出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/08/20 17:20:43」(JST)
治験(ちけん)とは、医薬品もしくは医療機器の製造販売[1]に関して、医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる臨床試験のことである[2]。元々は、「治療の臨床試験」の略であるという[3]。
従来、承認を取得することが目的であったため企業主導で行われてきたが、法改正により必ずしも企業の開発プロセスに乗る必要はなく医師主導でも実施可能となった。動物を使用した非臨床試験(前臨床試験)により薬の候補物質もしくは医療機器の安全性および有効性を検討し、安全で有効な医薬品もしくは医療機器となりうることが期待される場合に行われる。
治験は第I相から第Ⅲ相までの3段階で行われることが多い。 ただし、抗がん剤(特に細胞傷害性の抗がん剤)に関しては、第I相臨床試験は既知の予想される大きな不利益があるために通常がん患者を対象に行われ、 第II相臨床試験に関しても国際規準RECIST(レシスト)による腫瘍縮小効果(奏効率)が検討されたり、強い副作用や、生命倫理問題[5]の大きさから、一般薬に比べてランダム化比較試験が簡単に行いづらいなど、デザインや方法を異にする場合が多い。
自由意思に基づき志願した健常成人を対象とし、被験薬を少量から段階的に増量し、被験薬の薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)や安全性(有害事象、副作用)について検討することを主な目的とした探索的試験である。動物実験の結果をうけてヒトに適用する最初のステップであり、安全性を検討する上で重要なプロセスである。しかし、手術や長期間の経過観察が必要な場合や、抗がん剤などの投与のようにそれ自体に事前に副作用が予想されるものは、外科的に治療の終わった患者(表面的には健常者)に対して、補助化学療法としての試験を行うことがある。また、抗がん剤の試験の場合は、次相で用いる用法・用量の限界を検討することも重要な目的となる。
第II相試験は第I相の結果をうけて、比較的軽度な少数例の患者を対象に、有効性・安全性・薬物動態などの検討を行う試験である。多くは、次相の試験で用いる用法・用量を検討するのが主な目的であるが、有効性・安全性を確認しながら徐々に投与量を増量させたり、プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して用量反応性を検討したり、その試験の目的に応じて様々な試験デザインが採用される。探索・検証の両方の目的を併せ持つことが少なくないため、探索的な前期第II相と検証的な後期第II相に分割することもある。その他にも、第I/II相として第I相と連続した試験デザインや、第II/III相として第III相に続けて移行する試験デザインもある。また、毒性の強い抗がん剤に関しては、この第II相で腫瘍縮小効果などの短期間に評価可能な指標を用いて有効性を検証し、承認申請を行うことがある。
上市後に実際にその化合物を使用するであろう患者を対象に、有効性の検証や安全性の検討を主な目的として、より大きな規模で行われるのが第III相である。それまでに検討された有効性を証明するのが主な目的であるため、ランダム化や盲検化などの試験デザインが採用されることがほとんどである。数百例以上の規模になることもあるため、多施設共同で行う場合が多い。抗がん剤の場合は、製造販売後に実施されることが多い。
治験を行う者は、治験への参加者に対して、治験に先立ち、実施される試験の目的や内容について説明する義務がある。また、参加者が患者であるならば、その治療法などについてのメリットとデメリット、他の存在する治療法などを詳しく説明し、予想される最悪の帰結に関してまでの合意がなければならない。そして、十分な理解の出来た参加者本人の自由意思によってのみ治験への参加は決断されねばならない。また、いつでも参加者は自由に治験からは離脱でき、治験からの離脱に対して、今後の治療や経済的制裁などの不利益を被ることが一切ないことを保証しなければならない(間接的な強制も許されない)。
治験責任医師、治験分担医師、治験協力者などの種類があり、これらの業務を行うためには、治験毎にあらかじめ治験審査委員会の承認を得なければならない。
治験では、被験薬の効果を検討するために、実際には効果のない物質(偽薬、プラセボ)や、すでに効果が確認され市販されている薬剤との比較が行われるが、被験薬と対照薬のどちらを投与されているかを被験者が知ってしまうと、薬剤の効果が変化してしまうことがある(この現象はプラセボ効果と呼ばれる)。これを防ぐために、どちらを投与されているかを被験者本人に知らせない試験を単盲検試験と呼ぶ。
また、投与する医師がどちらを投与しているか知っていると、それが態度に表れてしまったり、有効性や安全性の評価に際して先入観が入り込んでしまったりすることがある。これらを防ぐため、被験者本人にも、投与する医師にも、投与しているのが被験薬であるか対照薬であるかを知らせないのが二重盲検(ダブルブラインド)試験である。
二重盲検試験を実施する場合、被験薬と対照薬は製造後(医療機関に納入される前)、治験依頼者から独立した第三者機関(割付責任者)にて、1名分(または1回分)ずつ、全く同じ外観のパッケージに入れられ、1個1個にそれぞれ固有の番号がつけられる。この作業を薬剤割付(わりつけ)という。薬剤番号と実際の中身との対応表は、割付の際に割付責任者が作成し、厳重に封を施した上で保管する。その後、この作業によって識別不能となった被験薬と対照薬が医療機関に納入され、ランダムに治験参加者に処方される。治験終了後、データがすべて集まり、データベースの変更ができないようにした状態(データ固定)で、はじめて治験依頼者が割付表を入手し、割付情報を開封(キーオープン)して結果の解析が行われる。
なお、最近、特にヨーロッパを中心に『盲検(ブラインド)』という言葉を敬遠する動きがあり、そのような場合には『二重マスク法』などとも呼ばれることがある。
従来の臨床試験はその実施中に詳細を公表されることなく、結果報告の時点でその実施要領と合わせて明らかにされることが多かったため、「都合の良い結果が出たものだけが論文発表され、そうでないものが表に出てこない」(出版バイアス)可能性が指摘されてきた。そのため、試験実施者にとって都合の悪そうな情報が最終段階まで研究されない、あるいは研究されても報告されない、という倫理的問題を指摘されてきた。
また、参加施設も事前に計画に参加した医療機関に限られたため、広く治験への参加を呼びかける広報活動が困難であった。
これらの背景を受けて、医学雑誌編集者国際委員会 (ICMJE) は2004年9月に「生医学雑誌への投稿のための統一規定 (Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals: Writing and Editing for Biomedical Publication)」を提唱し、医学雑誌に投稿される臨床試験について事前にプロトコル(手順書)の登録・公開を義務付けるように各誌に呼びかけた。これを受けて北米・欧州・日本に複数の臨床試験登録機関が発足し、日本国内でも2005年より大学病院医療情報ネットワーク (UMIN) や(財)日本医薬情報センター (JAPIC) による運用が始まり、翌2006年には日本医師会も同様の取り組みを行っている。
登録に際して必要な情報は各登録機関の間で大きな差異はないが、登録する研究の対象範囲や情報公開に用いられる言語の種類などにそれぞれ特徴がある。
GCP省令
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