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尿路結石 | |
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尿路結石の一例(腎結石) | |
分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 泌尿器科学, 腎臓学 |
ICD-10 | N20.0 |
ICD-9-CM | 592.0 |
DiseasesDB | 11346 |
MedlinePlus | 000458 |
eMedicine | med/1600 |
Patient UK | 尿路結石 |
MeSH | D007669 |
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尿路結石(にょうろけっせき、英語: kidney stone disease, urolithiasis, urinary calculi)は、尿路系に沈着する結晶の石である結石のこと。もしくは、その石が詰まることにより起きる症状のこと。しばしば激痛を伴う。
要因は明確にはなっていないが、発症は動脈硬化と類似し、メタボリックシンドロームの病態の一つだと考えられ、予防法に共通点も多い[1]。体外衝撃波結石破砕術(ESWL=Extracorporeal Shock Wave Lithotripsy[2])の登場により尿路結石の治療は変化し[1]、患者の負担は少なくなった。しかし再発予防は重要で、水分を多くとる・肥満防止・食生活改善が基本である[1]。脂肪・動物性たんぱく質・茶・紅茶・アルコール(特にビール)を減らし、ホウレンソウなどシュウ酸の豊富な野菜に気を付け、カルシウムは多すぎも少なすぎもせずといったことである。
日本人の場合、95%以上は上部尿路結石である[3][信頼性要検証]。
尿路結石成分の発見率[4]
尿路結石成分 | 発見率 |
シュウ酸カルシウムとリン酸カルシウムの混合 | 44.3% |
リン酸カルシウム | 16.8% |
シュウ酸カルシウム1水塩 | 12.2% |
尿酸 | 7.6% |
シュウ酸カルシウム1水塩と2水塩の混合 | 6.9% |
シュウ酸カルシウム2水塩 | 6.1% |
リン酸マグネシウムアンモニウム | 3.8% |
シスチン | 2.3% |
尿のpHに関して、リン酸カルシウム結晶およびリン酸アンモニウムマグネシウム結晶はアルカリ性、尿酸結晶およびシュウ酸カルシウム結晶は酸性に多く出現している[5]。
腎臓、尿管、膀胱、尿道にできやすく中年男性に多い。腎臓結石と尿管結石を「上部尿路結石」、膀胱結石と前立腺結石を「下部尿路結石」といい、日本人の場合上部尿路結石が大半を占める。男女比では2.4対1で男性に多く、日本人の生涯罹患率は15%程度である。男性の好発期は40歳代、女性は閉経後に多く発症し50-70歳代が多くなる[6][信頼性要検証]。
しばしば激痛の発作を伴い、結石の疝痛は「痛みの王様(king of pain)」といわれるくらいに激烈である場合が多い。腰周辺やわき腹、背中側あたりに感じられ、倒れこんだり、まれに失神する患者がいるほどの痛みである。しかし尿管結石の約3割は痛みを伴わない[7]。
結石は多くの人でしばしばできているものではあるが、できた結石の大きさが尿管よりも小さい場合は、自然に尿管内を移動して排尿とともに排出され、痛みも発生せず、本人は何ら問題を感じていない。しかし、結石の大きさが尿管と同等もしくはそれより大きい場合、尿管を塞いでしまい、腎臓で尿が作られるにつれ、腎臓から結石の位置までの圧力が高まってゆき激痛が発生する。この状態でCT撮影を行うと、ほとんどの場合、腎臓の肥大が起きている。
日本で全国規模の調査が行われたことがあり、その結果が1995年(平成7年)に発表されたが、それによると日本人の男性約11人に1人、女性26人に1人[8]が一生に一度は尿路結石に悩まされる。男性の発症率は女性の発症率の2倍といわれている。「好発年齢」つまり発症しやすい年齢は30代だとされており[9]、おおまかに言えば、青年期から壮年期にかけての人に発症する率が高く、子供では稀である。
尿路結石の要因のひとつが食の欧米化だとされており、生活習慣病に分類される。尿路結石が起きる人は、やがて動脈硬化などの生活習慣病にもかかってゆく傾向がある。また、糖尿病患者の約20%には、尿路結石の合併が見られるとする研究がある[10]。
尿路結石は発症すると激痛を伴うことが多いので、早急な対処が求められる。また、5mm以下の尿路結石では結石が尿管を通過するとそれまでの激痛が急激に消失する。およそ10mm未満の結石は自然排出を期待して、水分および鎮痛剤、利尿剤を用いて自然排出されるまで経過観察することがある。(保存的治療法)
5mm以下の尿路結石が疑われる場合には、排石剤のウラジロガシエキス(ウロカルン)、鎮痛剤のチキジウム臭化物(チアトンカプセル他、ジェネリック品あり)が投与されることがある。また尿をアルカリ性にして排石を促すために、排石促進剤としてクエン酸(ウラリット錠)が処方されることもある。結石が5mm以上で自然排出が期待できない場合には有効な薬剤は存在しない。
世界の治療ガイドライン(EAU,AUA)に準じてα1遮断剤(タムスロシンなど)やカルシウム拮抗薬(ニフェジピンやアムロジピンなど)が使用される例も増えてきている[11][12](上記のいずれも日本では診療報酬適応外)。
激痛に対する鎮痛剤としては、NSAIDs・ジクロフェナク筋注は、モルヒネ・オピオイド・アセトアミノフェン静注よりも効果があると報告された[13][14]。
体外衝撃波結石破砕術(ESWL)は、負担の少ない治療法で、登場により尿路結石の治療は変化した[1]。体外の装置によって造られた衝撃波(音波の一種)を結石にむけて集中させて結石を砕き、砂状にして尿と一緒に体外へと排出させる治療法である。
1回当たり、約30-60分の治療時間で複数回行うこともある。膀胱や尿管に尿を溜めて衝撃波を加えた方が効果的である。また、周辺の消化器にガスが溜まっていたり、肥満など脂肪によって衝撃が緩和され、効果が下がることもある。衝撃波を加えた直後には、血尿が排泄されるが心配はない。
3-4日の入院が必要になることもあるが、結石の種類や大きさによっては、一泊入院や日帰りでの体外衝撃波結石破砕術を行っている医療機関もあり、この治療方法のさらなる普及が望まれている。この際、ガーゼなどで覆った蓄尿瓶を使って、結石排出の有無を確認する。
この治療には診療報酬が適用される。しかし、費用は3割負担の場合でも8万円前後(高額療養費適用前)かかり、また一箇所の結石破砕を何回行っても一回分の点数請求しかできない。また、生命保険会社によっては、当該手術を保険金支払除外手術としている所もある。
当初は、潜水艦攻撃のための音響兵器として考案されたが実用化されず、医療機器に応用された[15]。西ドイツのドルニエ メドテックによって1980年代に初めて製品化され、その後破砕装置が一般化した。日本では、1984年に、札幌市にある三樹会病院で、丹田均らにより初めてESWL装置が導入され、治療が開始された。ESWL本邦第一号機であるドルニエ製HM-3は、三樹会病院に現存している。
経尿道的尿管砕石術(TUL、経尿道的結石破砕術[16])は、結石が比較的大きいために体外衝撃波結石破砕術(ESWL)では治療困難な場合などに行なわれる治療である。全身麻酔[17]にて、尿道口から結石の直下までのワイヤーを留置し、そのワイヤーに沿って尿管鏡を挿入する。尿管鏡で結石を確認しながら、結石を鉗子・衝撃波・レーザーなどを用いて細かく破砕する。
体外衝撃波結石破砕術登場以後は、その件数は激減している。
アボカドの生葉を数枚入れたカップに湯を注ぎ、5分後にそのまま飲用する習慣を長期続ける事で、尿管結石を縮小・消滅させる民間療法がトルコに根付いている[18]。
とりわけカルシウム結石の再発率は5年で45%であり再発予防は重要である[1]。様々な要因は明確にはなっていないが、発症は動脈硬化とよく類似し、メタボリックシンドロームの病態のひとつだと考えられるようになってきており予防法に共通点も多い[1]。クエン酸製剤は尿をアルカリ性に傾けることで有用であり、そうする必要の原因である食習慣、生活習慣への取り組みが強調される[1]。結石の主要成分はシュウ酸カルシウムである。
2013年の尿路結石の診療ガイドラインは尿路結石の再発予防の基本を以下3点としている[1]。
水分では、2000ミリリットル以上で低下する[19]。プリン体を含むアルコール、特にビールを控えることが重要である[1]。茶、紅茶もシュウ酸を含むが、緑茶でもほうじ茶は最も少量である[20]。
野菜は難しいところである。シュウ酸の多量摂取はよくなく、ゆでることで水に溶出する性質があり、葉菜類のキャベツやレタス、サツマイモやナス、特にホウレンソウに含まれ、シュウ酸の吸収をカルシウムが減らす[20]。一定量のカルシウムは必要である[1]。クエン酸は尿をアルカリ性のほうへ傾け結石を溶けやすくさせるが、クエン酸を多く含む野菜や果物を増やすことは、同時に結石形成を促進するシュウ酸の摂取過剰となってしまう可能性がある[22]。また、野菜や果物はカリウムを含み塩分(ナトリウム)の排出を促す効果があるため判断の難しいところである。シュウ酸はほかにチョコレート、たけのこなど。
カルシウムを適度に摂取する(サプリメント等でも用法・容量を守り、決して過剰摂取しない)。ビタミンCも代謝産物はシュウ酸であり、月余に渡る過剰摂取は結石のリスクを高める(と一般に言われているが、ガリー・カーハン博士らの論文ではビタミンCの低摂取/高摂取による結石リスクの有意差は見られなかったこともあり、現在では間違いとされる[23][24])。ビタミンCはカルシウムと結合するためその遊離型は少なくなる傾向がある。これは、カルシウムが、シュウ酸カルシウム(結石)として分離する可能性が少なくなるということである。また、ビタミンCの利尿作用により、シュウ酸塩の尿中濃度が低くなる。このように、ビタミンCはシュウ酸塩を増やすが、カルシウムとシュウ酸塩の結合を阻止するのである。
高インスリン血症(インスリン抵抗性)は、腎尿細管におけるアンモニア産生を抑制し、尿pHを低下させる。結果、尿酸結石が形成されやすくなる。[25]
微生物が尿路結石の核となりうるかどうか議論された。事のはじまりは、1998年にフィンランドの研究者らが、ヒトの腎臓結石からナノバクテリアと名付けた細菌を分離したと発表したことである。続いて2004年4月に、岡山大泌尿器科の研究者らは、ヒトの尿路結石の中に、燐灰石(リン酸カルシウム)の殻を持つ微生物の存在を確認したと発表した。これは先のフィンランドの実験を踏襲した再実験であった。議論の焦点はこれらの実験手法の是非や、微生物がいたからそれが結石の核になったという、既存の学説を大きく揺るがす仮説であった。
後の2008年に、同じく岡山大学の公文祐巳らは、注目を集めてきた物体は生物ではないと発表した。この物体は、大きさが数十から数百ナノメートルと小さく、本当に生物かどうかの議論が続いていた。公文らは結石を培養しガンマ線を当てたところ、10ナノメートルぐらいの核となる部分に脂質が酸化して積み重なり、あたかも生物が自己増殖するように振る舞ったが、微生物説の根拠とするためのDNAは見つからなかった。
ミシガン州立大学のデービッド・ウォーティンジャーらは『米整骨医学会誌』にて、小さい腎臓結石はジェットコースターに乗って排出できることを発表している。身体を揺さぶられると腎臓も揺さぶられ、結石が排出されることがある。最初の論文は20回の試行が元であり、後に230回以上繰り返され、腎臓結石が出る確率は70%近かった。
これは、患者の証言が元となっている。その患者は、アメリカ合衆国フロリダ州のディズニーリゾートのビッグサンダー・マウンテンに搭乗し、尿路結石が出たことを報告した。話はにわか信じがたかったが実験し、人工腎臓を用いてジェットコースターに乗り続けて、後部車両の方が結果がよかった。4mm以下の結石は、それほど苦もなく出すことができる筈と話している。この研究結果に対し、各専門家の見解は賛否両論となっている[26]。
マルク・ミッチェルとデイヴィッド・ワーティンガーは、ジェットコースターに乗ることで、腎臓・尿管結石を除去する研究により、2018年のイグノーベル医学賞を受賞した。
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