ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体
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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/02/11 16:52:11」(JST)
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ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(ピルビンさんデヒドロゲナーゼふくごうたい、Pyruvate dehydrogenase complex、PDC)とは、ピルビン酸をアセチルCoAに変換(ピルビン酸脱炭酸反応と呼ばれる)する3つの酵素の複合体である。アセチルCoAはクエン酸回路に送られて細胞呼吸に使われており、この複合体は解糖系とクエン酸回路とを繋げている。また、ピルビン酸脱炭酸反応は、ピルビン酸の酸化を必要とするためピルビン酸デヒドロゲナーゼ反応としても知られる。
このマルチ酵素複合体は、オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ(Oxoglutarate dehydrogenase、EC:1.2.4.2、2.3.1.61、1.8.1.4)と分岐鎖αケト酸デヒドロゲナーゼ複合体(Branched-chain alpha-keto acid dehydrogenase complex、EC:1.2.4.4)と構造的・機能的に関係がある。
目次
- 1 反応
- 2 構造と機能
- 2.1 ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)
- 2.2 ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ(E2)
- 2.3 ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(E3)
- 3 関連項目
- 4 外部リンク
|
反応
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の酵素反応;
構造と機能
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は、真核生物のミトコンドリアのマトリックスに位置する。全部で60のサブユニットを含み、3つの機能性タンパク質を組織する。
酵素 |
略称 |
補因子 |
# サブユニット |
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ
(EC 1.2.4.1) |
E1 |
チアミン二リン酸 |
24 |
ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ
(EC 2.3.1.12) |
E2 |
α-リポ酸
CoA |
24 |
ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ
(EC 1.8.1.4) |
E3 |
FAD
NAD+ |
12 |
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)
始め、ピルビン酸とチアミン二リン酸(TPP)がピルビン酸デヒドロゲナーゼサブユニットに結合する。TPPのチアゾール環は双性イオンの型をとっており、C2炭素がピルビン酸のC2(ケトン)カルボニルに求核攻撃する。結果、脱炭酸しアシルアニオン相当の生成物を与える。このアニオンはリシン残基に結合しているα-リポ酸のS1に攻撃し、SN2機構で環が開いてS2の方はスルフィドまたはチオール基に変わる。続いて、TPP補因子を放出してリポ酸のS1にチオ酢酸が結合したS-アセチルジヒドロリポイルリシンが形成する。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ触媒機構は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の律速過程である。
ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ(E2)
リポ酸チオエステルの役割は、ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼの活性部位での置換反応である。そこでは、リポ酸の「スイングアーム」からアシル基がCoAのチオールに置換する。ここで生成したアセチルCoAは複合体から放出されてクエン酸回路に入る。
ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(E3)
ジヒドロリポ酸は複合体のリシン残基に結合したままジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼの活動部位に移動してFADによる酸化を受ける。この反応でFADは還元されてFADH2となり、その後NAD+によって酸化されてFADに戻される。結果、NADHが生成する。
関連項目
- ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損症(Pyruvate dehydrogenase deficiency、PDHA)
外部リンク
- ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDBj 今月の分子 2012/09)
代謝: クエン酸回路の酵素 |
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回路 |
クエン酸シンターゼ(EC 2.3.3.1) - アコニット酸ヒドラターゼ(EC 4.2.1.3) - イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.41, EC 1.1.1.42) - オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ (スクシニル基転位)(EC 1.2.4.2) - スクシニルCoAシンターゼ(EC 6.2.1.4, EC 6.2.1.5) - コハク酸デヒドロゲナーゼ (ユビキノン)(EC 1.3.5.1, EC 1.3.99.1) - フマル酸ヒドラターゼ(EC 4.2.1.2) - リンゴ酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.37)
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炭酸固定補充 |
ピルビン酸カルボキシラーゼ - アスパラギン酸トランスアミナーゼ - グルタミン酸デヒドロゲナーゼ - メチルマロニルCoAムターゼ - ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体
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UpToDate Contents
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Japanese Journal
- ピルビン酸代謝異常症の難治性乳酸アシドーシスに血液浄化が有用であった一例
- 堀 耕太郎,竹田 健太,井手 岳,西 信一
- 日本集中治療医学会雑誌 21(2), 165-168, 2014
- … ピルビン酸脱水素酵素複合体はエネルギー産生において非常に重要な酵素であり,その異常により高乳酸血症を呈する。 … 今回,ピルビン酸脱水素酵素複合体異常症の難治性乳酸アシドーシスに対して,急性血液浄化が有用であった1例を経験したので報告する。 …
- NAID 130004846851
- 片側性の脳室上衣下嚢胞と脳室内隔壁を呈したピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症の一女児例
- 伊藤 進,小國 弘量,大谷 ゆい [他],島田 姿野,石垣 景子,舟塚 真,大澤 眞木子
- 東京女子医科大学雑誌 83(E1), E296-E300, 2013-01-31
- … ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)欠損症は、小児の一次性乳酸アシドーシスと神経学的異常の主原因となる先天性代謝異常症である。 …
- NAID 110009559412
- 胎児期に,多嚢胞性脳病変を生じたピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症の1例
Related Links
- ピルビン酸脱水素酵素は3種の酵素タンパク質が会合した、複合体である。中心部はリポ酸を補酵素とするアセチル基転移酵素(E2)のサブユニット 24 個からなる。その周囲には、チアミンピロリン酸を含むピルビン酸脱水素酵素 ...
- ピルビン酸脱水素酵素欠損症患者へのジクロロ酢酸ナトリウムの投与 ピルビン酸脱水素酵素欠損症患者へのジクロロ酢酸ナトリウムの投与について解説します。 ピルビン酸脱水素酵素(PDH)複合体は、解糖系からTCA回路を結ぶ重要な ...
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★リンクテーブル★
[★]
- 英
- pyruvate dehydrogenase complex deficiency disease, pyruvate dehydrogenase complex deficiency PDCD
- 同
- ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、ピルビン酸脱水素酵素欠損症 pyruvate dehydrogenase deficiency
- 関
- ピルビン酸脱水素酵素複合体
[★]
- 英
- pyruvate dehydrogenase complex, PDC
- 同
- ピルビン酸脱水素酵素複合体
- 関
- ピルビン酸デヒドロゲナーゼ
[★]
ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体欠損症
[★]
- 英
- enzyme, ferment
- 関
- 酵素反応
酵素の分類
- (a)酸化還元酵素(oxydoreductase) EC1:ある物質を酸化したり、還元したりします。脱水素酵素、ペルオキシダーゼなどを含みます。
- (b)転移酵素(transferase) EC2: アミノ基やリン酸基などをある物質から別の物質に転移する酵素です。アミノ基を転移する酵素はアミノトランスフェラーゼと呼ばれます。
- (c)加水分解酵素(hydrolase) EC3:ある物質(基質)に水(H2OのうちHとOH)を加えることにより、2つに分解します。多くの蛋白分解酵素が含まれます。
- (d)リアーゼ(lyase) EC4:ある物質を2つに分解します。
- (e)イソメラーゼ(isomerase) EC5:ある基質を異性体に変換します。
- (f)リガーゼ(ligase) EC6;ATPのエネルギーを使って2つの物質を結合します。
[★]
- 英
- complex、complexes、composite
- 関
- 合成物、錯体、多層、複合性、複合物、複雑、コンプレックス、複合
[★]
- 英
- body
- ラ
- corpus、corpora
- 関
- 肉体、身体、本体、コーパス、ボディー
[★]
- 英
- complex
- 関
- 合成物、錯体、複合体、複合物、複雑、コンプレックス
[★]
- 英
- dehydrogenase
- 同
- デヒドロゲナーゼ