浸潤
- T3 膀胱周囲への浸潤
- T3a 顕微鏡的レベルの浸潤
- T3b 肉眼的的レベルの浸潤(壁外腫癌)
- T4 腫瘍が前立腺,子宮,膣,骨盤壁,腹壁のいずれかに浸潤
- T4a 前立腺,子宮,膣のいずれかに浸潤
- T4b 骨盤壁,腹壁のいずれかに浸潤
- N-所属リンパ節転移
- NX 所属リンパ節の評価なし
- N0 所属リンパ節転移なし
- N1 2cm以下の1個の所属リンパ節転移を認める
- N2 2cmを超え5cm以下の1個の所属リンパ節転移,または5cm以下の多数個の所属リンパ節転移を認める
- N3 5cmを超える所属リンパ節転移を認める
- M-遠隔転移
- MX 遠隔転移の有無不詳
- MO 遠隔転移なし
- M1 遠隔転移あり
- (TNM分類,第6版, 2002より引用)
[★]
- 英
- inverted papilloma of the urethra
[★]
- 英
- nipple, papilla
- ラ
- papilla mammae
- 関
- 乳房
位置
- 鎖骨中線のあたりであって、T4-T5肋骨の間、すなわち第4肋間隙にある(♂)、と思われる。
- 上記の位置は、性差・個体差あり(KL.265)
臨床関連
- 胸骨圧迫(心臓マッサージ):圧迫部位は両乳頭のを結ぶ線と胸骨が交わる部位である。胸骨のやや下部となる。
[★]
- 英
- papilloma
- 同
- 乳嘴腫
- 乳頭腫症は無関係!!
分類
- 被覆上皮の種類により分類する
- 扁平上皮乳頭腫 squamous cell papilloma
- 移行上皮乳頭腫 transitional cell papilloma
- 円柱上皮乳頭腫 columnar cell papilloma
[★]
- 英
- inversion (K)
- 同
- 内がえし、内返し
[★]
- 関
- がん、腫瘍、腫瘤、良性新生物