|
この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
弁済(べんさい)とは、債務者(又は第三者)が債務の給付を実現することであり、債権(債務)の本来的な消滅原因である。
目次
- 1 概説
- 2 弁済の提供
- 2.1 弁済の提供の意義
- 2.2 弁済の提供の要件
- 2.3 弁済の提供の方法
- 2.3.1 弁済の内容
- 2.3.2 弁済の時期
- 2.3.3 弁済の場所
- 2.4 弁済の費用
- 2.5 弁済の提供の効果
- 3 弁済の主体
- 3.1 弁済の主体と第三者弁済
- 3.2 弁済による代位
- 4 弁済受領者
- 4.1 無権限者に対する弁済
- 4.2 支払の差止めを受けた第三債務者の弁済
- 5 弁済の効果
- 5.1 受取証書の交付と債権証書の返還
- 5.2 弁済として引き渡した物の取戻し
- 5.3 弁済の充当
- 6 代物弁済
- 7 弁済供託
- 8 脚注
- 9 関連項目
概説
弁済とは、債務者が債権の目的を実現させることである。
- 債権の目的が金銭の支払の場合は、金銭の支払
- 債権の目的が物の引渡しの場合は、物の引渡し
- 債権の目的が劇場への出演の場合は、劇場への出演
弁済は債権の消滅という視点から見た表現であり、債権の実現という視点に着目すると履行と表現される。また、弁済(あるいは履行)の対象となる物や権利に着目して給付という表現が用いられることもあるが、給付は弁済の内容である。債務の本旨に従った弁済がなされないことを債務不履行といい、この場合には債権は消滅しない(なお、約定債権においては債務不履行に基づく契約の解除などがあれば債権は消滅する)。
弁済の提供
弁済の提供の意義
弁済の提供とは、債務の履行について債権者の協力が必要で債務者単独では給付行為を完了させることができない性質のものである場合に、債務者が債務の本旨に従って給付の実現のために必要な準備を行い債権者の協力を求めることをいう[1]。債務の内容が一定の場所に建物を建てないといった不作為債務のように債務者の一方的履行行為で足りる場合には弁済の提供は問題とはならない[1]。
弁済の提供の要件
- 現実の提供または口頭の提供がなされること
- 債務の本旨に従った弁済の提供であること(給付の内容・時期・場所などが問題となる)
弁済の提供の方法
弁済の提供の方法には現実の提供と口頭の提供(言語上の提供)がある。
- 現実の提供
- 債務の本旨に従って現実に行う弁済の提供の方法を現実の提供といい、原則的な弁済の提供の方法である(493条本文)。何が現実の提供にあたるのかは債務の性質により決定される。
- 口頭の提供(言語上の提供)
- 弁済の準備をしたことを通知してその受領を催告する弁済の提供の方法を口頭の提供(言語上の提供)といい、債権者があらかじめ受領を拒んだ場合、あるいは債務の履行について債権者の行為を要する場合に認められる弁済の提供の方法である(493条但書)。
- 債権者の受領拒絶
- 受領期日の延期
- 契約の解除の拒絶
- 反対給付の不履行
- 債権者の行為の必要
- 取立債務
- 登記債務
- 加工債務
- 場所や期日の指定
弁済の内容
- 特定物の引渡し(483条)
- 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡せばよい。
弁済の時期
弁済すべき時期(履行期)については412条に規定されている。
弁済の場所
弁済の場所については484条に規定されている。
- 別段の意思表示がないときは、以下の例による。
- 特定物の引渡し:債権発生時にその物が存在した場所が弁済の場所となる。
- その他の弁済:債権者の現在の住所が弁済の場所となる(持参債務の原則)。
弁済の費用
弁済の費用については485条に規定されている。
弁済の提供の効果
- 債務者は弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる(492条)。
- 相手方の同時履行の抗弁権(533条)を奪う。
- 約定利息の不発生
弁済の主体
弁済の主体と第三者弁済
通常は債務者がこれに当たるが、第三者も弁済することができる(474条1項)。これを第三者弁済という。
ただし、債務の性質がこれを許さない場合や、当事者が反対の意思を表示したときは、この限りではない(同条1項但書)。また、第三者に利害関係がない場合は、債務者の意思に反して弁済はできないとされる(同条2項)。
第三者弁済が、債権者ではなく債務者に対する義務として負う契約は、履行引受という。
弁済による代位
第三者が弁済した一定の場合に弁済した第三者が債権者に代位することを弁済による代位といい、任意代位と法定代位がある。第三者が取得する債務者に対する求償権を保全するための制度であり、499条から504条に規定されている。
- 任意代位(499条)
- 債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。
- 法定代位(500条)
- 弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。
- 弁済による代位の効果については501条以下に規定されている。
詳細は「代位弁済」を参照
弁済受領者
弁済の効果は、債務の本旨に従い、債権者に対してなされないと発生しないのが原則であるが、弁済受領者に関連して以下のような規定が設けられている。
無権限者に対する弁済
原則として弁済を受領する権限を有しない者に対してなした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ弁済の効力を有する(479条)。ただし、債権者としての外観を信頼した弁済者を保護するため、以下の場合には通常の弁済としての効力が認められて債権は消滅することになる。
- 債権の準占有者に対する弁済
- 債権の準占有者に対する弁済については、弁済者が相手方にその弁済を受領する権限がないことについて善意・無過失であったときに限って通常の弁済としての効力が認められ債権は消滅する(478条[2])。弁済を受領する権限を有する債権者は、弁済を受領する権限を有しないにもかかわらず弁済を受領した債権の準占有者に対して不当利得返還請求をなすことができる。
詳細は「善意支払」を参照
- 受取証書の持参人に対する弁済
- 弁済者が受取証書の持参人に弁済を受領する権限がないことにつき善意・無過失であったときには弁済としての効力が認められ債権は消滅する(480条)。通説・判例は480条が適用されるためには受取証書が真正なものでなければならないとする。弁済を受領する権限を有する債権者は、弁済を受領する権限を有しないにもかかわらず弁済を受領した受取証書の持参人に対して不当利得返還請求をなすことができる。なお、通説・判例は偽造の受取証書の持参人に対する弁済には480条は適用されないが、478条の債権の準占有者に対する弁済として保護される余地があるとする。
支払の差止めを受けた第三債務者の弁済
差押債権者を保護するため、支払の差止めを受けている第三債務者が自己の債権者に対して弁済をしたときは、差押債権者はその受けた損害の限度において第三債務者に対して更に弁済をするよう請求できる(481条1項)。この場合、第三債務者からその債権者に対して求償権を行使することは可能である(481条2項)。
弁済の効果
債務者による弁済(第三者弁済の場合には第三者による弁済)により債務は消滅する。その他の弁済の効果については以下参照。
受取証書の交付と債権証書の返還
- 弁済者は弁済受領者に対して受取証書(領収書)の交付を請求することができる(486条)。弁済者が弁済を提供するにあたり受取証書の交付を要求した場合に、弁済受領者がその交付を拒絶した場合には弁済者は遅滞の責めを免れる(大判昭和16年3月1日民集20巻163頁)。
- 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる(487条)。
弁済として引き渡した物の取戻し
- 弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない(475条)。
- 譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない(476条)。
- 民法475条・民法476条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、または譲り渡したときは、その弁済は有効とされる(477条前段)。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償を求めることができる(478条)。
弁済の充当
債務者が同一債権者に対して同種の数個の債務を負担しており、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りない場合に、いずれの債務に弁済をあてるべきか(弁済の充当)が問題となる。弁済の充当は次の順序による。
- 当事者間の合意による弁済の充当
- 指定充当(488条)
- 法定充当(489条)
※債務者が一個または数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合に、弁済の充当の方法について当事者間の合意がないときには、必ず、費用、利息、元本の順に充当しなければならない(491条)。
詳細は「弁済の充当」を参照
代物弁済
債務者が債権者の承諾を得て本来負担するはずの給付に代えて他の給付をすることを代物弁済という。この場合には弁済と同一の効力を有し債権は消滅する(482条)。代物弁済は有償契約であるから目的物の瑕疵につき担保責任が問題となり、また、当事者間で目的物に瑕疵がある場合には代物弁済による債務の消滅の効果を否定して本来の債務を復帰させる特約がなされることもある。
詳細は「代物弁済」を参照
弁済供託
債権者が弁済の受領を拒むとき及び弁済を受領することができないとき、弁済者が過失なく債権者を確知することができないときには、弁済者は債権者のために弁済の目的物を供託所に寄託してその債務を免れることができる(494条)。これを供託(弁済供託)という。
詳細は「供託」を参照
脚注
- ^ a b 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、194頁
- ^ 479条は前条(478条)が適用される場合には適用を排除することとしている。
関連項目
- 民法
- 債権
- 債務不履行
- 供託
- 善意支払
- 不当利得(非債弁済、期限前の弁済)
債権の消滅事由 |
弁済 - 代物弁済 - 供託 - 相殺 - 更改 - 免除 - 混同
|
|
|
この項目は、法分野に関連した書きかけの項目です。この項目を加筆・訂正などしてくださる協力者を求めています(P:法学/PJ法学)。 |