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水死(すいし)とは、水が呼吸器系へ侵入し、肺に水がたまるなどして気道がふさがれることにより引き起こされる窒息死の一種である。主に水難事故で引き起こされ、溺死(できし)ともいう。死亡にまで至らない窒息の場合は溺水(できすい)という。喀血や吐血による血液の吸引・逆流による窒息死は水死とは呼ばない。
2002年(平成14年)の警察庁のまとめによると(以下の統計はこの資料による)、日本での水難事故の発生件数は1,722件で、その内死亡者は951件である。死亡率は約50%と、交通事故などに比べても圧倒的に死亡率が高い。
死亡者の内訳は、高校卒業相当年齢以上65歳未満が557名で、水死者全体の57.0%を占めている。65歳以上の高齢者が284名(29.1%)で、以下、高校生相当年齢、未就学児童、小学生、中学生と続く。しかし、65歳以上の水難事故者の致死率は一番高く、7割近くが死亡している。これは、自身の身体能力の衰えに対する認識不足から水難事故に陥りやすく、さらに、水難事故に遭遇した際に対処できうる体力がないことによると考えられている。
発生場所は海が一番多く、501名の死亡者が出ていて、これは水死者全体の50%近くを占める。以下、河川282名(28.9%)、用水路106名(10.8%)、湖沼池67名(6.9%)、プール7名(0.7%)と続く。
また、乳児の水死の数は多くはないが、風呂場での水死が多いことが特徴としてあげられる。これは日本の家庭では風呂の湯を残す習慣があり、つかまり立ちなど、自力で移動できるようになった乳児が、残り湯の張られた浴槽に頭から転落して水死に至る事故が発生することによるものである。
水死事故の大半は着衣の状態で起こっていて、着衣のまま泳ぐことに慣れていないことや、衣服が水を含んで重くなったり、水中での抵抗になることで体力の消耗が激しいことも水死に至る大きな要因となっている。衣類を身につけたまま水中に落ちた場合はむやみに泳がず、近くに浮き木などがあればつかまって助けを待つと体力を消耗しない。小学生ならばランドセルの中身を捨てて逆さまにし、浮き具のようにするといった方法もとれる。着衣の場合は不慮の事故で水中に転落する場合が多く、負傷していたり、パニック状態に陥っているために適切な対応ができない例も多い。さらに、こうした事例は水温が低い季節でも起こり、体温を奪われることで体力の消耗を早くして溺死に至る危険性が高い。着衣のまま水辺に近づくことは危険であるという危機意識を持つことにより、水中に落ちる危険を回避し、水中でも落ち着いて対処できるように備えることができる。レジャーなどで水辺に向かう場合は、単独での行動を避けることで早期の救助や通報が可能となる。
疲労や睡眠不足、医薬品の服用などにより、思考能力や運動能力が極端に低下した場合に、顔を洗おうとしただけで呼吸器に水を吸い込んで、溺水や溺死を引き起こす例もある。
水死にいたる以前の行為は魚釣り・魚捕りが最も多く、292名が死亡している。多くの場合は水辺の危険性に対する油断が招いた事故で、強風や雨量の多い時に釣りをしていて高波や濁流に流される事故や、酩酊状態で釣りをしていて防波堤から転落する事故が毎年、発生している。また、足場が不安定などといった、危険な場所での釣りを避け、場合によっては命綱を用いて安全を確保をすることが事故を未然に防ぐ。クーラーボックスを浮き具の代用にして助かった事例も存在するが、転落に備えてライフジャケットを着用することが生存率を高くする。特に船上では転落する危険性が高いので、ライフジャケットの着用が法令で義務づけられている。
急激な体温の低下は心臓発作などを引き起こす恐れがあるため、泳ぐ前には必ず準備運動により体を温め、循環器系を活発にすることは日本の義務教育課程において教育されている。水が冷たいときは、遊泳を避けることが一般的であるが、訓練などで水に入る場合は入念な準備運動が行われる。
水温が低い場合は、本人が認識している以上に体力の消耗が激しいため、短時間で終了するように計画される。また、はじめは水温が十分に高くても、雨が降り始めると水面付近は急速に水温が低下するため、遠泳などを計画する場合は天候に配慮されることが一般的である。
自身の泳ぐ力を過信したことに帰因して波や風、流れ、水深などに対する警戒が不十分なために事故が発生する場合も多い。遊泳が禁止されている場所は潮流が複雑に入りくんでいるなどの理由がある。プールの場合は、給排水口に強い流れが発生している場合があるので近づいてはならないことを示している施設が一般的である。風が強い時は水面付近に飛沫が飛ぶことがあり、これがきっかけで溺れる危険性がある。また、アルコールを摂取した場合は、体温低下による循環機能の低下を誘発しやすく、同時に、陸上よりも身体能力の低下が顕著になることから、飲酒後の遊泳は危険である。
釣りやキャンプなど、河原で行動する場合、ダムの放流や上流での降雨によって短時間で水位が上昇して、流れに飲まれる事故が多く発生する。山中を流れる川では天候が急変しやすく、滑りやすくなった足場から転落する例や、急速に水量が増えて流される例もある。
乳幼児が数十センチの深さで水死する例は絶えず、保護者の監督不十分が原因である場合が多い。プールでは、たとえ子供がプールの底に沈んでいても他の子供には事態の深刻性が把握できずに発見が遅れる例もあり、担当教諭やプール監視員は特に注意が求められている。
体が成長過程にある子供の場合、鼻と耳とをつなぐ耳管が大人より太く短い。そのため、息継ぎに失敗すると耳管の奥まで水が入り、耳管の奥にある中耳内の圧力が高まり中耳の内出血を起こす。更に、症状が進むと三半規管の麻痺を起こしてめまいを発症(大人でいうとひどく泥酔した状態)し、症状がひどくなると意識を失って溺死に至る。この要因は、泳ぎが上手な子供に多い。鼻の奥に「ツーン」とする痛みを感じたら、中耳の奥に水が入り込んでいて、めまいを発症する前兆なので、直ちに泳ぎを中止することで予防できる。
乳児がいる家庭では、浴槽に残り湯をできるだけ残さないことが水死事故の対策となる。
急速な体表温度の低下に誘発された心臓発作や外傷などで意識を失ったり、体力低下やパニック状態に陥ったことで水中から顔を上げることができずに、あるいは人為的、偶発的に水中から脱出できない状況を強いられて窒息に至る。
血中の酸素濃度が低下すると無意識に息を吸おうとしてパニックを招く。なんとか空気を吸おうと必死にもがき動くため、血中の酸素が消費されて脳が酸素不足に陥り、さらに正常な判断ができなくなってしまう。
もし水が喉の中の喉頭あるいは声帯に入れば、気管が凝縮して、侵入を拒む。肺には普段、この水の侵入を防ぐ機能が働いているが、一度水が肺の中に入ってしまえば、この機能は途端に無意味になる。
酸素欠乏のため徐々に無意識の状態に陥り、心停止に至る。まだ、この状態になっても助かる可能性はあるが、酸素が一時的に供給されなかった脳に障害が残る場合があり、重度の場合は脳死や遷延性意識障害となる可能性がある。
溺れた人を水死させないためには、早期の応急救護(BLS)が必要である。一般的に、心臓停止からBLS開始までに3分たてば死亡率が50%、10分たてばほとんど生存が見込めなくなる。呼吸停止の場合、BLS開始まで10分で死亡率が50%、30分たてばALSを開始しても殆ど生存は見込めない。
人が浴槽で沈んでいた等、水死のように見て取れても、実際は水死ではなく他の要因で死亡した事が解剖によって判明する場合がある。
溺水によって死亡した遺体の場合、肺を解剖すると、中は泡立った水で満たされている事が多い。この泡は、呼吸する際の吸気と呼気によって水がシェイクされてできる泡である。肺内部からこのような泡が確認されると、呼吸しながら水を吸い込んだ、つまり水を吸い込む直前まで生きていた事を示すので、溺れた事によって水死した可能性が高いといえる。
逆にこのような泡が確認されない場合は、呼吸していない状態、すなわち溺れる前から既に死んでいて呼吸が止まっていると思われる状態で、後から呼吸器内に水が侵入したといえる。この場合、呼吸器内に水が侵入するより前に、病死や殺人事件などの他の要因で死亡した可能性が高いので、水死にはならない。
この例は、遺族が死亡診断書を書いた医師に対してクレームを入れるなどの争いが起きやすい。死亡診断書の死因の項目が、病死か溺水(事故死)かによって、支払われる保険金の額が変わるからである[出典 1]。
死因のデータについては、業界により様々な信ぴょう性が問われている。例えば2009年11月25日にサウジアラビアで発生した大雨による大洪水では[1]100人以上が死亡したが、現地のメディアではこれを「洪水で100人以上が溺死した」といった内容で配信された。しかし100人中100人が全員溺死したなどと簡単には断定する事はできない。中には濁流に流されてきた石や岩などで頭部を直撃し、脳挫傷で死亡する場合もある。いわゆる水に沈んだ遺体の全てが、必ずしも溺死したとは限らないのである。その為、死因についての決定や公表をする場合は、慎重になる必要がある[出典 1]。
事件性が認められる水死体は解剖などの調査が行われる。例えば、2004年(平成16年)11月に奈良で起きた小学一年生殺害事件では、被害女児の死因は溺死であったが、気道や胃や肺などに残留した液体や付着物が調べられた。プランクトンや藻類などの混在や、塩分濃度などの水質から、水死した場所が特定できる。
一方、組織の含水などにより、遺体の損傷が生前に犯人に付けられたのか、あるいは流されているときについたものなのか、識別が難しくなるという特徴がある。
いわゆる入水自殺。体内部で発生した腐敗ガスのせいで浮上することがあり、自分の遺体が野次馬の視線に晒される可能性があることも嫌われる。腐敗ガスによる浮力は20–30キロのおもりをつけても浮く場合がある。また遺体がどこに流れ着くか分からず、それが他殺遺体なのか自殺遺体なのかの判別も難しい。
水死に関わる裁判は多く起きている。特に、学校のプールを管理する教師や行政や、部活をやっていて溺れた場合などの子供を管理する監督者に対する過失が問われる裁判が起きており、中には水死した子供の親に対して過失相殺が認められる事例も多く見られる。
水に浮いた水死体のことを「土左衛門(どざえもん)」と呼ぶのは江戸時代からの伝統である。
名前の由来は、山東京伝の『近世奇跡考』巻1に「案(あんず)るに江戸の方言に 溺死の者を土左衞門と云(いう)は成瀨川肥大の者ゆゑに水死して渾身暴皮(こんしんぼうひ)ふとりたるを土左衞門の如しと戲(たわむ)ゐひしがつひに方言となりしと云」とある。水死体はいったん水底に沈み腐敗が始まるとガスを発生し、組織が水を吸ってぶよぶよになり、体が膨れ上がって真っ白に見えることがある。この様が、享保年間に色白で典型的なあんこ型体形(締まりのない肥満体)で有名だった大相撲力士、成瀬川土左衛門にそっくりだったことからこの名がついたという[2]。
力士の四股名には伝統名として繰り返し襲名されるものが多いが、「土左衛門」はこの成瀬川の後は一度も襲名されることがなかった。
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リンク元 | 「溺水」「溢血点」「ワイドラー徴候」「水死」 |
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