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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/04/19 11:45:28」(JST)
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この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
注意義務(ちゅういぎむ)とは、ある行為をする際に法律上要求される一定の注意を払う義務をいう。
特定の行為を行ったこと、あるいは、行わなかったことが、一般的な用語法で「不注意」であった場合に、それが法律上の責任を負うことに結びつくためには、当該対象者が注意義務を負っていたかどうか、が問題とされる。
目次
- 1 日本法上の注意義務
- 1.1 民法上の注意義務
- 1.2 刑法上の注意義務
- 1.3 会社法上の取締役の注意義務
- 1.3.1 概説
- 1.3.2 忠実義務
- 1.3.3 ビジネス・ジャッジメントルール
- 2 脚注
- 3 参考文献
- 4 関連項目
日本法上の注意義務
民法上の注意義務
民法上の注意義務としては善良な管理者の注意義務(善管注意義務)と自己のためにするのと同一の注意義務がある。民法は特定物債権における債務者の保管義務の通則として民法400条に善管注意義務を定め、特に注意義務が軽減される場合(民法659条等)を個別的に規定することとしている[1]。
- 善良な管理者の注意義務(善管注意義務)
- 善良な管理者の注意義務(善管注意義務)とは、債務者の属する職業や社会的・経済的地位において取引上で抽象的な平均人として一般的に要求される注意をいう[2][3]。これはローマ法の「善良な家父の注意」に由来し[3]、フランス法の「良家父の注意」[4]、ドイツ法の「取引に必要な注意」がこれにあたる[1]。この一般的・客観的標準に基づく程度の注意を欠く状態を抽象的軽過失[1]あるいは客観的軽過失という[3]。
- 留置権者による留置物の保管(民法298条)
- 特定物引渡しの債務者(民法400条)
- 委任契約の受任者(民法644条)
- 事務管理者(民法698条の反対解釈)
- 有償寄託の受寄者
- 自己のためにするのと同一の注意(自己の財産におけると同一の注意義務、固有財産におけるのと同一の注意義務)
- 行為者自身の職業・性別・年齢など個々の具体的注意能力に応じた注意であり[1]、この注意を欠く状態を具体的軽過失[1]あるいは主観的軽過失という[3]。
- 無償寄託の受寄者(民法659条)
- 親権を行なう者の財産の管理(民法827条)
- 相続財産の管理者・相続人(民法918条1項)
- 限定承認者(民法926条1項)
- 相続放棄した者(民法940条1項)
- 財産分離請求後の相続人(民法944条1項)
以上の抽象的軽過失と具体的軽過失をあわせて広義の軽過失という[1]。これに対して必要な注意を著しく欠く状態を重大な過失あるいは重過失という[1][3]。重大な過失が問題となる場合としては次のような例がある。
- 錯誤(民法95条但書)
- 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
- 指図債権の債務者の調査の権利等(民法470条但書)
- 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。
- 緊急事務管理(民法698条)
- 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
その他特別法で重大な過失が問題となる場合としては次のような例がある。
- 失火責任法
- 民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
- 国家賠償法1条2項
- 公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
刑法上の注意義務
刑法における過失の本質は、注意義務違反であるとされる(新過失論においても、結果回避義務違反を「客観的注意義務違反」とよぶことがある)。
詳細は「過失#刑法における過失」を参照
会社法上の取締役の注意義務
概説
取締役と会社との関係は委任により規律される(会社法330条)ため、取締役は会社に対し善管注意義務を負う(民法644条準用)。具体的にはコンプライアンス義務が挙げられる。
忠実義務
取締役は会社に対し、善管注意義務のみならず忠実義務を負担する(会社法355条)。忠実義務の内容とは、会社の利益を犠牲にして自己の利益を図ってはならない義務と説明される。
忠実義務と善管注意義務の関係については、言い換えただけと考える同質説(鈴木竹雄、河本一郎、森本滋、八幡製鉄事件(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁))と、取締役に課せられた独立の義務と考える異質説(田中誠二、前田庸、北沢正啓)がある。異質説に立つ場合、利益相反取引の禁止(会社法356条1項2号・3号)、競業避止義務(356条1項1号)、報告義務(会社法357条)、お手盛り禁止(報酬規制、会社法361条)などは、忠実義務の具体化である。従来は同質説が通説的であったが、現在は異質説が有力化している。
ビジネス・ジャッジメントルール
経営判断の原則ともいう。取締役が業務執行に関する意思決定の際に適切な情報収集と適切な意思決定プロセスを経たと判断されるときには、結果として会社に損害が発生したとしても善管注意義務違反に問わないとする原則。アメリカ合衆国で判例法として発展し、近年の日本の裁判例にも影響を与えているといわれる。
脚注
- ^ a b c d e f g 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、8頁
- ^ 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、7頁
- ^ a b c d e 我妻榮、有泉亨、清水誠、田山輝明 『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権 第3版』 日本評論社、2013年、699頁。
- ^ 遠藤浩編著 『基本法コンメンタール 債権総論 平成16年民法現代語化新条文対照補訂版』 日本評論社〈別冊法学セミナー〉、2005年7月、7頁-8頁
参考文献
- 森田章「取締役・執行役の善管注意義務と忠実義務」 (『会社法の争点』(有斐閣、2009年)138頁)
関連項目
UpToDate Contents
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Japanese Journal
- 牛舎で受傷し処置後に患者が敗血症で死亡したため医師の措置に注意義務違反があるとして損害賠償を求めた事例 : 整形外科・感染症内科・救急部[名古屋地裁26.11.28平成判決]
- 医療判例解説 = Japanese journal of medical treatment precedent commentary : 医療従事者のためのわかり易い判例解説 (58), 106-127, 2015-10
- NAID 40020622620
- 刑事法学の動き 樋口亮介「注意義務の内容確定基準 : 比例原則に基づく義務内容の確定」
Related Links
- 注意義務(ちゅういぎむ)とは、ある行為をする際に一定の注意を払う義務をいう。 特定 の行為を行ったこと、あるいは、行わなかったことが、一般的な用語法で「不注意」であっ た場合に、それが法律上の責任を負うことに結びつくためには、当該対象者が注意義務 ...
- デジタル大辞泉 注意義務の用語解説 - ある行為をするにあたって要求される一定の 注意を払うべき法的義務。他人のための善良な管理者としての注意と、自己のために する注意とに分かれる。違反すると、民法上、損害賠償の責任などを生じることもあり、 刑法 ...
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- a 注意義務
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- c 処方箋交付義務
- d 診断書作成義務
- e 診療録保存義務
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[★]
- 英
- significance、consequence、meaning
- 関
- 意味、結果、重要性、有意性、事象、成り行き
[★]
[★]
- 英
- duty、obligation、mandatory、incumbent
- 関
- 必須