出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/07/11 09:52:33」(JST)
ポリ塩化ビフェニル(ポリえんかビフェニル、polychlorinated biphenyl)またはポリクロロビフェニル (polychlorobiphenyl) は、ビフェニルの水素原子が塩素原子で置換された化合物の総称で、一般式 C12H(10-n)Cln (1≦n≦10) で表される。置換塩素の数によりモノクロロビフェニルからデカクロロビフェニルまでの10種類の化学式があり、置換塩素の位置によって、計209種の異性体が存在する。
略してPCB(ピーシービー)とも呼ばれる。なお、英語ではプリント基板 (printed circuit board) との混同を避け「PCBs」と呼ばれる事もある[1][2]。
熱に対して安定で、電気絶縁性が高く、耐薬品性に優れている。加熱や冷却用熱媒体、変圧器やコンデンサといった電気機器の絶縁油、可塑剤、塗料、ノンカーボン紙の溶剤など、非常に幅広い分野に用いられた。
一方、生体に対する毒性が高く、脂肪組織に蓄積しやすい。発癌性があり、また皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こすことが分かっている。
目次
|
1881年にドイツで初めて合成され、1929年に米国で工業生産が始まった。日本では、1954年に製造が始まったが、1968年に起こった「カネミ油症事件」をきっかけに、1972年の生産・使用の中止等の行政指導を経て、1975年に製造および輸入が原則禁止された。
1979年、台湾油症が発生した。
しかしながら、以前に作られたものの対策はとられておらず、2000年ころから、世界でPCBを含む電化製品、特に老朽化した蛍光灯の安定器からPCBを含む液が漏れる事故が相次ぎ、社会問題となった。
種類 | 名称 | IUPAC No. |
TEF |
---|---|---|---|
PCDD | 2,3,7,8-テトラクロロパラジオキシン(参考) | 1 | |
PCDF | 2,3,4,7,8-ペンタクロロジベンゾフラン(参考) | 0.3 | |
ノンオルト置換 (コプラナー) |
3,3',4,4'-テトラクロロビフェニル | 077 | 0.0001 |
3,4,4',5-テトラクロロビフェニル | 081 | 0.0003 | |
3,3',4,4',5-ペンタクロロビフェニル | 126 | 0.1 | |
3,3',4,4',5,5'-ヘキサクロロビフェニル | 169 | 0.03 | |
モノオルト置換 PCB |
2,3,3',4,4'-ペンタクロロビフェニル | 105 | 0.00003 |
2,3,4,4',5-ペンタクロロビフェニル | 114 | 0.00003 | |
2,3',4,4',5-ペンタクロロビフェニル | 118 | 0.00003 | |
2',3,4,4',5-ペンタクロロビフェニル | 123 | 0.00003 | |
2,3,3',4,4',5-ヘキサクロロビフェニル | 156 | 0.00003 | |
2,3,3',4,4',5'-ヘキサクロロビフェニル | 157 | 0.00003 | |
2,3,4,4',5,5'-ヘキサクロロビフェニル | 167 | 0.00003 | |
2,3,3',4,4',5,5'-ヘプタクロロビフェニル | 189 | 0.00003 |
PCBの毒性の強さは、異性体により大きな差がある。右図はWHOによる毒性の評価をまとめたものであるが、「TEF」とは毒性等価係数といい、最も毒性が強いとされるダイオキシン類PCDD(厳密にはTCDD)を「1」とした場合の各異性体の相対的毒性評価である。
PCBの毒性のうち発癌性、催奇性はダイオキシン類(ポリクロロジベンゾジオキシン、ポリクロロジベンゾフラン)に似ている。そのため、それらを示すPCBをダイオキシン様PCB (dioxin-like PCB, DL-PCB) と呼びダイオキシン類に加える。世界保健機構 (WHO) により、12種の異性体がDL-PCBに指定されている(毒性の強弱は数桁の差がある)。
非ダイオキシン様PCBも、甲状腺異常などの、PCB特有の非ダイオキシン様毒性は示す。しかし、PCBの健康被害や環境汚染で問題となっているのは、大半がダイオキシン様PCBである。
ダイオキシン様毒性が特に強いのが、コプラナーPCB (coplanar-PCB, Co-PCB) である。ビフェニルの2つのベンゼン環は回転可能だが、PCBのビフェニル構造は、置換する塩素の位置によっては共平面構造(コプラナリティ)を取る。このようなPCBがコプラナーPCBである。なお、コプラナーでないPCBはノンプラナーCB (nonplanar PCB) である。
PCBはオルト位 (2,2',6,6') の塩素の数で、ノンオルト置換PCB(0個)、モノオルト置換PCB(1個)、ジオルト置換PCB(2個)、… と分類するが、厳密には、ノンオルト置換PCBがコプラナーPCBとされる。オルト位の塩素は共平面構造を妨げるからである[4]。ただし、ダイオキシン様PCB全てをコプラナーPCBと呼ぶこともある。ダイオキシン様PCBにはノンオルト置換PCBとモノオルト置換PCBが含まれる。
日本では、1972年に行政指導という緊急避難的な措置として製造・輸入・使用を原則として中止させ、翌1973年には、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律を制定(発効は1975年)し、法的に禁止している。PCBを含む廃棄物は、国が具体的対策が決定するまで使用者が保管すると義務付けられたが、電気機器等については、耐用年数を迎えるまで使用が認められたことから、PCBを含む機器の所在や廃棄物の絶対量の把握が曖昧なものとなった。
1980年代以降になるとPCBの危険性に対する認識が風化し、保管されていた廃棄物が他の産業廃棄物と一緒に安易に処理されるなど、行方不明になる例が報告されるようになった。厚生省は1992年と1998年に保管状況の追跡調査を実施したが、調査を通じて大量のPCBを含む大型トランスやコンデンサが、わずか6年の間に台数比で4.1%もの機器が行方不明になる実態が明らかにされている。1972年からの紛失率を考えた場合には膨大な量になることは明らかであり、一刻も早い抜本的な処理体制の確立が急務となった。
一方で、処理体制の模索は絶えず続けられてきた。1976年には通商産業省の外郭団体として電機ピーシービー処理協会(現: 電気絶縁物処理協会)が設立され、高温焼却処理施設の設置が模索されてきたが、PCBの危険性を危惧する住民運動により全て頓挫。日本ではその後約30年にわたる長い間、PCBを含む廃棄物の具体的な処理基準や処理施設は公に定められないままであった。1990年代以降は、新たに安全な処理方法の検討が行われた結果、処理方法の多様化が認められ、2000年代に入ると一部の企業においては、商業的な処理技術の立証を視野に入れた実験的処理が行われるようになった。
2001年6月、日本はPOPs条約(後述)の調印を受けPCB処理特別措置法を制定し、併せて環境事業団法を改正して、2016年までに処理する制度を作った。
こうした対策は進んでいるものの、依然として日本国内ではPCBを使用した機器があふれており問題視されている。一例では1999年に青森県の高校、東京都の小学校にて、相次いで照明器具(蛍光灯)内のPCBを使用したコンデンサが老朽化のため爆発。生徒や児童に直接PCBが降りかかるといった事件が発生。現在でも公共施設をはじめ多くの場所で用いられていることを示す例として知られるようになった。1970年代以前のコンデンサー類の全てでPCBが用いられているとは限らないが、今となっては使用状況が正確に把握できないこともあり、眠る爆弾として衛生面、環境面から恐れられる存在となっている。
2001年5月、PCBを2028年までに全廃することを含む国際条約であるPOPs条約(残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約)が調印された(POPsは persistent organic pollutants の略語で、残留性有機汚染物質を指す)。
PCBの処理方法には以下のようなものがある。
食品に含まれるPCBの濃度については1972年に暫定規制値が定められた[5]。
今日でも、時折検査が行なわれている[6]。
1975年にPCBの底質暫定除去基準が制定され、全国でPCBで汚染された底質の浚渫が行われた。
なお、PCBのうち、コプラナーPCB(塩素原子が分子の外側を向き平面状分子となっているものであり、一般のPCBに比べて毒性が高い。)はダイオキシン類の一種であるが、かつてのPCB暫定除去基準に従って浚渫した海域において、ダイオキシン類の底質環境基準を超過する底質が検出される例が見られる。
また、PCBを含む絶縁油などの不適切な管理により河川や閉鎖水域に投棄されたPCB油による底質汚染も検出されている。汚染原因者特定のために、異性体パターンによるPCBの種類の特定や、ケミカルマスバランス法による負担割合の定量的な算定が行われている。
PCBを含む電気機器等が廃棄物となった場合(これをポリ塩化ビフェニル廃棄物という)、事業者等はポリ塩化ビフェニル廃棄物を処理するまでの間、特別管理産業廃棄物保管基準に従って当該物を保管しなければならない(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第12条の2第2項)。具体的な基準は次のとおりである。
ポリ塩化ビフェニル廃棄物を委託処理する方法は、廃棄物に含まれる絶縁油のPCB濃度や廃棄物の種類によって異なる。具体的な委託処理方法[7]は次のとおりである。
なお、日本環境安全事業で処分するには機器登録(予約)しなければならない。
テレビニュース等では、PCBポリ塩化ビフェニールと言うのが、普通である。
全文を閲覧するには購読必要です。 To read the full text you will need to subscribe.
国試過去問 | 「113F061」 |
リンク元 | 「新生児油症」「PCB」「polychlorinated biphenyl」「polychlorobiphenyl」 |
拡張検索 | 「ポリ塩化ビフェニル中毒」「ポリ塩化ビフェニル中毒症」 |
関連記事 | 「塩化」「フェニル」 |
A
※国試ナビ4※ [113F060]←[国試_113]→[113F062]
[★] ポリ塩化ビフェニル polychlorinated biphenyl
.