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電子カルテ(でんしカルテ)とは、従来医師・歯科医師が診療の経過を記入していた、紙のカルテを電子的なシステムに置き換え、電子情報として一括してカルテを編集・管理し、データベースに記録する仕組み、またはその記録のことである。
日本では、2001年12月、e-Japan構想の一環として厚生労働省が策定した「保健医療分野の情報化にむけてのグランドデザイン」において、「2006年度までに全国の400床以上の病院および全診療所の6割以上に電子カルテシステムの普及を図ること」が目標として掲げられた。しかし、2017年現在、いまだ達成されていない。
検査オーダー、処方、画像・検査結果参照、医事会計等、比較的事務的色彩の強く定型化が可能な作業について電子化したオーダエントリシステムは、比較的早期から多くの病院で実用化されており、病院業務の効率化に貢献してきた。
一方、狭義に「電子カルテ」という場合、医師法・歯科医師法で規定され、5年間の保存が義務付けられた医師の診療録自体の電子化を指す。もっとも、オーダエントリシステムと狭義の電子カルテとは、単一の端末上で操作されることがほとんどであるため、併せて「電子カルテシステム」と呼称することも多い。
カルテ記載を電子化することにはいくつかの利点がある。
対して、紙のカルテに劣る面も存在する。
カルテとは、医師・歯科医師が医師法第24条・歯科医師法第23条に基づいて記載し、5年間の保存が義務付けられている準公式書類である。そのため、検査オーダや画像参照・会計などのオーダエントリシステムのように単純に効率のため電子化できるものではなく、狭義の電子カルテの実現には法的な裏づけが必要であった。
1999年(平成11年)に、当時の厚生省(現:厚生労働省)は、診療録の電子媒体による保存を認める通達を発表し、その際、電子カルテのガイドラインとして知られる、以下の3つの条件を満たすよう求めた。
電子カルテを採用していても、他院に紹介状を書く際にはデータや診療画像をフィルムや紙に印刷して患者に持たせる以外にないのが、ほとんどの病院での現状である。国内の標準化については、厚生労働省が主体となり国内推奨フォーマットを規定している。認定は、厚生労働省から委託を受けているHELICSが審査を行っており、2013年時点で、HL7を踏襲したデータ連携仕様や、標準コードが認定されている。
また、地域医療連携に置いては、厚生労働省からSS-MIXというデータ蓄積仕様が提示されている。NEC、富士通などの電子カルテ主要ベンダーはSS-MIXを踏襲した地域医療連携システムを提供しており、国内における地域医療連携はこの仕様に基づいている箇所が大半を占める。
日本独自のフォーマットとしてXMLで表現するMML (Medical Markup Language) [1]が提案されている。MMLは (NPO) MedXMLコンソーシアム[2]で開発・改良が進められている仕様で、日本医師会標準レセプトソフト (ORCA) と電子カルテを接続する仕様にもMMLの部品であるCLAIM[3]が採用されている。また、MMLを実装したEHRシステムであるiDolphin(Dolphin Project)がNPO日本医療ネットワーク協会[4]によって開発されており、稼働しているプロジェクトとしては、宮崎(はにわネット)[5]、熊本(ひご・メド)[6]、京都(まいこネット)[7]があり、終了もしくは停滞しているプロジェクトとしては、東京(HOTプロジェクト)[8]が挙げられる。
特定非営利活動法人 日本医療ネットワーク協会[9]による、全国版医療情報センター(Super Dolphin)[10]構築に関する活動も実施されている。
近年では世界的なEHRの動きを受け、各国でデータ交換の標準化・共通化が行われている。その一つが先にあげたHL7である。HL7はアメリカを中心とした電子カルテフォーマットの標準化であり、日本でもJAHIS[11]が中心となり、アメリカのHL7をベースに日本独自のカスタマイズを加えた診療情報の標準交換規約が制定されつつある。また、各システムに役割(アクター)を割り振り、アクター間の動作をワークフローとして定義するIHEという活動も行われている。
カルテはその性格上、聴診や触診所見、入院後の経過等につき、自然言語や図面を使って記入されることが多い。これが年齢や処方内容等、容易に構造化できる情報とは違うカルテ保存での技術上の難題となっている。保存される情報の粒度を上げ、細かい入力欄を設けるほどに入力時間が増加し自由度は減少する。一方で、自然言語による記述は現状では、のちの情報の再利用や検索に支障を来たし、医療情報の構造化という意味では一歩譲る(しかし、構文解析エンジンや検索エンジンなどの進歩により、自然言語による揺らぎがある記述でも、実用上大きな弊害のなくなる可能性はある)。
上記のような入力インタフェースの問題については、様々なベンダーより音声認識や文字認識という形で提案がなされている。しかし、現実的に大規模病院においても運用上全く問題ないレベルに達しているかは疑問が残り、さらなる動作検証や技術向上が望まれる。
電子カルテ=診療録という扱いであるがために、医師法第24条1項に、医師は患者を診療したら遅滞なく「経過を記録すること」が義務づけられている。
現在、大規模、中規模病院向け電子カルテにて、文脈の形態素解析による所見記載内容の自動要約機能を有するシステムがリリースされているが、医師の記載する自然言語に完全対応とは至らず、さらなる検証や技術向上が望まれる。但し、この機能を使用することにより構造化された所見、具体的な状況では、医師毎に違う表現となる所見の統一化、記載語句の違いによる曖昧さの回避、蓄積所見データの分析時に、効果を発揮する。
法制上記載しなければいけない、もしくは作成しなければいけない記録の記載、作成漏れの監査機能有するシステムの構築が求められる。外来患者の電子カルテ上の記載監査としては電子カルテ上で患者の診療録を閉じる時点で監査機能が働くべきタイミングであり、入院患者においては、日々の回診業務後に患者カルテを開き、所見並びにオーダエントリを完了し患者の診療録を閉じる時点で監査機能が働くべきタイミングだと考えられるが、このような機能を有するシステムは、ほぼ存在していないのが現状である。
電子カルテに蓄積されるデータは、個々の患者への診療の記録であると同時に、症例データベースとしての役割も担う。類似症例の分析を通じて、医療の質の向上に役立てられる。近年では、病院経営の観点から、医療行為の効率化の一検証手段としての役割も担うようになった。医療に携わる様々なスタッフがそれぞれの見地から直接・間接的にデータの2次利用を行っている。入力の効率化を目指して発展してきた電子カルテ・アプリケーションは、このような状況下において更なる機能追加を求められてきている。現在では、これらの多様性に対応すべく、電子カルテ・データベースを中心とするデータ2次利用環境の構築が活発に行われている。
一般的には、電子カルテ及び他の部門システムからの日々作成されるトランザクションデータをDWH(データウェアハウス)に蓄積し、そのデータを基に経営分析、医療行為分析等を行う場合が多い。昨今ではDWH(データウェアハウス)を使用せずに経営諸表の出力ができるシステムもリリースされている。
一部の電子カルテシステムでは、DB(データベース)に問い合わせする条件(検索条件モデル)を電子カルテ上の機能を用いて病院側にて作成を要する場合がある。この場合、検索結果で得られる情報精度並び真正性は、病院側が保障しなければいけない場合が多い。特に、個々の病院にて必要とされる統計資料は、診療形態、施設基準等の法制にて要求される内容も違いがあり、病院内の部門から業務上求められる統計資料等も同様に違いがある。そのため、あらゆる病院に対応できる汎用の問い合わせ条件(検索条件モデル)は、ほぼ存在しない。存在する場合としても汎用統計であるためカスタマイズが必要となり別途カスタマイズ費用を求められる場合がある。
2次利用のデータは、ドリルダウン等の横断、縦断検索が可能なことが前提で考えられているため、時間軸を持った3次元データになり膨大なデータ量となる。2次利用を行うシステムでは、膨大なデータを処理する能力を有する必要があるため、DWH(データウェアハウス)構築費用が高額になる場合がある。蓄積データが増えることでもハードウェアのスケーラビリティ向上のために追加費用を要する。
DWH(データウェアハウス)を構築していない病院情報システムでは、日々の医療業務中に電子カルテのDB(データベース)並びに医事会計システム、その他の部門システムに対して、直接、問い合わせを行い統計結果をはじき出している事例があるが、結果として、各システムに対し多大な負荷をかけている時がある。システム導入初期費用を抑えるためにDWH(データウェアハウス)構築をせずにシステム運用を開始したところ、各部門システムを跨いだ統計処理を実現しなくてはいけない状況、並びに各部門システムへの問い合わせ負荷を軽減させなければならない状況で、DWH(データウェアハウス)を追加導入する場合もある。追加導入の場合、各部門システムの情報をDWH(データウェアハウス)に集約する仕組み等の構築が必要であるため病院情報システム初期導入時に一括導入しておいた方が、トータルコストを抑えることが可能な場合が多い。
外来会計・入院会計において、電子カルテの記載内容並びにオーダ内容を、医事会計のタイミングでレセプトコンピュータで精査し、診療報酬の返戻を抑えるための「点数請求監査判定」を行うシステムも望まれるが、出来高払い、DPC(包括払い)同様にほぼ存在していないのが現状である。一部のシステム会社からレセプトチェック、DPCコーディングチェック等のソフトウェアがリリースされているが、上記のような監査業務までには結びついていない場合が多い。
「厚生労働省電子的診療情報交換推進事業」(SS-MIX:Standardized Structured Medical record Information eXchange)[12]に対応した、電子カルテが既にリリースされており、他のベンダーとの相互データ連携は可能となった。データの連携方式としては、中継サーバーを介したデータ送受信方法とDVD/CD等の可搬媒体を用いたデータの授受の方法が上記規格に定められている。
地域連携クリニカルパスに関する部分に関しては、k-mix[13]の事例のように、運用が開始されている。
総務省健康情報活用基盤構築実証事業「処方情報の電子化・医薬連携実証事業」にて、処方箋の電子化が求められている。合わせて、厚生労働省による「医療情報ネットワーク基盤検討会」にて、処方箋電子化を実現に向けた検討がなされている。内閣官房・厚生労働省・経済産業省・総務省・民間企業等々、官民一体のプロジェクトとなっており、モデル事業の実施は経済産業省が行っている。
医師間 (DtoD)のモデル、医師と患者の間 (DtoP)のモデル、医師と患者の間を医師以外の医療従事者が仲介する (DtoN)モデルを想定した、遠隔画像診断 (DtoD)遠隔病理診断 (DtoD)遠隔コンサルテーション・カンファレンス・教育 (DtoD, DtoN, NtoN)遠隔診療 (Dto(Nto)P)遠隔健康管理・遠隔健康相談等へのシステムとしての対応が求められる。既に一部の医療機関では遠隔画像診断、遠隔病理診断等の遠隔医療モデルに対応している事例がある。
電子カルテシステムは、紙カルテの電子化と位置づけられてきたが、近年そのシステムは電子カルテの枠組みを超えて機能は充実したものになりつつある。最近では、総合医療管理システムを電子カルテシステムと呼ぶ現場も多く存在している。
以下は、電子カルテシステム単体とその他の関連システムの一例である。
高品質の電子カルテシステムを導入する事は、業務効率を向上させ、人員削減や経費削減、残業を減らす事などに貢献される。結果的に医療現場の環境改善が成される事で、働く者のモチベーションの向上も期待出来る。また、病院の信頼や評価、来院患者数の増加等、病院経営の向上にも効果があり、高品質の電子カルテシステムには将来的な病院規模の拡大を物質的精神的の両面から強力にサポートする力も備わっている。
医事会計システム、看護支援システム、放射線情報システム等の部門システムのDB(データベース)が一本化されており、各部門システムが使用するマスタテーブルが一本化されている場合は、部門システム間におけるデータの齟齬が発生することがなくなり、同一マスタデータを各部門システムごとに入力する必要がなくなるためマスタ管理作業が極めて省力化されるため電子カルテ及び部門システムの運用管理が乱雑にならず、導入効果をより上げることが可能な場合がある。
一本化されていないシステムにおいて具体的な事例としては、新しい新薬の注射薬剤をシステムに登録する際は、「医事会計システム」「電子カルテ」「調剤システム」の最低でもこれらのマスタデータに薬剤追加の作業が必要となる。さらにこの事例の場合にて注射薬剤の使用部門が増えることにより「看護支援システム」「手術システム」等の部門システムのマスタデータにも注射薬剤の追加をしなくてはいけない場合がある。しかし、部門側の部門システムの都合、部門側の運用上の都合等にてDB(データベース)を一本化できない場合もあるため、病院業務全体から見て導入効果を上げるられるよう特に留意した方がよい。
最近の電子カルテの方向性として、地域連携ならびに地域連携クリニカルパス、電子院外処方箋発行(処方情報の電子化・医薬連携実証事業)[14]に対応していく事が求められており、これらの機能要素を電子カルテに持つことにより、地域医療活性化、病診連携時における提供情報の量並び質の上昇に伴う信頼関係の構築、患者に対する服薬情報の一元管理によって得られる誤与薬の抑止、ひいては患者サービスの向上等があり、非常に導入効果が高い。
用紙による新規患者受付⇒電子カルテ登録⇒ドクターの端末へ情報転送⇒ドクターが診察⇒診察をしながら端末でドクターがレントゲンをオーダー⇒レントゲン室の端末へ電子カルテ情報とオーダー情報が転送⇒患者はレントゲン室へ移動し、撮影⇒電子レントゲンのデータがドクターの端末へ転送⇒患者が戻る前にドクターは画像を診断可能⇒患者が診察室へ戻ると診察を再開⇒診察中に端末上でSOAPを作成⇒診察終了時、処方箋や会計、各オーダー等のデータがナースステーションや医療事務、総務、会計へ送信⇒患者は会計へ移動⇒会計完了
以下は大・中規模病院向けに比較的よく導入されているベンダーである。
以下は小規模病院・クリニック診療所向けに比較的よく導入されているベンダーである。
上記ベンダ以外にも独立系を含め多くのベンダーが参入しており、さらには病院が独自にシステムを開発するケース[15]もある。
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