グレーブス病
- 英
- Graves' disease, Graves disease
- 同
- バセドー病 バセドウ病 (国試)Basedow病 Basedow disease Basedow's disease、グレーヴス病 Graves病、exophthalmic goitre、中毒性びまん性甲状腺腫 toxic diffuse goiter、パリー病 Parry disease
- ラ
- morbus Basedowii
- 関
- 甲状腺中毒症
概念
病因
- 自己抗体の出現
- 甲状腺刺激免疫グロブリン thyroid stimulating immunoglobulin
- 甲状腺増殖刺激免疫グロブリン thyroid re-growth-stimulating immunoglobulin (TGI)
- TSH結合阻害免疫グロブリン TSH-binding inhibitor immunoglobulin (TBIIs)
- 自己抗体であるTSH受容体抗体の産生 → 甲状腺濾胞上皮細胞のTSH受容体に結合して活性化 → 甲状腺ホルモン分泌↑
- 抗TSH受容体抗体は95-98%の症例で出現する。
疫学
頻度
- 住民検診などで見つかる Basedow病は、1,000人に対し 1-6人と報告されている。
- 男女比は1:4で女性に多い。特に、20-50歳の女性に多い。
- 家族内集積が高い。
病変形成&病理
- 自己抗体により、濾胞のホルモン産生が刺激され、甲状腺は瀰漫性に腫大(正常の数倍から200gまで)。
症状
メルゼブルク三徴 Merseburg triad(Merseburgの三主徴)
- 1. 甲状腺中毒症状
- 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等
- 心臓肥大、リンパ組織過形成、真皮の肥厚
- 2. びまん性甲状腺腫大(表面は平滑で柔らかい、血管雑音)
- 3. 眼球突出または特有の眼症状
ハシトキシコーシス Hashitoxicosis
- 橋本病性の変化が著しいもの。将来的に機能低下となる可能性
- 甲状腺クリーゼ thyroid crisis
- 未治療or適切な治療が行なわれていなかった状態、感染、外傷などの誘因が加わった時に機能亢進症が急速に増悪する状態。頻脈、ショック。
合併症
- 甲状腺疾患合併妊娠(参考1)
検査
エコー
- カラードプラ:全体的に著明な血流増加
診断
(Basedow病の診断ガイドライン(日本甲状腺学会 第7次案))
- 所見
- a) 臨床所見
- 1. 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加等の甲状腺中毒症所見
- 2. びまん性甲状腺腫大
- 3. 眼球突出または特有の眼症状
- b) 検査所見
- 1. 遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
- 2. TSH低値(0.1μU/ml以下)
- 3. 抗TSH受容体抗体(TRAb,TBII) 陽性、または刺激抗体(TSAb) 陽性
- 4. 放射線ヨード(またはテクネシウム) 甲状腺摂取率高値、シンチグラフィでびまん性
- 診断
- 1) Basedow病
- a) の1つ以上に加えて、b) の4つを有するもの
- 2) 確からしいBasedow病
- a) の1つ以上に加えて、b) の1、2、3を有するもの
3) Basedow病の疑い
- a) の1つ以上に加えて、b) の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3カ月以上続くもの
- 付記
- 1. コレステロール低値、アルカリフォスターゼ高値を示すことが多い.
- 2. 遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合が稀にある.
- 3. 眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが、遊離T4およびTSHが正常の例はeuthyroid
Graves’diseaseまたはeuthyroidophthalmopathyといわれる.
- 4. 高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする.
- 5. 小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さ等を認める.
- 6. 遊離T3(pg/ml) /遊離T4(ng/dl) 比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる
治療
抗甲状腺薬
- メチマゾール(チアマゾール)(MMI):第一選択:長時間持続
- プロピルチオウラシル(PTU):胎盤移行↓、乳汁移行↓ ←妊婦・授乳婦
の二種類である。薬効の高さや作用持続時間の長さの利点からMMIを第一選択とするが、胎盤移行や乳汁移行、副作用の出現頻度を考慮しPTUを用いることもある。治療中止の時期は甲状腺機能の正常化はもちろんのこと、抗TSH受容体抗体が陰性であることも必要である。
- 治療期間:長い。1-2年維持量でコントロールし、TSH受容体抗体が陰性化したら減量し、さらに6ヶ月したら休薬(YN.D-31)
治療の中止
- 4点がそろえば中止。中止後、10-25%が再発する。
- 1. メルカゾール1錠/日-1錠/隔日で甲状腺機能が正常 (TSH, FT4の両方が正常)
- 2. 投薬継続期間が2年以上
- 3. 甲状腺腫が小さくなった
- 4. TSH受容体抗体が陰性
βブロッカー
- 脈拍、動悸、振戦を軽減 ← 甲状腺ホルモンの「心筋細胞のカテコールアミン受容体を増加させる作用」に対して
放射性ヨード療法
- 131Iのβ線により甲状腺組織を破壊
- 効果は2-3週後に出現し、最大効果は6-12週後。
外科的治療法
- 甲状腺亜全摘術
比較
| 放射性ヨード療法 131療法 |
外科的治療法 | 抗甲状腺薬 | |
| 長所 | 治療法が簡単 | どの年代の患者でも可能(妊娠・妊娠中も可能) | |
| 成人合併例でも治療可能 | 通院での治療可能 | ||
| 比較的短期間で寛解 | 短期間に治癒 | ||
| 永続寛解率が高い | 高い寛解率 | ||
| 侵襲が少ない | 不可逆的な甲状腺機能低下は稀 | ||
| 短所 | 特別な施設が必要 | 手術侵襲 | 副作用(無顆粒球症・肝障害) |
| 永続的甲状腺機能低下症が年ごとに増加 | 永続的甲状腺機能低下症 | ||
| 妊娠、授乳期では禁忌 | 瘢痕 | 治療期間が長い | |
| 術後合併症(反回神経麻痺、テタニー) | 永続寛解率が低い | ||
| 術後再発 | |||
| 回避・禁忌 | 30歳以下は避ける | ||
| 妊娠予定、妊娠中、授乳中は禁忌 | |||
| 適応 | 欧米の第一選択 | 日本の第一選択 | |
| 老人で早期治療を望む場合 | 早期治癒を望む場合(社会的・妊娠希望) | 小児、妊婦 | |
| 抗甲状腺薬で副作用の例 | 抗甲状腺薬で副作用の例 | 外科的療法、放射性ヨード療法の明らかな適応外 | |
| 抗甲状腺薬で永続治癒の可能性低 | 抗甲状腺薬で永続治癒の可能性低 | FT4軽度上昇例 | |
| 服薬・治療コンプライアンス低 | 服薬・治療コンプライアンス低 | ||
| 手術適応だが合併症、患者の意志により回避される場合 | 通院が困難 | ||
| 手術後再発例 | 甲状腺腫が大 | 甲状腺腫が小 |
病理
- 組織像
- 濾胞上皮の著明な過形成、上皮細胞の丈が増して円柱上となる、濾胞上皮が乳頭状に濾胞腔に突出する、間質の軽度の線維化、リンパ球集簇、リンパ濾胞、腫大した上皮細胞は濾胞中央部のコロイドを活発に吸収するため、コロイドの辺縁部に空泡が見える。
グレーブス病、亜急性甲状腺炎、無痛性甲状腺炎の比較
- YN.D-40改変
| 破壊性甲状腺炎 | グレーブス病 | 備考 | ||
| 無痛性甲状腺炎 | 亜急性甲状腺炎 | |||
| 病態 | 橋本病 (慢性甲状腺炎)の 経過中に濾胞の 崩壊を示す |
甲状腺の炎症による 濾胞破壊 |
TSHRの過剰刺激 | |
| 炎症 | mild | severe | [-] | |
| 末梢fT3 | ↑ | ↑ | ↑ | 甲状腺機能亢進もしくは濾胞の破壊で上昇 |
| 123I uptake | ↓ | ↓ | ↑ | 健全な甲状腺濾胞が存在し、甲状腺ホルモン合成能が高い |
| 血清TSH | ↓ | ↓ | ↓ | fT3上昇のため |
| 血清サイログロブリン | ↑ | ↑ | ↑ | 甲状腺機能亢進もしくは濾胞の破壊で上昇 |
| TSH受容体抗体 | [-] | [-] | [+] | |
| 抗TPO抗体 | [+] | [-]/トキニ[+] | [+] | |
| 抗サイログロブリン抗体 | [+] | [-]/トキニ[+] | [+] | |
参考
- 1. D.産科疾患の診断・治療・管理 8.合併症妊娠の管理と治療 - 日産婦誌60巻3 号