出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2015/08/08 19:47:49」(JST)
一次構造(いちじこうぞう、primary structure)とは生化学において、生体分子の特定の単位とそれらをつなぐ化学結合の正確な配置のことである。DNA、RNAや典型的な細胞内タンパク質のように、分岐や交差のない典型的な生体高分子においては、一次構造は核酸やアミノ酸といった単量体の配列と同義である。「一次構造」という言葉は、1951年にリンダーストロム・ラングによって初めて用いられた。一次構造はしばしば一次配列と間違われるが、二次配列、三次配列という概念がないように、このような用語は存在しない。
通常ポリペプチドには分岐がないため、一次構造はアミノ酸の配列と一致する。しかしタンパク質はジスルフィド結合などで交差しうるため、交差点のアミノ酸(この場合はシステイン)を明示する必要がある。その他の交差にはデスモシンなどがある。
ポリペプチド鎖中のキラル中心はラセミ化している。特にタンパク質中に見られるLアミノ酸は、ほとんどのプロテアーゼで切ることのできないDアミノ酸に自発的に異性化する。
最終的に、タンパク質は様々な翻訳後修飾を受ける。これらを以下に簡潔に述べる。
ポリペプチド鎖のN末端のアミノ酸は以下のような修飾基と共有結合している。
ポリペプチド鎖のC末端のカルボキシル基も以下のような修飾基と共有結合している。
最終的にペプチドの側鎖は次のような共有結合で修飾される。
これらの修飾は翻訳後に、多くは小胞体で行われる。 シアン化などのその他の化学反応は、生体内では起こらないが実験室内では行われている。
上述した様々な修飾に加えて、一次構造に対する最も重要な修飾はペプチドの切断である。タンパク質は不活性の状態で合成されることがあるが、N末端やC末端によって活性中心がブロックされていることが多い。不必要なペプチドを切り落とすことで機能が発現する。
セリン(まれにスレオニンも)の水酸基やシステインのチオール基が、上流のペプチド結合のカルボニル炭素を攻撃して四配位の中間体を作るように、ある種のタンパク質は自分自身を切断することができる。 中間体は安定なアミド基に開裂するが、分子間相互作用のため不安定になり、ペプチド結合の代わりにセリン、スレオニンとのエステル結合やシステインとのチオエステル結合を作る。この化学反応はN-Oアシル転移と呼ばれている。
ここで生じたエステル結合、チオエステル結合は次のような方法で解消される。 加水分解され、アミノ基が新たなN末端になる。グリコシルアスパラギナーゼの成熟の時などに見られる。 β脱離が起こり、新しいN末端にピルボイル基が生じる。Sアデノシルメチオニンデカルボキシラーゼのような酵素の補酵素を共有結合する際に使われる。 分子内エステル交換が起こり、分岐ポリペプチドが生じる。インテインにおいては、新しいエステル結合はC末端のアスパラギンによってすぐに壊される。 分子間エステル交換が起こり、ポリペプチド全体が変換される。ヘッジホッグタンパク質の自動プロセッシングの際に起こる。
タンパク質がαアミノ酸の直鎖だという説は、1902年にカールスバートで開催された第74回ドイツ学術会議で、2人の科学者によりほぼ同時に提唱された。フランツ・ホフマイスターは、タンパク質のビウレット反応の観察に基づく発表を朝の講演で行った。数時間後にはエミール・フィッシャーがペプチド結合のモデルからの同様の発表を行った。 タンパク質がアミド結合を含んでいるという説は、1882年にはフランスの化学者であるエドアール・グリモーにより提唱されていた。 これらのデータや、タンパク質が分解されるとオリゴペプチドが生じるという証拠があったにも関わらず、タンパク質は直鎖で分岐のないアミノ酸のポリマーだという主張はすぐには受け入れられなかった。 ウィリアム・アストベリーのような著名な科学者でさえ、熱振動を受けやすいこのような長い分子を支えるほどの強さを共有結合が持ちうるのか疑問に思っていた。 ヘルマン・シュタウディンガーも、「ゴムは高分子からできている」と主張した1920年代に同じような偏見を受けている。
いくつか別の仮説も提起された。コロイドタンパク質説は、タンパク質はコロイド状態の微小粒子の集合体であるとする説である しかしこの説は、1920年代にテオドール・スヴェドベリが超遠心の実験で、及びウィルヘルム・ティセリウスが電気泳動の実験でタンパク質が固有の質量を持っていることを証明したことにより否定された。 また別の説には、直鎖のポリペプチドはシクロール型の再構成 C=O + HN C(OH)-N を受けてアミド基が結合し、二次元的な繊維になると提唱したドロシー・リンチによるシクロール説がある。 さらに別の一次構造に関する説はエミール・アプデルハルデンによるジケトピペラジン説や1942年に提唱されたピロール/ピペリジン説がある。 結局これらの説は、フレデリック・サンガーがインスリンの配列を解読し、マックス・ペルツとジョン・ケンドリューがミオグロビンとヘモグロビンの結晶構造を決定したことによって否定された。
生体高分子の一次構造は多くの場合三次構造として知られる三次元的な形を決定するが、核酸やタンパク質のフォールディングは複雑すぎて一次構造から全体の形や二次構造を予測することはできない。しかし、同じファミリーに属するようなホモロジーの似たタンパク質の形が既知であれば形を予測することはできる。 タンパク質のファミリーはクラスタリング解析を元に決められ、構造ゲノミクスプロジェクトは代表的な構造の一覧を作ることを目的としている。
タンパク質以外の直鎖状のヘテロポリマーでも、「一次構造」という用語が使われるが、タンパク質に関して使われているような一般的な用語ではない。 やはり二次構造を持つRNAでは、塩基の直鎖はDNAで言われているように単に「配列」と言われる。多糖のような生体高分子も一次構造を持つとみなせるが、同様に一般的な用語ではない。
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