- 英
- thiol
- 同
- thiol基
- 関
- ジスルフィド、スルフィド、チオエーテル
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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/08/25 23:51:45」(JST)
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チオール (thiol) は水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物で、メルカプタン類 (mercaptans) とも呼ばれる[1]。チオールは R−SH(R は有機基)であらわされる構造を持ち、アルコールの酸素が硫黄で置換されたものと等しいことから、チオアルコールとも呼ばれる。また置換基として呼称される場合はメルカプト基と呼ばれ、水硫基、チオール基、スルフヒドリル基と呼称されることもある。
目次
- 1 命名
- 2 臭い
- 3 性質
- 3.1 酸性度
- 3.2 沸点
- 3.3 塩基
- 3.4 酸化
- 3.5 例
- 4 合成法
- 5 主な化合物
- 6 事故
- 7 出典
- 8 関連項目
- 9 参考文献
命名
チオールの命名は SH が結合している炭素を番号で示し、骨格の炭化水素の名前を続け、語尾 e に続けて -thiol とする(IUPAC命名法)。
- (例)CH3−SH = メタンチオール (methanethiol)
臭い
多くのチオールは特異的な悪臭をもつ。システインなどの含硫黄アミノ酸は分解されてチオールを生じるが、これを生物(蛋白質)の腐敗であると検知するために遺伝形質が選択され生物が感覚器官として獲得したという説がある。この悪臭は低濃度でも感じるため、ガス施設などのガス漏れ検知剤や、都市ガスの付臭剤(ガス漏れにすぐ気づくように微量のチオールが添加されている)として使われる。しかし、このにおいは細胞に吸着し易いのが難点である。
エタンチオールはギネスブックにおいて世界一臭い化合物とされている。ドリアンの臭いの主要成分は1-プロパンチオール(C3H7SH)である。
性質
酸性度
チオールの水素は相当するアルコールの水素に比べて高い酸性度(小さい pKa 値)を示す。水素が解離した後にできるアニオンは、チオラートアニオンの場合はSの3p軌道に最外殻電子があるのに対して、アルコキシドアニオンの場合はOの2p軌道である。より外側である3p軌道のほうが軌道が大きく電子密度が低いために、アニオンの安定性の違いが生じる。
沸点
また S−H 間の分極が弱く、アルコールよりも分子間の水素結合が弱いため、アルコールと相当するチオールの沸点を比べたときにアルコールの方が沸点が高い傾向を示す。
塩基
また、その共有結合性の高さからソフトな塩基として作用し、特に水銀など後周期金属化合物と強い結合を作りやすい。
酸化
酸素、過酸化水素などの酸化剤によって容易に酸化され、アルキル鎖が対称なジスルフィドを形成する。
例
生化学で最も重要なチオールはおそらく補酵素A (CoA) である。これは補酵素Aのチオール基 (SH) とアシル基が結合したチオエステルから容易にアシル基が転移する性質に由来する。アミノ酸のひとつ、システインもチオールの一種である。
合成法
ハロゲン化アルキルをアルカリの存在下に硫化水素と反応させると生成する。この反応では系中で水硫化ナトリウム NaSH が発生し、これがハロゲン原子と求核置換することによって、アルキル基上に硫黄原子が導入される。あらかじめ単離した水硫化ナトリウムを用いてもよい。
- H2S + NaOH → NaSH + H2O
- R−Br + NaSH → R−SH + NaBr
上記の反応では、条件によっては生成したチオールがさらにハロゲン化アルキルと反応し、スルフィド RSR が副生する場合がある。ハロゲン化アルキルとチオ尿素を反応させ、得られたイソチオ尿素塩をアルカリ加水分解すると、選択的にチオールのみを得ることができる[2]。
- R−Br + S=C(NH2)2 → R−S−C(=NH)NH2•HBr
- R−S−C(=NH)NH2•HBr + NaOH + H2O → R−SH + 1/2 NCNHC(=NH)NH2 + NaBr + H2O
ハロゲン化アルキルとチオ酢酸カリウムの反応により得られるチオエステルを加水分解する方法も良く用いられる。この加水分解反応は酸・塩基両方の条件下で進行する。
- R−Br + KSC(=O)CH3 → R−S−C(=O)CH3
- R−S−C(=O)CH3 + H2O → R−SH + HO-C(=O)CH3
ほかに、ジスルフィドを水素化ホウ素ナトリウムやホスフィン類を用いて還元させたり、グリニャール試薬を硫黄分子で処理する方法も用いられる。
主な化合物
- メタンチオール
- エタンチオール
- チオフェノール
- システイン
- グルタチオン
事故
2013年1月21日、フランス、ルーアンの工場からチオールが漏出。臭気がパリを含むフランス北部一帯のほか、イングランドまで到達し、身体の不調を訴える住民が続出する騒ぎとなった[3]。
出典
- ^ IUPAC Gold Book - thiols
- ^ Speziale, A. J. "Ethanedithiol." Org. Synth., Coll. Vol. 4, p. 401 (1963); Vol. 30, p. 35 (1950). オンライン版
- ^ “フランス北部の工場で悪臭ガス漏れ出す、英国まで到達”. AFPBB News (フランス通信社). (2013年1月23日). http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2922759/10151547 2013年1月26日閲覧。
関連項目
参考文献
官能基 |
- アセチル基
- アセトキシ基
- アクリロイル基
- アシル基
- アルコール
- アルデヒド
- アルカン
- アルケン
- アルキン
- アルコキシ基
- アミド
- アミン
- アゾ化合物
- ベンゼン
- カルベン
- カルボニル基
- カルボン酸
- シアネート
- ジスルフィド
- ジオキシラン
- エステル
- エーテル
- エポキシド
- ハロゲン化アルキル
- ヒドラゾン
- ヒドロキシ基
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- イミン
- イソシアネート
- イソチオシアネート
- イソニトリル
- ケトン
- メチル基
- メチレン
- メチン基
- ニトリル
- ニトレン
- ニトロ化合物
- ニトロソ化合物
- 有機リン化合物
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- ペルオキシド
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- ピリジン
- セレノール
- スルホン
- スルホン酸
- スルホキシド
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- チオケトン
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- 尿素
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Japanese Journal
- 全国新酒鑑評会出品酒に含まれる4-mercapto-4-methylpentan-2-oneの解析
- ファーマコフォアとしてのチオカルボン酸とその生合成
- 出口 貴浩
- ファルマシア 55(2), 168-168, 2019
- カルボン酸は,医薬品開発において,最も重要なファーマコフォアの1つとして認識されている.その代表としてヤナギから発見されたサリシン(サリチル酸配糖体)が知られ,その誘導体のアセチルサリチル酸は非ステロイド性抗炎症薬として広く臨床にて応用されている.一方で,カルボン酸の水酸基をチオール基に置換したチオカルボン酸のファーマコフォアとしての寄与については,未だ十分な検討はなされていない.チオカルボン酸の …
- NAID 130007588530
Related Links
- チオール類を含む場合、酢酸鉛((CH3COO)2Pb)を反応させると、酢酸鉛の Pb 2+ とチオールとの反応で硫化鉛(PbS)の黒色沈殿が生じるので、これで確認ができます。
- thiol チオールは,アルコールやフェノールのヒドロキシ基をスルファニル基(−SH)に置換した化合物である. S-が安定なためH + が解離しやすいので,弱酸性(pKaは9~12)である.チオール類も抗酸化活性がありシステインなどが酸化 ...
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Japan Pharmaceutical Reference
薬効分類名
販売名
ハイチオール錠40
組成
有効成分
含量
添加物
- 結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、ステアリン酸マグネシウム、タルク
効能または効果
- ○湿疹、蕁麻疹、薬疹、中毒疹、尋常性ざ瘡、多形滲出性紅斑
- 通常成人下記1回量を1日2〜3回経口投与する。なお、年齢・症状により適宜増減する。
- L-システインとして1回80mg
====ハイチオール錠40
==
====ハイチオール錠80
==
====ハイチオール散32%
==
- ○放射線障害による白血球減少症
- 通常成人下記1回量を1日3回経口投与する。
なお、年齢・症状により適宜増減する。
- L-システインとして1回160mg
====ハイチオール錠40
==
====ハイチオール錠80
==
====ハイチオール散32%
==
薬効薬理
- L-システインは、生体内代謝系において、SH供与体としての役割を果たし、SH酵素のactivator(賦活剤)として作用する。
皮膚科関連
- 皮膚代謝の正常化、抗アレルギー、解毒などの作用により各種皮膚疾患に応用される。動物実験において、実験的皮膚糜爛の治癒時間短縮(モルモット)5)、浮腫抑制・透過性抑制・キニン様物質の遊離活性の抑制(モルモット)6)、各種化学薬品・重金属・農薬に対する解毒効果(マウス・ラット)7)などが報告されている。
放射線科関連
- 放射線を照射した動物の延命(マウス)8)、白血球減少抑制(ラット)9)、脾障害の防護(マウス)10)などが報告されており、臨床的には放射線療法にともなう白血球減少症に応用される。
有効成分に関する理化学的知見
性状
- 白色の結晶又は結晶性の粉末で、特異なにおいがあり、味はえぐい。水に溶けやすく、エタノール(99.5)にほとんど溶けない。1mol/L塩酸試液に溶ける。
★リンクテーブル★
[★]
- 英
- mercaptan
- 同
- チオール
- 関
- チオールは水素化された硫黄を末端に持つ有機化合物(R−SH)で、メルカプタン(mercaptan)とも呼ばれる。
- ジスルフィド結合を切断できる → 還元剤として
臨床関連
- 肝性脳症:メチオニンの代謝産物としてのメルカプタンが蓄積されることでも脳症の引き金になる。
[★]
- 英
- sulfide
- 同
- チオエーテル thioether
- 関
- チオール、ジスルフィド
[★]
- 英
- sulfhydryl compound
- 関
- チオール、メルカプタン
[★]
チオール
- 関
- mercaptan、sulfhydryl compound
[★]
- 英
- Hinokitiol
- 商
- (ヒノキチオール、ヒドロコルチゾン、アミノ安息香酸エチル)ヒノポロン
- シダーやヒバに含まれる不飽和七員環化合物(単環式モノテルペン)で、芳香族化合物の一つ。(参考1)
参考
[★]
リシン、メチオニン、グリチルリチン酸
[★]
- 英
- thiol reagent
- 関
- スルフヒドリル試薬
[★]
- 英
- thiol enzyme
- 関
- SH酵素