出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/06/04 17:09:44」(JST)
この項目では、避妊具について説明しています。「コンドーム」と表記されることもあるフランスの町については「コンドン」をご覧ください。 |
コンドーム(英: condom[† 1])とは、ゴム(ラテックス)やポリウレタンの薄膜でできた避妊具である。性交時、勃起した陰茎に被せ膣内で射精しても精液を中に溜め膣内に流れ出さないようにすることで性感染症の予防や避妊の目的で使用される。「ゴム」、「スキン」、「フレンチレター[1]」などの俗称・隠語がある。
コンドームの先端部は精液を溜めるための小さな袋状突起を有するものが多く、装着したまま膣内で射精しても精液が膣内に流れ出ないようになっている。またコンドームは粘膜の接触も遮断するため、避妊だけでなくクラミジアなどの性感染症の予防にも一定の効果がある。公的にも推奨され大変よく使用される避妊方法である。
コンドームは装着することによって性的快感を損なわないよう非常に薄く丈夫に作られており(約0.02 - 0.1mm前後)、表面にはゼリー状の潤滑剤が塗布されている。女性が快感をさらに得られるよう表面に凹凸状の加工がされているものや冷感・温感剤を塗布したもの、ゴム臭を抑えるための香り付けをしたものもある。
またラテックスゴムに対するアレルギーや特有のゴム臭を避けるために、ポリウレタン製コンドームも開発された。ポリウレタン製コンドームはゴム製のものと比較すると熱伝導に優れ相手の体温が感じられる利点があり、また0.02mmと非常に薄いにもかかわらず丈夫である。
コンドームの色は半透明、水色、ピンク色、蛍光色、黒色などカラフルな色が多数揃っており、好みで選ぶことが出来る。また勃起時のペニスの直径によって異なるサイズをラインナップしているメーカーもあり、S(直径31mm)[2]。からLL(同44mm)まで各人のペニスのサイズに合わせて選べる。
普及している避妊の手段であり、正しい使用法で用いれば妊娠する確率を大きく低減できる。精子は射精時の精液だけでなく前段階で分泌されるカウパー腺液中にも僅かに存在する場合があるため、射精直前ではなく女性器への挿入前に装着する必要がある。
精子にはプロスタグランディンという子宮を収縮させる成分があるため妊婦との性交時にはコンドームを装着して行うのが望ましい。
コンドームによる避妊は男性の尿道経由での性感染症や、精液・血液の膣内接触による性感染症の予防に有効である。ただし毛じらみなど、保護対象外部分の接触によるものには効果がない。
欧米での性教育ではこの点に重点が置かれている。特にエイズ(ヒト免疫不全ウイルス感染症、HIV感染症)について多くの疫学調査が実施されており、これらの結果から世界保健機関(WHO)は2000年にコンドームの使用によってHIV感染リスクを85%減らすことが可能だとの試算を報告している。コンドーム使用によって完全に感染防止ができるわけではないがHIVには有効なワクチンが存在しないことや抗HIV治療に掛かるコストとの兼ね合い、また他のウイルスに対するワクチンの場合の予防効果の実績などと比較してもコンドームによるHIV感染予防の持つ効果は大きいものだという判断からWHOはエイズ対策の一環としてコンドームの使用推進キャンペーンを行っている[3]。
性行為感染症の予防効果については疫学調査の方法や対象集団の選択などに議論がある。 また製造、管理が不十分な一部の新品のコンドームにHIVを通す小さな穴が無数に確認され、世界保健機関もコンドームだけで完全にHIV感染を予防できるとは考えていない。その為、どのメーカーにも「コンドームでエイズや性感染症は完全に防げない」と明記するように呼びかけている。なお日本では医療機器として承認されたコンドームだけが販売されており、工場では電気導通方式で機械による全数ピンホール検査を行っているため[4] 小さな穴のあいたコンドームが販売されることはない。
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装着時の注意点は次のとおり。
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女性の膣内に装着する女性用コンドームは女性の外陰部と膣壁を覆い、精液の侵入を防ぐ。女性が主体的に利用できる避妊法として注目されたが装着がやや難しいことや装着時の外観の問題、膣内で胴部がしわになって密着感がなく違和感を覚えること、男性器に装着するコンドームと比較して割高であることなどから男性用コンドームと比べてあまり普及していない。
日本では、不二ラテックスが女性用コンドームを輸入・販売している。大鵬薬品も「マイフェミィ」の商品名で発売していたが、2004年4月30日に販売中止となった。
なお、男性用コンドームの二枚重ねがゴム同士の摩擦による破損や位置のずれを起こしやすいのと同様の理由で女性用コンドームと男性用コンドームの同時併用はすべきでない。
この物品の起源は紀元前3000年頃の初期エジプト王朝にあると言われており、ブタやヤギの盲腸や膀胱を利用して作られていた。同種の動物内臓を用いた男性生殖器に装着する物品は世界各地で利用され、魚の浮き袋を利用した物も伝えられている。
イタリアの解剖学者・ファロピウスが1564年、性病予防の観点からリネン鞘と呼ばれる陰茎サックを開発したが実用性は疑問視されていた。
なお、今日のコンドームの原型となったのはチャールズ2世の殿医ドクター・コンドーム(人名)が1671年に牛の腸膜を利用して作った物であるとされている。なお、読みについては"コンドン"と発音する場合もある。これはチャールズ2世が無類の好色で非嫡出子だけでも14名の子をもうけ、王位継承の混乱を避けるための措置だったと言われている。しかしドクター・コンドームという人物が実在した証拠はなく、またコンドームはチャールズ2世が王位につく100年以上前から使われていたようである[7]。
ゴム製のものは1844年にゴム精製技術が改良されてから後のことだと言われているが、この辺りの事情ははっきりしていない。
日本では江戸時代に導入されており、その後1909年にゴム製の第1号が誕生した。ただし当時はまだ正しい使用法が知られておらず、使用後裏返して再使用したという話も多く伝わっている。当時の有名な日本製コンドームとしては「ハート美人」「敷島サック」、そして軍用の「突撃一番」「鉄兜」などがある。
現代のシームレスタイプのラテックスコンドームはポーランドで発明された。発明家で実業家のポーランド人ユリウス・フロムが新製法を確立、1916年に特許を取得し、1922年に大量生産を開始、新工場がドイツ、ポーランド、オランダ、デンマークなどに建てられ、「フロムス・アクト」の商品名でヨーロッパ各国で販売され大成功をおさめた。このためドイツでは「フロムス」がコンドームの代名詞となっている。しかし工場のほとんどは1938年にナチス・ドイツの脅迫によって二束三文の代価で乗っ取られ、ヘルマン・ゲーリングの代母の一家の手に渡った。戦後、「フロムス」のコンドームは「マパ」と商品名を変え、現在でも販売されている。
今日では性病予防の観点から世界的にも使用が推奨されている。
現在では多くのコンドームが天然ゴムを基剤としている[8]ほか、ポリウレタン製など、非ゴム製のコンドームも製品化されている。
コンドームの語源は前述の医師・コンドームの名から来ているとする説とフランスの地名・コンドンにあるとする説があるが、上記のようにそのような医師が実在したかどうかは不明である。
日本では薬店・薬局(調剤専門の薬局を除く)など医薬品関係の販路を中心に店前の自動販売機やコンビニエンスストア、スーパーマーケット、100円ショップ、アダルトグッズ販売店などで販売されているほか、輸出もされている。イギリス、ドイツ、中国など公衆トイレに自動販売機が設置されている国々もある。ウェブ上のショッピングサイトでも販売されている。
中学校や高等学校の「性教育」の一環で生徒に無料配布する例もある。ブラジルでは公立中学校に無料配布機が設置されており[9]、これにより「望まない妊娠が半減」したとの調査結果を保健省が発表している。これについては「(若年層或いは性知識の乏しい者による)望まない妊娠を防げる」とする反面、「若年層の性交(婚前交渉)を促進している」などとの反対意見もあり、社会的合意形成までには至ってない。
オリンピックの選手村では1992年バルセロナ大会から公式スポンサーが選手向けにコンドームを配布しており、2012年ロンドン大会では史上最多の15万個を配布するも“品薄”と報じられた[10]。オリンピック選手と性の問題は度々報道で取り上げられる。
栄養ドリンク自動販売機の横(日本)
自動販売機(中国)
住宅街にある自動販売機(ドイツ)
トイレにある自動販売機(ドイツ)
15万個のコンドームが公式配布された2012年オリンピック選手村
カトリック教会の総本山であるローマ教皇庁は、「禁欲とリズム法」以外の避妊を認めていない。したがって同教会国家であるバチカン市国は、世界で唯一コンドームを認めていない国となっている。1994年のカイロ会議では、性病防止のための使用にすら反対した。ただ、当時のローマ教皇ベネディクトゥス16世は2010年、「倫理上の解決手段として」と条件付きながら使用正当化の見解を示した。一方でこれは例外的な状況における限定的措置であり、教会の方針転換ではないとして同国広報局が声明を発表している[11]。
日本の「長崎県少年保護育成条例」には、1978年(昭和53年)の改定以降「自動販売機により避妊用品を販売することを業とする者は…(略)…知事に届け出なければならない」(第8条)、「避妊用品を少年に販売し、または贈与しないように努めるものとする」(第9条第2項)、「常時監視できる屋内に設置し、かつ、屋外から購入できないような措置をとらなければならない」(第10条第3項)などと、コンドーム販売規制項目(努力義務)があったが、これらの項目は2011年(平成23年)の改定で撤廃された。
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