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ジアゼパム
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IUPAC命名法による物質名 |
7-chloro-1,3dihydro-1-methyl-
5-phenyl-2H-
1,4-benzodiazepin-2-one |
臨床データ |
胎児危険度分類 |
C(AU) D(US) |
法的規制 |
Prescription Only (S4) (AU) Schedule IV (CA) Schedule IV (US) Schedule IV (International) |
投与方法 |
経口、経静脈、筋肉注射、坐剤 |
薬物動態的データ |
生物学的利用能 |
93% |
代謝 |
肝臓 - CYP2C19 - CYP3A4 |
半減期 |
20–100時間(36-200時間 活性代謝産物(デスメチルジアゼパム)) |
排泄 |
腎臓 |
識別 |
CAS登録番号 |
439-14-5 |
ATCコード |
N05BA01 N05BA17 |
PubChem |
CID 3016 |
DrugBank |
APRD00642 |
ChemSpider |
2908 |
KEGG |
D00293 |
化学的データ |
化学式 |
C16H13ClN2O |
分子量 |
284.7 g/mol |
SMILES
- Clc3cc\1c(N(C(=O)C/N=C/1c2ccccc2)C)cc3
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ジアゼパム (Diazepam) は、抗不安薬、抗けいれん薬、鎮静薬として用いられるベンゾジアゼピン系の化合物である[1][2]。日本国外では代表的な睡眠薬でもあり、(骨格)筋弛緩作用もある[3]。
目次
- 1 概要
- 2 作用機序
- 3 適応
- 4 禁忌
- 5 有害事象
- 5.1 耐性と依存性
- 5.2 依存症
- 5.3 過量摂取
- 5.4 相互作用
- 6 処方例
- 7 合成法
- 8 逸話
- 9 脚注
- 10 参考文献
- 11 関連項目
- 12 外部リンク
概要[編集]
アルコールやベンゾジアゼピン離脱症候群の管理にも用いられる。副作用は稀で医療現場で広く使用されている。
化学的には 1,4-ベンゾジアゼピン誘導体で、1950年代にレオ・スターンバックによって合成された。
ジアゼパムによる有害事象としては、前向性健忘(特に高用量で)と鎮静、同時に、激昂やてんかん患者における発作の悪化といった奇異反応が挙げられる。またベンゾジアゼピン系はうつ病の原因となったり悪化させる。ジアゼパムも含め、ベンゾジアゼピンの長期的影響として耐性、ベンゾジアゼピン依存症、減薬時のベンゾジアゼピン離脱症状がある。ベンゾジアゼピンの中止後の認知的な損失症状は、少なくとも6か月間持続する可能性があり、いくつかの損失症状の回復には、6か月以上必要な可能性があることが示されている[4][5]。ジアゼパムには身体的依存の潜在性と、長期間使用すれば身体的依存による重篤な問題の原因となる。処方慣行を改善するために各国政府に対しての緊急な行動が推奨されている[4][5]。
ジアゼパムは、広く用いられる標準的なベンゾジアゼピン系の一つで、世界保健機関 (WHO) による必須医薬品の一覧に加えられている[6]。
日本での代替医薬品でない商品名として、「セルシン」(武田薬品工業)、「ホリゾン」(アステラス製薬←山之内製薬)があり、ほか、各種後発医薬品が利用可能である[7]。アメリカ合衆国での商品名として Valium、Seduxen などがある。
概説[編集]
ジアゼパムは母体となるベンゾジアゼピンの開発者でもあるレオ・スターンバックによって1950年代に開発された。スターンバックはこの功績により2005年、アメリカ発明者栄誉殿堂に加えられている。ジアゼパムのCAS登録番号は439-14-5であり、IUPAC命名法では 7-chloro-1,3-dihydro-1-methyl-5-phenyl-2H-1,4-benzodiazepin-2-one となる。天然においても、ジャガイモやエストラゴンにはごく微量のジアゼパムやテマゼパム (Temazepam) が含まれている[8][9]。
アメリカ合衆国で1961年にジアゼパムが臨床応用されると、直ちに過量摂取による死亡事故が後を絶たなかったバルビツール系抗不安薬に対する最良の代替物であることが分かった。ジアゼパムはバルビツールのように明らかな副作用を示さなかったので、すぐに慢性の不安に対する処方として普及した。1962年から1982年までのアメリカで、最も売れた薬剤はジアゼパムである[10]。
ジアゼパムは不安障害や興奮の治療に用いられる。また、有痛性筋痙攣(いわゆる「こむらがえり」)などの筋痙攣の治療にはベンゾジアゼピン類の中で最も有用であるとされている。鎮静作用を生かし手術などの前処置(いわゆるプレメジ)、そしてアルコールや麻薬(オピオイド)による離脱症状の治療にも用いられる。変わったところでは、軍事的ないしそれに類する狙撃手によって、筋弛緩作用と呼吸を緩やかにする作用から命中率を高めるために用いられることもある。
現在ではかつてのようにジアゼパムには副作用が無いとは考えられなくなっている。薬物乱用のリスクが認識され、アメリカでのジアゼパムの使用量は1980年から1990年代の間にほぼ半減した。一方ですでに古典的な薬物であるジアゼパムは、近年でも一部の錐体外路疾患の補助療法、小児の不安の治療(小児に適応のある数少ない精神安定剤でもある)、そして痙性麻痺の補助療法などに適応を広げつつある。
作用機序[編集]
動物では、ジアゼパムは大脳辺縁系、ならびに視床と視床下部に作用して鎮静作用をもたらす。このとき、特異的なベンゾジアゼピン受容体に結合するが、この受容体は、実際の構造としては GABA(γ-アミノ酪酸)受容体(より正確には、GABAA受容体-Clチャネル複合体)の一部分(α部位)である。この受容体にジアゼパムが結合すると、GABA の持つ抑制作用が増強される。ジアゼパムは全身組織、ことに脂肪組織に再分布し、ベンゾジアゼピン受容体の誘導(発現増強)も引き起こす。人間では、鎮静作用に対する耐性は数週間以内に引き起こされるが、抗不安作用に対する耐性は誘導されない。なお、ロラゼパム、クロナゼパム、アルプラゾラムなどは、ジアゼパムよりも強い抗不安作用を持つが、これらの薬剤はジアゼパムよりもさらに強い乱用、精神依存のリスクを伴う。
実験的な知見としては、ロシュ社(スイス)の研究施設で、ラットの脳に手術を行い、大脳辺縁系に異常な変化を与えてきわめて神経質、かつよく跳ねるラットを作成し、こうしたラットに Librium、ないし Valium といったジアゼパム製剤を与えたところ、こうしたラットが正常に行動するとのことである。
薬物動態[編集]
ジアゼパムは経口、経静脈、筋肉注射、坐剤(商品名「ダイアップ」—熱性痙攣などで頻用される。後述)の各経路で投与できる。経口投与されると速やかに吸収されて作用を発現する。筋注での作用の発現は、はるかに遅く不安定である。ジアゼパムは脂溶性に富み、そのため血液脳関門 (BBB) を容易に通過する。肝臓で代謝され、二相性の半減期を示す。つまり、ジアゼパム自体の半減期は20–100時間であるが、その主な活性代謝産物であるデスメチルジアゼパムの半減期が2–5日である。ジアゼパムのその他の代謝産物としては、テマゼパム、ロラゼパムが挙げられる。ジアゼパムとその代謝産物は尿へ排泄される。
一般に摂取された薬物の半減期は、ある用量の薬物を1回投与したときに、血中薬物濃度がピークの値の半分になるのに要する時間、で計測されるが、英国のニューカッスル大学名誉教授の、C・アシュトン (Ashton)(精神薬理学)は、ジアゼパム自体の半減期として20–100時間、活性代謝物の半減期として36–200時間という値を公表している。
適応[編集]
ロシュ社では同社製品Valium(ジアゼパム)の添付文章にて、ベンゾジアゼピンを精神病の一次治療として推奨していない[11]。
ジアゼパムは以下のように、非常に広範な適応を持つ。
- 不安、パニック発作、興奮状態の治療
- 不眠症の短期的治療
- 手術前・手術後の鎮静
- てんかん重積状態の治療、ならびにそれ以外のてんかんの補助療法
- 破傷風(他の積極的な治療と併用する)
- 疼痛を伴う筋疾患の補助療法
- 脳卒中、多発性硬化症、脊髄損傷などを原因とする痙性麻痺(片麻痺、四肢麻痺)の補助療法(長期療法としてリハビリテーションと併用される)
- 躁病の初期管理(リチウム、バルプロ酸などの第一選択薬と併用される)
- 幻覚薬、および中枢神経興奮薬の過量摂取に対する補助療法
- アルコール、ならびに麻薬の離脱症状の緩和(医師による注意深い監視を要する)
- 自殺企図を有するうつ病の、うつ症状が明確に緩和されるまでの初期治療(抗うつ薬が併用される)
- 神経遮断薬(抗精神病薬)の、早期の錐体外路性副作用に対する補助療法
- 両親や、正常な社会的環境と引き離され、不安を持つ小児(長期入院など)に対する研究的な治療
「日本の」特殊事情として、こうした薬理学的適応のほかに、医療保険上の適応になるか否かが問題になる。そのため、睡眠薬としてジアゼパムが用いられることは少なく、抗不安薬・鎮静薬としての用途で用いられることが多い。
獣医学的な用途にも用いられ、犬猫の短期間作用型鎮静・抗不安薬として大変有用である。犬猫の術前鎮静薬や、鎮静が許容できる場合での抗けいれん薬(短期・長期治療いずれも)としても使用される。例として、猫のけいれん発作重積状態を止めるためには、5mgの注腸、ないし緩徐な静注(必要により再投与)が用いられることがある。
禁忌[編集]
ジアゼパムの禁忌には以下のようなものがある。
絶対禁忌[編集]
- 重症筋無力症
- 急性アルコール・睡眠薬・精神作動薬中毒
- 運動失調
- 重症呼吸不全
- 急性閉塞隅角緑内障
- 重症肝不全
- ベンゾジアゼピン類への過敏症、アレルギー
慎重投与[編集]
- 小児、および青年期(18歳未満) — 処方は、けいれんの治療、および周術期の鎮静を除いては通常指示されない。この世代への臨床投与データは不足している。(従って、不安、不眠などについては)精神療法を第一選択とすることが多い。
- アルコール乱用、および依存の既往を持つ患者:使用(処方)する場合、注意深くこれらの患者を観察する必要がある。
- 低血圧、およびショック状態の患者への経静脈投与
妊娠[編集]
ジアゼパムのアメリカ合衆国アメリカ食品医薬品局 (FDA)による胎児危険度分類 (pregnancy category) はカテゴリーはDである。これは、胎児に対する明確なリスクがあることを意味する。ただし、注意が必要であるが、これはあくまでもリスクであり、絶対禁忌ではない(この分類では、カテゴリー「X」が絶対禁忌である)。リスクとベネフィットを見比べての選択となる。
ジアゼパムのアメリカ合衆国FDAによる授乳危険度分類 (breast-feeding category) はカテゴリーは3である。これは、「適切なデータがなく危険性についてはよく分かっていないが懸念される (unknown with concern)」ことを意味する。
有害事象[編集]
ジアゼパムを含めて、ベンゾジアゼピン系の有害事象には、前向性健忘と混乱(特に高用量)と鎮静がある。長期間のベンゾジアゼピン系の使用は、耐性やベンゾジアゼピン依存症、ベンゾジアゼピン離脱症候群に結び付いている[12]。他のベンゾジアゼピン系のように、ジアゼパムは新しい情報の短期記憶および学習を損なう。ベンゾジアゼピンは前向性健忘症を引き起こす可能性があるが、逆行性健忘は発生しない、すなわちベンゾジアゼピン前に学習した情報は失われない。ベンゾジアゼピンの認知障害については長期使用による耐性は形成されない。高齢者はベンゾジアゼピンの認知を損なう影響に敏感である[13]。ベンゾジアゼピン停止後の認知障害は少なくとも6か月続き、この障害が6か月後に軽減するか永久的かどうかは不明である。またベンゾジアゼピンはうつ病を悪化させる[12]。
発作を管理するときなど、ジアゼパムの静脈内注射や輸液を繰り返すと、呼吸抑制・鎮静・血圧などの薬物毒性に繋がることがある。ジアゼパムを24時間以上点滴されたならば、耐性が形成される[12]。鎮静・ベンゾジアゼピン依存症・乱用ポテンシャルのためベンゾジアゼピンの使用は限定される[14]。
ジアゼパムには(他のベンゾジアゼピンと共通の)広範な副作用が存在する。特に頻繁に遭遇するものは以下の通りである。
- 傾眠傾向
- 抑うつ[15]
- 運動機能・協調運動障害
- (動揺性)めまい
- 神経過敏
- 順行性健忘(特に、高用量を服用した時)
ジアゼパムの本来の作用と反対の効果、つまり、易興奮性、筋痙攣、そして(極端なケースでは)憤激や暴力が見られることがあるかもしれない。これを「奇異反応」という。こうした効果があった場合、ただちにジアゼパムを中止しなければならない。こうした効果から、肉体的な耐性と精神的な依存が引き起こされうる。
長期間投与例の30%以下で、「低用量依存」として知られるある種の薬物依存状態が引き起こされる。つまり、こうした患者はジアゼパムによって引き起こされる「良い気分」を感じるために、用量を増加させることは必要としない。こうした患者の場合、離脱は困難を伴い、緩徐な計画によってのみ達成されうる。
外来患者にジアゼパムを処方する場合、機械操作・車両の運転に支障をきたす可能性に常に留意する必要がある。こうした障害は、アルコール摂取によって悪化する。どちらの薬物も中枢神経系を抑制するからである。治療の経過中に、通常は鎮静効果への耐性が出現する。
まれに、白血球減少症、あるいは胆汁うっ滞性肝障害といった副作用が観察されることがある。
睡眠時無呼吸症候群を有する患者には、呼吸抑制作用によって呼吸停止と死を招く可能性がある。
耐性と依存性[編集]
「ベンゾジアゼピン離脱症候群」も参照
ジアゼパムは他のベンゾジアゼピンと同様に、薬物耐性・肉体依存・依存症といったベンゾジアゼピン離脱症候群が発生する可能性がある。離脱症は、バルビツールやアルコールに似ている。大量・長期間の投与は不快な離脱症候を発生させるリスクを高める。離脱症候は通常量・短時間の投与でも発生し、不眠や不安、より深刻には発作や精神病などに渡った症状となる。時折、離脱症候は既存の病状に似ているため誤診されることがある。ジアゼパムはその長い半減期のため強烈な離脱症候をもたらす。ベンゾジアゼピンによる治療は可能な限り短期間に止め、徐々に中断しなければならない[12][16]。
治療によって耐性が形成される。例えば抗けいれん作用に対して耐性が形成されるため、一般的ベンゾジアゼピンはてんかんの長期的な管理には推奨されていない。投与量の増加で耐性を乗り越えることができてもさらに耐性が形成され、副作用が増加される。このベンゾジアゼピンの耐性形成メカニズムは、レセプター部位の脱共役、遺伝子発現の変化、レセプターサイトのダウンレギュレーション、GABA作用レセプターサイトの desensitisation などが含まれる。約4週間以上ベンゾジアゼピンを摂取した人の約3分の1に依存が形成され、中止時に離脱症候を経験する[12]。離脱発生割合の違いは、患者ケースによって異なる。たとえば長期的ベンゾジアゼピン投与者のランダムサンプルでは、大抵約50%は少ないか離脱症状が全く無く、残りの50%は離脱症状を認めることができる。選ばれた患者グループについてはほぼ100%に近い割合で離脱症状を認める[17]。反跳性不安・原症状よりさらに重度の不安はジアゼパムやベンゾジアゼピンに共通の離脱症状である[18]。ジアゼパムは、低容量を段階的に漸減しても重篤な離脱症状の危険性があるため、可能な限りの低容量、短期間の治療が推奨される[19]。ジアゼパムを6週間以上投与すると、ベンゾジアゼピン離脱症候群によって患者に薬物依存を発生させる重大なリスクがある[20]。人間への耐性は、ジアゼパムの抗けいれん効果について頻繁に発生する[21]。
依存症[編集]
ジアゼパムの不適切または過剰な使用は、精神的依存/薬物依存症を起こす[22]。
以下の集団に属する患者は、乱用の徴候や依存の進展がないか、注意深く観察されるべきである。これらの徴候が少しでも見られたならば、治療は中止されなければならない。しかしながら身体依存が形成された場合は、治療は深刻な離脱症候群を避けるために徐々に中断しなければならない。これらの人々に対し、長期間の治療は勧められない[23][24][25]。
- アルコールや薬物について、乱用・依存の既往歴のある患者[23][25]。ジアゼパムは飲酒の欲望を増加させる。ジアゼパムはまた飲酒量を増加させる[26]。
- 境界性パーソナリティ障害など、重症のパーソナリティ障害を伴う患者[27]
- 感情の不安定な患者
- 慢性痛や、その他の身体疾患を伴う患者
このグループの患者は、治療中に乱用・依存の傾向を非常に注意深く観察する必要がある。これらの傾向のいずれかが見られたならば、治療は中止しなければならない。しかしながら身体依存が既に形成されているならば、治療は重篤な離脱症状を避けるためにゆっくりと中止しなければならない。これらの人々への長期間の治療は推奨されない[23][25]。
ベンゾジアゼピンに対し精神的依存の疑いのある人に対しては、非常に緩やかに断薬しなければならない。まれながら、投与が長時間に渡る場合はその離脱症状は生活を脅かすものになる。中毒の発生が治療によるか乱用によるかを慎重に見極めなければならない。
過量摂取[編集]
「:en:Benzodiazepine overdose」も参照
ジアゼパムを過量に摂取した人は傾眠傾向、意識の昏迷、昏睡、腱反射の減弱といった徴候を示す。ジアゼパムの過量摂取は医学的な緊急事態であり、救急医学関係者による迅速な発見が必要である。この場合の拮抗薬はフルマゼニル(アネキセート)である。フルマゼニルは短期間作用型の薬剤で、ジアゼパムの作用が消失するには数日かかるので、フルマゼニルの連続投与が必要になるかもしれない。必要に応じて、気管挿管と心肺機能の管理を行うべきである。人間の、経口摂取でのジアゼパムの致死量は 500mgないしそれ以上と見積もられている。300mgを経口摂取した症例でも、睡眠時間の延長と連続した傾眠傾向だけで、重篤な合併症もなく回復してしまったこともある。ただし、ジアゼパムとアルコール、ないしその他の中枢神経抑制薬の併用は、場合によっては致死的になる。
相互作用[編集]
ジアゼパムを他の薬剤と併用投与する場合、薬理学的な相互作用の可能性にに注意を払わなければならない。とりわけバルビツール酸塩・フェノチアジン・麻薬・抗うつ薬などのジアゼパムの効果を高める薬には注意が必要である[23]。
- ジアゼパムは、アルコール・他の睡眠薬/鎮静薬(バルビツール酸塩など)・麻薬・他の筋弛緩薬・特定の抗うつ薬・抗ヒスタミン鎮静薬・アヘン・抗精神病薬・抗痙攣剤(フェノバルビタール・フェニトイン・カルバマゼピンなど)を増強する。オピオイドの陶酔効果の増強は、精神的依存のリスク増加に繋がる[12][28][29]。
- シメチジン(タガメット)、オメプラゾール(オメプラール・オメプラゾン)、ケトコナゾール(ニゾラール)、フルオキセチン(プロザック)はその排泄を遅延させ、作用時間を延長させる。ジスルフィラム(ノックビン)も同様の作用を持つかもしれない。したがって、長期投与ではジアゼパムの投与量を下げる必要がある。
- 経口避妊薬(ピル)は、重要な活性代謝産物であるデスメチルジアゼパムの除去を遅延させる。
- シサプリド(アセナリン)はジアゼパムの吸収を促進し、その鎮静作用を増強するかもしれない。
- 喫煙はジアゼパムの排泄を促進し、作用を減弱させうる。
- 低用量テオフィリン(テオドール・テオロング)はジアゼパムの作用を阻害する。
- ジアゼパムは、パーキンソン病の治療におけるレボドパの作用を阻害することがある。
- ジアゼパムはまれに、フェニトイン(アレビアチン)の代謝を阻害し、その作用(と副作用)を増強する。
処方例[編集]
状況、重症度、そして体重・年齢などによって処方は変化する。
一般に高齢者・肝機能が低下した人では作用が増強され、作用時間は延長する。ジアゼパムとその主な代謝産物の代謝時間は2倍から4倍になる。従って、1回投与量を減らし、かつ/または、投与間隔を空けるべきである。
- 不眠症 — 5–10mg入眠時、経口。20mg必要になることはほとんどない。日本では熟眠薬としてのセルシンに保険適用が無いので、この用途ではエスタゾラム(ユーロジン)、フルニトラゼパム(ロヒプノール・サイレース)など、その他のベンゾジアゼピン類が用いられる。早朝覚醒型睡眠障害については、漫然と抗不安薬を投与せず、必要に応じてうつ病を除外診断することが必要となる。
- 不安障害、パニック障害 — 5–10mg、経口(5mgないし10mg錠など)より必要に応じ増量。ないし、ゆっくりとした静脈投与。呼吸抑制のリスクのある薬剤なので、ジアゼパムの経静脈投与には、最低1分はかけるのが望ましい。
- 術前・術後の鎮静 — 5–10mg経口、(ないし経腸)、あるいはゆっくりと経静脈投与 (0.2–3 mg/kg)。術後に5–10mgを追加しても良い。
- けいれん発作重積状態 — 30分以内に停止させること。注射剤、痙攣が制御されるまで、ないし総量20mgまで(英語版ではもう少し総量を上に見ている。資料にもよる)。1、2分で効果が発現する。効果がなければフェニトイン(アレビアチン)などを追加する。正確には、ジアゼパムで稼いだ時間に次の治療法を考える形になる。
- 破傷風 — 注射剤10mg/回5%ブドウ糖液20mLに希釈しゆっくりと静脈投与。30–60分毎(通常は大量投与が必要になる。無効ならICU管理)。
- 筋肉痛 — 日本では非ステロイド性の消炎鎮痛薬 (NSAIDs)、そして各種の湿布類が用いられることが多い。ただしこむらがえりには、芍薬甘草湯などと並んでジアゼパムが特効的に用いられる。
- 熱性痙攣 — 痙攣が続いていて、静脈ラインが迅速に確保できる場合注射剤、0.3–0.5 mg/kg を3–5分かけて静注。不可能な場合はダイアップ坐薬、0.4–0.5 mg/kg/回を経腸投与する。効果発現には数分かかる。効果がなければ小児科専門医への紹介が必要となる。
- 熱性痙攣の発症予防 — 複数回の熱性痙攣の既往がある小児、熱性痙攣はまだ1回しか起こしていないが家族歴濃厚なため反復の可能性が高い小児、てんかん患者のうち発熱に伴い痙攣のコントロールが不良になる患者などで適応がある。発熱に気づいたとき(体温は、各患者の痙攣の起こりやすさや起こるタイミング、平熱などを勘案して決めておく)にダイアップ坐薬を1回、8時間後に発熱が続いている場合(38°C以上の場合)(解熱剤を使用している場合を含む)にもう1回挿肛する。投与量は上記と同じく0.4–0.5mg/kg/回。
実際に使用(処方)する場合、添付文書が各剤形ごとに、インターネット上に日本語・無料で公開されているので、原則としてそれを参考にするべきであろう。
長期投与時のルーチン検査は、通常は指示されない(検査例:心電図・脳波・血液検査など)。
なお、数週間を越える服用後は、ゆっくりした離脱なしに、急にジアゼパムを中止してはならない。ジアゼパムの離脱には数週間、時に数か月を要する。最初の50%は比較的急激に減量でき、次の25%はかなりゆっくり、最後の25%は極めて緩徐に減量する。これは、不快であったり、ときに重大な問題になる離脱症状を避けるためである。時に、50%の減量後に一時的な休薬が指示されることもある。
剤形[編集]
- 錠 — 2 mg/5 mg/10 mg
- 散 — 1%
- シロップ — 0.1%
- 注 — 5 mg (1 ml)・10 mg (2 ml)
- 細粒 — 1%
- ダイアップ坐剤 4 mg/6 mg/10 mg(この製剤は、薬物動態を修飾しているため熱性痙攣・てんかんに用途が限定されている。したがって、主に小児科領域で用いられる。一般的な意味での、ジアゼパム坐剤の剤形は日本には存在しない。)
合成法[編集]
1961年にレオ・スターンバックらのグループは以下の方法によるジアゼパムの合成を報告した[30][31]。
p-クロロアニリンに過剰量の塩化ベンゾイルを加えて、アミノ基をベンゾイル化し、そこに塩化亜鉛を添加して、そのまま連続的にフリーデル・クラフツ反応を行う。ここで反応物はもう1分子の p-クロロアニリンが一つのカルボニル基とイミンを形成し、もう1つのカルボニル基とはアザアセタールを形成して6員環化合物になっている。硫酸-酢酸-水による反応で、この余計な p-クロロアニリンを除去すると同時にアミノ基上のベンゾイル基を脱保護する。
続いてヒドロキシルアミン塩酸塩との反応でオキシムを得る。この際に得られるオキシムは主に (Z)-体であるが、後の反応に必要なのは (E)-体であるため、異性化を行う。ギ酸によりオキシム窒素をホルミル化すると、異性化が起こると同時にギ酸のカルボニル基がアミノ基とイミンを形成した6員環化合物が得られる。水酸化ナトリウムによりこのホルミル基を除去すると、(E)-体のオキシムが得られる。
次にクロロ酢酸クロリドとのショッテン・バウマン反応によりアミノ基をクロロアセチル化する。さらに水酸化ナトリウム存在下で反応させると、オキシム窒素のクロロアセチル基への求核置換が起こり、ベンゾジアゼピン骨格が形成される。なお、スターンバックらはこの化合物の合成法について、同じ文献上でいくつかの別法も報告している。
ナトリウムメトキシドにより、アミド窒素上のプロトンを引き抜いた後に、ジメチル硫酸によりメチル化する。ラネーニッケル触媒を用いて1気圧の水素ガスにより N-オキシドを還元すると、ジアゼパムが得られる。なお、メチル化と N-オキシドの還元の順番は逆でも問題ない。
逸話[編集]
- ゲーム「メタルギアソリッド」には、狙撃時の手ぶれを少なくする効果で、ジアゼパムがアイテムとして登場する。その後権利上の問題が発生したためか、メタルギアソリッド2サブスタンス以降は『ペンタゼミン』という架空の名称に変更された。
- ローリング・ストーンズにはジアゼパム (Valium) に捧げられた曲『マザーズ・リトル・ヘルパー』があり、その中で "little yellow pill"(小さな黄色い丸薬)として登場する。
- 1975年、ニュージャージー州在住であったカレン・クィンランはアルコールとともにジアゼパムを摂取し、意識障害と呼吸停止をきたした。その後彼女は昏睡状態となり、遷延性意識障害と診断された。患者の家族は彼女の死ぬ権利を主張したが、彼女が入院していたカトリック系の病院はこれを認めなかった。このため法廷闘争となり、州の最高裁判所によって家族の主張を支持する判決が下された。そして彼女の人工呼吸器は取り外されたが、クィンランはなお9年間にわたって生き続けた。これは患者の自己決定権としての「死ぬ権利」が法的に認められた最初の事例であると考えられている。
- 中島らもの自伝的作品「今夜全てのバーで」にはアルコール依存症で入院した主人公が不眠症になり、医者にジアゼパムの注射を要求する場面がある。
- 映画「スペースボール」(1987年、メル・ブルックス監督)に登場するナルコレプシーを患ったValium王子の名は、このジアゼパムの米国での商品名に由来している。なお、日本語字幕などでは Valium の名が全く知られていないため、「アクビ王子」に改名されている。
脚注[編集]
- ^ “Diazepam”. PubChem. National Institute of Health: National Library of Medicine (2006年). 2009年11月26日閲覧。
- ^ “Diazepam”. Medical Subject Headings (MeSH). National Library of Medicine (2006年). 2009年11月26日閲覧。
- ^ Mandrioli R, Mercolini L, Raggi MA Benzodiazepine metabolism: an analytical perspective. Curr. Drug Metab. 2008, 9 (8), 827–44. DOI: 10.2174/138920008786049258. PMID 18855614.
- ^ a b Dièye; Sylla, M.; Ndiaye, A.; Ndiaye, M.; Sy, GY.; Faye, B. (Jun 2006). “Benzodiazepines prescription in Dakar: a study about prescribing habits and knowledge in general practitioners, neurologists and psychiatrists.”. Fundam Clin Pharmacol 20 (3): 235–8. doi:10.1111/j.1472-8206.2006.00400.x. PMID 16671957.
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参考文献[編集]
- 今日の治療薬2002(南江堂) — 製剤集成。毎年改訂する。
- 薬の処方ハンドブック(羊土社) — 類似の処方集に「今日の処方」(南江堂)などがある。
- カッツング薬理学(丸善)、グッドマン=ギルマンの薬理書(廣川書店)
- 小児の薬の選び方・使い方(南山堂) — 小児科領域の処方に関する概説書。
- Harriet Lane Handbook 16ed. (Mosby) — 小児科領域の代表的なハンディガイドであるが、頻用薬の欄に米国における胎児危険度分類・授乳危険度分類・腎機能低下時の用量変更の必要性が3つ組で記載してある。
関連項目[編集]
- グレープフルーツジュース — 本剤との相互作用がある。
外部リンク[編集]
- 医薬品医療機器情報提供ページ — 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 本来は医師・薬剤師向けではあるが、ジアゼパムをはじめとする最新の添付文書のpdfファイルを入手できる。
抗不安剤 (N05B) |
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GABAA PAMs |
ベンゾジアゼピン
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Adinazolam アルプラゾラム Bretazenil ブロマゼパム Camazepam クロルジアゼポキシド クロバザム クロナゼパム クロラゼプ酸 クロチアゼパム クロキサゾラム ジアゼパム ロフラゼプ酸エチル エチゾラム フルジアゼパム Halazepam Imidazenil Ketazolam ロラゼパム メダゼパム Nordazepam Oxazepam Pinazepam プラゼパム トフィソパム
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カルバミン
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Emylcamate Mebutamate メプロバメート (Carisoprodol, Tybamate) Phenprobamate Procymate
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非ベンゾジアゼピン
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Abecarnil Adipiplon Alpidem CGS-9896 CGS-20625 Divaplon ELB-139 Etifoxine GBLD-345 Gedocarnil ICI-190,622 L-838,417 NS-2664 NS-2710 Ocinaplon Pagoclone Panadiplon Pipequaline RWJ-51204 SB-205,384 SL-651,498 TP-003 TP-13 TPA-023 Tracazolate Y-23684 ZK-93423
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その他
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クロルメザノン Etazolate エタノール (アルコール) Kavalactones (カヴァカヴァ) タツナミソウ属 吉草酸 (セイヨウカノコソウ)
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α2δ VDCC Blockers |
Gabapentin Pregabalin
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5-HT1A作動薬 |
アザピロン系: Buspirone Gepirone タンドスピロン; Others: Flesinoxan Oxaflozane
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H1 拮抗薬 |
Diphenylmethanes: Captodiame ヒドロキシジン; Others: Brompheniramine クロルフェニラミン Pheniramine
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CRF1 拮抗薬 |
Antalarmin CP-154,526 Pexacerfont Pivagabine
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NK2 拮抗薬 |
GR-159,897 Saredutant
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MCH1 拮抗薬 |
ATC-0175 SNAP-94847
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mGluR2/3 作動薬 |
Eglumegad
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mGluR5 NAMs |
Fenobam
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TSPO 作動薬 |
DAA-1097 DAA-1106 Emapunil FGIN-127 FGIN-143
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σ1 作動薬 |
Afobazole Opipramol
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Others |
Benzoctamine Carbetocin Demoxytocin Mephenoxalone オキシトシン Promoxolane Trimetozine WAY-267,464
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