出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/09/30 20:22:36」(JST)
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債務不履行(さいむふりこう)とは、債務者が、正当な事由がないのに債務の本旨に従った給付をしないことをいう[1]。英米法では契約法の場合には契約違反(breach of contract)がこれに相当する。
従来の通説は、債務不履行を履行遅滞、履行不能、不完全履行の3種類に分類する[2]。
従来、債務不履行には、この三つの態様のものがあるとされていたが、今日では、判例・学説は415条前段の債務の本旨に従った履行をしないというのには、契約の本来の給付義務に付随する説明義務・情報提供義務などの付随義務違反、更に雇用契約における使用者の労働者に対する安全配慮義務のように相手方の利益を保護すべきだという保護義務違反のような態様のものを含むと解している[10]。
なお、近時の有力説は以下のように分類する。
このうち本旨不履行については帰責事由は要件ではない(したがって無過失の抗弁は認められない。ただし不可抗力の抗弁は認められるという。)が、履行不能については危険負担との関係から帰責事由が要件となる(したがって無過失の抗弁は認められる。)。
判例は従来の通説に従って一般的に帰責事由を要件としており、民法現代語化の際にこれが条文化されそうになったが、前記有力説からの反対が強く、現在においても条文上は履行不能についてのみ帰責事由が抗弁として規定されている。
415条は後段のみ帰責事由を要件としているが、論理解釈上、前段の場合にも債務者の帰責事由が必要とされる(419条3項反対解釈・415条後段類推解釈)[11][12][13]。
帰責事由の具体的な内容については条文上明らかではない。伝統的には故意もしくは過失または信義則上それらと同視すべき事由が帰責事由であると理解されている。よって債務不履行が不可抗力によって生じた場合か、債務者が無過失である場合には損害賠償責任は発生しないことになる。ただし、債務不履行の類型によってその内容は異なると考えられている。特に履行遅滞の場合、不可抗力でも無い限りはほとんど帰責事由があると解されている。
債務者本人ではなく、債務者の使用人等、履行補助者といわれる者の過失によって債務不履行が生じた場合、この過失は債務者の過失と信義則上同視される。つまり、履行補助者の過失があれば債務者が責任を負う。これは履行補助者を用いることによって経済的活動範囲を拡大し、利益を増幅させている者はそれに伴って責任の範囲も拡大されるべきであるという報償責任の考えが背景にある。
帰責事由の有無については、債務者が立証責任を負うというのが通説および判例の考えである。
過失相殺の適用に関しては、債権者に過失がある場合には考慮される(418条)。
債務者が債務不履行に陥った場合、対する債権者がとりうる手段には以下のようなものがある。
まず債権者は履行請求権を有する。これは、あくまで債務を履行せよと請求する権利である。具体的には、履行遅滞に陥っている債務者に「早くもってこい」と請求する場合や、不完全履行の際に「完全な履行をせよ(足りないものを補充せよ、など)」と請求する場合(追完請求または完全履行請求という)がある。債務者がその請求に従えばそれでよいが、従わない場合もある。そうした場合に債務者の意思を無視して、あるいは心理的な強制を与えることによって債務の内容を実現する方法がある。これが「現実的履行の強制」、または強制履行といわれる制度で、民事執行法に規定されている。なおコモン・ロー体系においてはこのような制度を設けず、損害賠償を原則とする法制度もある。
強制履行の態様は強制する債務の内容に応じて様々であるが、大まかに2つのタイプに分けることができる。
である。以下、強制する債務の内容に分けて説明する。
強制履行は債務者がどのような理由で債務不履行に陥っていても可能である(つまり債務者に帰責事由が無くてもよい)。ただし強制履行ができない債務もあり(自然債務を参照)、また履行不能の場合にこの手段を採ることは当然不可能である。
債権者は相当の期間を定めてその履行をするよう催告を行い、その期間内に履行がないときは契約を解除してしまうこともでき(541条)、履行不能となったときは、催告せずに、解除をすることができる(543条)。これによって契約は初めから「なかったこと」になり、既に代金を支払っていたりすればそれを元の持ち主に戻す義務が生じる(545条)。これを原状回復義務という。
解除をするためには債務者に帰責事由が必要であるというのが学説の多数意見であった。これは条文に規定されてはいないが、解釈上認められている要件である。しかし解除は債権者が反対債務から自己を解放するために行われるものであるため、債務者の帰責事由を要求する理由が無いとの説も有力になった。当初2004年の民法改正において解除に帰責事由を要求する旨を条文に規定する予定であったが、通説が確立されていないとの反論を受けて見送られた。
債権者は履行請求や解除をした場合でも、それとは別に損害賠償を請求することができる。たとえ強制履行された場合でも物が遅れて納入されたために損害が発生しているという場合や、期限内に納入されたけれども物に瑕疵があった(これは不完全履行にあたる)ために損害が発生したという場合に別途損害賠償を認める必要性が出てくる。例えば届いた野菜が腐っていたために客が食中毒になった場合などが挙げられる。
損害賠償は不法行為の制度によっても可能な場合がある。ただし、債務不履行に基づく請求の方が、不法行為によるそれより時効となるまでの期間が長い点以外では不利となることも多い。
損害賠償請求をするためには以下の3つの要件が必要とされる。
「債務不履行の事実」は債務不履行の類型によって異なる。履行遅滞では債務の履行が可能で、しかも同時履行の抗弁権や留置権のように履行を拒む理由が無いにも関わらず、履行期を過ぎても履行がされていない状態が「債務不履行の事実」にあたる。履行不能では、契約成立等によって債権が発生した後に履行が不可能となった場合が「債務不履行の事実」にあたる。不完全履行では、一応履行の事実はあるものの債務の本旨に従ったものではない場合が「債務不履行の事実」にあたる。
損害賠償の範囲については、原則として債務不履行によって通常生ずべき損害であり、特別の事情によって生じた損害については、当事者がその事情を予見し、または予見することができたときは含めることができる。
損害賠償の方法は、別段の意思表示がない限り、金銭による。
債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効は原則として10年となる(167条)。
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