出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/12/20 04:23:48」(JST)
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無効(むこう)とは、効力が生じないこと、またはそのような状態。法律上、特に民法上では、法律行為や意思表示がその有効要件を満たさないために、最初から確定的に効果を生じないこと、または、そのような状態にあることを指して使われる。以下、民法上の「無効」を中心に解説する。
法律行為の無効とは法律行為が備えるべき有効要件を満たさないために、その法律行為が法律効果を生じない状態をいう。また、意思表示の無効とは表意者に意思能力がない場合や意思の欠缺の場合など、主観的有効要件を満たさないために、意思表示が不完全なものとなり法律行為がその効果を生じない状態をいう(なお、法律行為と意思表示の関係については法律行為を参照)。有効要件を満たさない無効な法律行為を無効行為という。
法律に定められた一定の有効要件を満たさない法律行為や意思表示を無効とする制度は、取消しの制度とともに、当事者の意思の尊重(私的自治原則およびその基礎となる意思主義の尊重)、当事者・第三者の取引の安全、公益の保護といった趣旨によるものであるが、それぞれの一定の法律行為について無効として扱うのが妥当か取り消すことができる法律行為とするのが妥当かという点は立法者の政策的な判断による。
無効の用語は、民法の条文上では「~は無効とする。」の様な形式で用いられる。このような条文は有名なものが10条ほど存在するが、商法、会社法や利息制限法などにもこのような表現の条文がある。また、民法上では直接的には「~は無効である」とは記述されていないが類似の表現で「~は効果を生じない」と記述されている条文も存在する。
無効な法律行為とされる場合、その法律行為によって生じるはずだった債務は初めから生じなかったことになる。したがって、債務の未だ履行されていない未履行の部分については履行義務は生じなかったことになり、債務の履行の終わった履行済の部分については法律上の原因なく利益が移転したことになるので不当利得として返還義務を生じることになる。
無効は取消しとは異なり原則として何人からでも主張できるが、類型によっては無効主張できる者が一定の者に制限される場合もある。
無効と類似の概念としてよく比較されるのが取消しであり、以下の点で無効と異なるとされる[1]。
このほか無効と類似の概念として、撤回、解除、解約などがあるが、それぞれの概念については各項目を参照。
法律行為の一般的有効要件を満たさない場合、すなわち確定可能性の欠如(内容の不確定)、実現可能性の欠如(原始的不能)、適法性の欠如(強行法規違反)、社会的妥当性の欠如(公序良俗違反、90条)である[2]。
意思表示おいて表示に対応する意思が存在しない場合、すなわち意思無能力(意思能力の不存在)、心裡留保、虚偽表示、錯誤である[2]
無権代理無効については本来の無効とは異なり効果不帰属として処理される[2]。#確定的無効・不確定的無効の不確定的無効(未確定無効)を参照。
法律行為が形式を欠いて成立していない場合を不成立無効(要物契約において目的物の交付がなされていない場合など)、形式を満たしてはいるが実質的要件を欠く場合を成立無効(公序良俗違反の契約)という[3]。
絶対的無効・相対的無効・取消的無効は無効主張の認められる者の範囲という点からの無効の分類である。
民法総則における無効を一般的無効、民法の親族法・相続法において特別に認められる無効を特殊的無効という[3]。
裁判上の手続によらなくとも当然に無効とされる場合を当然無効、訴えによらなければならない場合(訴えの当事者や期間に制約がある場合を含む)を裁判上無効という[5]。
確定的無効・不確定的無効は追認など事後的に一定の事由があった場合に有効なものに転換するか否かという点からの無効の分類である。
以下に述べるのは無効行為の基本的効果である。本人と相手方との間の効力である当事者間効力と当事者と第三者との間の効力である第三者への効力(第三者効)に分けて考えられる。
まず、第一に発生する予定だった債権債務は不発生となる。したがって、履行請求は棄却される[6]。第二に発生する予定だった債権債務が既に履行されている場合には不当利得(703条)として返還請求権が発生する。無効行為が契約であった場合は当事者間の返還請求権は同時履行の関係にある。ただし、不法原因給付については返還請求は認められない(708条本文)[6]。
原則では無効行為とされた物権変動の後、その外形を基礎とした物権変動がある場合、第三者(転得者)の存在が観念できるが、第三者(転得者)は元の所有者に物権の取得を対抗できないことになる。さらに、無効行為によって発生する予定だった債権の譲渡が行なわれた場合、物権の例と同様、第三者(債権の譲受人)の存在が観念できるが、譲受人は債務者に対し債権の取得及び履行の請求を主張することができない。しかしながら、第三者への効力については、当事者間の無効行為が第三者に影響を及ぼすことを嫌い、第三者の取得時効や即時取得を認めるなど、第三者に対する関係では無効の効果が大幅に制限されていることが多い。また、取引安全の立場からも無効の効力に制限が加えられている場合もある。このため、第三者への効力ですべての第三者に対しておしなべて無効とする原則どおりの効果(対世効のある絶対的無効)が認められる場合は多くはない。
無効の効果に関する理論の一つ。法律行為の内容の一部に無効原因がある時に法律行為全体が無効になるか、無効原因がある部分のみ無効になるかが問題になる。一部無効につき明文で規定されている場合(133条・278条・360条・410条・580条・563条・568条・604条など)にはそれに従うことになるので問題はないが、一部無効理論はこのような明文規定が無い場合にも、一部のみ無効にする事が著しく当事者の意思に反する時に限って法律行為の全体を無効にすべきであり、それ以外は原則として無効原因がある部分のみを無効とすべきであるという考えをいう。
本来意図した法律行為についての効果が無効でも、その法律行為が他の類型の法律行為の要件を充たしているときに、後者の法律行為として有効と認めることを無効行為の転換という。
なお、他人の子の自己の子として虚偽の出生届をする行為(いわゆる藁の上からの養子)についても養子縁組届への転換を認める学説が有力とされたが、養子縁組の要式性に反するという批判があり、また、出生届における医師の証明が厳格化され、実親子に近い法律関係を認める特別養子制度が昭和62年に新設されたことなどから今日ではこれに否定的な見解が多い[7]。判例も今日に至るまでこれを否定する(大判昭11・11・4民集15巻1946頁)。
追認もしくは追完とは本人がある法律行為を有効なものとして確定させる意思表示を指すが、取消しの場合とは異なり、無効な法律行為は本来的に法律効果を生じないものであるから原則として無効な法律行為を追認しても有効な法律行為とはならない(民法第119条本文)。
公序良俗違反・強行法規違反の法律行為は当事者間の合意をもってしても有効とはならない[8]。しかし、当事者が当該法律行為につき無効であることを知って追認したときは、法律行為の有効要件に問題がなければ新たな法律行為をしたものと扱っても問題がないため[8]、民法はこのような場合に当事者による新たな法律行為がなされたものとして遡及効はないものの追認時から法律行為の効力を生じるものとする(民法第119条但書)。なお、当事者間の合意により追認に遡及効を認めることも可能であるが第三者には対抗できない[9]。
無権代理や他人物売買など不確定的無効とされた行為を追認する場合には遡及効が認められており、この場合には当該法律行為がなされた時点に遡って効力を生じる(無権代理につき116条、他人物売買につき最判昭37・8・10民集16巻8号1700頁参照)[9]。
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