筋ジストロフィー
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筋ジストロフィー |
分類及び外部参照情報 |
ICD-10 |
G71.0 |
ICD-9 |
359.0-359.1 |
筋ジストロフィー(きんジストロフィー、英語:Muscular Dystrophy)とは、筋線維の破壊・変性(筋壊死)と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性筋疾患の総称である。発症年齢や遺伝形式、臨床的経過等から様々な病型に分類される。その内、最も頻度の高いのはデュシェンヌ型である。
目次
- 1 定義
- 2 進行性筋ジストロフィー(progressive muscular dystrophy, PMD)
- 2.1 性染色体劣性遺伝型筋ジストロフィー
- 2.1.1 デュシェンヌ型筋ジストロフィーの筋病理
- 2.2 先天性筋ジストロフィー
- 2.3 肢帯型筋ジストロフィー
- 2.4 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
- 3 筋緊張性ジストロフィー(myotonic dystrophy)
- 4 脚注
- 5 参考文献
- 6 関連項目
- 7 外部リンク
定義
主訴が筋力低下、筋萎縮であり、以下の2項目を満たすものをいう。
- 遺伝性疾患である。
- 骨格筋がジストロフィー変化を示す。
ジストロフィー変化とは、筋線維の大小不同、円形化、中心核の増加、結合組織の増生、脂肪化を特徴として筋線維束の構造が失われる変化のことをいう。これは筋ジストロフィーの中で最初に報告されたデュシェンヌ型の病理所見から定義されたものである。
進行性筋ジストロフィー(progressive muscular dystrophy, PMD)
性染色体劣性遺伝型筋ジストロフィー
- デュシェンヌ型(Duchenne muscular dystrophy, DMD)
- 進行性筋ジストロフィーの大部分を占め、重症な型である。おおよそ小学校5年生くらいの10歳代で車椅子生活となる人が多い。昔は20歳前後で心不全・呼吸不全のため死亡するといわれていたが、「侵襲的人工呼吸法」(気管切開を用いる)や最近では「非侵襲的人工呼吸法」(気管切開などの方法を用いない)など医療技術の進歩により、5年から10年は生命予後が延びている。しかし、未だ根本的な治療法が確立していない難病である。このデュシェンヌ型は、伴性劣性遺伝(X染色体短腕のジストロフィン遺伝子欠損)で基本的に男性のみに発病する。
- 2~5歳頃から歩き方がおかしい、転びやすいなどの症状で発症が確認されることが多数である。初期には腰帯筋、次第に大殿筋、肩甲帯筋へと筋力の低下の範囲を広げていく。なお、筋力低下は対称的に起きるという特徴を持つ。また、各筋の筋力低下によって処女歩行遅滞、易転倒、登攀性起立(とうはんせいきりつ、ガワーズ(Gowers)兆候)、腰椎の前弯強、動揺性歩行(あひる歩行)等をきたす。筋偽牲肥大に関しては腓腹筋や三角筋で特徴的に起こるが、これは筋組織の崩壊した後に脂肪組織が置き換わる事による仮性肥大である。病勢の進行と共に筋の萎縮(近位→遠位)に関節拘縮、アキレス腱の短縮なども加わり、起立・歩行不能となる。心筋疾患を合併することが多く、心不全は大きな死因のひとつである。
- 血清CK値著明に上昇。筋電図にて筋原性変化を認める。尿中クレアチニン↓。尿中クレアチン↑。筋生検にて免疫染色を行いジストロフィン蛋白欠損。
- 現在のところ、根本的治療法はない。機能訓練や関節拘縮予防のためのストレッチ(理学療法)のほか、心不全・呼吸障害に対する対症療法が行われる。作用機序は明らかではないが、プレドニゾロンはDMD型筋ジストロフィーに保険適用がある。国産初のアンチセンス核酸医薬品として治療剤の臨床試験が開始されている[1]。
- ベッカー型(Becker muscular dystrophy, BMD)
- 病態はデュシェンヌ型と同じだが、発症時期が遅く、症状の進行も緩徐。関節拘縮も少ない。一般に予後は良い。
- デュシェンヌ型同様、免疫染色にてジストロフィン蛋白に異常を認めるが、デュシェンヌ型ではジストロフィン蛋白がほとんど発現していないのに対し、ベッカー型では異常なジストロフィン蛋白が産生されたり、発現量が少ないことが知られており、これにより両者の症状の差異が生じているのだと考えられる。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの筋病理
筋ジストロフィーの筋病理の主要所見は筋線維の壊死と再生である。筋線維の壊死と再生に関しては以下の様な説明がされている。ジストロフィン欠損に起因する膜の異常があり、細胞外液が細胞内に流入する。外液中には高濃度のカルシウムが存在するためそれが筋細胞に入ると筋肉は過収縮をおこす。これがopaque線維と考えられる。高濃度カルシウムが存在するとカルパインなどの酵素が活性化され自己消化を起こし、筋肉は崩壊し、貪食細胞の侵入を許すことになる。筋ジストロフィーでは筋再生が活発であるが、再生は壊死を代償しない。そのため筋線維は次第に数を減らし、末期には筋線維はほとんど消失し、脂肪組織と結合組織で置換される。骨格筋のみならず、心筋や横隔膜もおかされ、心不全または呼吸不全が死因のひとつとなる。
先天性筋ジストロフィー
出生時より筋力の低下を認めるものを先天性筋ジストロフィーと呼ぶ。
- 日本では先天性筋ジストロフィーの中で最も頻度が高い。多くは10歳代で死亡する。
- ウールリッヒ型
- メロシン欠損症
- インテグリン欠損症
- ウォーカーワールブルグ症候群
肢帯型筋ジストロフィー
- LGMD1A~1D群
- LGMD2A~2F群
- 三好型遠位型
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー
常染色体優性遺伝。第4番染色体長腕に遺伝子座。原則として両親のどちらかが病気であるが、両親が全く正常で突然変異による発症と考えられる例が30%ある。病名のように顔面、肩甲部、肩、上腕を中心に障害される。進行すると腰や下肢の障害も生じ歩行困難となることもある。顔面筋の障害により閉眼力低下、口輪筋障害(口笛吹けない)などを来たし、独特の顔貌(ミオパチー顔貌)を呈する。肩や上腕の筋萎縮が高度なのに比し前腕部は比較的保たれるため、ポパイの腕と形容される。下肢の障害は、下腿に強いもの、腰帯・大腿に強いものなどいろいろである。CK上昇は軽度である。比較的良性の経過をたどり、進行すると腰や下肢の障害も生じ歩行できなくなることもあるが、生命に関しては良好な経過をとる。筋症状以外では、感音性難聴、網膜血管異常の合併が高率であり、まれに精神遅滞やてんかんの合併がある。
筋緊張性ジストロフィー(myotonic dystrophy)
詳細は「筋強直症候群」を参照
筋強直性ジストロフィーとも呼ばれる。常染色体優性遺伝を示す疾患で、マウスではmuscleblind-like(Mbnl)遺伝子の阻害により同様の症状が発現することが確認されている[1]。トリプレットリピート病の一種である。進行性に罹患筋の萎縮とミオトニアが見られる。有病率は10万人に1~5人、好発年齢は20~30歳代であるとされる。先天型では母からの遺伝による重症型がある。フロッピーインファントで発症。
- 顔筋、舌筋、手内在筋のミオトニア(筋強直。筋の収縮が異常に長く続き、弛緩が起こりにくい現象のこと。手を強く握るとすぐには開けない、など。低温下で増強されるため、冷水中の雑巾絞り様動作が診断の一助になるという)や、咬筋・胸鎖乳突筋の筋萎縮(西洋斧顔貌)、側頭筋の筋萎縮(白鳥の頸)、または四肢遠位筋の筋萎縮を見る。ミオトニアは筋萎縮に先立って生じる。
- その他に、白内障等の眼症状、内分泌障害(耐糖異常、性腺萎縮(無精子症)、甲状腺機能低下)、精神薄弱、循環器障害、呼吸器障害、消化器障害、前頭部の脱毛など多彩な症状の見られる全身性疾患である。
- 血清CK軽度上昇。筋電図にて筋原性変化を認め、また電極の刺入時に特徴的な筋強直性放電を認める(急降下爆撃音)。
- 現在のところ、根本的治療法はない。対症的にプロカインアミド、フェニトイン、塩酸キニーネ、副腎皮質ステロイド剤などの投与を行う。
脚注
- ^ トランスレーショナル・メディカルセンター (2013年5月9日). “国産初のアンチセンス核酸医薬品としてデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療剤の臨床試験開始へ”. 2014年10月29日閲覧。
参考文献
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- F.グレイ、U.デ・ジロラーミ、J.ポワリエ 編著 『エスクロール基本神経病理学』 村山繁雄 監訳、西村書店、2009年10月。ISBN 9784890133765。
- 埜中征哉 『臨床のための筋病理』 日本医事新報社、2011年1月、第4版。ISBN 9784784950645。
関連項目
- World Community Grid - 治療支援の為の分散コンピューティング
- レイバー・デイ・テレソン - 筋ジストロフィー患者の治療費捻出や社会参加を訴えるためのチャリティーテレビショーで、1966年からジェリー・ルイスを発起人として毎年開催されている
- 筋強直症候群
- 遠位型ミオパチー
- 国際宇宙ステーション - 筋ジストロフィー患者特有のタンパク質を分析、結晶化させるための宇宙実験が行われている。これによる新薬開発に期待が高まっている。
- 戸田達史 - 福山型先天性筋ジストロフィーの原因遺伝子やワクチンの研究で著名。
外部リンク
- 社団法人 日本筋ジストロフィー協会
- Remudy(Registry of Muscular Dystrophy) レムディ。臨床試験・治験を目的として、患者-製薬関連企業・研究者の橋渡しをする登録システム。
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Japanese Journal
- ロクロニウムとスガマデクスを使用して管理しえたBecker型筋ジストロフィ患者の腹腔鏡下直腸固定術の麻酔経験
- 「栄養と嚥下」シリーズ(No.8)神経筋疾患の嚥下障害と栄養管理
- 鎌田 裕子,松本 綾,堺 千賀子
- 医療 = Japanese journal of National Medical Services : 国立医療学会誌 68(9), 466-469, 2014-09
- NAID 40020226775
- 包括的遺伝子医療の実際 : 信州大学医学部附属病院遺伝子診療部の取組み (第1土曜特集 遺伝子医療の現状とゲノム医療の近未来) -- (遺伝子医療の現状)
Related Links
- ・ジストロフィン異常症(デュシェンヌ型、ベッカー型)対象 ・縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー対象 会報「一日も早く」 no282号 (2014.7.18) 「ふくやまっこ広場」 一般社団法人日本筋ジストロフィー協会の分科会「ふくやまっこ家族 ...
- 1986年にデュシェンヌ型の遺伝子異常が見つかり、この遺伝子がつくる蛋白質(ジストロフィン)も明らかにされました。この蛋白質は、正常では筋肉細胞の膜の内側に存在しています。 その後、ジストロフィンと関連している膜 ...
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- 関
- 筋ジストロフィー症、筋ジストロフィ、筋ジス、進行性筋ジストロフィー
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- 英
- limb-girdle muscular dystrophy, LGMD
- 同
- 肢帯筋ジストロフィー
- エルプ型筋ジストロフィー Erb muscular dystrophy
- 関
- 進行性筋ジストロフィー、筋疾患
- 下肢帯及び上肢帯の筋力低下から始まり、徐々に四肢をも冒す。仮性肥大を認めることもあり末期になれば関節収縮を生じる。経過は緩徐で呼吸筋や心筋が冒される症例もあるが、心筋障害は少ない。知能障害は伴わない。血清CKは軽度~中程度上昇。(BET.437)
- 上下肢の筋力低下・萎縮、深部腱反射減弱・消失
- 顔面は侵されない。下腿肥大・関節拘縮を認める。
- Gowers徴候陽性
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