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児童虐待(じどうぎゃくたい、Child Maltreatment、Child Abuse、Cruelty to Children)とは、児童の保護者(親など)やその周囲の人間などが、児童に対して虐待を加える (Abuse)、もしくは育児放棄(ネグレクト)することである[1][2]。幼児の場合は特に「幼児虐待(ようじぎゃくたい)」と言う。児童虐待を行う親は「虐待親(ぎゃくたいおや)」(もしくは「虐待母(ぎゃくたいはは)」「虐待父(ぎゃくたいちち)」)と称される。虐待母の別名として、「鬼母(きぼ)」とも称される。
世界保健機構(WHO)では、Child maltreatmentは「18歳以下の子供に対して起きる虐待やネグレクト」と定義している[3]。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では、「親またはその他の養育者の作為または不作為によって、児童に実際に危害が加えられたり、危害の危険にさらされたり、危害の脅威にさらされること」と定義ししている[4]。
WHOは、全成人の4人に1人は年少児に身体的虐待を、女性の5人に1人と男性の12人に1人は年少時に性的虐待を受けたと報告している[3]。WHOによれば、毎年4.1万人の15歳以下児童が自宅にて殺されているという[3]。OECDは、児童虐待に起因する医療・司法・逸失利益のコストは、米国においてはGDPの約1%、豪州においては少なくともGDPの1%に上ると推定している[5]。
日本の児童虐待防止法では、「児童虐待」を、「保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう)がその監護する児童(18歳に満たない者)に対し、次に掲げる行為をすること」とし、以下の行為を列挙している。
児童の身体に外傷の生じる暴行や、外傷が生じるおそれのあるような暴行を加えること(児童虐待防止法第2条)。「一方的に、何度もこぶしで殴る」「一方的に何度も蹴る」など。結果として外傷がなくとも、その可能性が明らかにあった場合を含む。手や脚を使うこと全てが含まれているわけではなくて、裁判などでは、手でたたいた身体部位やそのたたき方(「拳」「平手」の別)、継続時間、などの差異が焦点となることがある。なお、親権者が監護や教育のために懲戒として子供の尻を1度から数度平手で軽くたたくようなことは、懲戒の範囲内に相当し、児童虐待に含まない。(「虐待」と「懲戒」の線引きが問題となることがある→#線引きの問題)また、児童の側が先に殴りかかって保護者の側がとっさに応戦し短く殴った場合も含まない(正当防衛)。
児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること(児童虐待防止法第2条)。児童性的虐待のことで、児童を性行為の対象にしたり、児童に対して強制的に猥褻なものごと(自らの性器や性交)を見せ付けたりすること。ただし、日本では自宅で風呂を入った直後、身体が熱くなっていて冷ますために、一定時間自宅内を全く着衣無しの状態で素っ裸で歩きまわるような行為は、昔から男であれ女あれかなり広く行われていて一定の合理性があるので、その程度は性的虐待には全然あたらない(意図的に子供を追い回してわざわざ性器ばかりを見せつけるようなことを連日やりでもしない限り、性的虐待にはあたらない。また児童のほうが能動的に近づいてじろじろ見る場合も、親権者ではなくむしろ児童のほうに問題があるので、児童虐待にはあたらない)。
児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応(児童虐待防止法第2条)。いわゆる「心理的虐待」のことで、児童に対して心理的な後遺症が残るほどの言葉の暴力、極端な恫喝を行うこと、また、無視しつづけること、存在自体を根本から否定すること、自尊心を踏みにじりつづける行為などが含まれ、虐待の根源とされる。児童の健全な発育を阻害し、場合によっては心的外傷後ストレス障害 (PTSD)やうつ病、[6] など、重大な精神疾患 の症状を生ぜしめることがあるので禁止された。離婚、別居など両親の不和家庭(環境)に多く見られる監護親によって別居親の存在を否定、削除させる事、これ即ち子どもにとって生命の誕生をも否定する事となり心理的成長阻害の代表的例となる。母親が子供に対して連日のように「あんたさえいなければ私は再婚できる。あんたさえ消えてくれれば。」「あんたの父親(母親)はろくな人間じゃない」などと言い続けることもこれに該当する。洗脳虐待も含まれる。なお、子供が重大なミスを犯した時に「お前は馬鹿な子だねぇ。気をつけなさい。」と単発で言う程度は親権者の「監督」行為の範囲内、常識の範囲内であり、児童虐待にはあたらない。
児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置(児童虐待防止法第2条)。いわゆる「ネグレクト(育児放棄、育児怠慢、監護放棄)」と呼ばれていることであり、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食[6]、もしくは長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること[7]。「長期間に渡って食事を与えない」の他にも、「病気になっても病院に受診させない[1]」、「乳幼児を暑い日差しの当たる車内への放置」、「習慣的に下着などを不潔なまま長期間 放置する[8]」、「(幼稚園、保育園、保育所、学校への)通学を行わせない」などが含まれる。保護者による治療拒否は特に医療ネグレクトと呼ばれ[9]、その結果が児童の生命・身体に重大な影響をおよぼす場合には親権停止の審判などの対象になるとされる[10]。なお、懲戒のために「しばらく、デザートだけは抜き」とか「今回一食だけ抜き(だが、次は食べさせる)」といったことを稀に行う程度なら懲戒の常識の範囲内に相当し、虐待にはあたらない。また、うっかりおむつを数時間替え忘れた、といった程度のことも児童虐待にはあたらない。
児童虐待は、以下の疾患の原因となる。
児童虐待は、いくつかの要因によって起きる複雑な現象である。虐待の原因を理解することは、児童虐待の問題を把握するために不可欠である。
配偶者を身体的に虐待する者は、子どもを身体的に虐待する割合が、より高い。しかしながら、夫婦喧嘩が児童虐待の原因となっているのか、あるいは夫婦喧嘩と虐待が、虐待する者の性質によって引き起こされたのかは、不明である。
望まれなかった妊娠で生まれた子どもは、虐待を受けたりネグレクトされたりする割合が、より高い。そして、望まれなかった妊娠では、意図的な妊娠と比較して、虐待的な人間関係である割合が、より高い。望まれなかった妊娠では、妊娠期間中に妊婦が身体的虐待を受けるリスクが、より高く、母の精神衛生が悪化し、母と子の関係の質が悪化する。
薬物依存は、児童虐待の重要な要因である。米国のある研究によれば、薬物依存が証明された患者では、 (多いのは、アルコールやコカインやヘロインであるが)、子どもを虐待する割合が、ずっと高い。、また、裁判所が命じたサービスや治療から脱落する割合が高い。別の研究によれば、児童虐待のケースの3分の2以上では、薬物依存の問題を抱えている。この研究は、アルコールと身体的虐待、コカインと性的虐待の関係が深いと報告している[11]。
失業と経済的困窮は、児童虐待の増加と関係している。2009年のCBSニュースは、経済不況の時に、米国の児童虐待件数が増加したことを報道している。子どもの世話をあまりしてこなかった父親が、子どもの世話をするようになると、子どものケガが増えるのである[12]。
子どもの殺害に関する1988年の米国の研究は、非生物学的な親は、生物学的な親に比べて、100倍も多く子どもを殺害すると報告している[13]。非生物学的な親とは、例えば義理の親、同居人、生物学的な親のボーイフレンドやガールフレンドである。これについての進化的心理学による説明は、他人の生物学的な子どものために自分の資源を使うことは、繁殖で成功するチャンスを増やすには、良い戦略ではないということである。もっと一般的に言えば、義理の子どもは、虐待を受ける割合が、ずっと高いということである。これはシンデレラ現象(英語版)と呼ばれている。
片親に育てられる子どもは虐待を受けやすい。米国の統計によれば、片親家庭の子どもが虐待を受ける率は、子ども1000人に対して27.3人であり、それは、両親のいる家庭の子どもが虐待を受ける率15.5人の、約2倍である[14]。また米国の高校生1000人を対象とした調査では、実父と実母のいる家庭で育った子どもが虐待を受ける割合が、3.2%であったのに対して、それ以外の形態の家庭で育った子どもが虐待を受ける割合は、18.6%であった[15]。虐待の加害者に最もなりやすいのは、片親の実母である[16]。
子どもの正常な発達についてよく知らない親は、しつけのつもりで子どもを虐待してしまうことがある。例えば1歳の子どもに排尿管理をさせようとして罰を与えても効果はない[15]。
山梨県立大学の西澤哲教は、2016年1月に埼玉県狭山市のマンションで、3歳の女児が死亡しているのが見つかり、母親とその内縁夫が女児の火傷を放置したとして保護責任者遺棄容疑で逮捕され、女児の体から暴行痕も見つかった事件について、母親が10代で出産したシングルマザーで別のパートナーがおり、女児が乳幼児健診を受けていなかったことを挙げ、「虐待の典型」と指摘した[17][18]。
子どもが、あざ(手の形をした)、噛み傷、裂傷、やけど、凍傷、骨折、頭蓋骨骨折、眼科外傷、脊髄損傷、内臓損傷、口腔内損傷、適切な説明の無い怪我、肛門や性器のあざ、性感染症などの場合は、身体的虐待の可能性を検討する[19]。
また、子供の行動や感情が年齢相応に発達しておらず、また神経発達症(注意欠陥多動性障害、自閉症スペクトラム障害など)ではない場合、虐待の可能性を検討する[20]。
また、子どもが重度で継続した感染(疥癬やアタマジラミなど)を持っていた場合、適切でない衣装や靴をずっと着用していた場合、栄養失調と思われる場合、ネグレクトの可能性を検討する[8]。
多くの国で行政組織や民間団体などが対策を講じている。WHOの「暴力と外傷の予防」部門の Mikton 氏は、児童虐待予防のための対策の効果を、先行する諸研究を検討して評価した。その結果、家庭訪問、親への教育、頭部外傷予防、多方面の介入には、児童虐待を減らす効果が認められた。また、家庭訪問、親への教育、性的虐待予防には、児童虐待のリスクを減らす効果が認められた[21]。
日本では厚生労働省、各自治体の児童相談所、保健機関、学校、民間団体などが児童虐待の対策に取り組んでおり、「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない(児童虐待防止法第3条)」としている。
機関での保護率 | 虐待の確認率 | ||
イングランド | 1.5% | カナダ | 2.2% |
カナダ | 2.2% | イスラエル | 1.8% |
豪州 | 3.3% | 米国 | 1.2% |
米国 | 4.8% | オランダ | 0.4% |
英国 | 0.2% |
2000年の被虐待児童数は、ドイツは31,000人、フランス18,000人である[22]。米国が突出している。米国児童保護サービス(CPS)は、2013年には約67.9万人の児童が虐待の被害者となったとしている[23]。
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日本の実数・実態としては、1950年ころからの警察庁のしっかりした統計をきちんと調べてみると、1950年代からの60年ほどの間に右肩下がりに減少(激減)してきていることが判る[24]。その比率は、実に百分の4や、百分の7という水準まで激減してきているのである[24]。なお、激減してきた後の最近(2007年からの10年ほど)だけに限定して見ると、件数は、ほぼ横ばいの状態と推定できる[24]。
近年日本のマスコミ関係者などが、何か事件がひとつあった時に、よく調べもせず「急増している」などとまことしやかに話をすることがあるが、これはあくまで調査不足であって根拠が無く、間違いである[24]。
実際に世の中で行われている児童虐待に関する網羅的な統計はない。なお、日本では「虐待」という名称ではしっかりした統計はとられてこなかった歴史がある。日垣隆によれば、日本の警察は「民事不介入の原則」を盾に、虐待をそもそも事件として取り扱っていなかった、という経緯がある、とのことである[25]。
しかし、警察には他殺数の統計は、被害者の年齢帯ごとにしっかり残されているので、それが参考になる[24]。
推移(増減)に関して言うと、「通報数」や「報告数」というのはその通報制度を行政機関がどの程度宣伝・告知しているかによって反応数が変化し、また人々が何を「児童虐待」と認知するかという解釈によってもブレる。解釈によるブレの影響を受けない形で、総数はともかくとして、推移(傾向)を把握しようとする場合は、死亡数に着目するのがひとつの方法で、
以前から警察が子供も含めて殺人件数をとっており、幼児他殺被害者数について調べてみると、たとえば0歳児の被害者は1950年ころは277人であったが、その後グラフは右肩下がりで減少してきており、2009年には11人にまで'減ってきている。1 - 9歳までの他殺被害者も1950年代の473人からグラフは右肩下がりに減少してきており、2009年の段階で36人まで減ってきている。つまり、明らかに0 - 9歳に対する命にかかわるような虐待の件数はこの60年ほどで激減してきているのである[24]。つまり277人→11人は百分の4(4/100)まで激減したわけであるし、473人→36人でも7/100まで激減したわけである。
平成16年あたりから見ると横ばい状態であり、平成20年ころからの数値を見てみると日本の厚生労働省が発表した児童虐待死亡事件件数の推移は、平成20年度が67名で、平成21年度が49名で減少した[26]。平成22年度が51名、平成23年度が58名[27]。つまり、平成20年ころからは、ほぼ横ばいで推移している。
年度 | 相談件数 |
---|---|
1990 (H2) 年度 | 1,101 |
1995 (H7) 年度 | 2,722 |
2000 (H12) 年度 | 17,725 |
2005 (H17) 年度 | 34,472 |
2010 (H22) 年度 | 56,384 |
2013 (H25) 年度 | 66,701 |
相談件数というのは、実際に虐待が行われている数と連動しているわけではなく、あくまで「相談(通報)」の件数である。この数字は「相談」(つまり「通報」)を政府や地方自治体がどの程度促するための告知活動を行っているか、その結果、国民・市民がどの程度、相談(通報)しようという意識を持ったか、ということのほうの影響をむしろ大きく受けている数字である。なので、実態としての虐待数を把握するための基礎的数字としては使えない。
ただし、広報活動の成果を示す数字や、人々がどれほど敏感になっているか、という意識の表れの数字としては使える。日本では近年通報することに関して厚生労働省などが広報活動を行っている。その結果、通報が増えている。
なお、相談(通報)された中には、調べてみたところ実際には誤った相談(誤報)で虐待ではなかった、というケースも含まれている。
日本の児童虐待相談件数は統計開始の1990年の1,101件から毎年増加し、2013年度には66,701件になった[29][30][28]。
「相談件数」の増加を実際に虐待が近年急増していると捉えるべきか、実際の虐待数はもっと多くて発覚する件数が増えていると捉えるべきなのかについて、九州保健福祉大学の大堂庄三も、「急増論は根拠がない」と指摘している[31]。
「平成18年度に全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数は、37,323件」で[28]。
平成18年度(2006年4月 - 2007年3月)に相談(通報)された件について、虐待内容による分類は「身体的虐待が15,364件(41.2%)で最も多く、次いでネグレクトが14,365件(38.5%)」と集計された[28]。虐待されていた児童の年齢は0 - 3未満が17.3%(6,449人)、3 - 学齢前児童が25.0%(9,334人)、小学生が38.8%(14,467人)、中学生が13.9%(5,201人)、高校生・その他が5.0%(1,872人)。性別では男児52.3%、女児47.7%で男児が若干多い[32]。ただし性的虐待に関しては、97.1%が女児で中高校生が65.0%[32]と、傾向が異なるとされた。相談された件では、虐待をする者は、62.8%が実母、22.0%が実父、義父・義母は合わせて8.3%で[28]、6割近くが実母によるものであることが分かる。
1999年の集計によれば、虐待をしているのは58.0%が実母、25.0%が実父であり、義父・義母は合わせて9.3%である(残りはその他)[32]。母の職業は3分の2が主婦・無職で、在宅型が多い[32]。虐待者の学歴は1993 - 1995年の統計において、中卒が34.3%、高卒が12.2%、高校中退が6.7%、大卒では2.4%であった(ただし、同統計において「その他・不明」が44.4%となっていて、その割合が大きいことに留意)。性的虐待では、虐待者の9割近くが中卒であるとの統計もある[32]。経済状況に関しては、(調査者が主観的に判断したところでは)1993 - 1995年の統計において、「貧困」52.5%、「普通」31.5%、「裕福」2.6%、だそうである[32]。
自らも虐待を受けた者の割合については、2007年の統計では、9.1% - 39.6%とされた[33]。
全国児童相談所長会が一時保護に親が同意しなかった614人の児童(平均年齢8.5歳)に対して調査した結果得た集計では、「「生命の危機がある」38人 (6.2%)、継続的治療が必要な外傷があるなど「重度の虐待」158人 (25.7%)、慢性的に暴力を受けるなど「中程度の虐待」254人 (41.4%)」である[34]。同調査によると、虐待が開始されてから児童相談所が一時保護するまでの期間は、3年以上(146人、23.8%)、1年以上3年未満(124人、20.2%)、6か月以上1年未満(82人、13.4%)、1か月以上6か月未満(108人、17.6%)、1か月未満(104人、16.9%)、無回答(50人、8.1%)である[34]。
児童相談所が児童虐待をした保護者に改善指導している途中、保護者の転居により行方が分からなくなってしまった児童の数が2009年だけでも39人いる[35]。
大阪府総合医療センター小児科の報告によれば、2000年から2010年までの10年間に同センターに入院した被虐児215例を検討したところ、主たる虐待者は、実母が55%、実父が18%であった。また入院前より児童相談所に通告されていたのは、全体の26%であった[36]。
期間 | 虐待死(人) | 心中死(人) | 計(人) |
---|---|---|---|
2004(H16).1.1 - 2004.12.31 | 50 | 8 | 58 |
2005(H17).1.1 - 2005.12.31 | 56 | 30 | 86 |
2010(H22).4.1 - 2011.3.31 | 51 | 47 | 98 |
2011(H23).4.1 - 2012.3.31 | 58 | 41 | 99 |
日本の社会では大人の自殺者数は毎年3万人ほどに達してしまっている。
58人や、41人(子供の虐待死の数)と、30,000人(自殺者全体の数)という数字を比べると、自殺全体のほうの問題の大きさが判る。
なお「自殺」と言っても、実際は本人が望んで死んでいるというより、社会的に追い込まれて死んでいる(一種の社会的虐待を受けている)人が大半である。
日本の行政というものの運営の実態が、非常に怠慢で、縦割り行政を改善する努力が不足していて連携不足で、大人(特に大人の男性が多い)を「見殺し」にしてしまっていることが指摘されている[37]。ようやくわずかながらに連携をとりはじめたのは2011年や2012年のことである。
子供の心中以外の虐待死でも、実は、貧困な家庭が多く、まず大人のほうが貧困状態に追い込まれてしまっている事例が多い。因果関係をたどると、日本では、まず親(大人)が社会的に追い込まれて(つまり、大人が社会的、行政的に放置され(一種の社会的虐待を受けている)ことによって、その結果、子供にまで累禍が及んでいる事例が多い。よって日本では、児童虐待について考察する時、ただミクロ的、表面的に子供に起きている事象にだけ視線を向けるのではなく、そもそも、日本の社会、日本の行政においては、果たして人間全般が大切に扱われているか? 日本では大人(親)はどういう状況におかれているか? 果たして日本の行政では大人(親)はまともに人間として扱われているのか? 行政の怠慢が原因で、日本の大人の中に人間らしく生きられないほどに追い込まれている人が多いのではないか? ということも十分に考察する必要がある。
厚生労働省の平成20年度の統計によると、1年間で64例67人の児童(幼児)が虐待死している[38]。死亡した児童の年齢は0才児が59.1%で最も多く、1歳児は14.1%で、死亡した児童の88.5%が0 - 5歳、同年の統計の最年長は16才[38]。
通常の虐待事例と同じく、加害者としては実母が最も多く[38]59.0%で、16.4%が実父である[38]。また望まない妊娠/計画していない妊娠が31.3%あり、10代の妊娠が22.4%である[38]。養育者については実父母が44.8%、一人親(未婚)が19.0%、内縁関係が15.5%であった(判明したもののみ集計)[38]。加害の動機については、「しつけのつもり」(22.7%)、「子どもの存在の拒否・否定」(11.9%)、「泣きやまないことにいらだったため」(11.4%) などがある(動機が判明しているもののみを集計)[38]。特殊なものとしては「保護を怠ったことによる死亡」が6.0%、代理ミュンヒハウゼン症候群が4.5%、妄想などの精神症状が3.0%である[38]。また揺さぶられ症候群による頭蓋内出血による死亡は平成18年1月から平成20年3月までの間で1件であった[38]。
なお、平成20年度の統計では「子どもの暴力などから身を守る」、「慢性の疾患や障害の苦しみから子どもを救おうという主観的意図」などの子供の側の要因による殺人は1件もない[38]。
日本法医学会の「被虐児の法医解剖剖検例に関する報告、第2回調査、1990〜1999年」によれば、被虐児の死亡例459人中、加害者は、実母49.2%、実父15.9%、実母と実父9.6%であった[39][40]。
厚生労働省の平成20年度の統計によると、1年間に心中に際して殺された児童は43例61人であった[38][41](心中未遂で子どもは殺されたが加害者が死亡しなかった事例を含む)。殺された児童の年齢については、心中以外の場合のような極端な偏りはないものの、0歳が11.7%、1歳が6.7%、2歳が3.3%、3歳が8.3%で、3歳以下が30.0%を占めている[38]。同年の統計の最年長は16才。主たる加害者の7割は実母で[38]、心中以外の事例よりも実母の割合が高い(この場合「心中」といっても、「同意ある二つの自殺」ではなく、「一つの殺人と一つの自殺」である。つまり無理心中である)。児童の虐待死のうち、事前に児童相談所に通報が無かったものは79.5%[42]であり、児童相談所が把握しているのは実際の虐待の一部分だけである。
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米国では、何がしつけで、何が児童虐待なのか、という判別が問題となることがある[43]。
日本でも、それが問題となることがある。 日本の民法の一部改正が行われ(平成23年(2011年)法律第61号、平成24年4月施行)、次のようになった。
つまり日本では、民法によって、親権者には子を監護(監督および保護)する権利が定められており、しかもこれは権利であるが同時に義務だとされており、また親権者の義務とされている監護および教育にともなうものとして、懲戒権を認めている。そして常識の範囲内で懲戒は認められている。昔から現在まで、子供当人や周囲の人に危険が及ぶようなことをした子供の尻を、手加減を加えつつたたくようなことは行われている。一方で民法でこのように定められているが、他方で2000年に「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」が制定され2004年に同法が改訂された。その結果、民法が親権者に認める懲戒行為と、「児童虐待の防止等に関する法律」で言う「児童虐待」の線引きの問題、どこまでが必要な懲戒でどこからが児童虐待なのか、あるいは、二つの別々の法律で言う懲戒と児童虐待は実際には一部で重なってしまっていて法律間で齟齬が生じてしまっている、ということが問題とされることがある。
日本の学校教育法の第11条でも、校長および教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、学生、生徒および児童に懲戒を加えることができる、と定めている。ただし、同法の場合は、同時に体罰を加えることはできない、と定めている。体育授業中などで認められる懲戒としては、通常行われているような、運動場内のマラソン・うさぎ飛び・正座などであって、社会通念上(懲戒として)相当にして、かつ危険をともなわないことを要する、とする判例はある[44]。よって(運動場内のマラソン・うさぎ飛び・正座などは正当な懲戒の範囲に当たり、虐待ではない、という判断がされているわけなので)、同法で教師に認められた懲戒、から逸脱ししている体罰は「殴る」「蹴る」や「用便(トイレにゆくこと)を認めない」などだと解釈されている[44]。
体罰と児童虐待との鑑別が問題となることがある[43]。
米国のある調査によれば、大人の82%は、「子どもの頃に、親にスパンクされたことがある」と答えている。また、多くの人は「親によるたいていの体罰は、虐待ではない」と答えている[45]。日本のある育児雑誌が読者アンケートを行ったところ、回答した親の62%は「子どものおしりをたたくことがある」と答え、55%は「子どもの頭をたたくことがある」と答え[46]、「子どもをたたかない主義」と答えたのは12.2%であった[47]。
ミネソタ大学の「早期教育と発達のためのセンター」は、罰の使用について、「教育的な雰囲気の中で、良い行いに対するポジティブな賞賛やご褒美などと共に、軽い罰を例外的に使用するのであれば、罰の使用は容認できる」としている[48]。
米国の裁判所や 児童保護サービス(Child Protective Services)は、親の処遇を決める際に、次の諸点を考慮している[49]。
最初の子どもが生まれたときに、子育てを完全に理解している親はいない。子どもの発達には何が必要かを、親が理解すると、体罰で強制する育児から、教えて直す育児に転換することが可能となる。親が子どもに教える姿勢を持つと、子どもを叩くより子どもと話をする状況を作ることが可能となる。目標は、子どもが自分で自分を改善させてゆく状態である[50]。
国家レベルでも、州レベルでも対策が講じられている。国家レベルで扱っている組織としてはNational Alliance of Children's Trust Funds およびPrevent Child Abuse Americaが挙げられ、どちらも各州にメンバー(支部)がありそれらを束ねている。また、連邦政府のChildren's Bureau[51]がある。州レベルでは、各州政府の児童保護サービス(Child Protective Services, CPS)がある。
米国各地域のChild Advocacy Center(CAC)によって、児童虐待に関する調査が行われている。このChild Advocacy Centerというのは、最初はアラバマ州のハンツビルで地方検事のRobert Cramerによって構成されたチームで、児童虐待についての捜査を迅速かつ効率的に行い、最終的には子供のトラウマを減らしたりすることを目的としていた。
また、米国政府は、児童虐待を防止するためにいろいろな施策を行っている[52]。
また間接的な施策として、
その結果、2010年、米国政府当局は、児童虐待のうち、身体的虐待・性的虐待・精神的虐待は減少傾向にあるとしている[55][56][57][58]。ただし、ネグレクトは横ばいである。
フィンランド国立健康福祉研究所(英語版)は、児童虐待を予防するために、育児の重荷を分かち合うことを勧めている[59]。
日本の中央省庁としては厚生労働省が児童虐待を扱っている[60]。ただし、厚生労働省が直接に個々の子供に対して接触して具体的なことをしているわけではなく、2003年9月に厚生労働省は、児童相談所「児童虐待と非行問題を中心に対応する機関」とした。
日本において、虐待された子供の救済、保護を担当するのは、ほとんどの場合、各自治体に設けられた児童相談所である。ただし、警察が特に緊急を要すると判断した場合は、まず児童を加害者側から引き離して保護し、その後、児童相談所にその案件を引き渡すこともある。
児童相談所では事案を調査し、職員の判断で一時保護所に保護したり、児童養護施設に児童を収容する。場合によっては、親権を剥奪したりすることもある。
国民に児童虐待の通報を義務付けたことによって、児童虐待に関する相談(通報)件数は2010年頃から急激に増加している[61]。しかし、その割に児童相談所の職員数は以前とほとんど変わっていない。そのため、個々の案件、ひとりひとりの子供や親にしっかりと時間を割いて対応できなかったり、長時間労働をしてもやるべき職務をしっかりこなせなかったりする状態にある。その結果、児童相談所内の業務はかなりの混乱状態になっている。例えば、各親権者との必要な面談の設定も数週間先になってしまうほどに遅れがちになっていることがある。また、子供への調査を十分にできないままに一時保護所の期限(原則2カ月)が来てしまい、不十分な情報のままで無理矢理、その後の子供の扱いを決めてしまうこともある。
児童福祉司の増員が必要、という指摘もある。また、日本の児童相談所の制度に根本的な問題があり児童相談所という組織を根本から見直す必要がある、という指摘もある。
また、現在の児童福祉司は専門性が不十分でまともな判断ができていないので、より専門的な知識を持たせるべきだいう指摘もある。児童相談所の職員は地方自治体で人事異動で異動してくる人が多い。しかし、児童相談所はもともと職務がきつく、あまり人気の無い部署である。よって、もともと無関係の部署にいて児童相談所勤務を全然希望していない者が、突然に転属命令を受け、嫌々に児童相談所勤務となることがある。そういう者は、わずか数日から数週間程度の短期間の研修しか受けずに「児童福祉司」という職名を肩書として得ているにすぎない。その結果、児童福祉司は専門家とは言えないような集団、一種の素人の寄せ集めのような集団になっていて、まともな判断ができない集団になっている、との指摘[62]がある。よって、大学や大学院で数年以上の専門的な知識をしっかりつけた上で最初から児童福祉の仕事をすることだけを希望したような人の割合を増やすべきだ、との指摘もある。
2015年7月1日より189番が、虐待の緊急時、児童相談所の全国共通ダイヤル(緊急通報用電話番号)として運用が開始された。
保健機関も児童虐待防止に貢献している。保健機関とは市町村保健センターと保健所を指す。母子保健事業は、保健所では未熟児や障害児などに対する事業、市町村保健センターは乳幼児健診や育児教室といった一般市民が利用できる事業を実施している。虐待に関し保健機関で行なっていることは、親を育てることにつきる。妊娠中から若年妊娠や母子家庭、低出生体重児といった虐待ハイリスクに対し、相手の土俵である家庭への訪問を繰り返す。そして、一緒に育児をしながら親子関係を育て、訪問者との信頼関係を築き、仲間づくりを促進して孤立を防ぐといった支援を行なっている[63]。以上のような保健機関の活動は虐待予防に貢献している。実際、日本の児童虐待の12.5 %は保健機関で発見されているという統計がある[64]。
また、虐待は、親が心の問題を抱えていることがリスク因子の一つであり(このことは全国主要病院小児科・被虐待児調査でも明らかにされた[65]。)、そのような親に対し、保健所では精神保健事業も行なっている。そのため、保健機関は母子保健だけでなく、精神保健の面からも虐待予防に貢献しているということができる[66]。
子供を診療する機会がある医療機関においては、被虐待児を診療する機会もある。実態調査からは、1年間で全国の小児医療機関の約1/4で被虐待児が診療されており、累積的には80 %の医療機関で診療が行われていることが推測されている。このような被虐待児の診療を通して、医療機関で虐待が発見されることがある。
しかし、医療現場における虐待予防にも課題がある。渡部誠一らによる2005 年の調査によれば、わが国において、子供を診療する機会の多い医師の児童虐待への関心自体は低くはないそうである。全体では約90 %の医師が子ども虐待に関心を持っていたという。しかし、実際に通告することについては、60 %前後の医師が抵抗があると回答していた。通告や子ども虐待へ関わることの抵抗と躊躇の背景として、虐待診断に自信がない、診療時間外の仕事になり時間がとれない、家族とのトラブルが心配、の3点を大きなものとして医師はあげていたという。子ども虐待に対する一般医師の関わりを支援するためには、これら3点の対応を検討する必要がある、という指摘がある[67]。
学校が児童虐待防止に果たす役割も大きい。児童虐待への対応において、学校は以下の様な特徴をあげることができる[68]。
これらのことから、学校は児童生徒に対して網羅的に目配りができ、日常的な変化に敏感に反応して対応できる。実際に、小学校の学級担任が子供の様子から虐待を疑い、児童相談所に通告し、児童が保護された事例もある。学校は全児童虐待の13.5 %の発見に関わっている[69]。この割合は児童相談所についで多い。 また、高校などで、近い将来親になる生徒に、児童虐待について授業を行い、児童虐待を防止しようとする試みもある[70]。
日本では、他にも以下のような状況あるいは特徴が見られる。
[72]
1874年4月、アメリカ・ニューヨークにおけるメアリ・エレン・ウィルソン事件により、ニューヨーク児童虐待防止協会(英語版)が設立された[74]。後年には、イギリスで1884年に、民間組織として児童虐待防止協会 (Society for Prevention for Cruelty to Children) が設立され、その後は全国児童虐待防止協会 (National Society for Prevention of Cruelty to Children) となる。1960年、フランスの歴史学者フィリップ・アリエスが『〈子供〉の誕生』(こどものたんじょう、フランス語: L'Enfant et la Vie familiale sous l' Ancien Regime)を発表した。1962年にアメリカの医師ヘンリー・ケンプ(英語版)は「被殴打児症候群(英語: Battered Child Syndrome)」を報告した[75]。
日本では、1999年に長谷川博一は、世代連鎖を断つことを理念として、親の治療グループ「親子連鎖を断つ会」を設立した[76]。
2000年、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)」を制定した後、2004年には同法を改正し、「関係省庁相互間その他関係機関および民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援その他」を行ない、児童虐待の防止等のために必要な体制の整備に努めなければならない旨を明文化した[77]。同法において、被虐待児が病院を受診し、虐待を受けたと思われた場合には担当でなくとも速やかに警察に通報する義務があると定められた(第6条)。また、通告義務は他の法が定める守秘義務より優先される(同条2項)、とも定められた(第6条2項)。
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