- 英
- dose equivalent
PrepTutorEJDIC
- Delaware
Wikipedia preview
出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/07/28 10:35:56」(JST)
[Wiki ja表示]
線量当量(せんりょうとうりょう、英: dose equivalent)とは、人体の被曝線量を表す線量概念の一つである。線量当量の単位はシーベルト(記号:[Sv])が用いられる。
用途に応じて様々な定義が存在するが、主に個人モニタリング・環境モニタリングにおける放射線計測の実用量として用いられる。
目次
- 1 概要
- 2 定義
- 2.1 線量当量(dose equivalent)
- 3 モニタリングの実用量としての線量当量
- 3.1 モニタリングの実用量と法令上の線量概念との対応
- 4 補足定義
- 4.1 線エネルギー付与(LET:Linear Energy Transfer)
- 4.2 生物学的効果比(RBE:Relative Biological Effectiveness)
- 5 脚注
- 6 関連項目
- 7 参考文献
概要
放射線の生物影響を考える上で、臓器の単位質量あたりの吸収エネルギー量である吸収線量は最も重要な量であるが、これを尺度として用いるには、放射線の種類や放射線のエネルギーが異なると同じ吸収線量であっても同一の生物影響を示さない[1]、という大きな欠点がある[2]。
そのため、ガンマ線・X 線による生物影響を基準とした生物学的効果比(Relative Biological Effectiveness; RBE)を吸収線量に掛け合わせる[3]ことで、放射線の種類の違いを平準化した線量が古くから提案されてきた[4]。しかしながら、RBE に関する十分なデータが存在しなかったことから、RBE に代わって線エネルギー付与(Linear Energy Transfer ; LET)を用いて補正係数である線質係数(quality factor)とそれを空間のある一点における吸収線量に掛け合わせた線量当量(dose equivalent)が定義された[5][6]。
防護量(protection quantity)の尺度としては線量当量は1990年のICRP勧告まで用いられていた。1990年のICRP勧告では、放射線のエネルギーの違いによる生物影響の相違などを反映させた放射線荷重係数(radiation weighting factor)とそれを臓器吸収線量に掛け合わせた等価線量(equivalent dose)[7]が新たに防護量として定義された[8][9]。
「 等価線量#概要 」も参照
実用量としての線量当量
放射線防護量としての等価線量や実効線量は直接測定することができない。そのため、直接測定できる量として実用量が用いられる。実用量は、環境モニタリングと個人モニタリングに関連したものがある[10]。
定義
線量当量(dose equivalent)
吸収線量に線質係数[11]を掛け合わせたもの[12]を線量当量(dose equivalent)と呼ぶ。
-
(線量当量 [Sv]) H = (吸収線量 [Gy]) D × (線質係数) Q
|
モニタリングの実用量としての線量当量
モニタリング(monitoring)とは、放射線防護の目標が達成されているか否かを判断するために行われる放射線あるいは放射能の測定と、測定結果の解釈・評価を含む一連の行為をいい、放射線管理上の基本的な行為である[13][14]。
詳細は「被曝#放射線管理とモニタリング」を参照
モニタリングに用いられる線量当量としては以下のものが定義される[15]。
- 環境モニタリングに用いられるもの[16]
- 周辺線量当量(ambient dose equivalent)H*(d)
- 方向性線量当量(directional dose equivalent)H'(d,Ω)
- 個人モニタリングに用いられるもの
- 個人線量当量(personal dose equivalent)Hp(d)
モニタリングの実用量と法令上の線量概念との対応
(実効線量)防護量、実用量とその法令上の名称[17]
対象モニタリング |
防護量 |
実用量 |
実用量の法令上の名称 |
環境モニタリング |
実効線量 |
周辺線量当量 H*(10) |
1cm線量当量 |
個人モニタリング |
実効線量 |
個人線量当量 Hp(10) |
1cm線量当量 |
※1 上表からわかるように、1cm線量当量という場合は実効線量を指す。
※2 なお、法令に従ったモニタリング業務において「空間線量」ということばは、環境モニタリングにおける1cm線量当量(周辺線量当量 H*(10) )を意味するとされる[18]。
(等価線量)防護量、実用量とその法令上の名称[19]
対象モニタリング |
防護量 |
実用量 |
実用量の法令上の名称 |
環境モニタリング |
眼の水晶体の等価線量
皮膚の等価線量
|
方向性線量当量 H'(3,α[20])
方向性線量当量 H'(0.07,α)
|
なし
70μm線量当量
|
個人モニタリング |
眼の水晶体の等価線量
皮膚の等価線量
腹部表面の等価線量
|
個人線量当量 Hp(3)
個人線量当量 Hp(0.07)
個人線量当量 Hp(10)
|
なし
70μm線量当量
なし
|
補足定義
線エネルギー付与(LET:Linear Energy Transfer)
荷電粒子放射線の単位長さ(1μm)あたりのエネルギー損失量[21] [keV/μm] を線エネルギー付与(LET;Linear Energy Transfer)と呼ぶ[22]。電荷の無いガンマ線や X 線、中性子線には本来適用できないが、物質との相互作用によって発生する荷電粒子線(二次線)に適用したものをその中性の放射線の LET としている。
- 低 LET 放射線と高 LET 放射線の分類
- 放射線による生物影響を考えるにあたって、放射線は LET の大きさで低 LET 放射線と高 LET 放射線の二つに分類される。
- 低 LET 放射線:電子線(この場合はベータ線も含まれる)、ガンマ線、X 線[23]
- 高 LET 放射線:アルファ線や速い中性子線(熱中性子線ではない)など[24][25]。
生物学的効果比(RBE:Relative Biological Effectiveness)
放射線の線質(放射線の種類、エネルギー)が異なると、同じ線量を与えても生物効果の程度は大きく異なる[26]。そこで線質の異なる放射線の作用を比較するにあたっては、基準放射線と呼ばれる基準の放射線を定めた上で、次の式で定義される生物学的効果比(RBE:Relative Biological Effectiveness)が用いられる。
- RBE = (ある生物効果を引き起こすに必要な基準放射線の線量) / (問題としている放射線で同じ効果を引き起こすに必要な線量)
基準放射線としては、250keVの X 線が用いられることが多い[27][28]。
なお、一般に高 LET 放射線の RBE は1よりも大きくなる。
脚注
- ^ 例えば、アルファ線とガンマ線とでは同じ 1[Gy] の吸収線量であっても、細胞死や染色体異常などの細胞レベルの影響は異なる。
- ^ 草間(1995) pp.42-45
- ^ 低線量被曝においては主にガンが問題となることからガンの RBE を吸収線量に掛け合わせた線量がまず考えられた。ただし、その当時はガンの RBE に関する十分なデータが無かった。
- ^ 例えば、ICRUの1962年の報告書より以前においては RBE dose と呼ばれる線量概念が参考程度に定義されていた。
- ^ 草間(1995) p.44
- ^ ただし、線量当量という概念は、被曝を受けたのが特定の組織であるのか、あるいはいくつか複数の組織なのかが常に曖昧であるという弱点がある。グリーニング(1988) p.152
- ^ 線量当量と等価線量の定義上の大きな違いは、線量当量がある一点に対して定義されるものであるのに対して、等価線量は臓器に対して定義される点である。概念的に等価線量の方が線量当量よりも放射線防護量としては適切であるが、等価線量自体をそのまま計測することは困難である。
- ^ 名称変更になったのは、それまでの個人の放射線被曝によるリスク量である実効線量当量(effective dose equivalent)と名称として紛らわしいため区別する意味合いもあったと言われる。なお、1990年のICRP勧告にて、等価線量の定義と同時に実効線量当量は実効線量(effective dose)に名称変更となった。
- ^ ただし、放射線・放射性物質の量と単位および測定に関する国際的な統一と規格化を図るための国際組織である国際放射線単位測定委員会(ICRU)においては、未だに線量当量は用いられている。
- ^ 草間(2005) pp.19-20
- ^ 線質係数は、放射線の種類の違いによる生物影響の違いを補正するためのものであるが、後に放射線のエネルギーの違いによる生物影響の違いを反映させた放射線荷重係数と等価線量が導入された。
詳細は「 等価線量#放射線荷重係数(radiation weighting factor)」を参照
線質係数の数値についても上記リンク先に参考として記載されている。
- ^ なお、修正係数 M が掛け合わされることもあるが、大抵は M=1 として扱われるため省略する。
- ^ アイソトープ(1992) pp.166-172
- ^ 例えば、電離則(第八条)における線量の測定はモニタリング行為である。
- ^ 正確な定義を知りたい場合は空間線量測定マニュアル pp.5-6 参照。ただし、フィルムバッジなどはJIS規格が定まっている。辻本(2001) p.56
したがって、JIS規格を満たしているということをもって正確に定義を満たした(または等価な)実効線量または等価線量の実用量を計測しているということが担保されるので、法令上の計測方法を遵守していると主張できる(その立証責任はJISが持つことになる)。定義を下手に理解して線量計を自作してしまうと、それが法令上の例えば(環境または個人モニタリングにおける)1cm線量当量であるかどうかという立証を自分で行わなくてはならなくなる。
- ^ 周辺線量当量、方向性線量当量の定義において、ICRU球と呼ばれる直径30cmの球体が用いられるが、この球体を用いて計測した線量当量がなぜ実効線量につながるのかという理由について知りたい場合は、グリーニング(1988) pp.152-153 参照。
- ^ 空間線量測定マニュアル p.4 表2.3から抜粋
- ^ 空間線量測定マニュアル p.2
- ^ 空間線量測定マニュアル p.4 表2.3から抜粋
- ^ ここでαは方向性線量当量の値が最大となる方向であり、決まった角度ではない。すなわち、実質的に実務として方向性線量当量の角度変数は用いない。
- ^ 言い換えれば荷電粒子放射線がその飛程の単位長さあたりにまわりの物質に与えるエネルギー量
- ^ LET は荷電粒子放射線の電荷の二乗に比例し、その速さにほぼ反比例する。草間(1995) p.27
- ^ 一次線(ガンマ線、X 線そのもの)と物質との相互作用によって発生する二次線が電子線
- ^ [#草間(1995)|草間(1995)] p.27
- ^ なお、高LET放射線による傷害の原因の大半は直接作用であるとされる。放射線のDNAへの影響
- ^ アイソトープ協会(1992) pp.128-130、辻本(2001) p.48
- ^ アイソトープ協会(1992) p.129
- ^ 文献によっては、200kVp の X 線で水中のLETが 3keV/μm、線量率 0.1Gy/分を基準放射線としているものもある。辻本(2001) p.48
関連項目
参考文献
- 草間 朋子、甲斐 倫明、伴 信彦 『放射線健康科学』 杏林書院、1995年。
- 『空間線量測定マニュアル』 日本保健物理学会(編)、日本アイソトープ協会、2002年。
- 被ばく線量の測定・評価マニュアル(外部被ばくについて), (2001), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhps1966/36/1/36_1_18/_pdf
- 辻本 忠, 草間 朋子 『放射線防護の基礎』、2001年、第3版。
- 草間 朋子 『あなたと患者のための放射線防護 Q&A』 医療科学社、2005年、改訂新版。
- 『放射線・アイソトープ 講義と実習』 日本アイソトープ協会(編)、丸善、1992年。
- グリーニング(J.R.Greening) 『放射線量計測の基礎』 森内 和之, 高田 信久(訳)、地人書館、1988年。
- 測定値(空気中放射線量)と実効線量, 日本原子力学会, (2012), http://www.aesj.or.jp/information/fnpp201103/chousacom/he/hecom_sokuteichi20120911.pdf
- 線量(第2回), (2012), http://www.jrias.or.jp/member/pdf/2012011_TRACER_TADA.pdf
- 線量(第4回), (2013), http://www.jrias.or.jp/books/pdf/201301_TRACER_TADA.pdf
Japanese Journal
- CR-39を用いた中性子周辺線量当量測定用線量計の開発
- 279 I-125シード小線源治療後の患者周囲の1cm線量当量率の測定報告(放射線治療 QAQC,第36回日本放射線技術学会秋季学術大会)
- 坂本 岳士,名古 安伸,池崎 廣海,村上 晋也,丸山 靖,池田 郁夫,伊藤 博美
- 日本放射線技術學會雜誌 64(9), 1136, 2008-09-20
- NAID 110007068996
Related Links
- 線量当量とは、吸収線量(放射線から受けるエネルギー)に、法令で定められた係数( 放射線の種類ごとに定められた人体の障害の ... 吸収線量値(グレイ)に、放射線の 種類ないし対象組織ごとに定められた修正係数を乗じて線量当量(シーベルト)を算出 する。
Related Pictures
★リンクテーブル★
[★]
線量当量 dose equivalent
[★]
- 英
- personal dose equivalent
- 関
- 実効線量、集団線量当量、表層部個人線量当量
[★]
- 英
- tissue dose equivalent
- 関
- 表層部個人線量当量
[★]
- 英
- effective dose equivalent
[★]
- 英
-
- 関
- 同じ、相当、対応、等価、等価性、同等、同等性、相当するもの、等価物
[★]
- 英
- amount、volume、content、quantity
- 関
- 巻、含有量、含量、体積、達する、容積、内容物、内容、ボリューム
[★]
- 英
- dose
- 関
- 投与量、服用量、用量、薬物用量