出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2016/03/23 14:43:08」(JST)
航空事故(こうくうじこ)とは、航空機の運航中に起きる事故である。
重大事故の形態としては、以下のような形が挙げられる。
事故といっても、乗客・乗員が無事に生還できるケースから全滅するケースまで様々である。
航空会社にとっては一度の事故が航空会社全体の信頼や存亡に関わる事態に発展することがあり、また、事故の原因が航空機の欠陥によるものであることが明らかになった場合、当該の航空機メーカーや業界全体の信頼問題となりうる場合がある(コメット連続墜落事故など)。
このため航空産業発足の当初から、航空事故に対してはその原因究明と対策に全力が注がれてきた。事故で判明したことや得られた情報は、同様の事故が再発しないよう以後の航空機の設計や運用に生かされている。
アメリカの国家運輸安全委員会 (NTSB) の行った調査によると、航空機に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.0009%であるという。アメリカ国内の航空会社だけを対象とした調査ではさらに低く0.000034%となる。
アメリカ国内において自動車に乗って死亡事故に遭遇する確率は0.03%なので、その33分の1以下の確率ということになる。これは8200年間毎日無作為に選んだ航空機に乗って一度事故に遭うか遭わないかという確率である。これが「航空機は最も安全な交通手段」という説の根拠となっている。2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件の後、アメリカ人の多くが民間航空機による移動を避けて自家用車による移動を選択したために、同年の10月から12月までのアメリカにおける自動車事故による死者の数は前年比で約1,000人増加した。
航空事故を引き起こすリスクの多寡は航空会社やその運航地域によって異なり、一般に先進国では低く、発展途上国では高い傾向が見られる[1]。
ドイツの航空業界専門誌『アエロ・インターナショナル』(AI) が2005年3月号の誌上で発表したリストによれば、ジェット機の死亡事故を起こしていないカンタス航空 が“世界で最も安全な航空会社”とされた。2位にはフィンランド航空が続き、アジアの航空会社ではキャセイパシフィック航空が3位、全日本空輸が4位に、エバー航空が9位に入っている。一方“安全性が最下位”との結果が出たのはトルコ航空で、その後はエジプト航空、エア・インディア、チャイナエアラインと続く。
航空事故はさまざまな要因が複合して事故に至るものであり、多くの航空機や人命を失った航空会社に安全性の問題があるとは必ずしも言い切れない。たとえば一機の事故としては史上最多の死者を出した日本航空123便墜落事故の場合、その原因は過去に製造元が機体に施した修理のミスだったとされる(異論も存在、当該項を参照の事)。また、アメリカ同時多発テロ事件においてはハイジャックにより4機が犠牲になった。
航空事故のおよそ8割は、機が離陸・上昇を行う際と進入・着陸を行う際の短い時間帯に起こっている。このなかでも離陸後の3分間と着陸前の8分間の「クリティカル・イレブン・ミニッツ (魔の11分)」と呼ばれる時間帯に事故は集中している。巡航中に発生する事故も少なくはない。 事故原因の大半は人為的なミス(操縦ミス、判断ミス、故意の操作ミス、定められた手順の不履行、正しくない地理情報に基づいた飛行、飲酒等の過失など)、または機械的故障(構造的欠陥、不良製造、不良整備、老朽化など)に端を発するものとなっている。
航空事故を専門に追跡する planecrashinfo.com が1950年から2004年までに起った民間航空事故2147件をもとに作った統計[2]によると、事故原因の内訳は以下の通りとなっている。
またボーイング社が行っている航空事故の継続調査[3]によると、1996年から2005年までに起こった民間航空機全損事故183件のうち、原因が判明している134件についての内訳は以下の通りとなっている。
操縦ミスは依然として航空事故原因のほぼ半数を占めているが、この数字は1988年~1997年期には70%もあり、過去20年間に着実に改善されてきたことが分かる。
航空機事故の再発防止のためには徹底した原因究明が欠かせない。事故によっては数年の歳月と巨額の資金を費やしてまで「なぜ」が追及される。
中立な立場からの事故調査を徹底するため、多くの国では専門の事故調査機関を設置している。
そうした中でもアメリカ国家運輸安全委員会 (NTSB) は長年の経験と深い専門知識から航空事故調査の権威として位置づけられており、各国の事故調査や航空行政に対しても大きな影響力を持つ存在となっている。
NTSBによる事故の調査結果は、その信頼性を高めるため報告書として一般公開されることが原則となっており、しかもこれを民事訴訟で証拠として採用することは法律で禁じられている。理由は当事者からの証言を得やすくするためであり、また、NTSBを法廷闘争に巻き込まれないようにするためでもある。ただし、事故の分析、原因、勧告などを除いた「事実背景」については証拠採用が認められている。なお刑事訴訟での使用については特に規定がなく、過去には証拠採用された判例もある。
そもそもアメリカでは「故意の破壊行為」またはそれに近い「認識ある過失」がない限り、事故機の操縦や整備に関わっていた個人に対しては刑事責任や民事責任を問わないことが原則となっている。これも当事者からの証言を得やすくするためである。
ただし、事故を起こした航空会社が司法による犯罪捜査から免責されているわけではない。また、個人に刑事責任を問わないのは雇用者である航空会社が個人の責任と補償を請け負うことがそもそもの前提になっているからであり、原因究明と再発防止こそが至上課題という姿勢が明確に現れている。また個人に対して刑事責任が問われないといっても、問題を起こした個人が当該職務から外されることはありうる。
日本では1974年から国土交通省の審議会のひとつである航空・鉄道事故調査委員会(事故調)が、事故原因の究明や事故防止に必要な研究を行ってきたが、2008年10月1日に旧来の海難審判庁の船舶事故の原因究明事務と統合されて新たに国土交通省の外局である運輸安全委員会が発足した。
その目的は航空事故等の原因並びに航空事故に伴い発生した被害の原因を究明するための調査を適確に行うとともに、これらの調査の結果に基づき国土交通大臣又は原因関係者に対し必要な施策又は措置の実施を求めることである(運輸安全委員会設置法1条)。
運輸安全委員会は調査官を派遣して、航空機の使用者・搭乗員・事故における救助者など航空事故における関係者から事情を聴取・質問し、関係物件等の留置・保全、立ち入りの禁止などの措置をとることができる(運輸安全委員会設置法13条)。
なお、運輸安全委員会の調査と警察官・検察官による捜査は通常同時並行的に行われるが、法制度上はそれぞれ目的を異にする独立の手続である。
刑事責任を追及するための事故調査を主導するのは警察と検察であり、調査対象は事故機の操縦や整備に関わっていた個人が業務上過失致死罪、業務上過失傷害罪、重過失致死傷罪などによる処罰の対象になるか否かという点に重点を置く。
これに対し、運輸安全委員会の調査は事故の再発防止などに重点を置く行政手続であるため、調査官の処分権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と法律で明記されている(運輸安全委員会設置法13条5項)。
なお、今日の航空事故調査には欠かせないフライトデータレコーダー(飛行状況記録機、FDR)と コックピットボイスレコーダー(操縦室音声記録機、CVR)だが、日本では1966年の全日空羽田沖墜落事故の際に経路追跡などができず原因不明となったことを教訓に、すべての旅客機に搭載が義務づけられた。
大型航空機の事故再現実証は航空機が非常に高価なこと、地上で離着陸などを想定した検証では機体サイズによって広範囲の場所を確保する必要があり、擬似検証を空中で行う場合は航空路から離れ気象状況が一定し多角的に測定できる環境と空港など大規模な施設を使う必要もあるため、自動車の衝突安全テストの様な実験が難しく、発生した重大事故状況調査の分析が主流で、日本では運行上発生したトラブルで人的被害や物損に及ばない危険事態に重大なインシデント」として行政処分や指導を行うほか、発生したトラブルの分析を行っている。このため検証再現実験は機体構造や客室環境の限定的なものに留まり、大型旅客機を飛行させ実施したものは環境や費用から国家官庁といった専門機関が旧式化した使用機材を航空機メーカーや航空会社から同様な型落ち払い下げ品を譲渡購入し実施している。1954年4月コメット連続墜落事故でイギリス政府直轄の調査委員会が巨大な水槽を用いた構造検証やアメリカでレシプロ大型旅客機着陸失敗の地上破壊実験のほか、ジェット旅客機を飛行させた大規模なものは2回行われている
1984年12月1日、着陸失敗などの被害軽減へ"着火しにくい燃料を使用する事で衝撃に伴う引火の被害を抑える事"を目的にした「衝撃実演(CID)」をNASAと連邦航空委員会(FAA)の共同で行った。無線操縦による無人飛行装置を取り付け改造したボーイング720型機をエドワーズ空軍基地を離陸後に仮装滑走路(着地位置)へ突入させた。(「制御された衝撃実演」の項目参照。Controlled Impact Demonstration もしくは Crash In the Desert)
2012年4月27日、2012年に放送されたディスカバリー・チャンネルの「好奇心の扉:航空機事故は解明できるのか?」は「空港以外で不時着する事故」を想定し、アメリカ、ドイツ、イギリスのTV局4社協力で(その後それぞれの国内向けに編集し放送。)メキシコにて調査用の観測器機と遠隔操作操縦装置を搭載したボーイング727-200型機をメヒカリのメヒカリ国際空港を有人手動操縦で離陸[4]、乗員はパラシュートで脱出後に無線操縦でソノラ砂漠で降下着地させ、破壊される機体状況を内外部から映像を中心にデータ記録収集する再現実験を行った(2012 Boeing 727 crash experiment)[5]。
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